世界にはばたく12歳のピアニスト、天野薫にインタビュー~「音楽っていいな」と思ってもらえる演奏会に

2026.3.3
インタビュー
クラシック

(C)仙台国際音楽コンクール事務局

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昨年2025年、世界の若手音楽家の登竜門として注目を集める「仙台国際音楽コンクール」に最年少で出場、第三位ならびに聴衆賞を受賞した12歳のピアニスト・天野薫が、2026年3月14日(土)浜離宮朝日ホールにてリサイタルを行う。今回並べたのは、初挑戦のレパートリーも含めた意欲的なプログラム。公演が迫るなか、現在の心境や演奏会への向き合い方、今後の目標について聞いた。

――本番まであと1か月程度(※取材時)となりました。本番に向けて、今のお気持ちはいかがですか?

本番を楽しみに思っていますが、ワクワクよりもドキドキが強いかもしれません。休憩後の後半に演奏する曲は、新曲が多く、今回挑戦のために選んでいる曲ばかりなので、少し不安があり、本番までにもうちょっと練習していきたいです。でも、どの曲もとても好きなので、練習も楽しくやっています。

――今回のプログラムは先生と相談しながら決めていかれたそうですね。

先生に提案していただいた曲のうち、音源を聞いたり楽譜を見たりして、自分が弾きたいと思ったものを選曲しました。前半は、いままでよく勉強していたバロックや古典のプログラムを、後半はドビュッシーとラヴェルのフランス近現代から、その流れを継いだ矢代秋雄の作品を選びました。

今回初めてレパートリーに入れたラヴェルの『鏡』からの2曲(「洋上の小舟」「道化師の朝の歌」)​は、自分にとって一番の挑戦ともいえるかもしれません。オクターブの和音で進行するところが多いので、いまの自分の体ではその音をぶれずにしっかりと掴むことが難しく、果たして本当によい表現ができるかと選曲の際に少し悩んだのですが、いつか弾いてみたいと思っていた曲なので、思い切って挑戦することにしました。

――そのラヴェルの2曲も含めて、今回演奏するそれぞれの曲目について、印象等を教えてください。

《プログラム(予定)》
ヘンデル:組曲 第5番 ホ長調 HWV430
モーツァルト:ピアノ・ソナタ 第3番 変ロ長調 K.281
J.S.バッハ:半音階幻想曲とフーガ ニ短調 BWV903
ドビュッシー:水の反映
ドビュッシー:喜びの島
ラヴェル:洋上の小舟
ラヴェル:道化師の朝の歌
矢代秋雄:ピアノ・ソナタ


ヘンデルの「組曲 第5番」は長調の明るい曲で、弾いていてとても楽しいです。『調子のよい鍛冶屋』は、いろいろな変奏が出てきてわくわくします。リピートをすることで、同じ変奏でも違った表情をつけられることも楽しいと感じています。

モーツァルトの「ピアノ・ソナタ第3番」も、ヘンデルと同じく、明るくてかわいらしい曲ですが、モーツァルトは細かい音の粒を揃えること、特に左手をコントロールすることがとても難しく、最初のうちは指が転んでしまって思ったように弾けませんでした。本番まで、細かい練習を積み重ねていきたいです。

バッハの「半音階的幻想曲とフーガ」は、とてもかっこいい曲でぜひ弾いてみたいなと思っていたのですが、最初のうちは短調の重厚な感じが出ず、むしろ軽く明るい雰囲気になってしまって大変でした。バスの低音から振動が伝わるような、重々しい音を出せるようになりたいと思っています。

ドビュッシーの「水の反映」は、美しい自然の中にいるような気分にさせてくれます。音の連なりは水が淀みなく流れている様子を、和音の多彩な重なりはさまざまな水の表情を感じさせます。最後はしずくが一滴ずつ落ちていき、ああ、終わってしまうんだという寂しさも感じます。

同じくドビュッシーの「喜びの島」は、喜びに満ちた華やかな曲ですが、神秘的なところとか、ゆったりと穏やかなところもあって、表情の違いにわくわくします。ただ、これが不倫旅行中の曲だと知ったときはびっくりしました(笑)。

ラヴェルの「洋上の小舟」は、ドビュッシーの「水の反映」のように、美しい景色を見ている感じがします。とても広くて、対岸が見えないような大きな湖を見ているような……。ただ、右手の和音を正確につかむのが難しいので、せっかくのきれいな和音を崩さないように仕上げていきたいです。この曲は繊細な感じだけど、意外と筋肉を使う気がしています。

「道化師の朝の歌」は、リズミカルで表情がくるくる変わり、とても楽しそうな曲だなと思っていたのですが、最初のうちは全然リズムに乗れなくて(笑)。オクターブをパーンと掴むのも大変だし、同音連打も手ごわく、なかなか難しいなと感じました……。最初は「道化師」を知らなかったので、道化師とは何かを調べるところから始めました。

矢代秋雄のピアノ・ソナタは、譜読みについては思ったほど難しくはなかったです。ですが、暗譜となったらものすごく難しくて、何度弾いてもなかなか覚えられず苦労しました。また、2楽章の途中に腕を大きく開くところがあるのですが、そこの部分を練習していたら体がついていかず、腰が痛くなってしまいました。ちなみにこの曲は、幽霊が出てきそうでかなり怖いです。特に3楽章の最初の和音を弾いているときには、後ろに本当に幽霊がいるような気がしてヒヤッとすることも……。でもとてもかっこいい曲なんです。全力で弾ききりたいと思います。

――プログラムのなかで、天野さんご自身が特に好きな曲や、今回ぜひ演奏したいと強く希望した曲はありますか?

すべて好きな曲なので難しいのですが、例えばバッハの「半音階的幻想曲とフーガ」では、短調の堂々としたところが好きです。幻想曲は即興的なのに対し、フーガは半音階の不安定で心細いテーマから始まって、まるでパイプオルガンのストップが1つ1つ引き出されるように音が重々しく厚みが増していくところが、とてもかっこいいと思っています。

モーツァルトの「ピアノ・ソナタ 第3番」では、3楽章がロンド形式でテーマが何度も出てくるのですが、それをどんな表情で弾き分けようかと考えると楽しくなります。

ドビュッシーとラヴェルは和音の重なりがとてもきれいで、大好きです。

(C)仙台国際音楽コンクール事務局

――昨年(2025)は、仙台国際音楽コンクールに最年少で出場されました。

仙台国際音楽コンクールは以前から知っていて、いつか出てみたいなとは思っていたのですが、こんなに早く出場させていただけることになるとは思いませんでした。モーツァルトのコンチェルトが課題曲だったので、ぜひ挑戦してみたいと思い、先生と相談して、応募することを決めました。

予選の曲は、よく弾き込んだという自信があったことで、最初から最後まで楽しめたと思います。セミファイナルのモーツァルト「ピアノ協奏曲 第17番」では、初めて仙台フィルの皆様と共演できる嬉しさを感じて舞台に上がりました。

ファイナルのモーツァルト「ピアノ協奏曲 第21番」は、直前の練習時間があまり取れず少し不安に思っていたところ、最初に左手が飛んでしまい少しドキドキしましたが、結局は楽しめました。矢代秋雄のコンチェルトは、実は一番不安な気持ちで舞台に上がりましたが、最後まで弾ききることができて本当によかったです。

半月ほどコンクールの緊張が続きましたが、皆様からのたくさんのあたたかい応援やサポートをいただいたおかげで、すべてのステージを弾ききることができたと思っています。応援してくださった皆様に心より感謝いたします。

――同コンクールでは、第三位と聴衆賞を受賞されました。そのときのお気持ちはいかがでしたか? 学校やお教室のお友達などからなにか声をかけてもらったりしましたか?

まさか賞をいただけるなんて思っていなかったのでびっくりしました。そもそも予備審査に受かったのがびっくりで、最初は何か間違えられてしまったんじゃないかと思いました。でも、選んでいただけたことをとても嬉しく思います。

ピアノのお友達は、東京から聴きにきてくれたり、メッセージでおめでとうと言ってくれました。学校では、すごかったねと声をかけてくれる子もいて、本当に嬉しかったです。

――天野さんは9歳でデビューし、海外の公演にも出演されています。コンクール、リサイタルと多数のステージ経験を積んできていますが、緊張はしますか?舞台に上がる前の習慣などあれば教えてください。

本番前はとても緊張してしまって、「舞台に立つのはきょうでやめようか」という気持ちになることもありますが、舞台に上がるときは「楽しんで弾こう!」と気持ちが切り替わります。そして、舞台に上がってピアノまで歩いているときは、ほぼ無心なのですが、ドレスをひっかけて転んでしまわないよう注意はしています(笑)。

舞台に上がる前の習慣は、直前にはあまり飲食をしないことと、舞台に上がる前にはカイロを握っていることぐらいかなと思います。

――演奏会の機会なども増えているのではと思いますが、受賞から半年ほど経って、ピアノに対する気持ちに変化はありますか?

演奏会の機会をたくさんいただくことができ、とてもありがたいことだと思っています。ピアノに対する気持ちや姿勢は、自分の中では特に変わっていないです。すべての舞台で、聴いてくださるお客様のためにいい音楽をお届けしたいという気持ちで準備をしています。お客様に「きょう、来てよかったな」「この曲、いい曲だな」「音楽っていいな」などと思ってもらえたら、とても嬉しいなと思います。

――いま特に惹かれる作曲家や弾いてみたい曲などあれば教えてください。

ソロの曲だけでなく、コンチェルトにもたくさん挑戦していきたいです。特にモーツァルトはコンチェルトの作品もたくさん残しているので、たくさん弾いてみたいです。近くジュノムを弾ける機会もあるので、いまから楽しみです。

ソロでは、ベートーヴェンの後期ソナタにも挑戦してみたいなと思います。

――ピアノ以外には、どんなことが好きですか?

裁縫と、ゲーム(switchのスプラトゥーン3)と、本を読むことです。最近ミシンを買いましたが、時間がなくてあまりできていないです。

――4月からは中学生になりますね。より学校生活も充実し、お勉強なども大変になってくると思いますが、これからピアノとはどんなふうに向き合っていきたいですか。

勉強が苦手で、中学生になると今よりも勉強をしないといけないと思うと、ちょっと憂鬱です(笑)。学校生活も忙しくなるのかなと思うと、ピアノとの両立がうまくいくのか不安に思うこともありますが、ピアノはいままでと変わらず、楽しみながらも頑張っていきたいと思っています。

――改めて、3月14日(土)の公演に向けて、注目してほしいポイントを含めて、読者の方へメッセージをお願いします。

全部とても素敵な曲なので、ぜひ皆さんにすべての曲を楽しんでいただければと思っています。

特に挙げるとするならば、最後に演奏する矢代秋雄は幽霊に取りつかれたような曲で、とてもぞくぞくするので、聴いていただく皆さんにもぜひぞくぞくしてほしいです。

公演情報

『天野薫ピアノリサイタル』
 
日程 2026年3月14日(土) 18:00(17:15開場)
会場 浜離宮朝日ホール
 
出演 天野薫(ピアノ)
内容
ヘンデル:組曲 第5番 ホ長調 HWV430
モーツァルト:ピアノ・ソナタ 第3番 変ロ長調 K.281
J.S.バッハ:半音階幻想曲とフーガ ニ短調 BWV903
ドビュッシー:水の反映
ドビュッシー:喜びの島
ラヴェル:洋上の小舟
ラヴェル:道化師の朝の歌
矢代秋雄:ピアノ・ソナタ
 
(全席指定・税込)一般2,500円、学生1,000円(25歳以下)
 
【主催】朝日新聞社/浜離宮朝日ホール/イープラス
  • イープラス
  • 天野薫
  • 世界にはばたく12歳のピアニスト、天野薫にインタビュー~「音楽っていいな」と思ってもらえる演奏会に