クラシックギター界のトップランナー大萩康司&朴 葵姫にインタビュー 2人が放つスペシャルデュオコンサートが開催
(左から)大萩康司、朴 葵姫
大萩康司と朴 葵姫の名手二人が約10年ぶりに、京都・米子・東京の3ヵ所でデュオ・コンサートを開催する。
“ギター二重奏の超定番曲”とも言えるソルの〈アンクラージュマン〉をはじめ、藤井眞吾がわらべ歌や子守唄などをモチーフに日本の風景を描いた〈ラプソディー・ジャパン〉、その他、フォーレの美しいピアノ連弾作品「ドリー組曲(佐藤弘和編)」やグラナドス、ファリャによるスペインものに至るまで、色彩豊かで聴きごたえ十分のプログラムが披露される。
大萩・朴のギターデュオ公演は約10年ぶり。2025年4月に京都・米子・東京の3ヵ所で公演決定!
ーー今回、京都・米子・東京でデュオ公演を開催されますが、そもそも最初にお二人がデュオを組んで演奏しようと思ったきっかけを教えてください。
大萩:初めて二人でデュオを組んで演奏したのは2014年の福島公演(いわき芸術文化交流館アリオス)でした。それまで、葵姫さんの演奏を色々なところで聴かせてもらっていたのですが、とにかく、とても自然に歌える方なので、「もし自分と一緒に組んでみたら、一体どのような演奏になるのだろうか」ということにとても興味があって。念願が叶い、実際に共演させて頂いたら、想像以上の歌い方のできる素晴らしいギタリストだったので、これならもっと二人で色々なことができそうだなと思い、それからは「これもこれも」という感じで、次々と提案させて頂きながら、共演を重ねていきました。
朴:大萩さんとはそれほどの年齢差があるわけではありませんが、ギター界では大先輩ですし、憧れの存在でもありますので、一緒にコンサートをさせて頂くのはとても光栄なことだと感じています。最初にデュオを組んだ当時、私はまだ、ウィーンに留学中で、プロギタリストとしての経験も浅く、特にアンサンブルに関しては初心者に近いような立場だったにも関わらず、「一緒にやろう」とお声を掛けてくださったのが、とても嬉しかったのを今でも覚えています。
ーーデュオでの演奏は約10年ぶりとのことですが、この間、アンサンブルなどで共演される機会も多かったとか。
朴:そうですね。正式なデュオコンサートは10年ぶりということになりますが、この間に荘村清志さん、福田進一さん、鈴木大介さん、村治奏一さんたちを交えた『ギタリストたちの饗宴』でのステージや、沖 仁さんのコンサートにゲスト出演させて頂いた際も大萩さんとはアンサンブルで演奏する機会があったのですが、大萩さんは音楽に対するアイディアがとても豊富な方なので、私が即興的な演奏をしたとしてもすぐに反応して返してくださる。そこが共演者として安心できるところです。
大萩:私はひとつのことを長くやり続けたりとか、二回も三回も同じことをするのが苦手な性格なので(笑)。こちらが提示した音楽に対して、相手からどのような返事が戻って来るのか、すぐに試してみたくなる。そして、自分がまったく想像もしていなかったような答えが返って来たり、新しい展開が始まった時、何だかご褒美を与えてもらったような幸せな気分になるんです。「そっちがそう来るなら、こっちはこう行くか!」というように、“音の会話”が弾(はず)み、演奏もどんどん楽しくなっていく。葵姫さんは音楽のキャッチボールをしっかりと受け止めてくれる人だなと思っています。
ーー今回、10年ぶりにデュオ公演が行なわれるきかっけとなったのは?
大萩:もちろん、タイミングを見ながら葵姫さんとのデュオはいつか必ず復活させたいと思っていました。それで、私がデビュー当時からお世話になっている京都の主催者の方に「朴 葵姫さんとのデュオをやりたい」というのを以前からお伝えしていて、今回ようやく10年ぶりに実現しました。さらに京都をきっかけに米子、東京公演も開催できることになり、本当にありがたいことです。
〈ラプソディー・ジャパン〉には、どことなく南米のリズムが感じられる。そこにもぜひ注目してほしい
ーー今回の演奏曲についてお伺いします。
大萩:以前の演奏会でもすでに二人で弾いていた曲の他に、佐藤弘和さんが編曲した、フォーレの『組曲〈ドリー〉』、そしてソルの〈アンクラージュマン〉が新たなレパートリーとして加わります。グラナドス、ファリャ、藤井眞吾さんの〈ラプソディー・ジャパン〉はこれまでも演奏している曲ですが、この10年間、お互いが色々なステージで研鑽を積んで来ていますので、同じプログラムを演奏したとしても、よりブラッシュアップされたものをお届けできるはずです。先ほどの話にもありましたが、葵姫さんが楽譜通りではなく即興的な演奏をしたとしても、今の自分にはそれにきっちり応えられるだけの瞬発力、アンサンブルに対応できるだけの力が十分に備わっていると思っています。ですから今回、葵姫さんには、ぜひ「ここではもっとたっぷりと歌いたい」というように、どんどんとリクエストを出してほしいですね。
朴:今回の演奏曲の中で、〈アンクラージュマン〉は唯一、ギターデュオのために書かれたオリジナル作品になりますが、私の中には、こういったギター二重奏の定番曲をプログラムに入れたい、という思いがあったので、大萩さんには、この〈アンクラージュマン〉か、同じソルの〈幻想曲〉のどちらかをプログラムに入れたいという提案をさせて頂きました。
大萩:〈アンクラージュマン〉は元々は生徒用の旋律パートと先生用伴奏パートに分かれて書かれた曲ですが、今回はお互いのパートを交換し合うコスト編で演奏しますので、それぞれの旋律と伴奏と切り替わる瞬間も楽しんで聴いて頂けたらと思います。
オリジナル作品ということで言うと、藤井眞吾さんの〈ラプソディー・ジャパン〉もギターのために書かれた作品になりますが、日本の「わらべ歌」「子守歌」、そして「唱歌」など元となる曲が存在し、そこにギター的要素がふんだんに取り入れられ、ギターで弾いてこそ形になる作品に仕上げられています。〈ラプソディー・ジャパン〉というタイトルだけだと、どのような作品なのか分からないという人もいるかもしれませんが、ひとつひとつは、必ず皆さんが知っている曲のはずなので、ギターを知らない方にもおすすめです。
朴:〈ラプソディー・ジャパン〉は大萩さんを通して初めて知ったのですが、「大萩さんとデュオで演奏するなら絶対にこの曲!」と思ったくらいに好きになった作品です。ギターならではの響きが満載で、本当に素敵なんですよね。日本の情景を歌った曲ですが、〈ずいずいずっころばし〉では、どことなく南米のリズムが感じられ、大萩さんはそれを表現するのがとてもお上手なんです。伴奏でのノリ、そこからクライマックスまでの持って行き方を毎回、横で聴かせてもらっているのですが、鳥肌が立つくらいに感動的。日本的な歌心に加えて、ギターならではのラテン系のノリも合わさって、もう大萩さんそのままだ! と思うくらいにピッタリの曲。眞吾先生がこの曲に意図されたそれ以上のものを表現されていると思っていますので、眞吾先生にもぜひ、会場に聴きにいらして頂きたいですね。
大萩:眞吾先生は言うまでもなくギターに精通していらっしゃいますし、スペイン音楽にも造詣の深い方なので、それらの知識や経験をこの〈ラプソディー・ジャパン〉という作品に昇華させたのだろうと思います。ギターのことだけを知っていても、決してこのような作品を書くことはできないと思いますし、スペイン的な演奏方法を知っているだけでは、テクニックだけが先行し、却って弾きにくくなってしまう。そういう点においても随所にギターのための効果的な表現が施された曲だと思っています。
ーー大萩さんの〈ずいずいずっころばし〉は注目ですね。
大萩:もちろん〈かごめかごめ〉〈浜辺の歌〉など、他の曲もとても綺麗なので、すべて注目してください。
朴:今回演奏するファリャの「粉屋の踊り」や「魔法の輪」「火祭りの踊り」は、世界中の多くの人に愛されている作品です。ギターファンだけではなくて、クラシック愛好家、そして今回のコンサートでクラシックの演奏を初めて聴くという方など、多くの方に楽しんで頂けるプログラムになると思います。
『大萩康司×朴葵姫 ギターデュオ・リサイタル』
ーー葵姫さんは、このファリャの作品をソロでも録音、演奏していらっしゃいますが、今回のように二重奏で弾くというのはいかがでしょうか?
朴:単純に言うと音数が二倍に増える訳ですから、よりオーケストレーションに近づけるということですね。そして、二つのまったく異なった音色が合わさった時、オーケストラにも負けないくらい多彩な表現ができると思っています。
大萩:ギター二台で演奏した場合、1+1=2ではなく、それが3にも4にもなって、さらにどんどんと幅が広がっていくんですね。ですからギターのソロとデュオというのは、人数や楽器の数以上に、ものすごく大きな違いがあると思っています。
大萩:フォーレの「組曲〈ドリー〉」は、現代ギター社から佐藤弘和さんのギター二重奏版が出版されていますが、これはとても素晴らしい編曲です。単に余計なものが削ぎ落されいるというだけでなく、デュオとしてお互いの良さを存分に発揮することができる。片方が伴奏だけにならないようにとか、きちんと歌えているところも入れてくれていますし、そういう細やかな気遣いができている編曲だと感じています。とても美しい曲ばかりですから、きっと皆さん、葵姫さんの美音に酔いしれるのではないでしょうか。
デュオには「自分を解き放てる瞬間」が多い。ソロとは違う二人の演奏を確かめに来てほしい
ーーお二人にとって、“ギターデュオの魅力”についてお話頂けますか?
朴:先ほどの話にも繋がりますが、音色が多彩になり音域にも広がりができるので、ソロよりも演奏の自由度がより高まりますよね。オーケストラの曲もできてしまいますので、そこがギターデュオの最大の魅力だと思います。あとはデュオで演奏することによって、メロディーひとつに集中できるというメリットがあります。どんなに素晴らしい歌心を持ったギタリストでも、自分の演奏に集中してしまうと、持っている歌心を完全に表すことはできないと思うんです。そのいっぱいの歌心を聴く人に存分に伝えられるのがデュオ演奏の特権と言えます。普段、ソロではメロディーから伴奏までを一人で担当しているので、細かい部分で「歌おう」と思っていても、それが物理的に不可能な箇所がいくつかあって、悔しく感じることもあるんです。デュオの場合はそれがなく、自分が伴奏に回った場合は、相手が存分に歌えるように、しっかりと寄り添いながら演奏できるので、それも魅力のひとつだと感じています。
大萩:確かにデュオの場合、ソロに比べて「自分自身を解き放つ瞬間」という場面が多くなるかもしれないですね。例えば、ソロだと、大切なフレーズの中に、ちょっと鳴らしにくいベース音が1音入っていると、それで演奏に集中できないというようなことがよくあります。その点、デュオは、本当に厳選された音色を聴く人にベストの状態で届けられるという利点があると思います。また、クラシックギターという楽器は、ピアノがどんなに頑張っても決して出すことのできない最弱音から、ふくよかな音までを出すことができる。デュオ演奏で二人の演奏が綺麗に合わさった時の音の幅の広がり方、コントラストの美しさは本当に魅力的だと思います。
今年はデビュー15周年(朴)、25周年(大萩)。ぜひ楽しみにしていてください
ーー東京公演を行なう浜離宮朝日ホールについてどのようなイメージをお持ちですか?
朴:浜離宮朝日ホールでは、ソロを含めてこれまで何度も演奏させて頂いていますが、ギターの生音をこれだけたくさんのお客様に届けられるホールというのは、海外ではありえません。これはもう日本だけの特権だと思っていますし、いつも何の心配もせずに演奏させて頂けているのは本当にありがたいですね。響きを楽しみながら、演奏できるホールですし、デュオだとさらに響くと思います。
大萩:ホール自体が駅に直結しているのもいいですね。例えコンサート当日に雨が降ってもほぼ濡れずにホールまで辿り着ける。天候に左右されない。
朴:それは物凄く大事! そして銀座からも近いですね。以前、コンサートの打ち上げで銀座に行ったことがあります(笑)。
大萩:ホールの最寄り駅が都営大江戸線の「築地市場」駅なので、お寿司など新鮮な海鮮類も食べられます。
朴:14時開演ですから、終演後にディナーを楽しむのもいいですね。
大萩:食べてからコンサートを聴きに来て頂くのもあり! お楽しみコースとしてはたまらないです。もちろんその他の京都、米子会場も素晴らしい響きのホールです。
ーー改めて今回のデュオコンサートの聴きどころを教えてください。
朴:ギターファンの方であれば、必ず一度は弾いたことのある、もしくは必ず一度は弾いてみたいと思うソルの〈アンクラージュマン〉の他、デュオの魅力満載の曲を集めて演奏します。ソロのコンサートとはまったく違った内容になると思いますので、これまで私たちのソロ演奏を楽しんで聴いてくださった方にも来て頂けたら嬉しいです。“ギターデュオコンサートの入門”に最適なプログラムだと言えるでしょう。
大萩:ギターの美味しいところ、そしてデュオコンサートの楽しさがギュッと凝縮されたようなプログラムになっていると思います。ギター好きの方はもちろんですが、周囲に「あの人ギター好きかも」という人を見つけたら、ぜひ捕まえて、連れてきて頂きたいです(笑)。皆さんの力でギターの面白さをどんどん広げて頂けると嬉しいです! お友達、ご家族、ご親戚、そして知らない人も(笑)。皆さん連れて、ぜひ会場にお越しください!
本稿は『月刊現代ギター2025年4月号(3月24日発売)』掲載「クロストーク」 のダイジェスト版。
https://www.gendaiguitar.com/
取材日:2025年1月31日
場所:東京・浜離宮朝日ホール
聴き手:安藤政利(現代ギター社/編集部)
写真:宮島折恵
公演情報
日程:2025年4月12日(土) 14時(開場13時30分)
会場:京都コンサートホール アンサンブルホールムラタ
一般:4,500円
京都ミューズ会員:4,000円
*全席指定
*U-25:500円キャッシュバックあり
京都ミューズ 075-353-7202
日程:2025年4月27日(日) 14時(開場13時30分)
会場:米子市文化ホール メインホール
一般:4,000円
Feel友の会会員:3,500円
U-25:2,000円
(当日)
一般:4,500円
U-25:2,000円
*全席自由
米子市文化ホール 0859-35-4171
日程:2025年4月29日(火・祝) 14時(開場13時30分)
会場:浜離宮朝日ホール
前売:6,000円
当日:6,500円
*全席指定
朝日ホール・
【予定プログラム】
F.ソル:アンクラージュマン Op.34
E.グラナドス:詩的ワルツ集
M.de.ファリャ:
「三角帽子」より粉屋の踊り
「恋は魔術師」より魔法の輪、火祭りの踊り
藤井眞吾:ラプソディ・ジャパン
[序奏、さくら、はな、通りゃんせ~かごめかごめ、浜辺の歌、ずいずいずっころばし、ふるさと]
フォーレ~佐藤弘和編:ギター二重奏のための組曲〈ドリー〉Op.56