小室哲哉が語る「35年目の真実」――音楽座ミュージカル『マドモアゼル・モーツァルト』18年ぶりの再演に寄せて
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小室哲哉 写真=山本春花
音楽の才能を持ちながらも、女性は音楽家になれない時代ゆえに、父親に男の子として育てられた少女エリーザ。彼女はヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトとして多くのセンセーショナルな音楽を生み出し成功を掴んでいくが、その突出した才能と、男として結婚したことから、まわりの人々の人生をも巻き込んでいってしまう……。
福山庸治の同名コミックスを原作に1991年に音楽座ミュージカルが初演し、節目節目に上演されてきた人気作が、音楽座ミュージカルとしては18年ぶりに再演される。本作の音楽を手がけたのは小室哲哉。今でこそミュージカルはエンタメの1コンテンツとして確立されているが、当時はまだ観劇人口も少ない時代。トップアーティストがミュージカルの音楽を書き下ろすというのは稀なことだった。小室はどんな思いで本作の音楽を手掛けたのか、当時どのような形でミュージカルの制作を進めたのか、そして2026年版に書き下ろす新曲は――。小室哲哉に話をきいた。
衝撃を受けた『シャボン玉とんだ』、そして謎に包まれたオファーの経緯
小室哲哉
――『マドモアゼル・モーツァルト』の初演は1991年。1991年と言えばTMN『EXPO』をリリースした年です。前年には音楽を担当された映画『天と地と』が公開され、翌年にはtrfが結成されるという、多方面から引っ張りだこの中でのミュージカル制作だったかと思います。オファーを受けどう思われたか、覚えていらっしゃいますか。
どういう経緯でオファーをいただいたのかちょっと記憶にないのですが、やることが決まってから『シャボン玉とんだ 宇宙(ソラ)までとんだ』を観に行ったんです。突飛なストーリーなのにも関わらず、すごく泣けて。これをオリジナルで作っているなんてすごい劇団が国内にあるんだ、と思ったのは覚えています。この時の主演が土居裕子さんで、彼女は圧倒的でした。『マドモアゼル・モーツァルト』も初演は土居さんが主演していたのですが、今思えば初演時の僕はミュージカルの作曲家としては本当にまだまだで、力のある演者さんに助けてもらったなと思っています。……でも本当に、なぜ僕に作曲のオファーをいただいたのか、今となってはわからないです(笑)。逆にこちらから当時のレコード会社にプレゼンしたのかもしれません。
――そんな可能性も!?
大いにあります(笑)。当時の僕の経歴では、ミュージカルの音楽を制作する要素はほぼゼロですから。音楽座ミュージカルの方が僕を手繰り寄せようと考える“糸”がないと思う……。『CAROL』というアルバムなどで、どなたかが「これ、ミュージカルっぽくない?」と言ってくださったりした可能性もありますが。
ロンドン留学で確信した、舞台音楽への情熱
小室哲哉
――『CAROL』はストーリー仕立てのアルバムですものね。そもそも小室さんの中でミュージカルとはどのような位置づけにありましたか。
もともとミュージカル映画が大好きなんです。1988年、89年頃にロンドンに音楽留学をさせてもらっていた時は、たくさんミュージカルを観ました。アンドリュー・ロイド=ウェバーが多かったですね。当時日本では光GENJIが人気だったけど、あれもきっとロイド=ウェバーの『スターライトエクスプレス』から(ともにローラースケートを履いてパフォーマンスする。なお光GENJIは『スターライトエクスプレス』来日公演のイメージソングを担当していた)。日本のクリエイターもみんなミュージカルを観てきているんだなと思いましたね。でも僕は最終的には『レ・ミゼラブル』の音楽の方が、自分の色には合っていました。
――その留学の頃から「ミュージカルを書いてみたい」というお気持ちはあったのですか?
そうですね。留学していた時に印象に残っているのは『Metropolis』というミュージカルで、これはあまり結果が出ずすぐに終わってしまったのですが、『The Who's Tommy』みたいな感じで「こういうタイプのものだったら僕もやれるかも」と思ったりしていました。『The Who's Tommy』のようなロックオペラに惹かれていたんです。もっと遡れば『ジーザス・クライスト=スーパースター』とか。
――ほかのメディアとは違う、ミュージカルならではの魅力とは。
やっぱり映画だと、ほぼ「監督の作品」という形になります。これについて異存があるわけではありませんし、監督の期待に応えて作る劇伴の面白さもちろんありますが、作品と音楽に明確な主従関係がある。ミュージカルはもう少し「持ちつ持たれつ」な感覚で、演出家、演者、音楽家、美術に照明に……とすべての皆さんがバランスを保ち、何が劣っても成立しないメディアだと感じています。ある意味、アーティスト活動に近いかな。オペラや映画、色々なことを見たりやったりする環境を経て、出た答えは「僕の性に合うのはミュージカルだ」というものだった、という気がします。
35年目に明かされる、アルバムと舞台の特殊な並走
小室哲哉
――具体的に、音楽座ミュージカルさんとはどのようなやり取りを経て、楽曲制作をされたのかが気になっています。どうやら、台本・詞を先に書いてそれに合わせて音楽を作る“詞先”、音楽を先に作りそこに詞を乗せる“曲先”といったような作り方ではなかったとか……?
劇伴の時は頭から順に1から50、60くらいまで番号が振ってあって、当たり前のように1曲ずつ作っていくのですが、この『マドモアゼル・モーツァルト』はそうではなかった。基本は、『マドモアゼル・モーツァルト』のキーワード的なものを……それが台本だったかスクリプトだったかは定かではないのですが、そういうものをいただき、僕は自分のアルバムを作っていく作業をやった、という作り方だったと思います。その過程の中の素材を、音楽座の皆さんが「このモチーフはこのシーンに使おう」「このフレーズは舞台のここに持っていけるのではないか」とピックアップしていくという、ちょっと変わった作り方をした記憶があります。最初に「モーツァルトの話なので、モーツァルトの音楽も使います」ということはお伝えした上で、「僕は僕で、頑張ってモーツァルトに追いつけるように頑張ります」と自分のアルバムを作り、いいなと思ってもらった部分を拾っていっていただいた。ミュージカルと僕のアルバムを、別軸の同時進行で作っていった、という感じです。
――そのアルバムが7月22日(水)に初アナログレコード化&リマスター版がリリースされる『マドモアゼル・モーツァルト』サウンドトラックですね。(オリジナルは1991年リリース)
そうです。ですので、稽古場にお邪魔した記憶もなく……もしかしたら「来てましたよ」と言われるかもしれませんが(笑)。でも皆さんが稽古場に集まっているところに譜面をお届けするというような、『グレイテスト・ショーマン』のワンシーンのような感動的な場面はなかったと思います。僕は『マドモアゼル・モーツァルト』という物語をモチーフにアルバムを作り「こんな曲ができました」と音楽座の方に聞いてもらっていった。ですから、実際に舞台を見せていただいた時に「ここでこの曲を使うんだ」「あの曲は使えなかったんだ」と、鑑賞するような気持ちで拝見した記憶があります。
――そうだったんですね。ちなみに初演当時のインタビュー記事を読むと「1週間で14・5曲を書いた」とあったのですが。
それ、覚えていないんですよ(笑)。と言うより、そんな早く書けていないと思います。絶対1ヵ月はかかったと思う(笑)。
――そうなんですか!?
1週間で作品にしなきゃいけないって、物理的に無理ですよ。しかもレコーディングを録って盤にするのは、2ヵ月弱かかるから。舞台のためだけにスコアを書いて渡すならもう少し短くできるけど、そういう作り方をしていませんでしたからね。(アルバムを完成させるのではなく)モチーフを作るくらいの作業を、1ヵ月くらいかけてやったというのが実際のところじゃないかなと思っています(笑)。
――35年目の真実ですね(笑)。この『マドモアゼル・モーツァルト』という物語の魅力というのはどういうところに感じていますか?
時代が新しくなればなるほど、とてもいい題材だと思います。初演当初はLGBTQという言葉も、ハラスメントという言葉も浸透していなかった時代。21世紀に入りもう26年になりますが、時代はどんどん、女性の抑圧や、社会の中での上下関係にビビッドになってきています。もちろん昔もそういう問題がなかったわけではありませんが、どんどん“説得力のあるテーマ”になっているように思います。
――主人公のエリーザは、女であることで、自分の才能を発揮できない環境にいる。クリエイターとして「環境のせいで自分の能力を発揮できない」というのは辛いことだと思いますが、小室さんはそういう面で共感できるところはありますか?
ありますよ。僕らの時代は……それ以前はさらにだったのでしょうが、やっぱり欧米優位社会で、アジア人として生まれた時点で格差があった。歯がゆい思いもしました。そういう面ではやはり共感します。
止まらない創作意欲と、世界展開へ向けた2026年版への期待
小室哲哉
――ありがとうございます。そして今回2026年の上演では、小室さんが新曲を書かれると伺っております。シカネーダーの登場シーンの楽曲が新しくなるそうですが、どんな思いを込めて作られましたか。
先ほども言ったのですが、僕はミュージカル映画が好きで、だから数年前に『グレイテスト・ショーマン』が成功した時はすごく嬉しかったし、「This Is Me」みたいな音楽が一番好きなんですよ。ああいう、作品の中の一番いいところで流れる曲を作りたいと思って書きました。『マドモアゼル・モーツァルト』の音楽を作ったのはもう30年以上前ですが、やっぱり当時の僕は音楽理論の稚拙さみたいなところはあった。僕は音楽学校を出ていませんので今も行き届いていないところはありますが、それでも様々な理論はずいぶん分かった上で今は作っています。初演時と比べると、僕の成長度合いは断然違うと思いますので、そこは楽しみにしてください。僕も作っていて、すごく楽しかったです。
――ミュージカルの作曲をしたことで、その後の小室さんの創作活動に何か影響はありましたでしょうか。
どうでしょう……。ただ、せっかく90年代に、みんなが知っている曲を生み出せたのは確かなので、オリジナルの自分の楽曲をテーマにしたミュージカルをずっとやってみたいと思っていました。
――カタログミュージカルを! たしかに、観たいです!
実際、劇団や演出家に僕からプレゼンしたことも何度もあるし、やらせてほしいという連絡を受けたことも実は何度もあります。その都度、すごく盛り上がるのですが、色々とクリアにしないと前に進まないことがあるようですね……。
――残念です……。いつか実現させてください。最後に改めて、2026年版『マドモアゼル・モーツァルト』への期待をお願いします。
今、様々なものがワールドワイドに展開していく時代になっています。『マドモアゼル・モーツァルト』もぜひ世界展開してほしいです。多言語で観られる作品になるといいなと思います。僕も劇場に観に行きたいと思っていますので、楽しみにしています。
取材・文=平野祥恵 写真=山本春花
公演情報
小室哲哉氏、35年ぶりの新曲|音楽座ミュージカル「マドモアゼル・モーツァルト」
音楽座ミュージカル『マドモアゼル・モーツァルト』
原作:福山庸治『マドモアゼル・モーツァルト』
演出:相川タロー・ワームホールプロジェクト
音楽:小室哲哉・高田 浩・山口琇也
脚本:横山由和・ワームホールプロジェクト
振付:KAORIalive
【ホームタウン公演】町田市民ホール
5月24日(日)
7月9日(木)〜11日(土)
7月16日(木)
7月14日(火)
7月19日(日)
7月24日(金)〜26日(日)
公演詳細はこちら:https://ongakuza-musical.com/works/mm