蜷川実花、北野天満宮でイマーシブシアターに初挑戦ーー五感で没入、何度でも“おかわり”したいセリフなしの物語『花宵の大茶会』

2026.4.13
レポート
舞台
アート

『花宵の大茶会』 撮影=浜村晴奈

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KYOTO NIPPON FESTIVAL 2026 -時をこえ、華ひらく庭-  イマーシブシアター 花宵の大茶会
2026.3.20(FRI)~5.24(SUN)京都・北野天満宮

京都・北野天満宮で開催中の、アーティストの蜷川実花with EiMが手掛ける『KYOTO NIPPON FESTIVAL 2026 -時をこえ、華ひらく庭-』で、ダンスカンパニーDAZZLEと蜷川、クリエイティブチームEiMがタッグを組んだ初のイマーシブシアター『花宵の大茶会』が3月20日(金)から上演されている。

「光と花の庭」(インスタレーションレポートより)

命の循環を表現する「残照」(インスタレーションレポートより)

同イベントでは、2月1日(日)から雪月花の三庭苑・梅苑での「光と花の庭」と御土居 梅交軒での「残照」の2つのアートインスタレーションが公開。展示の模様はSPICEでのレポートを参照してもらいたい。(https://spice.eplus.jp/articles/343945)

5月24日(日)までイマーシブシアター『花宵の大茶会』も上演。イマーシブシアター(イマーシブ公演)とは、観客が客席から舞台を観る従来の形式とは異なり、物語の空間そのものに入り込む演劇形式のことだ。特徴は「観客が空間を自由に歩き回る(回遊型)」「誰を追うかで体験が変わる」「同じ公演でも観客ごとに異なる物語になる」という点にある。従来の観劇が“観る体験”であるのに対し、イマーシブシアターは“物語に入り込む体験”ができる。今回は、イマーシブシアター初体験となる筆者が内覧会に参加。来場前の準備を含め、その全体像をレポートする。

■観客が“物語の当事者”となる新たな舞台体験

今回の公演は、日本のアートシーンに新たな潮流を生み出してきた蜷川がイマーシブシアターに挑戦する初の試みであり、同ジャンルの“メジャー化”も目指している。舞台美術はクリエイティブチームEiM、コンセプトメイキングや脚本は宮田裕章、蜷川、DAZZLEが共同制作。ストーリーはセリフを用いないノンバーバル形式で進行する。舞台となるのは演劇のために作られた空間ではなく、歴史そのものが息づく北野天満宮で、登場人物も同所にゆかりのある存在で構成されている。

物語は、約400年前に豊臣秀吉が催した伝説の茶会をモチーフにしたもの。史実には存在しない“幻の二日目”が描かれ、観客は招かれた客人となり、声なき物語を目撃する。登場人物は、傲慢(豊臣秀吉の影)、嫉妬(紫式部の影)、虚無(清少納言の影)、偽り(出雲阿国の影)、疑念(土方歳三の影)、羞恥(藤原時平の影)、梅の祈り人(菅原道真の気配)、風の案内人の8名。

鑑賞に際しては、注意したいのが服装だ。没入感を高めるため、暗色の服装を推奨している。また、会場内は靴を脱いで入るため、靴下やタイツの着用も忘れずに。公演時間は約70分で、会場内にはトイレがないため、事前に済ませておこう。

北野天満宮に着いたら、本殿右手にある「風月殿」へ向かう。受付でを提示したら、スマートフォン以外の手荷物をロッカーに預ける。公演中は撮影不可だが、終演後にはフォトスポットで撮影ができるので忘れないようにしたい。

受付ではまずおみくじを引き、その結果に基づいたおみくじとマスクを渡される。おみくじのQRコードからSNSでも自由に使える蜷川実花が撮影した写真や動画がもらえるので終演後にぜひ、忘れないように。4つのグループに分かれて入場、キャストからも視認されるため、受付で渡されたステッカーは目印として左胸に貼る。「マスク」は没入感を高める重要なアイテムなので必ず目元に着用を。そして開演前にパンフレットを一読しておきたい。物語の内容や登場人物を知っておくことで、より深い没入体験が得られるはずだ。

準備が整ったら、受付の案内で風月殿の中へ。ここからは私語厳禁。まずは本編に入る前に、プロローグ映像を鑑賞する。本公演で唯一セリフがあるナレーションに注目したい。声を担当するのは声優・俳優の津田健次郎。物語のあらすじや登場人物を、声と映像で立ち上げていく。

プロローグが終わると扉が開き、そこからイマーシブシアター『花宵の大茶会』の世界が一気に広がっていく。目の前に現れるのは、クリエイティブチームEiMが手掛けた華やかな舞台美術の数々を背景に登場する、歴史上の人物である6つの影。極彩色の世界が絢爛豪華に咲き誇り、歴史ある風月殿の空間を鮮やかに染め上げている。

プレミアムの観客は“茶会に招かれた客人”として登場人物とともに茶会に参加する。席に座ると、「傲慢」や「嫉妬」たちが目の前はもちろん、真横や背後からも現れ、圧倒的な身体表現で観客の視線を奪っていく。彼らは観客の周囲を妖艶に舞い、時に観客を巻き込みながらライブ感あふれる物語を展開する。言葉がなくとも、身体の動き、視線、息遣い、衣擦れといった細やかな表現が重なり、ストーリーが驚くほど自然に頭の中へ入り込んでくる。

その後、観客は登場人物それぞれの部屋や空間へ案内される。そこで描かれるのは、登場人物に付された「感情」の揺らぎだ。歴史上の人物の“影”として登場する彼らだが、その影が背負う感情が手に取るように伝わってくる。筆者は「傲慢」のすぐ横に座ったことで、豊臣秀吉の“傲慢”が全身から立ち上がるような一挙手一投足に翻弄された。演技経験がなくても問題はない。気づけば観客全員が物語の1ページに加わり、深い没入感の中で物語を味わっている。

観客が自由に動ける時間は、登場人物のパフォーマンスや衣装をもっと近くで見たい、空間を彩る舞台美術をじっくり堪能したい、登場人物に付された感情をさらに掘り下げたい——理由は何でもいい。気になる登場人物を追いかけて歩くことで、観客それぞれが異なる感情や物語を受け取ることができる。

全編を通じてセリフは用いられないが、登場人物たちが抱く感情に愛おしさが増したり、自分にはない感情に寄り添えたりと、観客ごとに異なる発見や没入感、そして独自のストーリーが立ち上がる。そして何より、蜷川実花が描くアートの美しさに圧倒される。1度の公演でも十分な満足感があるが、一度では全容を把握しきれず「わからない」ことすら正解なのがイマーシブ公演のおもしろいところ。「次はあの登場人物をもっと深く見たい」「あの舞台美術をもっと近くで観たい」と、何度でも“おかわり”したくなる。これまでにない新しいイマーシブシアターを、ぜひ体験してほしい。

■体験を通して完成する、参加型の物語世界

(手前左から)ダンスカンパニーDAZZLEの飯塚浩一郎、蜷川実花、宮田裕章(提供写真)

3月18日(水)に開かれた内覧会、およびメディア・関係者向け発表会には、蜷川、宮田裕章、ダンスカンパニー「DAZZLE」主宰の飯塚浩一郎が登壇した。近年関心が高まるイマーシブシアターについて、宮田は「インターネットや生成AIの進展により視覚情報はどこでも得られる時代になったからこそ、五感で味わう体験の価値が高まっている」と指摘。「観客と演者の境界を取り払い、身体ごと物語に入り込むことで、初めて立ち上がる物語があるはず」と語り、体験の重要性を強調した。

アートインスタレーションを数多く手がけてきた蜷川にとって、『花宵の大茶会』は初のイマーシブ公演となる。これまでの個展でも没入感を意識していたが「今回は“物語がある”。観客自身が登場人物として空間を回遊することで、没入体験につながる」と説明。「イマーシブ公演はずっとやってみたかったもので、長年の夢がようやく叶った」と喜びを語った。

出演する飯塚は、会場となる北野天満宮について「建築そのものが作品空間となり、観客はその中に入り作品を体験する」と述べ、「演者もまたその空間に生きることで、表現に高揚感が生まれる」と語った。華やかな美術や景観と身体表現が相互に作用し、「“ただの美術”を超え、奥行きを感じてもらえるはず」と手応えを示した。

最後に3人は、「各分野のアーティストが100%を超える力で、一切妥協せずに作り上げている。このイマーシブ公演で最も大事なのは“観客の存在”。さまざまなものを感じてもらい、最後に本殿に手を合わせることで、北野天満宮という場所で体験が一つの形になる。ぜひ一緒にこの物語を作ってほしい」と来場を呼びかけた。

取材・文=黒田奈保子 撮影=浜村晴奈

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公演情報

『KYOTO NIPPON FESTIVAL 2026 -時をこえ、華ひらく庭-』
日程:2026年2月1日(日)~5月24日(日)
時間:9:00開場/20:30閉門 (20:00最終受付)
・インスタレーション「光と花の庭」「残照」2026年2月1日(日)~ 5月24日(日)※休苑日あり
・イマーシブシアター「花宵の大茶会」2026年3月20日(金・祝)~ 5月24日(日)※休演日あり
※イマーシブシアター「花宵の大茶会」 公演時間:約70分予定
 
■2026年4月1日~4月30日
月曜日⇨11:30、14:00、16:30
火曜日〜金曜日⇨14:00、16:30、19:00
土・日曜日、祝日、4/30⇨11:30、14:00、16:30、19:00
※休演日:4/8、4/16、4/25
■2026年5月1日~5月24日
11:30、14:00、16:30、19:00
※休演日:5/7、5/13、5/19
 
場所:北野天満宮
アクセス:京都駅から市バス50系統または、JR嵯峨野線「円町」駅から市バス203系統「北野天満宮」下車すぐ
主催:KYOTO NIPPON FESTIVAL実行委員会
企画/制作/運営:株式会社ソニー・ミュージックソリューションズ
協賛:株式会社JTB/株式会社イープラス
後援:京都府/公益社団法人京都府観光連盟/京都市/公益社団法人京都市観光協会/
公益財団法人京都伝統伎芸振興財団(おおきに財団)
ホームページ https://kyoto-nippon-festival.com/