KAAT 神奈川芸術劇場、新シーズンテーマは「人はなぜ線をひくのか」 2026年度ラインアップを発表
KAAT 神奈川芸術劇場で芸術監督を務める長塚圭史
俳優や劇作家、演出家として活躍する長塚圭史が2月26日、芸術監督を務めるKAAT 神奈川芸術劇場(横浜市中区)で「KAATラインアップ発表会」に出席した。新聞、雑誌、ウェブ媒体など多くのメディアが集まった会場では、今シーズンのテーマを「人はなぜ線をひくのか」としたことを発表。これに紐付く作品として2026年10月から、27年3月末までのメインシーズンでは、3作品を上演するといい「僕らの日常の中にある線について考える機会になれば。僕ら答えがない世界に生きていますから。なぜそういうことを求めるのか思考する機会になればと思っています」と呼びかけていた。
長塚は2021年4月に同劇場の芸術監督に就任。昨年、続投の意思について問われた際は「えぇ!?ってなりました。(2021年4月からの)5年間のことを考えていたのに、その先も5年間あるのか」と素直な思いを吐露。最初の5年間については「劇場を開く、種をまく期間になった」と振り返ると、今年4月から2031年3月末まで続く任期について「ここからの5年間は、いよいよ育てていく時間をいただいたのではないかと感じている。パフォーミングアーツに触れることの豊かさを知っていただきたい」と意欲を見せた。
これまで5年間の「メインシーズン」について、1年目は冒険の「冒」。2年目は忘却の「忘」。3年目は美貌の「貌(かたち)」、4年目は「某(なにがし)」、そして5年目は「虹~RAINBOW~」をテーマに掲げ活動してきたことを回想。昨年はプレシーズンに上演したミュージカル『LAZARUS』(白井晃演出)を皮切りに、メインシーズンでは「勝手に唾が出てくる甘さ」(山内ケンジ作・演出)、『帰ってきた冒険者たち 〜闇に落ちたカナガワを救え!〜』(長塚作・演出)など新作が続いたことについて触れ「前芸術監督の白井さんなど、この5年間にゆかりがあった人が、そろいもそろって新作だった。それを知った劇場は、準備がままならないと震え上がったと思う。でも今年こういう経験をしたことが、大きな経験値になった」と手応えを感じていた。
4月から8月までの間に予定する主催4公演については、KAATキッズ・プログラム 2026『さかさまの世界』(5月2~5日)の再演で幕開けすることも発表。元々フランスで生まれた物語で「幼稚園の子どもたちの秘密を集め、その想像力が世界を救うのでは?」と考えていくユニークな作品。振付・構成・演出を務める伊藤郁女は、映像コメントの中で新たに浅川奏瑛が参加することを明かし「パワーアップして、面白いことが起こると思う」とコメント。長塚も「伊藤さんの発想は本当に面白くて、僕らの予想を軽々と飛び越えていく」と期待していた。
海外招聘作品『Love Beyond(Act of Remembrance)』(6月12~14日)は、2024年に上演した『品川猿の告白』を手がけたラメッシュ・メイヤッパンが作・出演する最新作。視覚障害を持つメイヤッパンは「認知症を患ったろう者が経験する特有の状況に興味を持ったこと」が新作の意欲になったとVTRで明かし、「言語とアイデンティティを失った人間の姿を描いている」と説明。意思疎通がどのように変化していくかも探求しているという。長塚は「俳優が素晴らしい。俳優を見ることでも、ものすごい刺激になる」と話していた。
KAATキッズ・プログラム2026『子どものための美しい国』(仮、8月上演予定)は、ノゾエ征爾が作・演出する作品。10歳の少年・マットが主人公で、王である父を亡くし、代わりに王を務めることになったマットが奮闘する姿を描く。ヤヌシュ・コルチャック原作を元に、絶賛制作中というノゾエはVTRで「最後どうなるんでしょう。僕も楽しみにしています。子どもたちも、いつの間にか子供ではなくなった大人たちも、ぜひ劇場に足を運んで」とPR。長塚は「どんな世界が立ち上がるのか本当に楽しみ。自分だったら国をどうするのかマットと一緒に考えてみてほしい」と呼びかけていた。
10月から27年2月にかけて上演する「メインシーズン」では、今期のテーマにつながる2作品を含むバラエティに富んだ作品が並んだ。テーマ作品2作の中で最初に上演するのは、長塚が演出する、KAAT×阿佐ヶ谷スパイダース『ジャングル』(10月10日〜11月1日)。同作は、フランスに実在した難民キャンプ『ジャングル』を描いた作品。日本初上演の舞台は、ジョー・マーフィー&ジョー・ロバートソン作で、VTRの中で2人は「移民問題は簡単には語れませんが、伝えたいのは〝希望〟です」とメッセージ。長塚は「私が主宰する阿佐ケ谷スパイダースと、神奈川県民の皆さんとで作っていく。(舞台の出演者と)この国にある問題や、県の中にある問題についても話していきたい」と意欲。「空間的にも見たことがないものになると思うので、観に来るというより、どちらかというと参加する気持ちで観に来てほしい」と明かしていた。
続けてKAATで初演出となるウォーリー木下が手がける『蛙昇天』(10月~11月上旬予定)を紹介。VTRの中で木下は1951年に作家の木下順二が書き下ろした本を元にした作品について、「蛙たちの姿を借りて、その当時の戦後の民主主義が起こしたある事件を元にしています」と説明。「昨今の日本の民主主義と比較しても、決して古びた話しではありません。1951年の話しが、実は先見性があるものだったと感じられる作品」とコメント。過去に同作の演出を手がけたことがある長塚は「冒頭で蛙が鳴いているんですけど、それを集団の声として聞くのか、蛙個々が鳴いていると聞くのかで捉え方が変わる。蜷川幸雄さんが演劇に目覚めた作品とも言われているもの。死に向かっていく少年の姿は圧倒的です」と思いを込めていた。
テーマ作品の3つ目は、『もうちょっとしたら、このあたりで』(仮、2027年1月下旬〜2月上旬頃)を予定。読売演劇大賞優秀作品賞を受賞した『ライカムで待っとく』の再演から3年。作家の兼島拓也と演出家の田中麻衣子が再びタッグを組んだ作品で、兼島は戯曲を執筆中。VTRの中で兼島は、沖縄と日本の問題を描いた『ライカム~』と「問題意識は共通している」とし、「前回を経て、何が見えてきたのか。何が逆に見えにくくなっているのか。あるいは何を見せられていて、何を見えなくさせられているのかを意識しながら取り組んでいます」と明かし、田中は「温かくて優しい作品になるのではと思っています」と笑顔を見せていた。長塚は「なかなかハードになると思う作品。僕らが沖縄との間に引く線。米軍との間にある越えてはいけない線。神奈川と沖縄の間にも何かあるかもしれない。辛らつだけど、温かい作品が出来上がると思います。粘り強く兼島さんが戯曲を書いています。また進展したら続報をお知らせしたい」と話していた。
ほか俳優の千葉雄大が主演し話題を集めた『ジャズ大名』を12月に再演することも公表。筒井康隆の同名小説が原作で、舞台を神奈川の小田原で実在した藩に置き換えるなど、県民にとって身近に感じられる作品について長塚は「驚くようなラストが待っています。書き換えて神奈川県と深く繋がった物語になりました。待望の再演なんで必見です。(上演台本を務める)福原(充則)さんはより高めていこうとしているので、楽しみにしてください」と声を弾ませていた。
取材・文・撮影=翡翠