「あなたのために歌いに来ました!」フレデリック、7年ぶりに地元神戸でのアリーナ公演で示した生き様ーー未来への期待感が増すミニアルバムの世界に没入
撮影=渡邉一生
『FREDERHYTHM ARENA 2025 CITRUS CURIO CITY -KOBE NIGHT CRUISING-』2025.2.11(火祝)神戸 ワールド記念ホール
フレデリックが、地元神戸で初のアリーナワンマンを開催してから7年。2025年2月11日(火祝)に開催された『FREDERHYTHM ARENA 2025 CITRUS CURIO CITY -KOBE NIGHT CRUISING-』は、あの日から間違いなく地続きであるはずなのに、同じ神戸 ワールド記念ホールであっても全く違った景色が広がり、全く異なるライブ体験だった。会場が前回に比べてそこまで広く感じなかったのは、フレデリックがあれから今日に至るまで、数えきれないほどライブを重ね、挑戦と変化と進化/深化を続けてスケールアップしたことの証だろう。同時に、ライブや楽曲を通して、ひとりひとりに寄り添い続けてきたからこそ、受け取るこちらもフレデリックとの距離が心から近く感じられたのだと思う。
今回は、最新ミニアルバム『CITRUS CURIO CITY』をアリーナで最大限に表現したステージとなる。新曲が名曲ぞろいで最新が最高であること、遊び心あふれるライブならではのアレンジも、メンバーひとりひとりのパーソナリティが滲むステージングも、どこをとってもこの日だけの特別な瞬間の連続だった。7年前と比較ばかりするのも野暮だが、あの頃とはまた違ったバンドにとっても節目となったはず。そんな見どころばかりのステージの模様を振り返る。
神戸 ワールド記念ホールの入り口には、ラジオ局など関係各所からたくさんお祝いの花が届いていた。中には関西で切磋琢磨してきた同世代バンドのキュウソネコカミや、後輩の超能力戦士ドリアンといった仲間からの花も。開場中の場内には、昨年開催した対バンツアー『UMIMOYASU 2024』で競演した、NEEやTOOBOE、Reol、WurtS、ハンブレッダーズ 、キタニタツヤ、go!go!vanillas、Perfume、そしてTHE ORAL CIGARETTESらの楽曲が流れていた。この日はフレデリックだけでなく、多くの仲間と共に迎えることができた、というストーリーが感じられて早くも胸が熱くなる。
撮影=渡邉一生
定刻になると、スクリーンには鳥が大空を舞い、三原康司(Ba)がデザインしたミニアルバム『CITRUS CURIO CITY』のジャケットで描かれた街を回るような映像から、アルバム世界へと誘われていく。ステージのセットもジャケット世界そのままで、プロジェクションマッピングでセットが動いて見えるような演出は、まるで開演を待ち望むオーディエンスひとりひとりの弾む心のようだった。映像に魅せられている間に、ステージには康司、赤頭隆児(Gt)、高橋武(Dr)、そして三原健司(Vo.Gt)が登場。シックな衣装に注目していたのも束の間で、イントロが鳴り響く……1曲目はなんと「オンリーワンダー」!7年前の神戸 ワールド記念ホールの本編ラストを飾った楽曲だ。トップギア全開の幕開けに、オーディエンスもたまらず歓喜。
撮影=渡邉一生
決意の曲は続き、今度は7年前のこの場所で、アンコールでサプライズ発表された「飄々とエモーション」。シアンブルーに染まっていた会場が一転してカラフルに彩られ、花道まで歩いて歌う健司。あの時を超えようと呼びかけ、コール&レスポンスを促す。自分だけマイクを使ってはずるいなと、音を止めて地声で歌うその声の大きさに会場がどよめいた。声帯ポリープの手術を経て喉が強くなったと聞いていたが、これほどまでとは! 気迫に負けじと呼応するオーディエンスとの掛け合いは、早くも忘れられない印象的なシーンに。
と、ここまででまだ3曲!あまりに濃密過ぎる。1曲1曲にバンドの想いが、そして聴き手としても想い出がぎっしりと詰まっているからこそ、実際に経過した時間よりも受け取ったものがはるかに大きい。フェスならハイライト級の展開だが、ワンマンなのでこの後もじっくりと展開していく。
撮影=森 好弘
暗転してしばらく静寂が続くと、MCへ。「みなさん、こんばんは。8年ぶりに……じゃなくて、7年ぶりに帰ってきました」と言い間違えた健司だが、「みんなの一歩先をいってるから……」と長い言い訳を始めたので、会場は笑いに包まれる。ただいい間違えた、という何気ないMCなので特筆すべきでもないけれど、実はフレデリックの精神性が漏れ出てしまった場面でもあったのではないか。その精神性とは、常に前のめりで挑戦を続け、明日へと向かい続けるバンドであるということ。楽しんでもらうために、常に一歩先へと先回りして、予想を裏切り想像を超えるような作品を生み出してきたことを考えると、本当にもう1年先の未来を生きてるのかもしれない……。なんて深読みしたくなるぐらい、アグレッシブで変化に富んだステージへと続く。
撮影=渡邉一生
7年前の光景も忘れられないが、最高を更新し続け「TOGENKYO」。「自分の幸せは自分で勝ち取ってください」と歌われた「Happiness」を経て、武の合図で 「FRDC Remix」が始まると、ワッと歓声が沸く。甘酸っぱい「ひとときのラズベリー」から、いつの間にかメンバーはステージ中央の花道に。康司はシンセを奏で、4人が縦に並ぶシルエットがクールで見惚れてしまった。「ナイトステップ」「midnight creative drive」、そして「LIGHT」「熱帯夜」とシームレスに繋がれると、心地いい重低音に身を任せて自由に踊るオーディエンス。
撮影=森 好弘
フレデリックのらしさを煮詰めたようなサイケな「PEEK A BOO」では、さらにランダムに揺れるフロア。上昇したステージで隆児だけが残ってギターを弾く独壇場となり、今度は後方で健司、康司、武が演奏に合わせてデビュー初期の楽曲「プロレスごっこのフラフープ」へと移行。さらに深く深く潜っていき、どこまでも続いてほしい“フレデリズム”の沼に没入していく。そこから一気に弾けるようにして「スパークルダンサー」へ。ステージを縦横無尽に駆け回っては、観客ひとりひとりと会話するように歌い、演奏するメンバー。オーディエンスもジャンプして応えるとびきりの盛り上がりに。
撮影=森 好弘
ここで、ひと呼吸置こうとMCへ。「健司がぐっと前に出て走ってる姿を見て、小さい頃に虫取りで走っていく姿を思い出した。それくらい音楽に無邪気なんやなって」と康司。続けて「いつでも見られるんじゃなくて、今日という今のフレデリックを見逃さずに見てくれる人たちがここにいることにすごく意味を感じる」と感謝を伝えた。ここで健司はほかのメンバーにも話してほしいからと、一旦退場して喉のケアに。「のど飴食べにいくん?」(隆児)、「のど飴舐める、じゃなくて?」(康司)というやりとりから、フレデリックのワンマンの醍醐味でもある、ゆるいトークと小ボケが続く。武がしっかりと進行しながらも脱線したり戻ったり。神戸ということで、レコーディングスタジオの近くにあったベーカリー「神戸屋」の話に。隆児曰く、「神戸屋」に通う“マダムス”たちとの愉快なエピソードで会場を沸かせる。そろそろ話が尽きるかなというところで、健司を呼び戻して後半戦へ。
撮影=渡邉一生
マイペースなまったりした展開からでもビシッと空気を変えて、「ペパーミントガム」を披露するメリハリに脱帽。そして「こすっても洗い流せないぐらいの音楽の愛をあなたに」とミニアルバム『CITRUS CURIO CITY』から「sayonara bathroom」を披露。ミドルな楽曲たちをしっかりと歌い届け、孤独との戦いが綴られた「ハグレツバメ」へ。荒波や雷雲を超え、遠くへ遠くへと飛んでいくような映像が映し出され、これまでのフレデリックの生き様を音だけでなく視覚的にも感じることができた。
「7年前に新曲として出した曲をここでやります。こんなに愛される曲になりました!」と隆児の小気味いいギターから「シンセンス」。そして「銀河の果てに連れ去って!」を畳みかけ、あっという間にラストスパートへ。1曲1曲を噛み締めるように聴き耽っていても、無我夢中だとこんなにも時が過ぎるのは早いのか。なんて感傷に浸っていたら、まだまだ興奮を突き上げんと言わんばかりに「ジャンキー」になだれ込む。クラップ&手を振り、飛んで踊るオーディエンス。最後は、ミニアルバム『CITRUS CURIO CITY』から「あなたの歌です。自分の声で、自分の人生に問いかけてください」と「煌舟」を披露。
フレデリックの掲げた旗印を信じて、共に荒波を渡り、辿り着いた今日という景色はなんと眩しいことか。これまでの自分を肯定してもらえるような、肩を組み寄り添ってくれるような強さと温もりある楽曲で目頭が熱くなる。一日の終わりを知らせる夕焼けか明日を照らす朝焼けか、スクリーンに映し出される美しい緋色の光景と共に迎えたフィナーレは忘れられない時間となった。
撮影=森 好弘
惜しみない拍手喝采に迎えられ、アンコールで登場したメンバー。緊張感の漂っていた本編から一変して、フロアからは「まだまだ踊れんでぇ〜」という関西らしい声が飛んだり、思い思いにメンバーの名を叫ぶ温かいムードに。アンコールは3曲と宣言した上で、健司が本編では音楽で届けてきた思いの丈を、改めて真摯に言葉で届ける。ライブハウスでお客さんが10人も来てくれるかわからない状況だった頃から、変わらず常に人生を変えてやろうという気持ちで音楽を作ってきたという自負。歳を重ねて肉体が衰えてしまって思い通りに歌えなくなったとしても、常識をぶち破るぐらいの練習量と情熱で挑み続けたいという決意。そんなフレデリックの生き方を好きでいてくれる人たちと、一緒に音楽を分かち合うために今回のアリーナ公演を決めたこと。そして健司は、こう続けた。
撮影=森 好弘
「みんなに問いかけて、みんなの人生を変えたいというよりも、何千人、何万人の中のひとりのあなたに、俺らの音楽が、生き様が刺さるような音楽がしたい。会場はデカいよ。人も多いよ。でも関係ない。あなたの人生を変えられると思って俺らはここに来ました。俺たちは紛れもなくカッコいい音楽をやってきました。これからもカッコよくて面白くて、素敵なバンドであり続けたいなと思ってます。明日からもバンドは続きますし、いつ終わるかわからんけど……いつか終わった時にこんなバンドおったんやって伝説になるぐらい、面白いバンドになっていくので。今日は来てくれてありがとう。でも、これからも俺らに期待しといてください」
「終わり」という言葉にネガティブなニュアンスは一切感じない。想像を超えるような未来へ向かうために、今この瞬間に全てを懸けてきたバンドの生き様を知っているからだ。そんな健司のメッセージから歌われた、覚悟と使命感に満ち溢れた「名悪役」が胸を打たないはずがない。そして、「明日からもバンドは続くので、さらっと新曲置いていきます」とサプライズで新曲を披露。ひとりひとりが一音たりとも聴き逃さず、一挙手一投足も見逃すまいと全集中する時間もまた特別な体験となる。最後の最後まで、何度でも前へ前へと進む姿勢を崩すことなく、予告されていたアンコール3曲は残すところ1曲に。
撮影=森 好弘
「俺らの生きがいとか生き様を好きでいてくれてありがとう」と感謝を伝えてから、「全部いただきものやと思っていて、人生もバンドもいろんな人から言葉とか生き方を学んで育ってきた」と振り返る健司。これからも人生の一部を捧げてくれたからには、バンドとしてしっかりと次に活かしていくと語って、「いろいろ話したけど、要約すると俺たちは欲しがりです!全部ください!欲しがりなフレデリックに、あなたの音楽人生すべて捧げてもらっていいですか!」と叫ぶと、武が康司とリズムを練り上げ、隆児のあのギターのフレーズが突き抜けると「オドループ」へ! オーディエンスひとりひとりのクラップが多幸感を増幅させる最高のフィナーレへ。変化と進化/深化を続けてバンドがどれだけスケールアップしても、この曲が鳴らされている間は原点に立ち返っているように思う。
カスタネットもみんなでタンタンできたし、はち切れんばかりの笑顔の武も、康司と隆児の追いかけっこしながらの演奏も見れたし、最後の最後に高速オドループも見れて……余すことなく心から満たされた。もうまるごと全部楽しみ尽くして、大満足。今日この瞬間に立ち会えてよかった……と余韻に浸ると同時に、早速「もっと見たい!」「次が待ちきれない」「新曲が気になる」と思ってしまうのは、私たちもフレデリックに負けないぐらい欲しがりなのかもしれない。
「10年、20年、30年ともっと面白いバンドになっていきますので、これからもよろしく!」という言葉を残してステージを後にしたメンバー。その言葉を信じて……いや、そんな未来を共に迎えたい。そう思わせてくれるような、アルバムに込められた今のフレデリックと想いをひとつにできたライブだった。
撮影=渡邉一生
初めてのアリーナがひとつの目標であり目的地だったとするなら、今回は日々フレデリックの音楽と共に過ごしてきた仲間たちと答え合わせになる場で、待ち合わせ場所のような合流地点であり新しい居場所になったように思う。
神戸 ワールド記念ホールを後にして、バンドもオーディエンスもまたそれぞれの人生を歩んでいく。まだまだ楽しくて面白いその先があると確信しているからこそ、前向きになれる。神戸公演のあとに開催される2度目の武道館公演を経て、その先にはどんな未来が待っているのか。確かめるために、また次なる合流地点で再会したい。パワーアップしているに違いないフレデリックを前にしても胸をはれるように、日々を懸命に生きてその日を待ちたい。大袈裟かも知れないが、そんなふうに思わせてくれるような時間だった。
取材・文=大西健斗 写真=渡邉一生、森 好弘
『FREDERHYTHM ARENA 2025 CITRUS CURIO CITY』公式プレイリスト
セットリスト
2025年2月11日(火・祝)神戸 ワールド記念ホール
02. CYAN
03. 飄々とエモーション
04. TOGENKYO
05. Happiness
06.-FRDC Remix-
07. ペパーミントガム
08. sayonara bathroom
09. ハグレツバメ
10. シンセンス
11. 銀河の果てに連れ去って!
12. ジャンキー
13. 煌舟
EN2. 新曲
EN3. オドループ