島根で小林幸子が魅せる「天に通じる歌」ーー石見神楽「万雷」と神話の世界を壮大に描く新作神楽『魂神楽 モモチヨロズヨ』
小林幸子、万雷 撮影=山口由美子
11月23日(日)、島根県芸術文化センター「グラントワ」にて、新作神楽『魂神楽(みたまかぐら) モモチヨロズヨ -木花之佐久夜と建御名方-』が上演される。『しまね伝統芸能祭2025』クロージングを飾るとともに、グラントワ開館20周年記念事業のハイライトに位置づけられる公演だ。石見神楽(いわみかぐら)を県外に発信してきた「万雷(ばんらい)」が主演し、特別出演に昭和、平成、令和と歌謡界の第一線で歌い続ける小林幸子を迎える。作・演出は、戸部和久。どのような公演になるのか。小林と石見神楽のコラボについて、小林幸子のコメントとともに紹介する。
島根県西部、石見地方で受け継がれる神楽
石見神楽とは、島根県西部の石見地方で受け継がれてきた伝統芸能だ。絢爛な衣裳、色も表情も際立つ面をつけた舞手と、力強い楽(演奏)が、神話や伝説の世界を勇壮に描き出す。その代名詞といえる演目「八岐大蛇(やまたのおろち)」は、『大阪・関西万博』LOCAL JAPAN展でも披露され話題となった。
このたび『モモチヨロズヨ』を舞うのは、石見神楽「万雷」。同県益田市内の社中より選び抜かれた、若手の精鋭で結成するチームだ。小林幸子の圧倒的な歌唱力と、伝統の舞の融合で、世代もジャンルも超えた特別なステージを目指す。
小林幸子×万雷、ジャンルを越えて
小林が、石見神楽と共演するのはこのたびが3度目。過去の舞台は、2度とも新宿歌舞伎町のナイトクラブのオールナイトDJイベント『ZIPANGU the Party!!』だった。
2025年8月に共演した際は、小林が特別ステージで「千本桜」を生歌で披露。国内最大級の巨大フロアの熱が一気に最高潮に達し、続く石見神楽の楽(演奏)と舞手が、新たな熱風を吹き込む。オリジナル曲「サクラガミ」では、小林の心を震わせる歌とうつくしい日本の歌詞が、フロアを満たした。クラブカルチャーを愛する観客の心を掴み、「ラスボス(小林の愛称)やば……」「すご……」といった声が数々聞かれた。
そんな小林と万雷のコラボが、11月に石見神楽の本拠地、島根県益田市に帰ってくる。
2025年2月と8月に開催された『ZIPANGU the Party!!』特別ステージ「サクラガミ」。大蛇のLED演出は、クリエイティブ集団「MPLUSPLUS」によるもの。 (c)松竹/TSTエンタテイメント
益田から始まる、新たな神話
新作神楽『モモチヨロズヨ』は、石見神楽「国受け」を題材にした物語。出雲大社のはじまりを描いたエピソードだ。建御名方(タケミナカタ)のその後が、石見神楽の世界観を存分に活かして描かれる。サクラガミ(木花之佐久夜/コノハナサクヤ)を演じるのが小林幸子だ。
小林幸子(以下同)「神話の世界をもとにした、壮大な物語になるとうかがいました。新作神楽の中で、私も何曲か歌わせていただきます」
小林は新潟生まれ。新潟にも郷土の芸能があり、これまでに佐渡島の鬼太鼓(おんでこ)などとも共演した。
「でも石見神楽は、また特別。歌や踊りのように自分の身体で表現するだけでなく、あの大きな大蛇(おろち)と一心同体になるんですよね。大蛇に命が入ってるなと感じます。これまでに出会ったことのない文化で、非常に面白いです」
「ZIPANGU the Party!!」をはじめ、県外での活動を重ねてきた万雷。彼らにとっては、地元の劇場グラントワでの本公演が、まさに凱旋の舞台となる。
「彼らが本当に素晴らしいんです。あの汗をみたら、これまでの鍛錬、修練が半端じゃないことが分かります。リハーサルや本番を拝見し、皮膚感覚で伝わってくるものがあります。それはご一緒していて、とても気持ちが良いもの。こうして鍛錬を続けてきた方々がいるからこそ、石見神楽は今に受け継がれているんでしょうね」
『モモチヨロズヨ』には、多彩なメンバーが出演。元NGT48の本間日陽、語り部に人形浄瑠璃文楽(太夫)の竹本織太夫、尺八奏者の辻本好美が出演し、MPLUSPLUSがLED照明テクニカル協力に名を連ねる。ジャンルを越えた融合で、伝統の石見神楽の新たな可能性を模索する。「挑戦ってワクワクするんです」と声を弾ませる。
「とても楽しみです。新しいことも常に楽しんできました。だって、私が楽しんでいなくて、お客様を楽しませることなんてできませんよね。楽しくなければステージには立てません。共演の皆さんと一緒に、お客様に楽しんでいただけるものをお届けしたいです」
脚本・演出の戸部和久は、新作歌舞伎『流白浪燦星(ルパン三世)』など話題作を手掛ける傍ら、近年は石見神楽とのコラボレーションにも精力的に取り組んできた。
「戸部さんは、‟芸能って、もとを辿れば神事なんですよね”とお話しされていました」
そして思い出すのは、小林が春日大社で歌の奉納をした時のこと。
「その日は朝からものすごい嵐でした。私は装束を着せていただき、準備万端でしたが、お天気だけはどうにもなりません。お集まりいただいた報道の方々にもお詫びをして、もう諦めようと思ったその時、一瞬にして雨があがりスーッと大変な青空が広がったんです。皆で驚いていたら、権宮司(ごんぐうじ)さんがおっしゃいました。“幸子さんの歌の奉納への気持ちが、天に通じたんですね。天には、歌や音でしか通じないんです”って。言葉では伝わらないものが、あるのだそうです。そこを埋めるのが音楽であり、歌であり。音楽の始まりは祈り。グラントワでも音楽の力、歌の力を信じてステージに立たせていただきます。たくさんの方に楽しんでいただけたら幸せです」
新作神楽『魂神楽 モモチヨロズヨ ―木花之佐久夜(コノハナサクヤヒメ)と建御名方(タケミナカタ)』は、2025年11月23日(日)の上演。
取材・文=塚田史香 撮影=山口由美子
公演情報
『魂神楽 モモチヨロズヨ -木花之佐久夜と建御名方-』
日程:2025年11月23日(日)
時間:13:15開場 14:00開演
会場:島根県芸術文化センター「グラントワ」大ホール
主演:石見神楽「万雷」
特別出演:小林幸子
出演:竹本織太夫/本間日陽/RYO/辻本好美/藤舎千穂/藤舎武史 他
LED照明テクニカル協力:MPLUSPLUS
揮毫:鈴木敏夫
(全席指定・税込)
【前売】一般6,500円、U25(25歳以下) 4,500円
【当日】一般7,000円、U25(25歳以下) 5,000円
*U25は公演日時点で25歳以下の方が対象です。当日年齢が確認できる身分証明書をお持ちください。
*本公演は未就学児の方もご入場いただけます。
*無料託児サービスあり。11月16日(日)までにお申込ください。(Tel:0856-31-1860)
*車椅子での鑑賞をご希望の方は、グラントワまでお問合せください