鳥越裕貴らが見せる、歪で純粋で痛々しい人間たちの物語 『極めてやわらかい道』稽古場レポート

2025.3.12
レポート
舞台

『極めてやわらかい道』稽古場より

画像を全て表示(12件)


2011年に松居大悟が主宰を務めるゴジゲンの第11回公演として初演を行い、2018年に『君が君で君で君を君を君を』としてリブート、同じく2018年に本作を原作とした映画『君が君で君だ』も公開された『極めてやわらかい道』が、14年の時を経て本多劇場で上演される。

今回は、松居大悟の演出助手として多くの作品を手掛けてきた川名幸宏が潤色と演出を担当。主演・尾崎豊を鳥越裕貴、ブラッド・ピット(以下ブラピ)を多和田任益、坂本龍馬を荒井敦史、ダルメシアンを長友郁真が務めるほか、灰塚宗史、長南洸生、永島敬三、本折最強さとしといった実力派が集い、新たな『極めてやわらかい道』を作り上げる。本番まで約2週間のタイミングで、稽古場の取材を行った。

この日の稽古内容は、立ち位置などを確認するミザンスと荒通し。稽古場にはすでに仮でセットが組まれており、小道具やSEもある状態で、本番に近い芝居を見ることができた。

稽古場を見てまず感じるのは小道具の多さとセットの丁寧な作り込みだ。“姫を守る兵士たち”という設定で行動する尾崎、ブラピ、龍馬、ダルメシアンの拠点である古ぼけたアパートの一室が舞台となっており、年季の入った家具や家電、姫に関するアイテムなどが多数置いてある。生活感はもちろん匂いまで伝わってくるような部屋の様子にワクワクした。

ミザンスは動きや流れを掴むことができればいいため、キャスト陣の声量は抑えめ。だが、やり取りの中で自然と熱が高まったり笑いが生まれたりする場面も多く、時折笑い声が起きる。演出を務める川名が誰よりも笑い、シリアスなシーンは食い入るようにキャスト陣を見つめるなど、作品を心から楽しんでいる姿が印象的だった。

続く荒通しでは川名からキャスト陣に「まずは通してみて、その中で見つけられるものを見つけよう」と声がかかり、いい意味で緩い空気の中、稽古が始まった。

鳥越が演じるのは、姫が特に好きなアーティストである尾崎豊。「姫に干渉せず、ただ見守る」を頑ななまでに実行しようとする男の純真さと危うさを絶妙なバランスで見せている。多和田は、姫に一目惚れして彼女の部屋が見える部屋を借りるオタク気質、“隊長”として仲間を率いる行動力を持ち、それでいて気弱な一面もあるブラピをユーモラスに表現。

荒井が演じる龍馬は、姫の元カレの一人。彼女が好きだった坂本龍馬を名乗り、着物を着て過ごしている突拍子のなさ、乗り込んできた友枝や星にビビりながらも「入国許可証」を求める頑固さがコミカルだ。長友が演じるダルメシアンも姫の元カレ。犬として振る舞う愛嬌ある姿、できることなら姫を助けたい(=干渉したい)という思いを抱えて揺れる心を見事に見せてくれた。

そして、物語は四人が作り上げた「国」に、借金の取り立て屋である星と友枝、姫の彼氏である宗太、尾崎の兄・幸雄といった人々がやってくることで急速に進み始める。

本折が演じる星は、本心の読めない言動が魅力。淡々としており借金に対してもシビアだが、不意に四人に歩み寄ったりお茶目な一面を見せたりするチャーミングさがある。長南が演じるのは、星の部下・友枝。最初こそ乱暴で怖い取り立て屋という印象だが、物語が進むにつれて共感できるポイントが増えていった。二人の掛け合いや四人に対するツッコミもいい味を出している。

尾崎たちから「王子」と呼ばれる宗太を演じる灰塚は、絶妙な軽さとクズっぷりで四人の心をかき乱す。ダメ男でしかないのだが、可愛げや人間味もあり憎めないキャラクターとなっている。そして、尾崎の兄・幸雄役の永島は、家族の物語を通して尾崎という人物をより深く見せてくれる。ダメな一面もありつつ、弟を心配し、手助けしようとする兄の愛情が随所から伝わってきた。

のぞき見や盗撮、盗聴など、四人が行なっていることはどう考えても犯罪なのだが、目を輝かせて姫のことを語る姿、自分たちが決めたルールを守って行動する様子は、サークルや部活動のように見えなくもない。それぞれが真剣で情熱を持っているからこその滑稽さが生まれていた。第三者である人々から「お前たちは姫のことを好きなのか」と問いかけられることで姫に対する思いやスタンスの違いが浮き彫りになっていき、極限状態が生み出す面白さと苦しさがどんどん積み重なっていく。

物語が進むにつれて姫を慕う男たちの人生や心が見えてくる一方、全員が姫の話をしているのに、話題の中心にいる彼女の人となりがいまいち見えてこないのも面白い。姫のことを守りたい、可愛いと言っているのは本心なのか、10年間その思いを保ち続けられるものなのか……など、さまざまなことを考えてしまう。

また、時計の針を使った時間経過の描写など、舞台ならではの工夫も見どころだ。過去の公演よりも大きな劇場での公演だが、本番はどんな空間で物語が繰り広げられるのか楽しみになった。

設定やあらすじを読むだけだと不気味で危ない男たちだが、不器用ながら必死に生きている姿を見ているとどうにも憎みきれない。ふとした時に思いが理解できたり親近感を覚えたりする部分もあり、見ているこちらまで自分が抱えるやわらかいものに気付くような感覚もある。クセの強い登場人物たちをチャーミングに描き出すキャスト陣に頼もしさを感じた。

また、通し稽古の間も川名が楽しそうにキャスト陣の熱演を見守っていたほか、いい芝居やコミカルなシーンでは自然と笑いが起きる、いい空気で進んでいた。松居が身も心も削って生み出し、彼の演出助手を手掛けてきた川名が改めて向き合い、実力派キャストたちとともに新たに立ち上げる『極めてやわらかい道』。どんな作品に仕上がるのか、ぜひ劇場に足を運んで確かめてほしい。本作は3月20日(木・祝)〜30日(日)まで本多劇場で上演される。

取材・文=吉田沙奈

公演情報

GORCH BROTHERS PRESENTS『極めてやわらかい道』
 
日程:2025年3月20日(木・祝)〜30日(日)
会場:本多劇場

作:松居大悟
潤色・演出:川名幸宏
出演:鳥越裕貴 多和田任益 荒井敦史 長友郁真 灰塚宗史 長南洸生/永島敬三 本折最強さとし
スウィング:松尾敢太郎
 
  • イープラス
  • 鳥越裕貴
  • 鳥越裕貴らが見せる、歪で純粋で痛々しい人間たちの物語 『極めてやわらかい道』稽古場レポート