コンサートマスター・郷古廉に聞く『N響ゴールデン・クラシック』~5年ぶりヨーロッパ・ツアーを経て創立100周年へ。N響、そして音楽への想いとは

インタビュー
クラシック
12:00

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今年の『N響ゴールデン・クラシック』は、7月13日(土)に、この5月にリニューアルオープンした府中の森芸術劇場どりーむホールで開催される。今回は、ロシアの名曲によってプログラムが組まれているが、リムスキー・コルサコフの「シェエラザード」で、シェエラザード姫を表す重要なヴァイオリン・ソロを弾く、コンサートマスター郷古廉に作品の魅力などについてきいた。

――N響のコンサートマスター(2022年からゲスト・アシスタント・コンサートマスター、2023年からゲスト・コンサートマスター、2024年から第1コンサートマスター)として3年間過ごされましたが、まずはその感想からきかせてください。

3年間、一つのオーケストラにいて、一緒に演奏している仲間たちをより深く知ることによって、音楽的コミュニケートがよりオープンにできるようになりましたから、それはとても楽しいですね。

――ソリストとして活躍していた郷古さんがオーケストラに入ろうと思ったのはどうしてですか?

僕はオーケストラで演奏するということ自体よりも、オーケストラのために書かれた作品にすごく興味がありました。シンフォニーもそうですし、オペラもそうですし、本当に素晴らしい作品がたくさんある。それらにヴァイオリニストとして死ぬまでにちゃんと向き合いたいと思っていたのですが、そうするにはオーケストラに入るしかない。そこに良いタイミングでお誘いをいただきました。

――今回は、「シェエラザード」でコンサートマスターを務められますが、これまでにはどこで演奏されましたか?

2年前のフェスタサマーミューザKAWASAKI(注:指揮はキンボー・イシイ)で弾きました。それ以来ですね。「シェエラザード」は、コンサートマスターにとって、「英雄の生涯」と並ぶ象徴的なソロがあり、コンサートマスターのオーディションで必ず取り上げられる曲です。

重要なシーンでソロが象徴的に出てきますが、その物語の背景をお客さまに伝わるように演奏しなければならないので、そういう意味での難しさはあります。ただ自分が気持ち良く弾くだけのソロにはしたくありません。特に、全曲の冒頭の最初のソロはすごく難しくて緊張します。神経を使います。

――どこが難しいのでしょうか?

音質ですね。自分の死を先延ばしにするために物語を語る女性なので、決して筋肉質なソロにはなりたくない。すごく繊細で知性というか賢さがあって…。それを最初の1音で表現したいと思っています。でもそれはやっぱり難しい。その前の管楽器のバランスとかによっても変わってくるし、それをその場で判断して音を出さなければならないのです。

――「シェエラザード」の魅力を教えてください。

異国情緒があって、なんとなく懐かしいような感じがあり、メロディが美しく、繊細でロマンティック。煌びやかで華やかで、ダンスの要素もあるし、いろんなものが詰まった作品です。そして、その場で浮かび上がる風景があり、すごく想像が掻き立てられるような作品だと思います。背景になっている物語を知っているとより楽しめるだろうし、音楽だけでも楽しんでいただけると思います。

――今回の指揮者、熊倉優さんについてはいかがですか?

熊倉さんは、ハンブルクやハノーファーでオペラの経験を重ねて、きっといろいろ新しいアイデアを持ってくるんだろうなとすごく期待しています。前回の共演(2023年のN響ウェルカム・コンサート)に比べてもいろんな広がりを見せてくれるんじゃないかと思って、楽しみにしています。

――N響は、5月にアムステルダムのコンセルトヘボウ(ホール)でのマーラー・フェスティバルへの出演を含むヨーロッパ公演をしましたね。いかがでしたか?

良いツアーでしたよ。ルイージ&N響の一つの真骨頂を示すことができました。積み重ねてきたものが実っているのを実感しました。どこの街でも歓迎を受けました。

僕はコンセルトヘボウに行くのは初めてでしたが、ホールの響きが本当に美しく、演奏する上でインスピレーションやヒントを得ました。個人的には、僕は長くウィーンに住んでいたので、ウィーンのコンツェルトハウスでマーラーの交響曲第4番を演奏できたのはうれしかったですし、ウィーンの街が懐かしかったですね。

N響はもっともっとヨーロッパにコンスタントに呼ばれていいくらいのオーケストラだと思います。今回5年振りのヨーロッパ公演でしたが。希望をいえばもっと短いスパンでヨーロッパに行って、向こうのお客さんたちと我々の音楽を分かち合いたいという気持ちはすごくあります。

――N響がどう進んでいったらいいと思いますか?

N響は来年創立100周年です。伝統があるオーケストラですが、今、若返っていて、新しい風が吹き込んでいて、今回のヨーロッパ・ツアーを機に一段と結束力が高まって、これからもっと良い時代が来るのかなという予感がします。

今あるクオリティ、今ある素晴らしいものを保ってほしい。今ある伝統を進化させる方向にいけばいいんじゃないかと思います。それってなかなかできることではなくて、ヨーロッパのオーケストラもかなりスタイルが変わって、どこも似通ってきています。

メンバーが入れ替わっても、ずっとありつづけるものがあって、ちゃんと今後も受け継がれていく。その上で新しいアイデアを採り入れて、ちゃんと前に進んでいけたらいいなと僕は心から願っているし、たぶんそのようになっていくんじゃないかと思っています。

そして、日本の人々から愛され続けるオーケストラでありたい。それが一番大事です。やっぱり、東京にいる人たちが自分の住んでいるところにこんなに素晴らしいオーケストラがあると誇りに思ってもらえるようなことができれば、理想的だと思います。

――N響に限らず、今後の音楽活動についてはいかがですか?

今はこうやって平和にリハーサルして、演奏会をひらいて、みんなが音楽を楽しんでいますが、そういう平和な状況がちゃんと続けばと切に思いますよ。それが今、危うい状況にあると思いますし、今の平和な状況というのが当たり前ではないということを日々感じます。そこで果たす音楽の役割があると思うし、これからも音楽が人々の心をつないで、音楽家も音楽をやる意味、大義を忘れないで進んでいけたらいいなと自分も含めて思います。

――最後に、今回の『N響ゴールデン・クラシック』に向けて、ひとことお願いします。

熊倉優さんは次世代を担う指揮者のひとりですし、今の彼を聴くというのは意味があることです。若林顕さんのピアノも楽しみです。誰が聴いても素晴らしいと思える名曲で、前知識なしでも楽しめるプログラムだと思います。あと、N響が良い演奏をするのは保証しますので、是非、会場まで足をお運びください。

取材・文=山田治生 撮影=荒川潤

公演情報

『N響 ゴールデン・クラシック 2025』夏編
 
日程:2025年7月13日(日)開演3:30pm[開場 2:45pm]
会場:府中の森芸術劇場 どりーむホール
 
曲目
ラフマニノフ/ピアノ協奏曲 第2番 ハ短調 作品18
リムスキー・コルサコフ/交響組曲「シェエラザード」作品35
 
出演者
指揮 熊倉 優
ピアノ 若林 顕
 
主催:MIYAZAWA & Co.
※曲目・出演者・曲順等の変更の場合があります。あらかじめご了承ください。
※未就学児のご入場はお断りしています。
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