新国立劇場 2026/2027シーズン オペラ ラインアップを大野和士オペラ芸術監督が発表~《イタリアのトルコ人》《ピーター・グライムズ》《マクベス》を新制作
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大野和士 新国立劇場 オペラ芸術監督
新国立劇場 2026/2027シーズン オペララインアップの説明会が、2026年1月20日(火)に同劇場のホワイエで開かれた。今年はオペラ芸術監督の大野和士がハンブルク・オペラで《さまよえるオランダ人》を指揮をしていることもあり、オンラインでブリュッセルから登壇した。会場には大きなスクリーンが設置され元気そうな大野マエストロを映し出す。
26/27シーズンは新制作が3演目、レパートリーが7演目あり、合計10演目、47公演。新制作は10月2日の開幕を飾るロッシーニ《イタリアのトルコ人》、続いて11月に芸術監督の大野自身が指揮するブリテン《ピーター・グライムズ》。そしてシーズンの最後を飾る2027年の6・7月に上演されるヴェルディ《マクベス》である。《イタリアのトルコ人》はマドリッドのテアトロ・レアル、リヨン歌劇場との共同制作、《ピーター・グライムズ》はミラノ・スカラ座のプロダクション。
《イタリアのトルコ人》は、同じロッシーニの《アルジェのイタリア女》と比べても上演がめずらしい演目。単調な結婚生活に飽き飽きしていたドンナ・フィオリッラは、ナポリにやってきたトルコの王子セリムと出会い、夫をさしおいて彼に夢中になってしまう。二重唱、三重唱、四重唱と楽しいアンサンブルが目白押しで、ロッシーニがスカラ座オーケストラのために書いた序曲も秀逸である。高音の華やかな歌唱技術が必要なフィオリッラ役を歌うのは、24/25シーズン開幕公演《夢遊病の女》アミーナ役に急遽出演して大絶賛されたクラウディア・ムスキオ。他のキャストもイタリアのロッシーニ・オペラ・フェスティバルなどへの出演経験が豊富な“ロッシーニ歌手”たちが顔を揃える。指揮はイタリアの若き俊英アレッサンドロ・ボナートが新国立劇場初登場、演出は洒脱な、機知に富むアプローチで知られるフランスの名匠ロラン・ペリー。フォト・コミックのようなポップな美術が舞台を彩る。
《イタリアのトルコ人》テアトロ・レアル2023年公演より © Javier del Real | Teatro Real
《イタリアのトルコ人》テアトロ・レアル2023年公演より © Javier del Real | Teatro Real
二つめに上演されるのは英国の作曲家ベンジャミン・ブリテンの《ピーター・グライムズ》。芸術監督の大野が自らタクトを取る。オペラで人間の心理の奥底を描くブリテンの傑作。1830年頃のイギリス東海岸の小さな漁村で、孤独な漁師ピーター・グライムズが、徒弟の少年殺害の嫌疑をかけられ村人達から追い詰められていく。ミラノ・スカラ座で2023年に初演され話題を呼んだロバート・カーセン演出のプロダクションだ。主役のピーター・グライムズはスカラ座で同役を歌ったブランドン・ジョヴァノヴィッチ。エレンは英国が誇るソプラノ、サリー・マシューズが出演する。このオペラは合唱の聴きどころが多く新国立劇場が誇る合唱団の力強い歌が楽しみである。
《ピーター・グライムズ》ミラノ・スカラ座公演より Photo: Brescia and Amisano © Teatro alla Scala
《ピーター・グライムズ》ミラノ・スカラ座公演より Photo: Brescia and Amisano © Teatro alla Scala
シーズン最後の2027年6月・7月に上演されるヴェルディ《マクベス》は、新国立劇場で作られる新制作だ。ヴェルディが初めてシェイクスピア演劇のオペラ化に取り組み、ドラマとしてのオペラという新境地に達した初期の傑作である。演出はイタリア・オペラの重鎮ロレンツォ・マリアーニが初登場。指揮は世界の一流歌劇場で活躍しているイタリア人のベテラン指揮者カルロ・リッツィ。新国立劇場でも《ファルスタッフ》《アイーダ》などで、おなじみのマエストロだ。マクベスはパルマ・ヴェルディ音楽祭で同役を歌い高い評価を得たエルネスト・ペッティ、マクベス夫人は艶やかな声で人気急上昇中のカレン・ガルデアサバルが歌う。マクダフにはイタリアの新星パリーデ・カタルドという万全のキャスティングだ。このオペラでも新国立劇場合唱団の実力がいかんなく発揮されるだろう。
カルロ・リッツィ(C)Tessa Traeger/ロレンツォ・マリアーニ
エルネスト・ペティ(PH)Francesco Paglietta/カレン・ガルデアサバル/パリ―デ・カタルド
以上が新制作である。ちなみに、上記の演目のキャストには適材適所で日本人歌手が配役されており良いバランスを作っているが、それは残りの7演目に関しても同様である。
特に2026年12月のモーツァルト《フィガロの結婚》は日本人キャストのみを集めた公演として注目だ。アンドレアス・ホモキ演出に、ドイツの劇場で長年活躍しオペラを知り尽くす阪哲朗が指揮をとる。キャストは同じくドイツに拠点をおいて活躍する木村善明(フィガロ)を始めとして、須藤慎吾(アルマヴィーヴァ伯爵)、吉田珠代(伯爵夫人)、九嶋香奈枝(スザンナ)、そして昨年、細川俊夫の新作オペラ《ナターシャ》で日本人青年アラトを歌った山下裕賀(ケルビーノ)他、理想の布陣である。
《フィガロの結婚》 撮影:三枝近志
《フィガロの結婚》 撮影:三枝近志
2027年1月から2月にかけてはプッチーニ《トスカ》。マダウ=ディアツ演出の豪華な舞台を巨匠ドナート・レンツェッティが指揮する。トスカは演技派のカルメン・ジャンナッタージョ、カヴァラドッシは情熱的な美声を持つサイミール・ピルグ、そしてスカルピアを当たり役にしているダリボール・イェニスが出演する。
《トスカ》2024 撮影:堀田力丸
《トスカ》2024 撮影:堀田力丸
2027年2月はR・シュトラウスの《サロメ》。新国立劇場では長く親しまれてきたアウグスト・エファーディングの演出に、シュトラウスを得意とする沼尻竜典の指揮。サロメは今シーズンの大野和士指揮の同じシュトラウス《エレクトラ》でクリソテミスを歌うヘドヴィク・ハウゲルドが起用される。2020年に藤倉大作曲《アルマゲドンの夢》の主人公を歌ったピーター・タンジッツのヘロデも楽しみだ。
《サロメ》2011 撮影:三枝近志
《サロメ》2011 撮影:三枝近志
ヘドヴィク・ハウゲルド/ピーター・タンジッツ
2027年3月のマスカーニ/レオンカヴァッロのダブルビル《カヴァレリア・ルスティカーナ》《道化師》公演は大野が指揮をする。説明会でも大野は、修行時代にミュンヘンのバイエルン国立歌劇場で師事していたジュゼッペ・パタネが、拍を刻むのではなく、指揮棒でぐるぐると輪を描くような指揮をしていたことなどを語り、自らの公演への意欲をみせた。出演も25/26シーズン《ラ・ボエーム》で来日したルチアーノ・ガンチ、マッシモ・カヴァレッティに加え、新国立劇場初登場のイタリア人メゾソプラノのキアラ・モジーニ、2023年に《アイーダ》に出演したロベルト・アロニカ、そして今シーズン《リゴレット》のジルダを歌う中村恵理がネッダに出演するなど、贅沢なキャストをそろえた。2025年11月に急な代役で《ヴォツェック》題名役を歌い高く評価された駒田敏章も《道化師》シルヴィオを歌う。2014年初演ジルベール・デフロ演出のプロダクション。
《カヴァレリア・ルスティカーナ》撮影:堀田力丸
《道化師》撮影:堀田力丸
2027年4月にはもう一つR・シュトラウスの人気オペラ《ばらの騎士》が上演される。英国が生んだ名演出家ジョナサン・ミラーの美を極めた舞台で、指揮は23年に新国立で《こうもり》を指揮して広く称賛を集めた新鋭パトリック・ハーン。元帥夫人にはこの役を得意にしているキアンドラ・ハワース、オックス男爵は新国立劇場におけるワーグナー作品や2022年の《ボリス・ゴドゥノフ》題名役などでおなじみのギド・イェンティンス、そしてイタリアを中心に活動しながら新国立劇場にも定期的に出演しファンが多い脇園彩がオクタヴィアンを演じる。これまで新国立では《魔笛》パパゲーナなどに出演している種谷典子がゾフィーを歌うのも嬉しい。
《ばらの騎士》2015 撮影:寺司正彦
《ばらの騎士》2015 撮影:寺司正彦
2027年4月後半はヴェルディ《ファルスタッフ》。《ばらの騎士》に続いてミラー演出の、17世紀オランダ絵画にインスピレーションを受けたという美術が印象的なプロダクションだ。イタリアの歌を知り尽くしたマウリツィオ・ベニーニの指揮で、名歌手ロベルト・フロンターリ、セレーナ・ファルノッキア、注目のバリトン、リカルド・ホセ・リベラも登場する。
《ファルスタッフ》2023 撮影:堀田力丸
《ファルスタッフ》2023 撮影:堀田力丸
2027年5月にはチャイコフスキーの人気オペラ《エフゲニー・オネーギン》が上演される。ドミトリー・ベルトマンの現代的な視点をおりこんだ演出で、指揮は2019年の初演を手がけたアンドリー・ユルケヴィチ。タチヤーナのクリスティーナ・ムヒタリアン、オネーギンのアンドレイ・ジリホフスキー他、ヨーロッパで活躍するロシア、東欧出身歌手を招聘する。《ボリス・ゴドゥノフ》で怪僧ピーメンを演じ話題となったゴデルジ・ジャネリーゼがグレーミン公爵で出演するのも注目したい。
《エフゲニー・オネーギン》2024 撮影:堀田力丸
《エフゲニー・オネーギン》2024 撮影:堀田力丸
以上が2026/2027シーズンの概要だ。オーケストラは東京フィルハーモニー交響楽団が7演目、東京交響楽団が3演目を受け持つ。新制作にはロッシーニ《イタリアのトルコ人》のような、上演がめずらしい演目を取り入れつつ、全体的には王道のレパートリーを追求し、キャストに関しては、まさに今、欧州などで活躍している歌手たちを招聘。日本人キャストも新国立劇場に初登場の顔ぶれがかなり意欲的に起用されている。
演目とプロダクションの説明が終わった後、大野芸術監督への質疑応答に入る前に新国立劇場常務理事、田栗浩氏から
最後に質疑応答の時間となり、挙手した記者から大野監督に、細川俊夫作曲《ナターシャ》世界初演の成功、11月に指揮した《ヴォツェック》の題名役に出演したドイツ人歌手トーマス・ヨハネス・マイヤー氏がその後急逝したことなどに触れながら、「芸術監督として今思っていること、この一年を振り返って」という質問があった。
大野監督は、2024年11月に指揮したロッシーニの大作《ウィリアム・テル(ギヨーム・テル)》の充実、《ナターシャ》の新しい試みに外国からの多くの反響があったことなどの喜びを述べた後、マイヤー氏が《ヴォツェック》を2回歌った後に病気で降板し、短期の入院を経て帰国後にすぐ亡くなったことについて、かなり考え込んで言葉を詰まらせながら、また一瞬、画面から離席する場面などがありながら次のように語った。
ブリュッセルからオンライン中継で登壇した大野和士 新国立劇場オペラ芸術監督
《ヴォツェック》の練習の時点から、他ならぬトーマスさんが一番、私たちを励ましてくれていた。ゲネプロと最初の2回の公演の時にも、本当にみんなを引っ張っていってくれて、その2回目の公演が終わるまで、誰も彼の体調の変化に気がつかなかった。2回目の公演後に、彼が病院に行かなくてはいけない状況だということを知り、彼自身は調子が良くなれば戻ってきて歌うと言っていらしたがそれは果たせず、劇場側は心配して引き留めたが、大丈夫だから帰りますということで帰国なさった。(亡くなったという)一報を受けた時には本当にショックで、心の中に穴が空いた状況になっている。その一方で駒田敏章さんのような才能があり、その後も公演は続けられることができた。
大野監督は「彼が歌っていたあの声、彼が練習しながら私たちに語っていたことというのが、私たちの中にはこれからずっと残るのではないかというふうに思っております」としめくくった。
新国立劇場2026/2027シーズンの充実のオペララインアップ。次なるシーズンも、心に残る作品やアーティストと巡り逢えるように願わずにはいられない。
【動画】新国立劇場オペラ2026/2027シーズンラインアップ
取材・文=井内美香
公演情報
《イタリアのトルコ人》 [新制作]
Il Turco in Italia / Gioachino Rossini
全2幕〈イタリア語上演/日本語及び英語字幕付〉
■公演期間:2026年10月2日[金]~10月12日[月・祝]
■会場:新国立劇場 オペラパレス
■詳細:https://www.nntt.jac.go.jp/opera/ilturcoinitalia/
《ピーター・グライムズ》[新制作]
Peter Grimes / Benjamin Britten
全3幕〈英語上演/日本語及び英語字幕付〉
■公演期間:2026年11月23日[月・祝]~12月5日[土]
■会場:新国立劇場 オペラパレス
《フィガロの結婚》
Le Nozze di Figaro / Wolfgang Amadeus Mozart
全4幕〈イタリア語上演/日本語及び英語字幕付〉
■公演期間:2026年12月6日[日]~12月12日[土]
■会場:新国立劇場 オペラパレス
《トスカ》
Tosca / Giacomo Puccini
全3幕〈イタリア語上演/日本語及び英語字幕付〉
■公演期間:2027年1月28日[木]~2月11日[木・祝]
■会場:新国立劇場 オペラパレス
《サロメ》
Salome / Richard Strauss
全1幕〈ドイツ語上演/日本語及び英語字幕付〉
■公演期間:2027年2月6日[土]~2月13日[土]
■会場:新国立劇場 オペラパレス
《カヴァレリア・ルスティカーナ》
Cavalleria Rusticana / Pietro Mascagni
全1幕〈イタリア語上演/日本語及び英語字幕付〉
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ルッジェーロ・レオンカヴァッロ
《道化師》
Pagliacci / Ruggero Leoncavallo
全2幕〈イタリア語上演/日本語及び英語字幕付〉
■公演期間:2027年3月6日[土]~3月16日[火]
■会場:新国立劇場 オペラパレス
《ばらの騎士》
Der Rosenkavalier / Richard Strauss
全3幕〈ドイツ語上演/日本語及び英語字幕付〉
■公演期間:2027年4月2日[金]~4月11日[日]
■会場:新国立劇場 オペラパレス
《ファルスタッフ》
Falstaff / Giuseppe Verdi
全3幕〈イタリア語上演/日本語及び英語字幕付〉
■公演期間:2027年4月21日[水]~4月29日[木・祝]
■会場:新国立劇場 オペラパレス
《エフゲニー・オネーギン》
Eugene Onegin / Pyotr Tchaikovsky
全3幕〈ロシア語上演/日本語及び英語字幕付〉
■公演期間:2027年5月16日[日]~5月23日[日]
■会場:新国立劇場 オペラパレス
《マクベス》[新制作]
Macbeth / Giuseppe Verdi
全4幕〈イタリア語上演/日本語及び英語字幕付〉
■公演期間:2027年6月30日[水]~7月18日[日]
■会場:新国立劇場 オペラパレス