「恋愛が難しい時代に普遍的テーマを」須賀健太×重田千穂子×田村孝裕が明かす、結納の席を巡る人間ドラマ『ママごと』再演と舞台への愛
左から田村孝裕、須賀健太、重田千穂子
2022年、コロナ禍での延期を経ての上演となった田村孝裕作『ママごと』。劇団テアトル・エコーに書き下ろした本作品が、今度はONEOR8にて再演される。2026年1月21日(水)~27日(火)の新宿紀伊国屋ホールでの上演を皮切りに、1月31日(土)にまつもと市民芸術館、2月6日(金)~8日(日)に大阪・ABC ホールほか全国11カ所を巡回予定だ。SPICEでは今回のW主演を務める須賀健太、初演に引き続き出演となる重田千穂子、作・演出を務める田村孝裕による座談会を実施! こうして集まって話すのは初めてと言いながらも、既に和気あいあい。重田が「筆が遅くてもおもしろいから、役者は待つしかない」と太鼓判を押す田村作品の魅力、須賀が「ビーチバレーとバレー」と語る映像との違い……舞台への愛あふれる座談会をお届けする。
須賀健太、田村孝裕、重田千穂子
『ママごと』再演までの道のり
――コロナ禍に初演を迎えた『ママごと』。結納の食事会に集まる、二組の家族を中心に描いた作品です。今回、テアトル・エコーでの初演を経て、OREOR8で上演をされるのはどうしてですか?
田村孝裕(以下、田村):うちも長くやってきて、劇団員が50代にさしかかって、親世代の葛藤などを、ようやく演じられる年齢になってきました。僕の作品は家族劇というイメージがあるかもしれませんが、実は劇団ではしばらくやっていなくて。初の紀伊国屋ホールですし、ONEOR8でやってみたいと思いました。
重田千穂子
――重田さんは、初演に引き続きのご出演です。
重田千穂子(以下、重田):私はずっと田村くんにラブコールを送っていたんです。テアトル・エコーはもう75年、喜劇をやってきている劇団ですが、私たちも変わっていかなきゃいけない。ちょっと違う喜劇を上演したいからと、エコーの他の俳優たちと熱烈にお願いして(笑)、2回目に書いてもらったのが『ママごと』でした。1回コロナ禍で延期になって、2022年にようやく幕が開いて。初演は口コミですごく広がったんですよ! そうだったよね?
田村:そうですね、ありがたいことに、が取れないとか、色々お話を。
重田:下北沢では「『ママごと』がすごいらしい」って噂になってたと聞いて、嬉しかったです。初演はやっぱりエコーなので喜劇的側面が強い舞台になりまして。自分としては、もう少し内面を掘り下げたかったんですね。今回は同じ役ですが、(新郎の母親の)妹だったのが、冨田(直美)さんの姉役に変わります。その違いも自分の中でおもしろいと思っていますし、前よりもまた一つ、役者としてもっと幅が広がればいいなと。今からとても楽しみです。
須賀健太
――劇団員である冨田直美さんが、須賀健太さん演じる主人公のお母さん役。重田さんはおば役を演じられます。須賀さんは、今回新たに、若い世代として作品に参加されますね。
須賀健太(以下、須賀): 僕は映像と舞台、両方やらせてもらっていますけど、映像だと後輩とか出てくる歳です。でも演劇だとまだまだ下の方で、素敵な先輩がたくさんいらっしゃいます。この座組では僕は下から2番目に若くて。最近、ケラリーノ・サンドロヴィッチさんの座組に参加していましたが、その時も最年少。個人的には下の方が気持ちが楽なので、ありがたいですね(笑)。
田村:でも、うちの劇団と同期なんですよ。
須賀:98年デビューなので……。
田村:ONEOR8の旗揚げも同じ年でした。芸歴的にはもう、大ベテランです(笑)。
須賀:いやいや! 舞台はまだ、ここ10年くらいですから。
――須賀さんは近年、舞台演出も手掛けられていますね。映像と舞台の違いは感じられますか?
須賀:大枠は一緒ですけど、違うスポーツ……バレーボールとビーチバレーみたいな。 同じだけど、ちょっとした基準が違うというのは感じます。映像は3ヶ月で1本の作品を作ったり、バラバラに撮ったりといったこともある。舞台の方がなんというか、演じることに非常にピュア。集中して取り組める感覚があります。2時間で演じ切れるところも、最初は新鮮でした。
結納の場であらわになっていくそれぞれの秘密
田村孝裕
ーー今回の舞台は結納のために、結婚間近のカップルとその親たちがレストランに集まるところから始まります。須賀さんの世代では、結納はあまり馴染みがないのではと思いますが……。
須賀:確かに、最近はあまり聞かないかもしれない……顔合わせくらいかな?
田村:一緒に食事とかはするよね。
須賀:だと思います。でも僕個人としては、遠いものという感覚は別になくて。それより台本を読んで印象的だったのは、母親や父親との関係だったり、舞台上で生まれる家族の人間ドラマだったりに引き込まれましたね。ここはどんなセットで、どういう場面転換になるんだろうと勝手に想像して読むだけでもすごく楽しかったですし、ワクワクしました。
田村:恋愛が難しい時代になって、今の人は不憫だなと僕なんかは思っちゃいますけど。でも、恋愛とか不倫とか、そういう人が隠してるものが暴かれる、なんていうのは、いつの時代もみんな好きですよね。
ーーそれぞれが秘密を抱えたまま、「よそ行き」の顔をしているのが、社会というか……。
重田:私は田村作品は3本目ですけど、セリフが毎回本当に面白い。役者としては、おいしいセリフが何よりのごちそうですから! でも、田村さんって書くのが遅くて(笑)。稽古している側としてはやきもきするんです。以前新作をお願いしたら、顔合わせの時点では台本ができていなかったことがありました。毎日、1枚ずつ、ペラって渡されるんです。でもそれがすごくおもしろくて、もう役者はおとなしく待つしかないって。全員の役がよくて、端役がないんです。全員で作る作品という雰囲気がすごくあって。読んでいると、「こことここがこう関わってくるんだ! よくもこんなこと思いつくなあ、うまいなあ」って思います。
再演における座組のポイントは「人間性」?
須賀健太
ーー今回の公演には、佐藤B作さんをはじめ、多彩なキャストが揃われていますね。
田村:B作さんは何度もご一緒しているんですが、本当におもしろくてパワフルな方で。以前別の芝居の本番と、ウチの場当たりが被っていたことがあったんですよ。あっちの本番が終わったら、こっちの本番が始まる、みたいな。
ーーハードなスケジュールですね。
田村:ご自分の劇団では主役だったんですよ。なのに、稽古場では誰よりも早くセリフが入っていました。とにかく全力でやってくださる。大ベテランで、しかもあのご年齢で、信じられないほどにパワフルです。
ーー重田さんと、須賀さんはいかがですか?
田村:重田さんはこう……このままなんです、活字だと伝わりにくいかな(笑)。朗らかで、本当に優しい。裏表がまったくない人だと僕は思っています。しかも、重田さんが舞台上にいるだけで、華やかになる。そういった魅力をお持ちなので、非常に頼りにしています。僕は大体当て書きなんですね。重田さんをイメージして書くと、そのままというか、勝手にたくさんしゃべってくれるんですよ。
重田:稽古の最後にどうですかって聞いたら、「そのままで大丈夫ですよ」とか、そういうの期待するじゃないですか? そうしたら、「人のセリフ聞いてください」て、ばっさり言われたことがありますよ(笑)。
田村孝裕
ーー須賀さんは今回が田村作品への初参加で、面識はなかったんですか?
田村:もちろん映像作品などは拝見していて、共通の知り合いから須賀さんの人柄を聞いて、その時にもうこの人は大丈夫だなって思って。プロデューサーに、どんな俳優が希望ですかって言われたら、「人柄がいい人にしてください」ってお願いします。僕の作品のキャスティングは、とにかく人間性を重視しているので(笑)。お会いした時に須賀さんはもう、間違いない、素晴らしい方だなと感じました。
須賀:恐縮です。この間のケラさんの時も思いましたが、笑いって泣かせるよりすごく難しい。狙いすぎてもダメだし、お客さんによっては全く笑いが起こらないこともあるし、ひとつひとつがとても繊細です。もともと会話劇に関して難しいものだというイメージがありましたし、今回の『ママごと』は笑いどころがたくさんあります。重田さんはじめ、コメディのベテランである先輩方に教えてもらうべきことが稽古の中でたくさん出てくるんじゃないでしょうか。
田村:先日宣伝写真を撮る際、(主演の)福田沙紀さんと須賀さんが並んでいるところを見て、ああぴったりなキャスティングができた、と思いました。芯のあるチャーミングな雰囲気の福田さんとご一緒するのも楽しみですね。
人々の隠れた思いと関係を会話劇で楽しむ
重田千穂子
ーー東京・紀伊國屋ホールからスタートする公演は、千穐楽は鹿児島で迎えられます。北海道では網走、士別、紋別、深川、北広島と5カ所での上演があり、北から南まで巡られるスケジュールですね。
田村:ありがたいことに、北海道の皆さんにかわいがってもらって、あちこちで上演させていただきます。冬の北海道、好きなので。公演が楽しみなのか、北海道に行くのが楽しみなのか、半々かもしれない……。
須賀:旅公演は楽しいですよね。場所によって反応も違いますし。
重田:鹿児島は私の出身地なんです。そこで千穐楽を迎えられるのはとても嬉しいですし、地方はまだまだ演劇を観る機会が少ない。地元の人にたくさん観ていただきたいですね。
ーー最後に、皆さんへのメッセージをお願いいたします。
須賀:僕は、会話劇はまだ初挑戦のような状態です。僕は今まで、わりとステージングのある作品に参加する機会が多かったもので……。今回の舞台は自分でも大きなチャレンジですし、参加できるのもとても嬉しいです。先輩方と一緒にいい作品を作り上げたい。そして、一人でも多くの方に観ていただきたいですね。
重田:今、日本全体が、そして演劇にもかなり厳しい状況です。お客さんがなかなか入らないとか、代も上がってしまったりとか…‥。そんな状況の中、演劇はどんな意味を持つのか? この作品は、一見普通に見えますが、それぞれが問題を抱えた人たちの集まりです。二組の家族を中心とした、派手でもなんでもない話ですけど、お客様が笑って泣いて「あー、なんかいいもの観たな!」と、心に何かを灯して帰って頂けたら嬉しいです!
田村:みんな心に何か一つ抱えながら、結納の食事の場にやって来る家族の話です。昭和世代、平成世代が入り混じって、今を生きる方々が見て、令和の結婚に向かっていきます。少しカオスな部分もありつつ(笑)、ラストへと向かっていく。見終わった時、お客さんそれぞれの価値観によって感想も全く違うかもしれません。でも、私は希望が持てるラストだと考えているんです。観るのをまだ迷っている方、観たことない方、いろんな世代の方に、この作品を観ていただきたいと願っています。
左から田村孝裕、須賀健太、重田千穂子
終始和やかな雰囲気だったインタビュー。田村がキャスティングで重要視するという「人間性」そのものを感じさせるものだった。時代が変わっても、人間関係の悩みは万国誰しも共通する。事情を抱えた二組の家族から、新たな家族(夫婦)は誕生となるのか? ONEOR8版『ママごと』も、きっと観客を楽しませてくれることだろう。
取材・文=宇野なおみ 撮影=大橋祐希
公演情報
【東京公演】会場:新宿 紀伊國屋ホール
2026年1月31日(土)14:00開演
全席指定 一般 4,500円/U-25 2,000円(前売のみ・枚数限定)
2026年2月6日(金)~8日(日)
6日(金)19:00
7日(土)13:00/17:00
8日(日)13:00
全席指定 一般前売 7,500円
2026年2月11日(水・祝) 14:00開演
全席指定 前売 3,000円
2026年2月13日(金) 19:00開演
全席自由 前売 2,500円
2026年2月15日(日) 14:00開演
全席自由 一般前売 3,000円/高校生以下 2,000円
2026年2月17日(火) 18:30開演
全席指定 前売 3,500円
2026年2月18日(水) 18:30開演
全席指定 一般前売 4,000円/高校生以下 2,000円
2026年2月22日(日)~2月23日(月・祝) 14:00開演
全席指定 一般前売 6,600円/高校生以下 4,000円
2026年2月25日(水) 18:30開演
全席指定 一般前売 5,000円/大学生以下 500円
2026年3月9日(月) 18:00開演
全席指定 前売 7,500円