「お笑いの‟中興の祖”は『M-1』」仏教マニアの笑い飯・哲夫が『妙心寺 禅の継承』爆笑ギャラリーツアー

2026.3.24
レポート
アート

千手観音坐像と哲夫

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興祖微妙大師六百五十年遠諱記念特別展『妙心寺 禅の継承』笑い飯・哲夫とめぐるギャラリーツアー  2026.3.5(THU)、大阪市立美術館

大阪市立美術館にて4月5日(日)まで開催中の『興祖微妙大師六百五十年遠諱記念特別展「妙心寺 禅の継承」』。ここに芸能界屈指の仏教、お寺好きとして有名なお笑いコンビ・笑い飯の哲夫が登場した。3月5日(木)、哲夫をスペシャルゲストに迎えたギャラリーツアーが行われ、展覧会担当の寺島典人学芸員と展示室をめぐりながら、選ばれしファン10名を前に仏像や宝物の見どころを熱く語り合った。その模様をレポートする。

■禅宗美術、桃山絵画の至宝が勢揃い

興祖微妙大師六百五十年遠諱記念特別展「妙心寺 禅の継承」

『妙心寺 禅の継承』は、臨済宗妙心寺派の大本山・妙心寺(京都市右京区)の第二祖である授翁宗弼(じゅおうそうひつ、1296~1380)の650年遠諱(おんき=50年に一度、故人の遺徳を偲ぶ節目)を記念して企画された展覧会。日本最大の禅寺である妙心寺の歴史や禅宗美術、桃山絵画などの至宝を通じて、現代に引き継がれた禅の系譜をみることができる。普段は非公開の天球院の襖絵など、国宝や重要文化財を含む貴重な展示物が一堂に会するとあって、2月の開幕以来、好評を博している。

寺島典人学芸員(左)と笑い飯・哲夫(右)

ゲストの哲夫は自他共に認める「仏教マニア」。仏教に関する著書を上梓し、仏教関連のイベントに出演、ラジオ番組『笑い飯 哲夫のサタデー・ナイト仏教』(FM大阪で毎週土曜24:15~24:30に放送中)を担当するなど、仏教に深い造詣を持つ。大阪市立美術館の中に入るのは今回が初めてだそうだ。

『妙心寺 禅の継承』展示室の様子

哲夫は寺島学芸員の説明を興味深く聞きながら、仏教にまつわる雑学やトークを披露。2人から飛び出す知識の広さと深さはさすがで、約100名の応募者の中から抽選で選ばれた10名のラッキーな一般参加客をうならせる場面もあった。

■貴重な文化財の数々に、大興奮の哲夫

重要文化財 狩野山楽 「龍虎図屏風」 桃山時代(17世紀) 妙心寺

まず最初に足を止めたのは、「妙心寺屏風」の異名を持つ大型の屏風の再現展示。妙心寺は、鎌倉時代の僧・関山慧玄(かんざんえげん)によって創始された禅寺で、現在も臨済宗最大級の寺院として知られている。江戸時代には、寺内で最も格式の高い建物である「大方丈(おおほうじょう)」において、開山忌(かいさんき/開祖・慧玄の命日に行われる法要)が執り行われていた。

この法要の際には、今回展示されている屏風のような“お宝中のお宝”ともいえる調度品によって空間が荘厳にしつらえられていたことがわかっている。さらにこの屏風は、大方丈の長押(なげし/柱と柱をつなぐ水平材)の高さに合わせて制作されているため、一般的な屏風よりも縦に約25センチ大きいという特徴を持つ。

このうち豪華絢爛な金屏風に龍と虎が向かい合う形で描かれた「龍虎図屏風」は、狩野山楽の筆によるもの。寺島学芸員は、中国には「虎が吠えると風が吹く、龍が吠えると雲が流れる」という古いことわざがあり、この屏風にも草が風にそよぐ様や、雲の出現が描かれていると説明。繊細な表現に目が奪われる。2匹の虎に2種類の柄が描かれている理由を哲夫が尋ねると、寺島学芸員は「当時は生きている虎が日本にいなかった。毛皮は輸入されていたので、それを見て描いたのでは。おそらくヒョウ柄は雌で、雄と雌の番で描かれていると思います」と回答。哲夫は「力強さがすごい」と興味津々だった。

授翁宗弼が記した「少水魚有楽(少水の魚に楽有り)」という言葉。一般的に仏教では「諸行無常=無常の人生に楽しみはない」と教えを説くが、授翁宗弼は「水たまりにいる魚でも楽しみがある。限りある命の中でも楽しみを見つけていきましょう」と解釈した。そんな授翁宗弼の坐像を手がけたのは、平安時代後期から室町時代に活躍した「院派」の仏師。彼らは南北朝時代に仏像における流行を生み出した、と寺島学芸員。「授翁宗弼坐像」には、肉厚の衣紋にその特徴が表れているとして、哲夫は「ほお〜」と感嘆していた。

重要文化財 「小型武具(豊臣棄丸所用)」 桃山時代(16世紀) 京都・妙心寺

その後も貴重な品々が続々登場。2歳で亡くなった豊臣秀吉の息子・棄丸の葬儀を妙心寺で行った縁によって伝わった鎧や武具の小ささに哲夫は「切ないですね」と心を痛めた。

ギャラリーツアーの様子

重要文化財 「銅鐘 IHS紋入」 桃山時代  天正5年(1577) 京都・春光院

またイエズス会の紋が入った「銅鐘 IHS 紋入」には「うわ〜!」と大興奮。寺島学芸員から「明治時代の廃仏毀釈で鐘が京都の仁和寺に逃げて、幕末にご縁のある妙心寺の春光院に戻った」という説明を受けて、「妙心寺さんは駆け込み寺的な存在だったんですね」と夢中になって眺めていた。

■参加者との交流で、哲夫が一句!

重要文化財 狩野山楽・山雪 「朝顔図襖」 江戸時代 寛永8年(1631) 京都・天球院

そして同展覧会の目玉の一つ「天球院の襖絵」へ。狩野山楽と婿養子・山雪が描いた金碧画の最高傑作だ。重要文化財で普段は非公開となっているが、今回は本物を、しかも天球院の再現展示で鑑賞することができる。最初に目に飛び込んでくる圧巻の「朝顔図襖」に、哲夫も「これはすごいですね」と感動。やまと絵のように優美で、画面に朝顔、雲、垣根が描かれていることから立体的に見えるという。

重要文化財 狩野山楽・山雪 「竹林猛虎図襖」  江戸時代 寛永8年(1631) 京都・天球院

「竹林猛虎図襖」の虎は、冒頭で見た「妙心寺屏風」の筋骨隆々の虎に比べ、猫のようにおとなしい虎。しかし毛並みはびっしりと描かれている。寺島学芸員は「桃山時代の山楽はゴージャスな作品、江戸初期の山雪は技を見せている」と時代による描かれ方の違いを述べた。虎が振り返っている姿勢について「上部に雲があるので、画面外に龍がいるのかもしれない」と寺島学芸員が言うと哲夫は、「なるほど、虎が龍を見てるかもしれないのか! いいな〜、想像力!」と楽しそう。

ここでは参加者からの「「竹林猛虎図襖」を見て一句」という無茶ぶりも飛び出した。しばし考えた哲夫は「たけのこだ 僕は食べない 肉食だ」と虎の気持ちになって一句詠み、大喝采を浴びていた。

「聖観音立像」平安時代(11世紀)大阪・梅松院

大阪・大仙寺の「聖観音立像」は、光背と台座も平安時代のものが使われている珍しい仏像。多くはパーツごとに時代や様式が異なるそうだ。寺島学芸員は「大阪の数々の戦乱をくぐり抜けて、ここまで綺麗に残っているのは珍しい」と述べる。平安時代の優しい顔立ちが、鎌倉時代になると厳しい顔つきになると、時代によっても仏像のお顔立ちが変化するという事実に驚かされる。仏像の代表的な造り方である「寄木造」で芯をくり抜くのは干割れを防ぐためという説明を受けた哲夫は、「キャベツも芯のとこくり抜いたら長持ちしますもんね」と返し、笑いを誘っていた。

「千手観音坐像」鎌倉時代後期~南北朝時代(14世紀)滋賀・妙感寺

最後の展示室では、滋賀県・妙感寺に伝わる「千手観音坐像」が、穏やかな微笑みで鎮座している。寺島学芸員は楽しそうに千手観音にまつわるトークを展開。頭上面の後ろの顔が笑っていることや、42本の腕が左右それぞれピースになって嵌め込まれており、搬入の際には腕をばらしたという驚きのエピソードが明かされた。つり上がった目、大きな頬は南北朝時代の院派の顔だが、時代の流行が出る衣紋が院派のものとは違うそうで、寺島学芸員は「謎です。研究者泣かせ」だと述べた。

50分のギャラリーツアーはあっという間に終了。哲夫は「先生のおかげで有意義に勉強させていただきました。奥を知ると作品の良さがより味わえるようになりますね」と満足げ。参加者も笑顔で「楽しかった」と2人に感想を伝えていた。

■哲夫も感心「こんなに奥ゆかしい文化財が」

仏教マニアの哲夫

報道陣向けの囲み取材で哲夫は「実は、一番最初に仏教講座をやらせてもらったのが京都の妙心寺さん。その時に雲龍図などを見せていただいたんですが、こんなに奥ゆかしい文化財がたくさん残ってるんだなと改めて実感しましたし、先生の解説によって、知識や着眼点を持って見ると、もっと面白くなるんやなと思いました」と同展の感想を述べた。

質疑応答で「禅宗は己の中にある」という禅の教えにちなみ、自分の信念を聞かれた哲夫は「(自分は)世界一面白い奴だな。それだけは思っています。あとは知恵を知るほど知らないことが増えるのが自分のモットー。「知らんなー」となるから謙虚になれる」と回答。

白隠慧鶴 「達磨像」 江戸時代(18世紀) 大分・萬壽

さらに、展示室で日本臨済宗中興の祖とされた白隠慧鶴の書画に興味を示していたことから「お笑い界の中興の祖は誰か」と聞かれ、長考の末に「『M-1』という存在が中興の祖かも。それまで漫才はおじさんがするものという印象があったんですよ。『M-1』ができて、漫才が年齢問わずにやるもの、楽しめるものに変わった。それは『M-1』のおかげ」と語っていた。

ミュージアムショップにはグッズも多数

同展には貴重な文化財が並ぶ。哲夫が言うように少し勉強してから行くのも一興、予備知識がなくても解説パネルがあるため安心だ。桃山文化の美しい屏風は、予備知識なしでも荘厳さに圧倒されること間違いなし。この機会に足を運んでほしい。

雲龍図ARを楽しむ哲夫

また、1階中央ホールに設置されたフォトパネルの雲竜図にスマホをかざすと、哲夫も大興奮だったAR体験ができる。大阪市立美術館にいながら妙心寺にいるかのような没入感を楽しめる企画なので、そちらもぜひお楽しみを。

取材・文=久保田瑛理 撮影=久保田瑛理、SPICE編集部

イベント情報

興祖微妙大師六百五十年遠諱記念特別展『妙心寺 禅の継承』
会 期:2026年2月7日(土)~4月5日(日)※展示替えあり
前期:2月7日(土)~3月8日(日)
後期:3月10日(火)~4月5日(日)
会 場:大阪市立美術館(大阪府大阪市天王寺区茶臼山町1-82 天王寺公園内)
開館時間:午前9時30分~午後5時(入館は閉館の30分前まで)
休 館 日 :月曜日
主 催:大阪市立美術館、臨済宗妙心寺派、日本経済新聞社、テレビ大阪
協 賛:オムロン、西鶴(さいかく)、野崎印刷紙業、非破壊検査、桃谷順天館
後 援:公益財団法人大阪観光局
特別協力:京都国立博物館
企画協力:浅野研究所
料金:一般2000円、高大生1300円、小中生500円、団体1800円、1100円、300円
※団体は20名以上。
※未就学児、障がい者手帳等をお持ちの方(介護者1名を含む)は無料(要証明)。
※障がい者手帳等は日本の法律に基づき交付されたものに限る。
※大阪市内在住の65歳以上の方も一般料金が必要。
※本展の観覧券で、企画展示(常設展)も観覧可能。
https://art.nikkei.com/myoshin-ji/