羊屋白玉 × スカンク、二人芝居3部作が完結
2016.1.19
インタビュー
舞台
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うさぎのゾンビから始まった企画が何かを一回り
奔放。演劇界でいちばんその言葉が似合うのは指輪ホテルの羊屋白玉だと思う。本人は違うと言うだろうけど。ふわふわと花から花へとわたり歩きながら、以前はガーリッシュだったけれど今や大人の匂いに包まれた、毒と、独特のエロティシズムと、死生観を含んだ作品を産み落としていく。1月には久しぶりの劇場公演を行う。1998年に『フタナリアゲハ』を東京グローブ座に登場して以来。「劇場ってへんなところ。暗幕って面白い。だってさ〜〜」と笑う羊屋白玉がやっぱり面白い。
▽最近の活動はどうされているんです? 芸術祭参加が続いていたりしますね。
そうなの。ここのところ、美術のほうから求められている感じなんですよ、私。2013年の瀬戸内国際芸術祭、2014年が中房総国際芸術祭 いちはらアート×ミックス、2015年が大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ、そして今年はまた瀬戸内国際芸術祭があるんだけど、並行して演劇をやっている感じ。周りは美術家ばかりだから、彼らのことがすごくわかるようになってきました。指輪ホテルを始めたころは美術家ですか? 美術の集団ですか?ってよく言われていたけどね(苦笑)。芸術祭には半年を費やすけど、それとは別に演劇を一本作って長くツアーするのが最近のやり方かな。
▽「東京スープとブランケット紀行」という不思議なプロジェクトもやっていますね。
こっちはオリンピック・パラリンピックに向けたアーツカウンシル東京のプロジェクトです。コミュニティアートの企画だから、みんな吉祥寺だとか下北沢だとかにアートの場を作って動いている。こんな私でもいいんですかと聞いたら大丈夫だと言うので(“こんな”には、いろんな意味が含まれているけど、今は内緒)、じゃあやってみようと。でも私は特に拠点があるわけではないので、江古田に住んでいるから江古田でいいやってことで場を決めました。江古田歩きは毎月やってますけど、青ヶ島、奥多摩湖といった東京の辺境も歩いたり。そういう活動をアーカイブしつつ、アートディレクターから「スープは遠回りをしてほしい」と言われていたので謎の活動ぽかったかもしれないけど、そろそろ正体を見せて、来年に作品を作ろうと思っています。
芸術祭の北川フラムさんはもちろん、スープのボスも美術系の方なんです。特にフラムさんの仕掛けている芸術祭はパフォーマンスが増えてきている。美術の現場では身体というものをとても重要視しているのね。フラムさんもそれを声高に言ってるんだけど、誰も書いてくれないから、今井さん、書いてあげて。
スカンク(左)と羊屋白玉
▽ああ、ぜひ、それは喜んで! で、指輪ホテルの活動について聞きたいんです。
今回の作品は、スカンクとずっと作っている二人芝居の三部作、第3弾です。スカンクはニブロールのメンバーで、ダンスの作曲や演奏をしているんだけど、私たちのプロジェクトではミュージシャンの部分を残しつつ俳優をやってもらっています。2009年から3年くらいずつかけて作ってきたけれど、3部作全部できたら一挙に上演したい、ふふふ。野田秀樹さんがそういうのやっているのに憧れていたから。知ってます? 代々木オリンピック体育館で『石舞台七変化(ストーンヘンジ)』三部作一挙上演ってのがあったんです。観にゆきました。
▽このシリーズはどんなことを考えて作っているんですか?
最初は『ヘヴンリー・ラヴ』という、うさぎのゾンビの話をソロ・パフォーマンスとして作ったんですよ、イギリスで。地上ではなくて天国の愛情という意味で、この世にないものをテーマにした15分くらいの作品でした。帰国してそれをもう少し長い作品にしたいと思い、スカンクを誘ったんです。「スカンク、スカンクとして出演して。シッポ付けてあげるから」って^ ^。私たちが知っているゾンビって感染かなんかでなってしまうでしょ。そしてスーパーマーケットに押しかけたり、人間でいた時と同じ行動をするんですよ。生きている時に何をしていたかはわからないんだ、という禅問答みたいなことを描いたのが最初の『洪水~Massive Water~』。次の『断食芸人 A Hunger Artist』は、浅草橋のギャラリーでカフカ特集をやるからパフォーマンスをやろうとスカンクから誘われて。原作はカフカが死の間際に書いた同名小説で、断食芸人が死ぬ時に見せ物小屋の興行主に「私は食べたいものがわからなかった」って言い残すの。彼が入っていた檻にはその後すごく元気のよい豹が入れられて、お客さんは今度はそれを見にくるという話。断食芸人を人形にして、カフカとか興行主とか周囲の人びとを私とスカンクが演じ分けたんです。断食芸人が死んだところから物語を始めたので、登場するのは亡霊ばっかり(笑)。
そうすると新作も人間を演じるわけにはいかないよねって(笑)。アイデアとしては、ゾンビの死生観と、カフカの1920年代を盛り込もうと。時代って100年くらいするとなんだか一回りするでしょ。カフカが生きたのは1920年代ですが、日本に置き換えたら第一次世界大戦に勝って調子に乗っていたころ。今の日本と雰囲気的にそんなに遠くない気がするんです。そこにプラスαを何にしようか考えているところ。
『洪水 Massive Water』 2010年 初演 撮影:Kenta Aminaka
『断食芸人 A Hunger Artist 』2013年初演 撮影:GO
▽新作のタイトル『ルーシーの包丁』ってなんだかかわいいんだか、怖いんだか不思議な響きがします。
ルーシーという名前はいわゆるクラシカルなの。ラテン語で光という意味だから、光子さんとでも言うのかな。それから1974年にエチオピアで発見された人の化石につけられた名前もルーシーで、世界最古の女性ということになっています。 ま、その後もっと古い化石が見つかったんだけど(苦笑)。「包丁」は、六代目三遊亭圓生の十八番だった落語で、友達に自分の奥さんを口説けと頼んでおいて、その現場に踏み込んだ旦那が現場を押さえた感じにして奥さんの不貞を責めて売り飛ばそうって話なんです。女の人から見たら、ひどい話なんで独演会ではやっても寄席ではそんなにやられないらしい。でも私はそんなにひどい話と思っていなくて。まあ、「包丁」も「ルーシー」も女の人が主人公の話。個人名としてのルーシーや、包丁も具体的な単語でしょ? そういう身近な言葉をなんとか詩的言語に持っていきたいと思っています。マン・レイの「ミシンと雨傘」ってあるじゃないですか(元ネタはシュルレアリスムの創世に多大なる影響を与えた「手術台の上のミシンとこうもり傘の偶然の出会いのように美しい」という一節。詩人ロートレアモンの「マルドロールの歌」より)。あんな感じ。あれがすごくいいと思うんです、具体的なものに全然関係ないものが乗った時にどういう状態になるかみたいな。
イベント情報
『ルーシーの包丁 The knife in her hand』自他のないその世界がきっとある。
◇日時:2016年1月29日(金)19:30・30日(土)17:00
◇会場:あうるすぽっと
◇作・演出:羊屋白玉 音楽:SKANK/スカンク(Nibroll)
◇美術:サカタアキコ(Diet Chicken)
◇衣裳:井上美佐子
◇映像オペレーション:革崎文
◇衣裳:井上美佐子
◇映像オペレーション:革崎文
◇出演:羊屋白玉、SKANK/スカンク(Nibroll)
◇一般4,000円 / 当日4,500円 U24(24歳以下)3,000円 / 当日3,500円 ※U24:当日、受付にて身分証をご提示ください
◇お問合せ:指輪ホテル Web www.yubiwahotel.com、Mail contact@yubiwahotel.com 、Tel.092-752-8880(アートマネージメントセンター福岡 )
※札幌公演あり。