「気負わず、晴れ舞台で輝きたい」――落語界のダークホース・桂米紫、3年連続独演会
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桂米紫
落語家の桂米紫が3月22日(日)、大阪・サンケイホールブリーゼにて『桂米紫独演会』を開く。同ホールでの独演会は3年連続。ここ一番で確かな仕事を見せる、そんな“ダークホース”的立ち位置を自認する米紫からは、独演会にかける気合と覚悟がにじむ。大師匠・桂ざこばさんの形見の着物と雪駄に身をまとい、今年の3席への意気込みを語った。
桂米紫
――今回、「無精床」「餅屋問答」「百年目」の3席を選んだ理由は?
一昨年は噺家生活30周年の“ご祝儀公演”で「柳田格之進」、去年は「らくだ」とトリに大ネタをやりました。3月に52歳を迎える今年は、米朝一門にとって大事な「百年目」を、そろそろやらせていただいてもいいかな、と。弟子もできて、番頭と丁稚の関係が自分の立場と重なるんです。3席やるなら音楽の「アルバム」みたいにバラードの次はロック……と曲調を変えたい。中入りまでは「無精床」「餅屋問答」でしっかり笑ってもらい、ネタおろしとなる「百年目」では、しっとりしてほしいですね。
――「餅屋問答」と「無精床」はどんな噺ですか。
「無精床」は「ドリフのもしもシリーズ」のようなコント的古典落語。「もしもこんな床屋さんがあったら」という話で、工夫のしがいがあります。「餅屋問答」はシチュエーションコメディ。いい加減な偽坊主が真面目な坊主を負かすという、落語ならではの爽快さがある。中入りまでしっかり笑ってもらって、「百年目」へつなげたいです。
桂米紫
――「百年目」の魅力は?
落語家の世界は上下関係が強い。師匠に学び、弟子にバトンを渡していく。そこがこの噺の肝です。滑稽で笑えるシーンもたくさんあるけれど、見終わった後、人と人との上下関係、師弟関係のいいところがほわっと香ればいいなと思います。
――「百年目」の大旦那役は難しいのでは?
昨年、弟子が出来て、叱る難しさを実感しました。上の立場も下の立場も経験した今だからこそできる役なのでは。若い頃は大旦那やご隠居をやっても無理があった。でも年齢を重ねて、ようやく腑に落ちてきた。今なら「百年目」をやれる年季と年齢になったな、と感じています。
桂米紫
――稽古の進み具合は?
長いネタは長距離走みたいなもので、ペース配分が大事。「柳田格之進」「らくだ」もそうでしたが、通しで何回もやって初めて見えてくる“しんどい場所”があります。まだ本当の大変さには直面していませんが、これから頭に肌に入れていきたい。ざこば師匠の映像も参考に、最後に塩鯛師匠に見てもらい、仕上げていきます。
――「無精床」「餅屋問答」のように「百年目」には、自分ならではの工夫は入れない?
「百年目」は、シェイクスピア演劇みたいなもの。アドリブを入れたら怒られる。蜷川幸雄に灰皿を投げられる、みたいな(笑)。米朝師匠、ざこば師匠、塩鯛師匠と受け継がれてきた先人たちの型を大事にしつつ、自分の切り口を探りたい。理想は、中入りまでに笑い疲れたところで、しっとりとやりたいですね。
桂米紫
――大旦那像はどう作っていきますか。
落語は一生かけて磨ける芸。若い頃に違和感のあったセリフも、年齢を重ねると腑に落ちてくる。52歳の今が完成ではなく、ここから「百年目」を育てていくつもりです。60代、70代になればもっと味が出るはず。その過程を楽しみたいですね。
――3年連続の独演会にプレッシャーはありますか。
僕、ビートルズのジョージ・ハリスンが好きで、彼のヒット曲でもある「ダーク・ホース」という言葉が好きなんです。同期には吉弥君というスターをはじめ、春蝶君などがいる。自分は「一番を狙う」より、ここぞという時に力を発揮する「ダークホース」のような存在でいたい。気負わずに力をためて、晴れ舞台ではしっかり輝きたいと思っています。
桂米紫
――弟子に対して、どんな師匠でありたい?
僕は塩鯛師匠が大好きで入門しました。芸だけではなく、真面目な人柄に惚れた。「芸は人なり」という言葉の通り、師匠の人柄が芸に出る。僕も根は真面目なので、そこに強く惹かれました。弟子ができて初めて、自分がどれだけ師匠に迷惑かけていたかも分かりました。目標は塩鯛師匠。人間性も芸も高めていきたいです。
桂米紫
取材・文・写真=Nagao.M