90年代の同士が結集、BRAHMAN結成30周年『尽未来祭 2025』愛すべきユニティが溢れかえった初日ーー「懸命にやってる奴しかここにはいない」

レポート
音楽
2025.12.13
BRAHMAN『尽未来祭 2025』 撮影=三吉ツカサ

BRAHMAN『尽未来祭 2025』 撮影=三吉ツカサ

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BRAHMAN『尽未来祭 2025』2025.11.22(SAT)千葉・幕張メッセ国際展示場9-11ホール

話題のシークレットゲストはヌンチャクだった。スラッシュ/ハードコアを飲み込んだ爆音、ツインボーカルの過剰な熱量、ラップにも近い早口言葉と、反骨精神も込みのオモロくて奇妙な歌詞。当時10代だった5人組がデビューしたのは1995年で、3枚の傑作アルバムを連発したのち、「飽きたから」との理由であっさり解散したのが1998年のことである。

あはは、そうだった、と思う。『AIR JAM』系と呼んでしまえば、旗を振ったHi-STANDARDの下に興った「メロディック・パンクの祭典」という図式が生まれてしまうが、実際の90年代パンクシーンはもっと雑多な遊びが入り乱れ、みんなわりと手前勝手だった。ただ、80年代との違いは確かにあって、バンド同士が対立や潰し合いを好まず、ユニティ、フックアップの意識を持ちながらシーンの裾野を広げていったことは大きなトピックだ。その集大成のひとつが『AIR JAM』となり、のちのフェス時代へと発展していくのだが……この話は明日へと譲ろう。BRAHMANの『尽未来祭』初日。90年代の同士たちを集めた幕張メッセには、当時の愛すべき雑多なユニティが溢れ返っていた。

LOW IQ 01 & THE RHYTHM MAKERS PLUS w/TOSHI-LOW 撮影=岸田哲平

LOW IQ 01 & THE RHYTHM MAKERS PLUS w/TOSHI-LOW 撮影=岸田哲平

共演がとにかく多かった。トップバッターのLOW IQ 01 & THE RHYTHM MAKERS PLUSからこの日の出演者たちが入り乱れまくり。BACK DROP BOMBの白川、主賓TOSHI-LOWなどが次々とステージに飛び出してくる。出演予定のないバンドマン、特別サプライズでもなさそうなお友達まで出てくるのがこの時代の特性であり、SCAFULL KINGではRUDE BONESのホーン隊が、MONGOL800では名物ダンサーの粒さんが登場。さらにBACK DROP BOMBではレゲエ界からCHOZEN LEE、そしてヒップホップ界からSHAKKAZOMBIEのIGNITION MAN a.k.a ヒデボウイが登場する。常に同じ歩調だったわけではないが、どちらも90年代のアンダーグラウンド発、音楽業界の常識に噛みついてやろうと奮闘した同志として、90年代のパンクシーンとヒップホップシーンはかなり近しいものだった。ヌンチャクがラップに近い早口言葉をがなり立て、そのスタイルをより洗練させることでBACK DROP BOMBが飛躍していった時代。ここにベテランのラッパーたちが出てくることは、だから、決して不自然なことではないのである。

SCAFULL KING w/LOW IQ 01 撮影=橋本塁

SCAFULL KING w/LOW IQ 01 撮影=橋本塁

MONGOL800 撮影=山川哲矢

MONGOL800 撮影=山川哲矢

BACK DROP BOMB 撮影=岸田哲平

BACK DROP BOMB 撮影=岸田哲平


BACK DROP BOMB w/CHOZEN LEE、IGNITION MAN a.k.a ヒデボウイ 撮影=岸田哲平 

BACK DROP BOMB w/CHOZEN LEE、IGNITION MAN a.k.a ヒデボウイ 撮影=岸田哲平 

「BRAHMANと同じ時代を生き残ってきた、こんなヒップホップはいかがですか?」という宇多丸の言葉から始まるRHYMESTERは、懐かしさではない、今だからこそのアダルトな共演を見せてくれた。途中からドラムやアンプが運び込まれ、RONZI、MAKOTO、KOHKIの3人が登場。DJ JINに捧げる「Walk On」をバンドセットで演奏し、最後はTOSHI-LOWも交えて90年代クラシックである「耳ヲ貸スベキ」をプレイ! 深みや渋みをたっぷり感じる生演奏もよかったし、あれから経過した時間の長さ、今なおステージに立ち続ける表現者たちのプライドを、しみじみと噛み締めることができた。

RHYMESTER w/BRAHMAN 撮影=三吉ツカサ

RHYMESTER w/BRAHMAN 撮影=三吉ツカサ

同時代のベテランたるTHA BLUE HERBは明日に譲るとして、異色の出演者はEGO-WRAPPIN'と黒夢だろう。前者はBRAHMANのレーベルメイト、共演の歴史もあるので違和感はないのだが、奏でる音楽性はかなり違う。ただ、「Speculation」のカバーから始め、名曲「色彩のブルース」などをしっとり聴かせていけば、会場は柔らかな陶酔に包まれていく。逆に、異様なオーラで捩じ伏せていったのは後者の黒夢。「Slow Dance」「Silent Day」とカバーから始めたのち、「違う部族から来たトップバッターってことで……」と余裕の笑みを浮かべ、耳を抉るシャウトを炸裂させていく。「10年前ならTOSHI-LOWくんとは赤の他人でしたけど、今はかなりお友達です。でもみなさんとはお友達じゃないからね」などと牽制しながらも、90年代のヒット曲を連発していけば、後半にはフロアにダイバーまでが飛び出していた。

THA BLUE HERB 撮影=岸田哲平

THA BLUE HERB 撮影=岸田哲平


EGO-WRAPPIN' 撮影=山川哲矢

EGO-WRAPPIN' 撮影=山川哲矢

黒夢 撮影=橋本塁

黒夢 撮影=橋本塁

ラスト直前。この日最大のトピックはRiddim Saunterの復活である。結成は2001年、解散が2011年なので90年代チームではないが、SCAFULL KINGのフックアップによりシーンに飛び出したこのバンドは、モッシュやダイブよりダンスが似合う、よりスイートでロマンチックなユニティを開花させた存在だ。MCで田中啓史は多くの人から「TOSHI-LOWから脅されたの?」と尋ねられたことを明かしていたが、「人を脅すようなバンドが30年も続くわけがない。それを言うためにまた5人で集まりました」とにっこり笑うのだ。なお、Riddim再結成はこの日限りではなく、来年には25本のツアーが始まることも宣言。これは『尽未来祭』の最も豊かな副産物だろう。

Riddim Saunter 撮影=山川哲矢

Riddim Saunter 撮影=山川哲矢

そしてBRAHMAN。多くのバンドが90年代縛りのセトリだったから想像はついたものの、彼らも見事なまでに90年代の楽曲で魅せていく。メインは1stアルバム『A MAN OF THE WORLD』であり、トイズファクトリーからのデビューとなった「deep」「arrival time」だ。

撮影=三吉ツカサ

撮影=三吉ツカサ

そしてまた、ワチャワチャした賑やかなムードが強いSCAFULL KINGやBDBの同時代楽曲に比べて、BRAHMANのそれはずいぶんとヒロイックに響き渡る。英雄的という意味ではなく、苦難、困難に立ち向かっては何度も挫けそうになる、悲劇的な要素がかなり強いのだ。本当にバンドが頼れるヒーローになっていくのは震災以降だから、インタビューで「最初から、暗く物悲しい方向性で曲を作っていた」と語っていたRONZIの言葉がすべて。趣味というか性格というか、それ以上でも以下でもなかったと思う。ただ、そんな時代の曲たちを何度も何度も繰り返すことで、デコボコした緩急や異国情緒はしなやかな革のように鞣されていく。そして今、文字通りヒーローの肉体を手にし、音楽的な説得力も身につけてみれば、90年代のBRAHMAN楽曲たちは、悲しい曲、ではなく、とにかくいい曲として輝き続けているのだった。

撮影=三吉ツカサ

撮影=三吉ツカサ

  90年代の縛りが解かれるのは後半だ。本日2度目の「Speculation」をプレイし、先ほどカバーしてくれたEGO-WRAPPIN'をTOSHI-LOWがステージに呼び込む。もちろん始まるのは2010年発表の共作曲「WE ARE HERE」であり、続いて中納良恵がTHA BLUE HERBのILL-BOSSTINOをステージに呼び、2017年の楽曲「ラストダンス」へと突入していく。人が増えるステージはすっかり一夜限りのコラボ祭りといった様相だが、BOSSが「じゃあ俺が次のラッパー呼ぶわ!」と笑顔で言った瞬間は、意外すぎて声が出た人も多いのではないか。

始まるのはSHAKKAZOMBIEとBRAHMANの「KOKORO WARP」。出てくるのはIGNITION MAN a.k.a ヒデボウイ、そしてRHYMESTERの2人なのだ。もういないOSUMIの姿がスクリーンに映されているのが泣かせるし、彼の代役を宇多丸とMummy-Dが2人で引き受けているのもアツすぎる展開だ。

撮影=三吉ツカサ

撮影=三吉ツカサ

思えば90年代はCDバブルの時代でもあったから、浮ついた話も多かった。ファッション面での話題性も確かにあったし、そのことを今の価値観でどうこう言うつもりはない。ただ、ラスト手前にTOSHI-LOWの口からこぼれた言葉が、これら共演の美しさを総括していたと思う。

「あの時代、マナーとか決まりとか何もなかった。みんなも雑誌とか、数少ない情報を掻き集めてきたんでしょ? そうやって掻き集めたものが今日ここにあります。懸命にやってる奴しか今日ここにいない。自分の懸命さ、好きなものへの真剣さは、他人に穢せるものじゃない」

ラストは「FOR ONE'S LIFE」。繰り返される歌詞は<IF FOR ONE’S LIFE一一私が懸命ならば>。当時若かったバンドも、キッズと呼ばれていた客も、とにかく懸命だった。好きなものを好きであり続け、いい中高年になっても相変わらずここにいる。3日間の中で平均年齢が最も高い日だったが、終演後、駅へと向かう行列の顔ぶれは、なんだか笑ってしまうほどピュアに見えた。

撮影=三吉ツカサ

撮影=三吉ツカサ

取材・文=石井恵梨子 写真=オフィシャル提供(撮影:岸田哲平、三吉ツカサ、山川哲矢、橋本塁、アンザイミキ)

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レポートで掲載しきれなかったアザーカットを公開。

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