「菅原道真公の“気配”を感じられる作品」DAZZLEが挑む特別なイマーシブ体験 北野天満宮でのパフォーマンスについて語る

2026.3.20
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イマーシブシアター「花宵の大茶会」より

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2026年2月1日(日)から5月24日(日)まで北野天満宮にて開催されている「KYOTO NIPPON FESTIVAL 2026 -時をこえ、華ひらく庭-」にて、アーティスト蜷川実花と宮田裕章をはじめ、各分野のスペシャリストが集結するクリエイティブチームEiMとダンスカンパニーDAZZLEがタッグを組み挑むイマーシブシアターが、いよいよ3月20日から始まる。

由緒ある北野天満宮を舞台に、毎年多彩な文化プログラムを展開してきた「KYOTO NIPPON FESTIVAL」が10周年を迎えるアニバーサリーイヤーに、唯一無二の体験を実現する。結成30周年を迎え、日本のイマーシブシアターを牽引するダンスカンパニーDAZZLEの本公演にかける想いや制作過程、イマーシブシアターの楽しみ方や表現者としての考えについて、DAZZLE主宰の長谷川達也、飯塚浩一郎に訊いた。

DAZZLE

——冒頭に、ダンスカンパニーDAZZLEのこれまでの活動について自己紹介も兼ねて、お話を伺えればと思います。

長谷川:DAZZLEは1996年に結成したダンスカンパニーで、今年で30周年を迎えます。「すべてのカテゴリーに属し、属さない眩さ」をスローガンに掲げ、ストリートダンスとコンテンポラリーダンスを融合させた独自のスタイルを追求してきました。映画やコミック、ゲームなどジャパニーズカルチャーの要素も取り入れながら、物語性のある作品を創作しています。

また、ダンスが好きな人だけではなく、より多くの方に楽しんでもらえる「開かれたダンス」を目指して活動してきました。演劇祭での受賞や海外公演などを重ねながら表現の幅を広げ、2017年以降はイマーシブシアターにも力を入れ、ビル一棟から船上まで、様々な体験型作品を発表しています。

——結成当時は、ダンスを取り巻く環境も、今とはだいぶ違っていたのではないでしょうか。

長谷川:ダンスが職業として認められていない時代でしたが、だからこそ挑戦しがいがあったし、ダンスが芸術やエンターテインメントとして優れているものになり得る可能性を感じていたので、どうにか証明したいという思いで、DAZZLEを通じて表現してきました。

飯塚:ストリートダンスから始まり、コンテストへ出場し、ある程度自分たちなりに極めたかなというところで、そこから先って何があるんだろうと考えた時に、舞台に軸足を移していきました。そこから海外の演劇祭へ招聘されたり、様々な場所で海外の方と交流する中で、海外のクリエイターが日本の作品をひとつも知らないことに直面しまして…。

——なかなかショックですね。

飯塚:そうなんです。その一方で僕たちは『オペラ座の怪人』や『キャッツ』、『レ・ミゼラブル』を知っている。そこの違いはなんだろうと。そう考えた時に、ひとつ大きいのは常設の劇場があるかどうかということ。ニューヨークなら『キャッツ』、ロンドンなら『レ・ミゼラブル』というような。その街のシンボルになり、何十年も上演されているものがある。それが世界中に作品が広がっていくことに繋がっていくんだろうなと感じる中で、10年くらい前にイマーシブシアターに出会いました。これならDAZZLEが東京で常設し得るんじゃないかと思い立ち、2017年から挑戦し始めて、5年ほど前から、常設の公演ができるようになりました。

——常設の場所がない問題はよく耳にするお話です。

飯塚:シビウ演劇祭に参加した際に、ルーマニアの演出家、シルヴィウ・プルカレーテさんにも、日本ではすごい作品をたくさんやっているのに劇場を持っていないと驚かれました。新潟ではNoismさんという日本初の公共劇場専属舞踊団があるのですが、そこが唯一劇場を持っていて。日本では劇場を持つことが難しいとずっと言われていますが、イマーシブシアターによって僕たちが実現できるようになったのは、ダンス業界、舞台業界にとってここ数年のかなり大きな変化なのかなと思っています。

イマーシブシアター「花宵の大茶会」より

——イマーシブシアターは最近よく耳にしますし、実際に足を運んだこともありますが、適切な楽しみ方をしているのか、まだまだ不安なところがあります。イマーシブシアターについていろいろと教えていただきたいです。

長谷川:イマーシブシアターの場合は、空間全体がパフォーマンス空間になっているので、観客が観たいところを自由に回遊しながら物語を観ることができます。ステージ上のパフォーマンスを観る場合は、袖にはけてしまった人の人生はもう追えないけれど、イマーシブシアターの場合は、上演中ずっとその空間に存在し続けます。空間の中で生き続けるキャラクターの中から、誰を選んで観るのか。自分の意思で決めるのが、イマーシブシアターです。その選択によって物語の解釈がまるで変わってくるし、観客一人ひとりの観る世界が変わってくるので、それぞれが違った物語を生きることになる。そこがイマーシブシアターの大きな魅力の一つかなと思います。

——1人にフィーチャーして、他の人物を観ない(観ることができない)という楽しみ方でも構わないのですね。

長谷川:見落としても構いません。自由度がすごく高いので、ひとつの場所にとどまって、行き来する人々を観るという楽しみ方もできるし、1人の出演者をずっと追い続けることもできます。観客自身も観られていたりしますし…。

——観る側が実は観られているというのは、ちょっと恥ずかしい気もしますが(笑)。楽しみ方が見えてきた気がします。

長谷川:常設公演により雇用を生むことができたのもイマーシブシアターの意義だと思っています。インストラクターやバックダンサーなどダンスに関わる職業はいろいろあって、どれも素晴らしい仕事ですが、自分たちダンサーが主役になってパフォーマンスできる場所を作りたかった。そういう場所ができたことは心からうれしく思います。

——DAZZLEさんの功績ですね。そして今回はあの北野天満宮でのイマーシブシアター公演です。

飯塚:今年10周年を迎える「KYOTO NIPPON FESTIVAL」のプロデューサーから、今回はよりアート的に進化させたいということで声をかけていただきました。イマーシブシアターは空間がすごく重要です。空間が魅力的かどうか、かつどのような意味を持っているのかが大事。これまでも廃病院や船の上など、ちょっと特殊な場所のほうが面白い作品が作れると感じていましたが、北野天満宮はその最たる場所。普通はパフォーマンスの場としては使えないですし、ものすごく特別な体験になるのかなと、今から僕たちもとても楽しみです。

イマーシブシアター「花宵の大茶会」より

——先ほどのお話にもありましたが、世界へ発信するにはいいキーワードですね。最近、歴史的な建物でのイベント開催なども増えている印象もあります。

飯塚:確かにそうですね。10年くらい前から"インバウンド"と言われ始め、ユニークベニューと言われる特別な場所でコンテンツを作っていくことを国が推進していて、僕たちも様々な企業からお声がけいただいてきました。水族館で踊ったこともあります。いろいろ挑戦してきましたが、日本には魅力的な場所がたくさんあるので、東京以外の場所でもできたらいいなと思っています。僕たちの作品は場所に合わせて脚本を作っていくので、今回も菅原道真公の“気配”のようなものが感じられる作品になっています。この場所だからこの脚本という世界観の作品が作れるのは、イマーシブシアターの魅力だと思います。

——海外の方が日本で体験する。まさに、世界に発信するのにふさわしい流れです。菅原道真公の“気配”というお話もありましたが、今回は「北野大茶湯」の幻の2日目があったなら…をテーマにした「花宵の大茶会」の物語です。どういう経緯でこの物語に辿り着いたのでしょうか。

長谷川:豊臣秀吉公がまさにあの場所で大茶会を開いたところが原点です。秀吉公が愛した権威や象徴、豪華絢爛な世界は蜷川実花さんが作るインスタレーションや美術の世界に通じるものがあると感じました。一方で、日本の文化の中には侘び寂びのような静かな美意識もあります。その対照的な価値観が同じ場所で交差したという歴史に惹かれました。芸術の見せ方としても、北野天満宮という特別な空間で体験するところに意義があると思い、そこから「幻の二日目があったなら」と着想して、「花宵の大茶会」の物語に繋がっていきました。

飯塚:北野天満宮には秀吉公がお茶を点てた時に使った井戸があります。京都はタイムカプセル的なところがあり、歴史上の人物を感じられる場所。東京で同じ設定をやっても、もちろんそれはそれでちゃんと作品にはなりますが、あの山の風景を出雲阿国も見たのかな…など、そういう感慨みたいなものを感じられるという点では、やっぱり特別な場所なのかなと思います。

イマーシブシアター「花宵の大茶会」より

——京都はふらりと訪れた神社などでも「あの人がこの砂を踏んだのかな、ここを歩いたのかな」と思ったりする特別な何かがありますよね。蜷川さんとのお仕事はいかがでしたか?

飯塚:蜷川さんのインスタレーションは今までいくつか拝見していました。あの世とこの世のはざまを描いたような、花が咲き枯れていくという滅びる過程をアートに昇華されていて、とても美しいです。時間の中で薄れていったり滅びていったりするものの欠片みたいなものを感じさせる表現は、今回の作品の要素として入っています。ダンスは身体とともにあり、活動してきた30年の中で、否応なく変化を感じます。過ぎゆく時間の儚さに美しさを見出す感覚は蜷川さんとの親和性があると感じました。

長谷川: DAZZLEのメンバーはみんな男性なので、僕や飯塚が脚本を書いて作り上げてきた物語はやっぱり男性の視点で。僕たちが創造する物語と、蜷川さんが考える物語...特に人物の内面と外面と、その捉え方の違いが興味深かったです。蜷川さんの深い洞察力と美意識に触れて、僕自身すごく目を開かされるような体験でした。蜷川さんの視点により物語が多層的になったと感じています。

DAZZLE 飯塚浩一郎

飯塚:イマーシブシアターはロンドンから始まってニューヨークで花開きましたが、歴史的には20年程度。まだまだ黎明期のアートフォームです。そんな中で、メジャーなアーティストである蜷川さんがイマーシブシアターをやることには大きな意味があると感じています。蜷川さんはDAZZLEのイマーシブ作品にとどまらず、世界中のイマーシブシアターをご覧になっていて、自分が出会ってきた著名なアーティストの中でも稀有な方だと思います。イマーシブシアターに可能性を感じ、かつ大きな影響力を持って広げていこうと思っている方がこの作品に参加していることにはすごく大きな意義がある、と日本で0からスタートして8年ほど続けてきた身として感じているところです。これからはイマーシブシアターを作る、出演することに誇りを持ってもらえることが大事だとも思っているので、挑戦的なクリエイティブとして世の中に広がっていくのを、蜷川さんがいることでより感じてもらえると期待しています。

——クリエイティブチームのEiMのみなさんとのやりとりも、刺激があったのではないかと思います。

長谷川:皆さんアートに詳しく、圧倒的な美の世界観を生み出しています。視覚情報としてのパワーがとてつもない。そこは作品の見どころにもなっているのは間違いありません。そういった空間の中で踊れることがまず光栄だし、自分たちが身体表現としてどう融合できるのか。ものすごい挑戦でもあり、楽しみでもあります。

飯塚:宮田裕章さんは大阪・関西万博のパビリオンのプロデューサーで、僕らとは全く違う視点で作品を捉えています。今の世の中におけるこの作品、DAZZLE、そして蜷川さんの意味や文脈みたいなことをすごく考えてくださっていると思います。作品がどうやって世の中に受け入れられていくのかとか、作品自体にどういう意味があるのかみたいなことをものすごく掘り下げています。その作品に対する思考の蓄積があるからこそ、観たときにも奥行きの深さや強さを感じるし、深く見ようとすればものすごく深い所まで潜って行けるような設計になっています。

——DAZZLEとしての見せ場を教えていただけますか。

DAZZLE 長谷川達也

長谷川:歴史上の人物たちの影を演じる中で、ご覧いただく観客のみなさんの思い描く人物像に沿っているのかという難しさと、本来出会うはずのない異なる時代の傑物たちが出会った時に、一体何が起こるのか、どんな感情を抱くのかの面白さもあります。描きたい最大のテーマは、偉人たちの功績や歴史の再構築ではなく、その人物たちが抱いていたであろう欲望だとか孤独だとか、そういった感情に寄り添うこと。歴史を知っていたら楽しめるレイヤーは多いとは思いますが、知らなくても身体表現の持つエネルギーや、感情の揺らぎのようなものをものすごく間近で体験できるのが面白いポイントです。登場人物のモデルは1000年以上前に生きていた人たちだけど、今を生きる人たちの感情に繋がる作品になっているので、体験としてはものすごく面白くなると思います。

飯塚:イマーシブシアターの魅力は五感で体感できるところ。今回、香りは各所で感じていただけると思いますし、味はプレミアでのお茶会で楽しめます。一般的な舞台では体験できないようなことを、身体性を伴った感覚で作品を捉えることができるのが、すごく魅力的なところです。作品を観たうえで、北野天満宮の空気を感じて、参拝することの意味合いみたいなものもちょっと変わったりするのかなと想像しています。普段は感じない歴史的な繋がりを、作品を通じて感じることで、お客様もその後の人生の様々な局面で見え方が変わったりすることもあるのかなと、僕たち自身も作品を観て感じています。

イマーシブシアター「花宵の大茶会」より

——今回の公演はDAZZLEさんの活動としてもひとつ大きなポイントになるのかと想像しています。今後の活動でやりたいこと、そしてSPICE読者へのメッセージをお願いします!

長谷川:どんな形でもいいので、不朽の名作と言われるような、人の心にずっと残っていくような作品をDAZZLEとして作りたいと思います。

飯塚:歴史に残る名作は、つまり消費されないような強度を持っているということだと思います。自分たちのダンス、身体性はもちろん、新しい視点や芸術性を持った作品を作っていきたいと思います。

長谷川:あとはやっぱり生の魅力を体験してほしいという気持ちがあります。動物図鑑を見るのか、動物園に行くのかの違いというのか。もちろん図鑑を見るのも楽しいのですが、肌触りもニオイも、どういう動きをするのかも分からない。実際に動物園で見ることで記憶に残ったりしますよね。そういった経験が人生を豊かにするもののひとつになるのではないかなと感じています。ダンスにもイマーシブシアターにもその魅力があるので、ぜひ、体験しに来てください。

飯塚:国籍、人種、文化の文脈を超えても伝わる熱量は、僕たち自身が経験して味わってきたこと。イマーシブシアターにはゼロ距離で感じる、近さゆえ伝わってしまう熱量があります。仮に物語に分からない部分があっても、蜷川さんのアートなども含めて、何かしら受け止められる作品、空間になっています。考えて理解する面白さだけでなく、問答無用に身体と心で感じられることがたくさんあると思います。イマーシブシアターが初めてという方も、ぜひ一歩踏み出していただければと思います。

蜷川実花、宮田裕章とDAZZLE

取材・文=タナカシノブ

公演情報

『KYOTO NIPPON FESTIVAL 2026 -時をこえ、華ひらく庭-』

日程:2026年2月1日(日)~5月24日(日)
時間:9:00開場/20:30閉門 (20:00最終受付)
・インスタレーション「光と花の庭」「残照」2026年2月1日(日)~ 5月24日(日)
※休苑日あり
・イマーシブシアター「花宵の大茶会」2026年3月20日(金・祝)開始予定~ 5月24日(日)※休演日あり
※イマーシブシアター「花宵の大茶会」 公演時間:約70分予定
 
場所:北野天満宮
アクセス:京都駅から市バス50系統または、JR嵯峨野線「円町」駅から市バス203系統「北野天満宮」下車すぐ
主催:KYOTO NIPPON FESTIVAL実行委員会
企画/制作/運営:株式会社ソニー・ミュージックソリューションズ
協賛:株式会社JTB/株式会社イープラス
後援:京都府/公益社団法人京都府観光連盟/京都市/公益社団法人京都市観光協会/
公益財団法人京都伝統伎芸振興財団(おおきに財団)
ホームページ https://kyoto-nippon-festival.com/