大阪松竹座で生まれた夢と笑いの“問題作”~松本幸四郎インタビュー『大當り伏見の富くじ』を『御名残四月大歌舞伎』で上演する思い

2026.4.7
インタビュー
舞台

松本幸四郎

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大正12年に建設され、大阪・道頓堀のシンボルとして親しまれてきた大阪松竹座が、老朽化のため2026年5月末に閉場する。4月からは2か月にわたり、「大阪松竹座さよなら公演」が行われる。松本幸四郎が出演するのは、4月3日(金)開幕の『御名残四月大歌舞伎』。「昼の部」では、『大當り伏見の富くじ』が上演される。脚本は齋藤雅文、演出は齋藤雅文と松本幸四郎。たくさんの笑いが詰め込まれた本作は、2012年の初演時には、開幕後の口コミでが札止めになる勢いを見せた。幸四郎の言葉を借りるなら、「ある意味で問題作」でもある。4月19日(日)のイープラス貸し切り公演に向けて、3月下旬に幸四郎に大阪松竹座の思い出、そして『大當り伏見の富くじ』(以下『伏見の富くじ』)への思いを聞いた。

■松竹座の思い出と、『伏見の富くじ』のはじまり

ーー「大阪松竹座さよなら公演」がはじまります。松竹座の思い出は?

何しろ色々な作品をやらせていただきました。大阪といえば、道頓堀にあった中座(1999年10月31日閉館)にもギリギリ間に合い、3回だけですが出演することができました。松竹座は、新築開場記念(1997年7月)の興行より出演させていただきました。通し狂言『怪談敷島譚』(2001年5月)は、復活上演という形ではじめて自分で創った作品となりました。三役早替りもこの時が初めてでしたね。その後も、多くの舞台に企画から関わる経験をさせていただきました。劇団☆新感線の『阿修羅城の瞳』『朧の森に棲む鬼』などでもお世話になり、一公演一公演に、濃い思い出がある劇場です。

松本幸四郎

ーー『大當り伏見の富くじ』も、まさに幸四郎さんが題材を選び、新作に近い形で上演した作品です。今回で再々演となりますが、全公演が松竹座で上演されてきました。

そうなんです。ある意味、問題作だから(笑)。

初演の2012年3月、東京・新橋演舞場では中村勘九郎さんの襲名披露興行がありました。話題がそちらに行くことが予想される中で、どれだけ中村屋のおじさま(十八世中村勘三郎)の気を引くことができるか。“気にさせられるか”が、自分なりの最初のテーマだったんです。

もともと上方歌舞伎に、『鳰(にお)の浮巣』という喜劇調の世話物があったことは知っていました。松竹新喜劇は、それをもとにした人情喜劇を上演しています。これをいつか歌舞伎に、と思っていたんです。そして、どんな手段を使ってでも笑ってもらえるお芝居にしよう、と作ったところ、結果として大問題作といわれるものになりました(笑)。

ーー御家再興、縁切りなど、歌舞伎らしい見どころに溢れる一方、笑いにふりきった“問題作”となりました。これを「さよなら公演」に選ばれたのには、どんな思いがあったのでしょうか?

選んだのは、松竹さんなんです。驚きますよね。想像もしていませんでしたから、お話をいただいた時は「本当にいいんですか?」と(笑)。同時に、数ある作品の中からこれを選んでいただいたことを、誇りにも思いました。

ーー幸四郎さんが演じるのは、紙屑屋幸次郎です。当て書きのような名前ですが、古典のままの役名だそうですね。ヒロインの鳰照(におてる)太夫に中村鴈治郎さん、妹お絹に中村壱太郎さん。また、上村吉弥さん、上村吉太朗さん、澤村宗之助さんも、初演、再演につづくご出演です。

中村歌六さん、中村獅童さんには、初演ぶりに同じ役でご出演いただきます。片岡進之介さんにもぜひご出演いただきたく、神官の役をお願いしました。鴈治郎さんは、拵えを少し変えたいとおっしゃっていました。獅童さんには今回、目と眉の化粧を、YouTuberのブリアナ・ギガンテさんを参考にしていただきたいと思っています。まだ獅童さんご本人にお伝えしていないので​確定ではありませんが、演出家の目線で色々考えた上でのアイデアです。

松本幸四郎

ーーだいぶ奇抜な印象に! そうしたご工夫の積み重ねが“問題作”と言われるほどの笑いにつながっているのですね。

ただ、決して「松竹座でやるから、大阪っぽい笑いの喜劇を」と創った喜劇ではありません。松竹新喜劇が好きな、東京生まれ東京育ちの僕が作るオリジナルのお芝居です。

ーー上方の歌舞伎や笑いに憧れつつも?

フランスに憧れながら、フランスとまったく関係ない日本人がつくったフランスベッドみたいなものですね。そのような感じで『伏見の富くじ』は、上方の笑いとか東京の笑いというよりも、「僕の笑い」です。

松竹新喜劇の、笑って笑っていつの間にか泣いてる。あのような芝居に憧れます。吉本新喜劇の一つひとつのネタの面白さ、チームワークで作る笑いへの憧れもあります。『欽ちゃんの仮装大賞』やドリフの笑いにも影響を受けた。見せ方として、八王子車人形を参考にした演出もある。「僕は、こういったものが好きです」と、ここまで好みを出した作品は、今のところ『伏見の富くじ』だけだと思っています。

ーー幸四郎さんにとっての、上方歌舞伎の魅力とは?

興味をもったきっかけは、歌舞伎座で観た『雁のたより』(1993年4月)でした。歌舞伎の中に、こんな世界があったのかと初めて知りました。上方にはどんな役者がいて、どんな芝居が埋もれているんだろうと興味を持って。

僕の感覚として、上方歌舞伎は、江戸歌舞伎よりも、役者本人の持ち味で成立している作品があると感じます。その魅力は、台本を読んだだけでは分からず、その役者が演じて初めて分かる魅力があると思っています。

■幸次郎という役、幸四郎という人

ーー再々演となる今回、あらためてこの作品のどこに力を入れたいですか。

「夢を持つことが、どれだけパワーになるか」。今回はそこをより強調していきたいです。

幸次郎は、今は紙屑屋でも「御家が再興されたら」と夢を思い描きます。鳰照太夫も、「いつか報われるんだ」と夢を持ち、たくさんのお客さんに喜んでもらえるよう、笑顔でお座敷に出て一所懸命生きています。富くじを買う行為そのものが、夢をみる行為でもありますよね。

ーー幸次郎という人物の原動力は、そこにあるのですね。

幸次郎は、抜けているところがあり、基本的にアホなんです(笑)。でも、いい気になって失敗するタイプではない。その時々を一所懸命生き、常に笑ってる。おちぶれても紙屑屋の仕事を一所懸命やっているから、店が潰れる前からの友人とも関係が続いているし、紙屑屋仲間もいる。妹のお絹は誰よりも怒ってくれるし、何がどうなっても味方でいてくれるのだと思います。

松本幸四郎

ーー一所懸命で“腐らない”幸次郎の生き方に、ご自身と重なる部分もあるのでは?

むしろ真逆ですね。“腐らない”は、自分にないものだと思っています。

ーー幸四郎さんも、くさくさした気分になることが?

常に、安定して(笑)。舞台に立つときは、「今日はこれしかできません! これが今日お見せできる全てです!」と開き直って全てを出し切りますが、舞台から下りれば、またくさくさします。

ーー歌舞伎以外の生活の場合ではいかがでしょうか。

僕から歌舞伎をとったら、それこそ何もなくなりますよ? 2月と3月は久しぶりに2ヶ月​続けて舞台がなかったのですが、染五郎に教えにいった時、自分はもう歌舞伎を引退した人間であるかのような、不思議な感覚になったりもして。

ーーではこの2ヶ月を、どのように過ごされたのでしょうか。

ほとんど廃人のように(笑)。2日に1回はジムに行き、録画していた番組をみて。最近は唐十郎さんの劇団唐組のドキュメンタリーをみました。YouTubeで見たのは何だったかな。

ーーできましたら視聴歴以外で(笑)、なにか残るできごとはありましたか?

映像の仕事の都合で、本当は切ってはいけない時に、手軽に行けるヘアカット専門店で散髪してしまい、メイクさんに相談したことですかね。あとは……(少し考え、急に思い出した表情で)実家の近くに昔からあった雑居ビルが、取り壊されていました。「あ、更地になってる!」って、ものすごくびっくりしました。

歌舞伎の舞台がある月の方が、くさくさはしても日々のリズムはできますよね。今は、4月の舞台が見えてきたのでもう廃人ではありません!

松本幸四郎

■あらためて「さよなら公演」に向けて

ーー昼の部で『伏見の富くじ』に出演された後、夜の部で、義太夫狂言の名作『菅原伝授手習鑑 寺子屋』に出演されます。その振り幅も楽しみです。

松王丸も武部源蔵も、高麗屋が代々大事にしている役です。Aプロでは、松嶋屋のおじさま(片岡仁左衛門)の松王丸に、僕の源蔵。御園座改装中に日本特殊陶業市民会館(ビレッジホール)でやらせていただいた時、非常に強い緊迫感を感じました。あの感覚をしっかりと思い出して勤めたいです。Bプロでは、僕の松王丸で中村隼人君が源蔵を勤めます。この芝居は、源蔵が芝居を作っていく部分も大きいので、AとBでは、衣裳だけでなく芝居の捉え方の違いなども、ぜひ見比べて楽しんでいただければと思います。

ーーイープラス貸し切り公演は、4月19日(日)の「昼の部」です。楽しみにしています。

『伏見の富くじ』上演時間の約100分は、舞台に出ている人も、観ている人も、全員がずっと笑っている時間にしたいです。『伏見の富くじ』から『寺子屋』まで1時間もないと思います。『伏見の富くじ』の最中に、松嶋屋のおじさまも楽屋入りされる可能性があり、それは多少緊張します。ブリアナさんのメイクの獅童さんと、すれ違うこともあるかもしれませんよね(笑)。

ですが、やらせていただく以上は、とことんツッコんで。なにしろ今回は、松竹さんから頼まれてやらせていただく『伏見の富くじ』ですから。

ーー最後に、幸四郎さんが今、思い描く夢をお聞かせください。

4月の目標でもあるのですが、「来年、大阪のあそこで歌舞伎をやります」という話をとりつけることです。松竹座は「さよなら」ですが、「上方歌舞伎さよなら」ではありません。力を持つ上方の役者さんがたくさんいて、歌舞伎を観るお客さんの熱もある。だったら、来年もどこかで歌舞伎をやりましょう、と思っています!

松本幸四郎さんにイープラスポーズをしていただきました!

取材・文=塚田史香   撮影=福岡諒祠

公演情報

大阪松竹座さよなら公演
『御名残四月大歌舞伎』
 
日程:2026年4月3日(金)~26日(日)
会場:大阪松竹座

昼の部 午前11時~
彦山権現誓助剱
一、毛谷村(けやむら)
 
毛谷村六助:中村獅童
微塵弾正実は京極内匠:中村隼人
弥三松:中村夏幹
杣斧右衛門:澤村精四郎
お幸:上村吉弥
お園:片岡孝太郎
 
 

坂田藤十郎七回忌追善狂言
今井豊茂 脚本
二、夕霧名残の正月(ゆうぎりなごりのしょうがつ)
由縁の月
 
藤屋伊左衛門:中村虎之介
扇屋夕霧:中村壱太郎
太鼓持鶴七:中村亀鶴
扇屋女房おふさ:中村扇雀
扇屋三郎兵衛:中村鴈治郎

 
「鳰の浮巣(におのうきす)」より
齋藤雅文 脚本・演出
松本幸四郎 演出

三、大當り伏見の富くじ(おおあたりふしみのとみくじ)
お稲荷様ご神託より霊験あらたか「抜け雀」まで
 
紙屑屋幸次郎:松本幸四郎
鳰照太夫:中村鴈治郎
黒住平馬:中村獅童
幸次郎妹お絹:中村壱太郎
喜助:大谷廣太郎
芳吉:中村虎之介
初音:上村吉太朗
信傳寺住職呑海:片岡松之助
島原の太夫千鳥:澤村宗之助
熊鷹のお爪:上村吉弥
伏見稲荷の神官:片岡進之介
信濃屋傳七:市川門之助
絵師雪舟斎:中村歌六
 
 
 
<イープラス貸切公演>
日程:2026年4月19日(日)昼の部
会場:大阪松竹座

【手数料0円】先着販売
受付期間:2026/2/21(土)12:00~2026/4/19(日)11:00
詳細・お申込みはこちらから
https://eplus.jp/shochikuza2604_kk/



 
イープラス貸切の広報担当「プラみちゃん」、X(旧Twitter)で最新情報発信中
関東の公演情報 @eplusplm_kanto
関⻄の公演情報 @eplusplm_kansai
九州の公演情報 @eplusplm_kyushu

公演情報

大阪松竹座さよなら公演
『御名残四月大歌舞伎』
 
日程:2026年4月3日(金)~26日(日)
会場:大阪松竹座
 
昼の部 午前11時~

彦山権現誓助剱
一、毛谷村(けやむら)
 
毛谷村六助:中村獅童
微塵弾正実は京極内匠:中村隼人
弥三松:中村夏幹
杣斧右衛門:澤村精四郎
お幸:上村吉弥
お園:片岡孝太郎
 
 

坂田藤十郎七回忌追善狂言
今井豊茂 脚本
二、夕霧名残の正月(ゆうぎりなごりのしょうがつ)
由縁の月
 
藤屋伊左衛門:中村虎之介
扇屋夕霧:中村壱太郎
太鼓持鶴七:中村亀鶴
扇屋女房おふさ:中村扇雀
扇屋三郎兵衛:中村鴈治郎

 
 
「鳰の浮巣(におのうきす)」より
齋藤雅文 脚本・演出
松本幸四郎 演出

三、大當り伏見の富くじ(おおあたりふしみのとみくじ)
お稲荷様ご神託より霊験あらたか「抜け雀」まで
 
紙屑屋幸次郎:松本幸四郎
鳰照太夫:中村鴈治郎
黒住平馬:中村獅童
幸次郎妹お絹:中村壱太郎
喜助:大谷廣太郎
芳吉:中村虎之介
初音:上村吉太朗
信傳寺住職呑海:片岡松之助
島原の太夫千鳥:澤村宗之助
熊鷹のお爪:上村吉弥
伏見稲荷の神官:片岡進之介
信濃屋傳七:市川門之助
絵師雪舟斎:中村歌六
 
 
夜の部 午後4時15分~
 

菅原伝授手習鑑
一、寺子屋(てらこや)
寺入りよりいろは送りまで
 
松王丸:片岡仁左衛門(Aプロ)
   :松本幸四郎(Bプロ)
松王女房千代:片岡孝太郎
武部源蔵:松本幸四郎(Aプロ)
    :中村隼人(Bプロ)
源蔵女房戸浪:中村壱太郎
小太郎:中村陽喜
涎くり与太郎:上村吉太朗
下男三助:片岡松之助
百姓吾作:松本錦吾
春藤玄蕃:中村亀鶴
御台園生の前:市川高麗蔵
 
 
二、五條橋(ごじょうばし)
 

武蔵坊弁慶:中村獅童
牛若丸:中村陽喜
 
 
坂田藤十郎七回忌追善狂言
心中天網島

三、玩辞楼十二曲の内 河庄(かわしょう)

紙屋治兵衛:中村鴈治郎(Aプロ)
     :中村扇雀(Bプロ)
紀の国屋小春:中村扇雀(Aプロ)
      :中村壱太郎(Bプロ)
江戸屋太兵衛:松本幸四郎
五貫屋善六:中村壱太郎(Aプロ)
     :中村亀鶴(Bプロ)
丁稚三五郎:中村虎之介
河内屋お庄:上村吉弥
粉屋孫右衛門:中村鴈治郎(Bプロ)
      :中村歌六(Aプロ)
 
 
 
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