「愛される理由は……私たちが最高だからです!」ブロードウェイミュージカル『キンキーブーツ』が開幕~初日前会見&ゲネプロレポート(東啓介、甲斐翔真、田村芽実出演回)

13:39
レポート
舞台


この日行われたゲネプロ(チャーリー:東啓介、ローラ:甲斐翔真、ローレン:田村芽実)を見た。

舞台は、イギリスの田舎町ノーサンプトンにある老舗の靴工場「プライス&サン」。その4代目として生まれたチャーリー・プライス(東啓介)は、父の意向に反して、恋人のニコラ(熊谷彩春)とともにロンドンで生活する道を選ぶが、その矢先、父が急死。工場を継ぐことになってしまう。

工場を継いだチャーリーだが、実は工場は経営難に陥っていて倒産寸前であることを知り、幼い頃から知っている従業員たちを解雇しなければならない状況に。従業員の一人であるローレン(田村芽実)に倒産を待つだけでなく、新しい市場を見つけるべきだと発破をかけられたチャーリーは、ロンドンで出会ったドラァグクイーンのローラ(甲斐翔真)にヒントを得て、危険でセクシーなドラァグクイーンのためのブーツ“キンキーブーツ”をつくる決意をする。

チャーリーはローラを靴工場の専属デザイナーに迎え、二人は試作を重ねる。型破りなローラと、保守的な田舎の靴工場の従業員たちとの軋轢の中、チャーリーはミラノの見本市にキンキーブーツを出して、工場の命運を賭けることを決意して——という物語。

単純で分かりやすいストーリー展開ではあるが、ドラァグクイーンへの偏見、親からの自立についてや“真の男らしさ”とは何かなど、様々なテーマをキャラクターの中に混ぜ込み、シンディ・ローパーのキャッチーな音楽に乗せて、「あるがままの他人を受け入れること」「等身大の自分を好きでいること」の必要性を説き、人々の共感を呼ぶ。

ブロードウェイミュージカル『キンキーブーツ』のゲネプロの様子


ブロードウェイミュージカル『キンキーブーツ』のゲネプロの様子


ブロードウェイミュージカル『キンキーブーツ』のゲネプロの様子

2025年版キャストの舞台を見て思ったのは、これまでの『キンキーブーツ』に最大限のリスペクトを払いつつも、新たに役や作品をブラッシュアップさせているということだった。

チャーリーを演じた東啓介。これまで過去3回チャーリーを演じてきた小池徹平、初演・再演でローラを演じた三浦春馬/再再演の城田優という組み合わせを見慣れてしまうと、今回のチャーリーとローラの身長差がないことにまず驚くのだが、その“対等”な感じがいい意味で作用しているような気がした。

ローラという圧倒的な存在を前にしても負けないというか、この作品は「プライス&サン」を背負ったチャーリーの物語が軸であるのだと再認識させられる。東のチャーリーは、若くてまっすぐで、それゆえにブーツを作ろうと従業員を説得したり、ローラにデザイナーを頼んだりする際に、その熱量に周りがついつい応じてしまうのがよく分かるし、チャーリーが一度全てを失ってしまうのも、「チャーリー、その若さとまっすぐさが原因だよ……」ともはや同情してしまうほど。東が言葉と気持ちを大切に演じたからこそ、チャーリーという役が非常にリアルで、存在感があった。

ブロードウェイミュージカル『キンキーブーツ』のゲネプロの様子


ブロードウェイミュージカル『キンキーブーツ』のゲネプロの様子


ブロードウェイミュージカル『キンキーブーツ』のゲネプロの様子

ローラを演じた甲斐翔真。2019年に本作を観劇した際に「とんでもない没入感。気付いたら終わってしまっていた。完全にキンキーブーツの世界に魅了されてしまいました。素晴らしいの言葉じゃ足りません。幸せな空間と時間でした」とSNSで感想を綴っていた彼が、その6年後、ローラとして舞台に立っている。何とも胸が熱くなる展開だが、ここ数年の彼の活躍と成長を見れば、納得するだろう。

そんな満を持して(?)の甲斐のローラは全編を通じて品が感じられた。「Land of Lola」でド派手に登場するときも、「Sex Is in the Heel」で情熱的に踊るときも、最大限にハジけてはいるのだが、どこか絶対に崩せない矜恃が感じられる。だからこそ、サイモンという素の自分に戻ったときの弱々しさも無理なく分かるというか、ローラとサイモンがちゃんと一本線で繋がっている印象が持てた。ゲネプロの1幕ではやや緊張も見られたが、徐々に自身のペースを掴み、ラストは最高のローラを見せてくれた。本番を重ねるに連れて、もっともっと磨きをかけてくれるに違いない。

ブロードウェイミュージカル『キンキーブーツ』のゲネプロの様子


ブロードウェイミュージカル『キンキーブーツ』のゲネプロの様子


ブロードウェイミュージカル『キンキーブーツ』のゲネプロの様子

靴工場で働く従業員のローレンを演じた田村芽実は、本当にキュート。『SIX』でも『ヘアスプレー』でも観客の注目をしっかり集めたが、今回のローレンも、うっかり恋をしてしまって様子が変になってしまう様もキュートだし(「The History of Wrong Guys」はローレンの見どころだ)、チャーリーに寄り添う姿も、最終的に結ばれる姿もキュートであった。

ブロードウェイミュージカル『キンキーブーツ』のゲネプロの様子


ブロードウェイミュージカル『キンキーブーツ』のゲネプロの様子

そのほか、チャーリーの恋人であるニコラ役を演じた熊谷彩春、工場の現場主任であるドン役の大山真志、工場長のジョージ役のひのあらたなど、絶大な安心感があった。

初見の人も、再見の人もきっと心から楽しめる作品。ぜひ2025年版『キンキーブーツ』をお見逃しなく!

ブロードウェイミュージカル『キンキーブーツ』のゲネプロの様子


ブロードウェイミュージカル『キンキーブーツ』のゲネプロの様子

 

ブロードウェイミュージカル『キンキーブーツ』のゲネプロの様子


取材・文・撮影=五月女菜穂 

公演情報

ブロードウェイミュージカル『キンキーブーツ』
■日程・会場:
東京公演 2025年4月27日(日)~5月18日(日)東急シアターオーブ
大阪公演 2025年5月26日(月)~6月8日(日)オリックス劇場

■脚本:ハーヴェイ・ファイアスタイン
■音楽・作詞:シンディ・ローパー
■演出・振付:ジェリー・ミッチェル
■日本版演出協力/上演台本:岸谷五朗
■訳詞:森 雪之丞

■出演:東啓介、有澤樟太郎、甲斐翔真、松下優也、田村芽実、清水くるみ、熊谷彩春、大山真志、ひのあらた 他

 
■オフィシャルサイト:http://www.kinkyboots.jp/