大正時代の粋と美を堪能する 『大正イマジュリィの世界』レポート
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『大正イマジュリィの世界 デザインとイラストレーションの青春 1900s―1930s』
『大正イマジュリィの世界 デザインとイラストレーションの青春 1900s―1930s』が、2025年7月12日(土)から8月31日(日)まで、東京・新宿のSOMPO美術館にて開催されている。
「イマジュリィ(imagerie)」とはイメージ図像を意味するフランス語で、挿絵、ポスター、絵葉書、写真といった大衆的な複製図像の総称でもある。大衆文化が栄えた大正時代、印刷技術の革新を背景として多様なイマジュリィが誕生し、多くの若者の心をつかんだ。
本展は、竹久夢二の抒情画や高畠華宵(たかばたけ かしょう)らの挿絵、アール・ヌーヴォーやアール・デコを取り入れたデザインなど、明治末から昭和初期までの豊富なイメージの世界を紹介するものだ。2010年に渋谷区立松濤美術館で開催され、各地を回った『大正イマジュリィの世界』の巡回展であり、最初の企画に忠実な内容である。
当時の空気を味わうことのできる約330点もの作品
「第 I 部 新しい芸術と抒情」「第 II 部 さまざまな意匠」「第 III 部 流行と大衆の時代」という3つの部に、アーティストやテーマごとに分かれる22の章を含む本展は、約330点もの展示物が並ぶ豪華な内容である。
明治時代にフランスへ滞在した黒田清輝らは、当時流行していたアール・ヌーヴォーを目にし、日本美術がジャポニズムとして取り入れられた成果を知って衝撃を受ける。そして帰国の際、アルフォンス・ミュシャのポスターなどを持ち帰った。影響を受けた日本のアーティストたちは、アール・ヌーヴォーやアール・デコと、日本の浮世絵や絵草子のテイストをミックスさせ、独特の世界をつくりあげた。
展示風景
会場では、アール・ヌーヴォー作家として知られ、装飾性のある流麗な女性像が印象的な橋口五葉 (はしぐち ごよう)、同じくアール・ヌーヴォーデザインから出発して大胆な幾何学的デザインを発展させた杉浦非水(すぎうら ひすい)、作品からアール・デコの典雅な雰囲気が漂う高橋春佳(たかはし しゅんか)などを一挙紹介。デザイン界の発展に大きく寄与したアーティストたちの優品を通し、当時の文化的な空気とグラフィックデザインの質の高さを実感できる。
展示風景 手前:杉浦非水(装幀)笹川臨風『白蓮上人』大正2年12月29日再版 同文館
展示風景
展示風景
ロマンチックな口絵や耽美な挿絵なども
本展では、多種多様なイラストを鑑賞できる。高畠華宵による『少女画報』の華やかな口絵や、「抒情画」という言葉の考案者とされる蕗谷紅児(ふきや こうじ)の詩情あふれる挿絵、竹久夢二の洒脱で洗練を極める画集、「京都の夢二」と呼ばれた小林かいちのあでやかな紙封筒などは、いずれもロマンチックで美しい。
展示風景
ホラーやゴシックなど、怪奇的なテイストのある作品も。斎藤佳三(さいとう かぞう)による『魔王』の耽美な楽譜や、水島爾保布(みずしま におう)が描いた谷崎潤一郎『人魚の嘆き・魔術師』の繊細極まる挿絵、橘小夢(たちばな さめゆ)の手による官能的な版画などは、儚くも優美な幻想性を堪能できる。
展示風景
展示風景
大正デモクラシーが広まったように、この時代は個人の内面を自由に表現したいという願望が高まりを見せ、センチメンタルな雰囲気や感情の機微を豊かに表現するイラストが多い。子ども用の絵本や少女向けの雑誌、大人に向けた雑誌や楽譜などは、それぞれの購買層に向けてテイストは異なるが、いずれも絵にかける情熱と表現への喜びが伝わってきた。
著名な画家による出版の仕事も紹介
大正時代はさまざまなジャンルの画家が活躍する時代でもあった。本展では当時第一線で活躍した画家による、挿絵やイラストなどの印刷の仕事を見ることができる。
娘をモデルとした一連の絵画作品「麗子像」で知られる岸田劉生による版画、日本のシュルレアリスムを代表する画家の古賀春江が描いた雑誌や教本の表紙、独特の女性像を描いた洋画家の東郷青児が手がけた本の表紙や図案などは新鮮で、作家の多彩な才能を実感した。
展示風景
展示風景
展示風景 左から:東郷青児《コントラバスを弾く》1915(大正4) 油彩・カンヴァス SOMPO美術館蔵/東郷青児《パラソルさせる女》1916(大正5) 油彩・カンヴァス SOMPO美術館蔵 /東郷青児《窓》1929(昭和4) 油彩・カンヴァス SOMPO美術館蔵
展示風景 東郷青児(装幀 挿絵 翻訳)ジャン・コクトオ『怖るべき子供たち』昭和5年9月10日 白水社
また、小説や詩といった文学作品の表紙や挿絵などが数多く紹介されており、活字が好きな人にとっても見どころが多い内容だ。出展されている書籍は古書店などで手に入れられるものもあるので、親しみが湧くだろう。
展示風景
展示風景 右手前:藤島武二(装幀・口絵)与謝野晶子『晶子短歌全集 第1』大正15年6月30日 第6版 新潮社
物販コーナーも充実しており、素敵な品がそろっている。色鮮やかなクリアファイルや洒落た一筆箋、豊富な種類のポストカードなどは日常を豊かに彩ってくれそうだ。
物販コーナー
流麗なデザインとイラストで大正時代の美と粋を感じられる『大正イマジュリィの世界』は、8月31日(日)まで、SOMPO美術館にて開催中。
文・写真=中野昭子
イベント情報
会期:2025年7月12日(土)~ 8月31日(日) 10:00 - 18:00(金曜日は20:00まで)
※入館は閉館30分前まで
休館日:月曜日(ただし7/21、8/11は開館)、7/22、8/12
観覧料:
事前購入券:一般(26歳以上)1,400円、(25歳以下)1,000円
小中高校生無料、障がい者手帳をお持ちの方無料
会場:SOMPO美術館