アニメ『TO BE HERO X』OPテーマ「INERTIA」に込めた信念ーーNewspeak・Reiが澤野弘之との制作秘話を語る

2025.4.11
インタビュー
音楽

撮影=Ryotaro Kawashima

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英米のインディロックに共鳴するロックサウンドをスタイリッシュかつアンセミックに鳴らす3ピース・ロックバンド、Newspeakにとって、2025年はさらなる挑戦の年になりそうだ。そんなことを感じさせるのが、ボーカルのReiが作曲家の澤野弘之のボーカルプロジェクト、SawanoHiroyuki[nZk]とコラボレーションした、アニメ『TO BE HERO X』のオープニングテーマ「INERTIA」だ。「INERTIA」のエレクトロニックかつダンサブルなサウンドのインパクトに加え、コラボレーション、アニメタイアップという新境地がReiおよびNewspeakにとって新たな繋がりを生んでくれるに違いない。Reiはそう期待している。今回のコラボレーションは、彼にとってどんな経験になったのか、Reiが語ってくれた。

「TO BE HERO X」ノンクレジットOPムービー|SawanoHiroyuki[nZk]:Rei「INERTIA」

――まず、「INERTIA」に参加することになった経緯から教えていただけますか?

オファーをいただいたんです。それで、もちろんやらせていただきますと答えたという、いたってシンプルな経緯で。澤野さんと直接の繋がりがあったわけではないんですけど、実は共通の知り合いもいて、[nzk]のプロジェクトにも参加していたりして。もちろん澤野さんのことは知っていたので、今回お話をいただけて嬉しかったです。

――あー、サバプロ(Survive Said The Prophet)のYoshさんとか?

そうですね。あと、Tielleとか。だから、共通の友達がいっぱいいて、たぶん澤野さんも昔からNewspeakを聴いてくださっていたと思うんですけど、僕も『進撃の巨人』とか、自分が見ていたアニメの音楽を澤野さんが担当されていたのを知っていたので、あの澤野さんがオファーしてくれたんだ!と嬉しかったです。

――なるほど。オファーを受けない理由は何もなかった、と。

そうですね。しかも、オファーのタイミングで音源ももらって、これだったら自分の色で勝負できるって思えたんですよ。アニメ楽曲って、Newspeakにとって新しい分野じゃないですか。今回はNewspeakのReiとしてソロで受けているんですけど、これなら僕がこのまますっと入れてもらって、自分と言うか、バンドの色みたいなものも出せるって最初に音源を聴いたとき思えたんです。

――確かに「INERTIA」を聴いたとき、Newspeakと親和性の高い楽曲だと思いました。いただいた資料にも「楽曲とガッチリと波長が合ったようにスムーズに収録できた」というReiさんのコメントが載っていましたが、自分の色で勝負できると思えたことの他に「INERTIA」の、どんなところに曲として魅力を感じましたか?

曲の序盤はちょっと不安定と言うか、歌の主人公が不安定な精神状態にいる中からのビルドアップがすごく上手というか、溜めて溜めて、サビで主人公の信念がドカーンって爆発する展開がすごく魅力的というか……。<Cuz I Gotta be the hero>って歌詞があるじゃないですか。普段、自分のバンドでここまでストレートに、俺がヒーローにならなきゃいけねえんだってはっきり言い切ることは自分のスタイル的にないから、それも含め、すごくパワフルだし、自分じゃ絶対行けないし、行かないところだと思うし。でも、歌ってみたら、最初からけっこうすすっと行けたんですよ。そういうところにも魅力を感じたし、自分にとって新しい一面を知れたと言うか、ここまで行っても成り立つんだみたいなところもおもしろかったですね。

――いただいた資料であらすじを読ませてもらっただけなんですけど、ストーリーもユニークですよね?

そうですね。少年の心をくすぐるストーリーだと思いました。

――人々の信頼を数値化したヒーローランキングに勝ち残らないといけないという設定がおもしろいと思いました。

ヒーローは完璧で、美しいものではなくて、弱かったり、がんばったりしているってところがすごくおもしろい。ただ、僕もあらすじしかわからなかったので、レコーディングでは楽曲は楽曲として、アニメの世界観というよりは歌詞にインスピレーションを受けながら歌ったっていう感じでした。

――歌詞もいいですよね。ストレートと言ってしまえば、ストレートなんですけど、そのストレートさがいいと思っていて。さっき信念が爆発するとおっしゃっていたように信念を歌っていると思うんですけど、それを慣性を意味する「INERTIA」って言葉でたとえているところがおもしろくないですか?

そうですね。歌詞を書いたBenjaminさんに、どういう意図なのかってところまでははっきりとは聞いてないから想像するしかないんですけど、おもしろいですよね。なんかもうはみ出しちゃったみたいな。がーって走っていって、体がいきなり止まっても、心はそのまま進んでいるから、それに体がついていって、「俺がヒーローだ!」なのか。心が先に進んでいって、体がそれについていってそのまま飛び出しちゃったのかわからないですけど、慣性っていう言葉が一番のフックに来るっていうのは、なんかおもしろいですよね。

――改めて、「慣性」の意味を調べていたら、物体の運動状態が外部からの力が加わらない限り変わらない性質のことらしいんですけど、それってヒーローだけじゃなくて、ミュージシャンとか、アスリートとかにも通じるところなのかなと思いました。

あー、なるほど。僕はこの歌詞を読んだ時に誰にでも当てはまると思ったんですよ。言ってしまえば、俺がこの人生の主人公だっていうことだと思うんですけど。だから言っていることは、ヒーローにならなきゃとか、けっこう遠い世界のことのように思えるんですけど、どこまででも行ってやるぜというメッセージは、たぶん、いろいろな人に響くんだろうなと思いました。

――ところで、ボーカルのレコーディングはスムーズだったそうですが、初めに音源をもらった時は、仮歌かガイドメロディが入っていたんですか?

Benjaminさんのボーカルが入ってました。めっちゃかっこよかったですよ。だから、レコーディングでBenjaminさんにお会いしたとき、「これでよくないですか?」と話して(笑)。Benjaminさんって澤野さんの曲を何曲も歌っている方なんですよね。そのBenjaminさんじゃなくて、わざわざ僕にオファーしてくれたという​ことは、Newspeakで歌っている僕の歌い方がいいと思ってくれたからなんだろうなと。Benjaminさんの歌がすごく良かったから、そう思えたんです。だったら、いつも通りに歌えばいいと思って、特に準備もせずにスタジオに行って、いつもの感じで歌ったら、「いいね。いいね」となり、「僕にはこの声は出ないよ」「いやいや、俺だってBenjaminさんみたいには歌えないですよ」と、お互いに褒め合ってました(笑)。

――準備もせずにというのは、こういうふうに歌おうみたいな計画を立てずにってことですよね?

そうです。ぶっつけ本番でした。もちろん、リクエストがあれば、それに応えようと思ってましたけど、基本的にはNewspeakというニッチなところにオファーしてもらったんで、それ以外のことは全然求められてないだろうと。なので準備していって変なふうになるよりはいいと思ったし、歌い方や歌い回しとか決めていって、それ以外のことを求められた時に歌いづらくなるよりは自分のまま歌って、そこでちょっと修正していくほうが絶対スムーズだろうと。澤野さんって他のアーティストに対するリスペクトがすごくある方なんで、僕の歌い方もすごく尊重してくれて、「サビをもっと強く歌ってみて」とリクエストする時も、「自分らしくないと思ったら別にやらなくていいし、1回やってみて、違うとも思ったら違うって言ってもらっていいし」と言ってくれて。

――澤野さんは「サウンドが必要としているグルーヴや勢いを、より力強くエモーショナルに引き上げてもらえた」とコメントされていたんですけど、この曲のボーカルとして、澤野さんは勢いや力強さを一番重視していたんでしょうか?

そうなのかな。でも、「サビで重ねるから、いつもよりももうちょっと強い感じでできる?」と言われて、歌ってみたら、「めっちゃいい」ってなったんですけど、結局、そのトラックはけっこう小さめにしたと言ってましたね。それはやっぱり普段のバンドでの歌い方に澤野さんも力強さを感じてくれてたってことだと思うんですけどね。

――歌メロもNewspeakの曲と比べて、そんなに違和感がないですよね。あれ、ひょっとしたら澤野さんはReiさんが歌うことを想定して、曲を作ったのかな。

いや、それは後からって言ってました。後からと言うか、できた曲に合うボーカルを探してたら、僕が話題に上がったっていう順番だと思います。でも、メロディーはめちゃめちゃ歌いやすかったです。サビの強さは別として、メロディー感は近いものがあると言うか、まったく違和感なく歌えました。あ、でも、1か所、ここ、なんでここに辿り着くのかなってところがあったんですよ。終盤の<Not even close>は、メロディーが跳ね上がるんですよね。自分では絶対行かないところに行けたのでおもしろいと思いました。そこだけ、「おもろ!」と思いながら歌ってました。

――なるほど。今のお話を念頭に聴き直してみます。ところで、同じ曲を作る人として、「INERTIA」のサウンドメイキングの魅力ってどんなところだと思いますか?

ビートとベースとボーカルだけで、ここまでパワフルに持っていけるんだっていうのはけっこうびっくりしたし、自分じゃできないと思いました。サビのメロディーがここまで強いからこそ、これだけの楽器の配置でここまでパワフルな曲になってると思うんですけど、そこも含めてすごいなと。それから、サビがもうちょっと弱いというか、やさしいメロディーだったら、ちょっと物足りないなとなると思うし、このメッセージに対して、メロディーの強さとトラックメイキングのうまさには、澤野さんってやっぱりすごい人なんだって改めて思いました。

――自分の曲作りのヒントになるところもありましたか?

やっぱりサビの強さとか、ビルドアップの仕方は、すごく参考になると思うし、サビでここまで思いっきり行っても、いいところに着地できるんだと感じられたのは大きかったかも。僕、自分が力を入れて強めに歌ってる声がそんなに好きじゃないんですよ。ライブだったらいいんですけど、余裕そうに歌ってるほうが自分としてはしっくり来てたんですけど、今回は、力強く声を出すようなイメージでレコーディングでやらせてもらえたところもあって。レコーディングになると、そういう歌い方だときれいに録れないような気がするんですけど、「INERTIA」ではディレクションもあったおかげで、けっこうライブっぽくサビでエネルギーを爆発させるみたいなことができたのが新鮮でした。これから自分達の曲でそういうことにチャレンジしてみることはあるんじゃないかな。

――さて、今回の「INERTIA」、Reiさんにとってどんな経験になりましたか?

おもしろかったです。自分じゃ絶対行かないところに行ける歌い方も含め、新たな一面を発見させてもらえたこともそうですけど、それこそ、SNSで発表した時に普段、Newspeakに辿りつかない人が聴いてくれたり、昔、Newspeakを聴いてくれていた人が思い出してくれたり、澤野さんやBenjaminさんといったアーティストだけじゃなくて、お客さんとも繋がりが増えるのはすごくいいことですよね。なので、今後こういった機会があればどんどん挑戦していきたいですね。

――アニメ楽曲はNewspeakにとって新しい分野だとおっしゃっていましたが、Newspeakとしてアニメのテーマ曲をやってみたいとは思いますか?

もちろん、機会があるならやってみたいです。

――さて、5月31日(土)には、SawanoHiroyuki[nZk]プロジェクト始動10周年を記念して、パシフィコ横浜 国立大ホールで開催される「SawanoHiroyuki[nZk] 10th Anniversary LIVE “A=Z”」に出演することも決まりました。

バンドのライブよりも緊張するかもしれないですね。自分のバンドと関係ないところで、誰かのライブに出たことって1回もないんですよ。対バンしたバンドのライブに1曲だけ参加するみたいなことはあるんですけど、それって言ってしまえば、ホームと言うか、お客さんはウェルカムじゃないですか。でも、5月のライブは、「誰やねん、こいつ」ってところから始まると思うんですよ。たぶん、「INERTIA」を聴いてきてくれてるとは思うんですけど、初めて僕のことを目にする人もいっぱいいるわけで、キャパも大きいから、ちょっと身構えちゃいますよね。身構えずに、それこそ何も考えずに行ったほうががいい気はするんですけど、がんばります。

――YoheyさんとStevenさんについてきてもらえばいいじゃないですか?

いやいや、メンバーがいるほうがイヤですね。絶対、来ないでほしいです(笑)。

取材・文=山口智男 撮影=Ryotaro Kawashima

放送情報

TVアニメ『TO BE HERO X』
4月6日(日)より毎週日曜朝9:30〜
フジテレビほかにて放送

■CAST:
X:宮野真守
クイーン:花澤香菜
梁龍:内山昂輝
黙殺:中村悠一
リトルジョニー:松岡禎丞
ロリ:佐倉綾音
ラッキーシアン:水瀬いのり
トラ:山寺宏一
魂電:島﨑信長
ナイス:花江夏樹

■STAFF:
原作・監督:Haolin(リ・ハオリン)
オープニングテーマ:「INERTIA」SawanoHiroyuki[nZk]:Rei
エンディングテーマ:「KONTINUUM」SennaRin
メインテーマ:「JEOPARDY」澤野弘之
音楽:澤野弘之、KOHTA YAMAMOTO、ケンモチヒデフミ、DAIKI (AWSM.)、睦月周平、深澤秀行、馬瀬みさき、髙田龍一(MONACA)
制作:BeDream
製作:bilibili&BeDream, Aniplex

 
TVアニメ公式サイト:https://tbhx.net/
TVアニメ公式X:https://twitter.com/tbhx_officialJP
ハッシュタグ:#TOBEHEROX

(C)bilibili/BeDream, Aniplex

リリース情報

SawanoHiroyuki[nZk]
13th Single「INERTIA」
2025年6月11日(水) 発売
ご予約はこちら:https://sawanohiroyuki.lnk.to/INERTIA_PKG

通常盤(CD)
品番:VVCL-2696 金額:1,430円(税込)
 
期間生産限定盤(CD+Blu-ray)

©bilibili/BeDream, Aniplex
品番:VVCL-2697~8 金額:2,200円(税込)
※アニメ「TO BE HERO X」描きおろしイラストデジパック仕様
 
[CD] ※通常盤・期間生産限定盤共通
01.INERTIA                             by SawanoHiroyuki[nZk]:Rei
02.PARAGON      by SawanoHiroyuki[nZk]:Benjamin & mpi
03.INERTIA (TV size)
04.INERTIA (instrumental)
05.PARAGON (instrumental)
 
[Blu-ray] ※期間生産限定盤
01.INERTIA Music Video
02.アニメ「TO BE HERO X」ノンクレジットオープニングムービー

ライブ情報

『Newspeak presents “Your Songs”』
日程:2025年4月29日(火祝)
時間:OPEN 17:00 / START 18:00
会場:東京・Spotify O-nest(東京都渋谷区円山町2-3 O-WESTビル 6F)
 
料金>
スタンディング ¥5,500(税込・入場時別途ドリンク代・整理番号付き)
学割スタンディング ¥4,000(税込・入場時別途ドリンク代・整理番号付き)

一般発売:4/5(土)10:00~
 
■企画 / 制作
 株式会社次世代 / H.I.P.
 
■お問い合わせ
 H.I.P. 03-3475-9999 / www.hipjpn.co.jp 
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