中井貴一らが描く、古き良き昭和の映画界 『先生の背中~ある映画監督の幻影的回想録~』プレスコール&会見レポート
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『先生の背中~ある映画監督の幻影的回想録~』会見より
小津安二郎監督作品へのオマージュであり、フィクションでもあるパルコ・プロデュース2025『先生の背中~ある映画監督の幻影的回想録~』。映画監督としても舞台でも高い評価を受けている行定勲が中井貴一に「小津安二郎と昭和の映画界の話を演劇作品にしたい」と熱烈なオファーを出したことから企画がスタートし、2025年6月8日(日)よりついに開幕する。脚本を手掛けるのは、温かみのある喜劇的な視点で登場人物を描くことに定評のある劇作家の鈴木聡。小津監督を取り巻く5人の女性を芳根京子、柚希礼音、土居志央梨、藤谷理子、キムラ緑子、小田の相棒的脚本家を升毅が演じる。
『先生の背中~ある映画監督の幻影的回想録~』プレスコールより
『先生の背中~ある映画監督の幻影的回想録~』プレスコールより
『先生の背中~ある映画監督の幻影的回想録~』プレスコールより
小田昌二郎監督(中井貴一)による最新作の撮影風景に回想が入り混じって進行していく物語の中から、20分ほどを抜粋してプレスコールが行われた。
中井が演じるのは、小津安二郎監督がモデルとなっている小田監督。娘のように可愛がっている食堂の看板娘・幸子(芳根京子)、名女優・谷葉子(柚希礼音)、元芸者・花江(キムラ緑子)、戦争未亡人・和美(土居志央梨)、銀座のホステス・千代(藤谷理子)と、それぞれ個性的な女性5人に翻弄される様子、脚本家・野崎(升毅)とのやりとりなど、人間味あふれる佇まいで物語に引き込んでくれる。
『先生の背中~ある映画監督の幻影的回想録~』プレスコールより
『先生の背中~ある映画監督の幻影的回想録~』プレスコールより
『先生の背中~ある映画監督の幻影的回想録~』プレスコールより
作り込まれたセットや衣装、静かなトーンで複雑な人間模様を描くストーリー、軽妙な台詞回しなど、見応えのあるワクワクする作品に仕上がっていると感じた。
『先生の背中~ある映画監督の幻影的回想録~』プレスコールより
『先生の背中~ある映画監督の幻影的回想録~』プレスコールより
『先生の背中~ある映画監督の幻影的回想録~』プレスコールより
『先生の背中~ある映画監督の幻影的回想録~』プレスコールより
『先生の背中~ある映画監督の幻影的回想録~』プレスコールより
会見には、中井貴一、芳根京子、柚希礼音、土居志央梨、藤谷理子、升毅、キムラ緑子と演出・行定勲が登壇した。
ーー行定監督からの熱烈なオファーで実現した作品だということです。
行定:中井さんとは以前PARCO劇場の『趣味の部屋』という舞台でご一緒しました。また、映画祭のトークショーでもお話しする機会があり、中井さんから日本映画全盛期と呼ばれる時代のお話をよく聞いていました。昭和の巨匠・名将たちを巡るお話は聞いていて感動しますが、時代が変わるにつれ、そういった話を知っている人は減っていく。だからせめて物語にして、古き良き日本の映画や演劇のことを次世代に伝えていきたいと追う思いがありました。僕が憧れていた小津安二郎監督作と中井さんのご家族にお付き合いがあるというお話を伺う中で、人間・小津安二郎の話がとても面白かった。主役を演じてもらうなら中井さんしかいないと思ってオファーしました。
中井:最初は断りました。母の実家が食堂をやっているんですが、企画を聞いた当初はタイトルが食堂の名前で、僕が生まれるまでの話をやりたいと言われて(笑)。小津語録や小津イズムなど、いろいろな逸話はお伝えするので他の方でとお願いしました。でも、舞台で残していきたいという熱意に絆され、天国に行った時に小津先生に怒られるのは僕がいいかなという思いでお受けすることにしました。
ーー小津安二郎さんを演じるにあたって意識したことはありますか?
中井:小津先生が亡くなられたのは僕が1歳の頃。僕の名前も先生がつけてくださいました。僕にとっておじいちゃんのような存在で、育ってくる中でも小津安二郎が刷り込まれてきたので、初めてそれを使う時が来たという感覚です(笑)。(小津からは)「俺はあんなんじゃないよ」と言われると思います。美しい女性がたくさんいますが、フィクションとはいえこんなに赤裸々に描かれるとは思っていないでしょうし、それに対してまず文句を言われるかなと思います(笑)。
ーー芳根さんは中井さんのお母さんがモデルの役です。
中井:あっているか聞かれますが、あってなくていいです(笑)。でもふとした時に似ている感じはしますね。
芳根:初めて中井さんのお母様がモデルと聞いた時からずっと緊張しています。でも、お母様のお話もたくさん聞かせていただき、貴重な機会を頂けて嬉しく思っています。
『先生の背中~ある映画監督の幻影的回想録~』会見より
ーー意気込み、楽しみにしている皆さんへのメッセージをお願いします。
行定:今日(メディアの)皆さんに見ていただきましたが、撮影場面って生物なんだなと改めて思いました。中井さんが小田監督として入るだけで緊張感があるけど、今日の緊張はすごかった。舞台は転換も含めてスタッフが作っていくんですが、それに僕は心が動いています。お芝居はもちろん、この空気を皆さんに味わっていただき、豊かな時代の映画界が少しでも伝わったら嬉しいです。
キムラ:今までに見たことも出演したこともないような作品です。すごい高揚感と緊張感で幕を開けると思います。皆さんも新しいお芝居を体験することになるんじゃないかと思います。
升:一刻も早くお客さんの意見と感想を聞きたいです。小津監督のファンの方もいれば、見たことがない若い方もいらっしゃると思います。皆さんがこの作品を通して昭和の空気感を味わってくださったら嬉しいです。
藤谷:小田先生の頭の中を覗き見するような作品です。お客様も小田先生と一緒に楽しんだり悲しんだりしていただけたらと思います。
土居:舞台は生物で、生の瞬間を貴一さんはじめ素晴らしいキャストの皆さんと共有し、お客様とも一緒に作っていくのが楽しみです。地方公演もたくさんあるので、それぞれの土地の空気を感じながら演じられるのも楽しみです。
柚希:この作品から様々なメッセージを受け取っていて、お稽古場でも毎日感動していました。心に刺さるセリフがたくさんあります。自分自身は原節子さんという大女優さんをモデルにした役で非常にプレッシャーがあります。小津監督が亡くなられて、それ以降出演しないという潔さがあり、監督に人生を捧げたような女優なのかなと思っています。小田さんに全てを捧げて、潔くかっこよく女性らしく、色々な面を持って演じていきたいです。
芳根:私自身6年ぶりの舞台。一つひとつの公演を噛み締めながら楽しんでいきたいです。作品としては、優しくてあたたかくて不思議な世界を皆さんにお届けできると思いますので、楽しんでいただけたら嬉しいです。
中井:(小津に)怒られるのを大前提にやらせていただいていますが、この作品を見た方が小津作品を見てみようと思ってくださったら恩返しになるかなと思っています。そうなるようにみんなで頑張っていきたいと思います。
本作は6月8日(日)~29日(日)まで東京・PARCO劇場、7月に大阪・森ノ宮ピロティホール、福岡・J:COM北九州芸術劇場 大ホール、熊本・市民会館シアーズホーム夢ホール、愛知・東海市芸術劇場 大ホールで上演される。
取材・文・撮影=吉田沙奈