故・松野太紀氏への感謝と愛を込めて――「朗読劇タチヨミ」-最終巻- 出演の高乃麗、神田朱未、北山雅康、岸尾だいすけが語る12年の軌跡と“最後”への想い

インタビュー
舞台
2025.6.6

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「朗読劇タチヨミ」-最終巻- が2025年6月に上演される。本作は昨年2024年6月に急逝された故・松野太紀氏がプロデュースした朗読劇で、故人のライフワークでもあった。2013年上演の「第0巻」からスタートした本作は、この「最終巻」で松野氏念願の下北沢 本多劇場へ。

最後の「タチヨミ」へ向けて、初期から作品に出演し続けている高乃麗、神田朱未、北山雅康、岸尾だいすけの4人にインタビューを実施。「タチヨミ」の歴史を振り返りながら、「タチヨミ」そして松野氏への愛をたっぷりと語ってもらった。

松野太紀さんの夢だった本多劇場で迎える「最終巻」

高乃麗

高乃麗

――「最終巻」ということで、さまざまな思いがあるかと思います。まずは、松野さんの遺志を引き継いでの「最終巻」上演のお話を聞いていかがでしたか。

高乃麗(以下、高乃):去年、私たちの大将が急逝してしまったので、尻切れとんぼで終わってしまうのかと思っていたんですが、制作の皆さんが「やっぱり最後に幕を下ろしましょう」ということで。松野くんは不在ですけれど、松野くんがずっとやりたいと言っていた本多劇場で、松野くんの演出した過去の作品をもう一度やれるということで嬉しかったですね。「第十巻」のサンシャイン劇場の頃にも、松野くん、本多劇場でやりたいって言ってたもんね。

北山雅康(以下、北山):そうですよね。松野くんにとってやっぱり、下北沢の本多劇場って特別なんだと思います。今回の本多劇場を押さえていたのも、松野くんですからね。

高乃:だから松野くんも、きっと喜んでいるんじゃないかな。

岸尾だいすけ(以下、岸尾):麗さんが言ってくれたことが全てだと思います。僕自身はこうして公演をやってくれるもんだと信じてはいました。松野さんがいなくなってしまったことは、すっごく悲しいし残念なことですが、本多劇場でやるという松野さんの夢が叶えられなかったら、もっともっと悲しかったと思うんです。どう言葉にすればいいのかわからないんですが……最後に「最終巻」としてできることは、それは本当によかったなと思っています。

神田朱未(以下、神田):私も上演できることはすごく嬉しいんですが、やっぱり稽古が始まったら松野さんがいないのを実感しなきゃいけない。それに始まったら本当に終わっちゃうという気持ちもあって。「最終巻」を絶対やりたいという気持ちと、でも始まってほしくないという気持ちとがまざり合っています。

北山:僕がレギュラーで出演させてもらっていた『男はつらいよ』でも、渥美清さんが亡くなったときに、あれだけ長く続いていた作品がふっと終わってしまったんですよ。その状況が、「タチヨミ」とすごく似ていて、今回もまたそのまま終わってしまうのかなって。でも、こうやって「最終巻」として上演が叶って、幕を引きたくはないですが、自分の中でひとつ納得のいく終わり方ができるのかなと思います。

岸尾:それはきっと、宙ぶらりんのような形になってしまった松野さんの教え子たち(声優の勉強会である「タチヨミ倶楽部」の生徒)も同じ気持ちだと思います。

北山:でも、そこに関しては、岸尾さんが本当に誰よりも熱心に教え子の皆さんをフォローしていて。

高乃:こんなにちゃらんぽらんなのに。意外にも。

北山:公演中は本当にちゃらんぽらんなのにねぇ。

神田:そこはもう本当にねぇ。

岸尾:言い過ぎ言い過ぎ! 重ね過ぎですよ!

一同:(笑)

北山:ふふふ。でも、本当に松野くんの愛を引き継いでくれている方なんですよ。今日の取材にも岸尾さんがいてくれて心強いです。

岸尾だいすけ

岸尾だいすけ

――高乃さん・神田さんは「第0巻」、北山さんは「第一巻」、岸尾さんは「第二巻」が初出演です。「タチヨミ」との出会いを振り返ってみて、当時はどんなことが印象的でしたか。

高乃:「第0巻」は千本桜ホールで、楽屋も広くないからぎゅうぎゅうで。明かりが漏れるからって本番前は真っ暗な中、みんなで立って待っていましたね。これはもう来年はないだろうなって思っていました。

岸尾:それは松野さんもおっしゃっていましたね。

高乃:でも、最初が「第0巻」って不思議じゃないですか? だから、どういうつもりだったんだろうって。

岸尾:続ける気がなくて、終わらせるつもりだったから「第0巻」だった、みたいなこともちらっと言っていた気がします。

北山:麗さんは松野くんとは、『サクラ大戦・歌謡ショウ』でもずっと一緒でしたよね。

高乃:そうそう。そこから「タチヨミ」に呼ばれたのが私だけだったから、最初はなにかやらかして呼び出されたのかと思いましたよ(笑)。

神田:私は以前、松野さんと同じ事務所に所属していたのですが、事務所の企画の朗読劇で松野さんの相手役を担当したことがあったんです。でも、あまりに私が下手くそで(苦笑)。その時、松野さんが厳しくも愛情をかけてアドバイスをくださって、気にかけてくださったんです。その流れで「今度こういうのやるんだけど、朱ちゃん出ない?」と呼んでいただいたのが「タチヨミ」でした。いざ稽古にいってみたら、「この役とこの役とこの役と……」と言われて、当時は日替わりで演じる役が変わるということがわかってなかったから、もうパニックでしたね。

岸尾:僕にとっては、もともと松野さんは30年来の師匠みたいな存在で。三ツ矢雄二さんがパブリックな大師匠ではあるんですが、松野さんも僕にとっては師匠なんですよね。ちょうど僕が青二(プロダクション)に移ったときに、松野さんに「だいすけ、こういうのがあるから出てくれ」と。師匠が言うからには出るしかないんですが、最初はすごく怖かったです。大師匠の三ツ矢さんもいらっしゃるし。

高乃・神田・北山:(口々に)怖い!?

北山:あんなにのびのびとやってたじゃないですか。

岸尾:いやいや、怖かったですし、最初はそこまで乗り気じゃなかったんですよ。師匠が2人もいて。でも、もうやるしかないっていう感じでやってみたら、これがめちゃくちゃおもしろかった。「次からもぜひ出してください」という感じで、ずっと続けてきましたね。実はアドリブも最初の頃はあんまりしていませんからね。

神田:たしかに「第二巻」のときはそこまでじゃなかったかも。

北山:でも、この人、5分で終わる台本をアドリブで20分にしてますからね。

一同:(笑)

岸尾:これでも最初は、松野さんに「こんな感じのキャラクターにしていいですか、遊んでもいいですか?」ってお伺い立てていましたよ。

北山:……そういうことにしておきましょう(笑)。

――一方で、北山さんは普段は映像で活躍されている中、朗読劇への出演となりました。当時は本作への出演をどう捉えてらっしゃいましたか。

北山:山田洋次監督が『サクラ大戦・歌謡ショウ』をご覧になって「北山くん、面白い子見つけたんだよ、今度の作品に呼んだから」と連れてきたのが松野くんだったんですよ。山田監督が松野くんのことを大好きでね。その縁で山田監督の作品でご一緒していて。そうしたら、なぜかこんなに噛みたおすし滑舌の悪い私を、松野くんが声のプロの皆さんの中に放り込んでですね……。恐ろしいですよ(苦笑)。

高乃:もうこんなに噛む人っているんだっていうぐらい噛むから、それが面白くってね。私達としても、台本へのアプローチの仕方が全然違うから、映像の人や舞台の人がいてくれて、すごく刺激的だったよね。松野くんが、おもしろいと思った人たちを引っ張ってきたんだろうなっていうのはすごく感じました。

北山:松野くんも、声優さんばかりのところにそうじゃない人を入れたら、波紋が生まれておもしろい化学変化が起こるんじゃないかなと言っていましたけど……。私はただただ皆さんに「こんなに噛んですみません」って謝りながらやってきました(笑)。

岸尾:おじゃさん(北山雅康氏の愛称)は、もうずっと隠れキャラでしたよね。

北山:そう。チラシにも名前が載らないんです。

高乃:劇場に来てるのに出ない日もあったし。

北山:前日になっても、何役をやるのかわからない時もありましたね(笑)。

――たくさんの思い出があるかと思います。これまでの「タチヨミ」の歴史を振り返って、とっておきのエピソードがあれば教えてください。

神田:私の大好きなおじゃさんのエピソードがあるんです。「ウェルカム村」という一人語りの演目で、おじゃさんが噛みすぎてしまって。まさかの「最初からやり直します!」の宣言をして、本当に最初からやり直しされたんですね。おじゃさんのほがらかな人柄と、それを楽しんでくださるお客様の空気がとてもあったかくて。

北山:あれねぇ(苦笑)。あまりに噛むし、ページも1枚飛ばしちゃったし、もうにっちもさっちもいかないなと思って、開き直りました(笑)。その節は、大変申し訳ありませんでした……!

一同:(笑)

北山:でも、それを言ったら、岸尾さんのお師匠さんの三ツ矢さんが出番なのに出てこないこともありましたよ。

神田:あのとき松野さんも舞台に出てらっしゃって、松野さんが「三ツ矢さんがいない」って気づいたんですよね。松野さんがそっと舞台袖に捌けて、「(小声で)三ツ矢さん!」って呼んだら、暗闇の中、三ツ矢さんがガタッと椅子から立ち上がる音だけが聞こえてきて……。いろいろなハプニングがありましたね。

北山:思い出深いといえば、岸尾さんは台本書いてたじゃないですか。

岸尾:「News」ですね。書くのありなんだと思って書いたら、オッケーもらえたんですよ。

北山:読んだらすごくおもしろいんですよ。でも、やると、めちゃくちゃ難しかった。

高乃:岸尾くんがやれば成立するけどねっていうくらい、すごく岸尾くんらしいテンポの台本で、1回噛んだら終わりって感じだったよね。

岸尾:実は他にも書いて送っていたんだけど、オッケーが出たのはその1本だけでしたね。

北山:あとはコロナ禍もありましたし。

岸尾:第八巻の初日前日に緊急事態宣言が出て。あれはよくやりましたよね。全部払い戻しして、当日に客席数を半分にして再販売して。

高乃:こう振り返ると、本当にいろんなことがありましたけど、松野くんは海外でもやりたいって言っていたことがあって。

神田・岸尾・北山:へぇ~!

北山:本当に果てしない夢を持ってる方でしたね。

>(NEXT)4人にとって「タチヨミ」とは? 4人が語る“人生の舞台”

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