「楽しまなくても音楽をやっていいんじゃないか」梶浦由記がたどり着いた「音を楽しむためのマインドステップ」

19:00
インタビュー
アニメ/ゲーム

『Yuki Kajiura LIVE vol.#21 ~60 Songs~』より

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2026年も作曲家・梶浦由記の恒例となった『Yuki Kajiura LIVE』がやってくる。昨年、2025年は「~60 Songs~」と銘打たれ、集大成であり、区切りになるライブになった。そんな区切りを超え、どのような心境なのか。そして2026年の『Yuki Kajiura LIVE』のライブタイトル「〜precious pieces〜」にどのような想いが込められているのかを訊いた。

■作る私とライブをやる私は全然違う人間

――前回、2025年のツアー前にインタビュー(※昨年のインタビューは欄外にURLを掲載)をさせていただいた時、「ライブへの執着がでてきた」とおっしゃっていたのが印象的でした。改めて2026年のツアー『Yuki Kajiura LIVE vol.#22 〜precious pieces〜』が始まります。約1年が経ち、その想いは変わってきたりしているのでしょうか?

やはりライブってそんなに簡単にはできないじゃないですか。手間もかかるし、準備も時間がかかる。正直、作曲家として生きていくにはライブって別にやらなくていいものなんですよ。言ってしまえばライブをやると年間にできる(作曲の)仕事が2本ぐらい減ってしまうんです。作曲家としてやっていくためには、実はライブはやらない方がいいんじゃないか、って思ったこともあるんですが、じゃあなんでライブをやるんだろう?って毎年ライブの準備が始まるたびに考えていたんです。

――ライブと作曲家としての仕事とのバランスが難しいと。

私は仕事をしている中で、ずっと“音楽を楽しまないといけない”という強固なマイルールがあったんです。自分の好みとは少しだけ外れたところにあるな、という仕事でも、まず好きになるところを見つけて、精一杯愛して、「大好き!」と思いながらやらなければ、作品に対しても音楽に対しても失礼だろう、というマイルールをひたすら守りながら去年までやってきたんです。

それが60歳になり『Yuki Kajiura LIVE vol.#21 ~60 Songs~』をやったことで、思ったよりも一段落感があって、そろそろ「楽しまなくても音楽をやっていいんじゃないか」と。自分の中でそのルールを外したらどうなるだろう?って考えてみたんです。少しずつ年齢を重ねると、“好き”のエネルギーの総量がどんどん減ってくるのが分かるんですよね。忙しかろうと何だろうと「好きで楽しいんだから」だけで強引に自分を納得させることができた時期はもう過ぎたんだなと。

では自分にとってライブとは、と改めて考えた時に、みんなで音を奏でて、目の前に聴いてくれる方がいて、うなずいてくれて、目が合って、笑って、という、その場所が自分にとってどれほど大切なものであったのか、改めて気づけたと言うか。それは「音楽ってこういうものである」、まさに音楽の根源だと私が思っていたことそのもので、ただ“好き”を超えたところで、自分と音楽との関連性において、必要でありかけがえのないものになっていたんだなと改めて認識できたんです。そういう意味でやっぱり執着はでていますね。

『Yuki Kajiura LIVE vol.#21 ~60 Songs~』より

――ライブの重要性を改めて実感されたということですかね。

私はそんなに体力がある方ではないので、60歳になって、いろんなことを今まで通りはもう続けられないな、と感じたタイミングがあって。何かを削ぎ落としていかねばならない、じゃあ何を減らす?と考えた時に、作曲の仕事を優先するのであれば“ライブを減らす”という選択肢も当然でてくる。ただそうするとおそらくあっという間に行き詰まるなと。音楽に対してのモチベーションがもたなくなると思ったんです。これはライブを辞めるわけにはいかないと。なのでもっと切実なところで、これからのライブは“自分に必要なもの”として考えていかなきゃいけないんだなと思いました。

――それは音楽に対するモチベーションだけではなく、作曲に対するインスピレーションへの影響もあるのでしょうか?

音楽への欲の問題というか、最近「そろそろ無理できないな」と感じた時に、「じゃあ仕事としての音楽を辞めるか?」と悩んだりもしたんですが、やはりシンプルにまだ辞めたくなかったんです。
ならば「音楽の中で何を辞めたくないんだ?」と考えた時に、ライブだけでも嫌。作曲することもやりたい。作る私とライブをやる私は全然違う人間なので、その作る私とライブをする私が両方いて、今までいい感じにバランスを保っていたんだなということを、改めて実感したというか。

――梶浦さんの中でどこかバランスをとっていたんですね。

結局何が変わったかっていうと、現状維持ということなんですけど(笑)。でもまだライブや作曲もやりたい自分がこんなにあってよかったなって。今年のライブもまた新たに、切実に私自身に必要なものとして楽しめるんじゃないかなと思います。

――ご自身の体調とかも含め、考えて考えてライブに戻ってくるっていうのは、なんていうか素晴らしいですね。

“楽しいから”に頼るのを辞めようと思った時に、楽しくないことの方が多いかもしれないけど、それでも音楽をやりたいんだなってはっきり分かったので、2026年はいい年になると思います。

■『precious pieces』に込めた思い

――そして今回のライブタイトルは『precious pieces』です。“大切な断片”という意味かと思いますが、なぜこのタイトルにされたのでしょう?

piecesは“曲”とも取れるし、“一音一音”とも取れると思うので、一音一音、一曲一曲を大切にしていこうっていう感じですね。本当に当たり前のことなんですけど、去年は60曲やったのがすごく大変で(苦笑)。不用意にプロデューサーに「60歳になるから60曲やればいいんじゃないかな?」って言っちゃったんですけど、ライブで60曲やってみたら思ったより大変だった(笑)。

バンドメンバーの皆さんにも正直大変ですって、そろそろこういうのは勘弁してほしい(笑)、みたいなことをそっと言われたりして。そうだよなと。

――そんなことが(笑)。

丁寧に緻密にやるというのも面白いんですけど、去年のように片っ端からやるぞ!メニューを端から全部持ってこい!(笑)みたいなライブもすごく楽しいなと思ってやっていたんです。今年はその対局で、そんなに多くの曲はやらないけど、一つ一つの音、一曲一曲を大切に奏でましょうと。あと最近反省したのが、私は自分の曲を軽く扱うところがあって。なんていうのかな……自分の曲をあんまり好きじゃないんですよ。

『Yuki Kajiura LIVE vol.#21 ~60 Songs~』より

――ええっ!?

自分の曲を聴くと、どうしても反省点が気になってしまう。「このアレンジは未熟だった……」とか、曲を聴いた時に反省が先に立っちゃって、愛するまでいかないんです。だから実は私、自分のCDってほとんど聴かないんです。知り合いのミュージシャンの人たちの中には、自分のCDばかり聴いているっていう方もいらして、そういうのいいな、羨ましいなって思うんです。自分のCDを聴くと反省会になっちゃう。やっぱりどこかしら後悔というか「こういう可能性もあったんじゃないか?」みたいなのが残っていて、くよくよしてしまうんです。

――作られた楽曲を愛する前に反省がきてしまうのですね。びっくりしました。

この曲、すごく出来はいいんだけど、演奏もミックスも素晴らしいし……と思っても、「でもこれ、確か仕上がりが遅れて本当に迷惑かけちゃったな……」みたいな(笑)、色々なところに反省の落とし穴があって、自分の曲を楽しむというよりも反省会モードになってしまうんです。

――曲自体への反省点だけではなく、それ以外の締め切りとかも思い出してしまうんですね(笑)。

でも去年、お客さんを見ていて、こんなにみんなが楽しそうに聴いてくれるのに、私が「自分の曲なんて……っていうのは実はすごく失礼なことだったんじゃないか」と思って。

自分の曲をちゃんとプレシャスなものとして「これいい曲でしょ!」って堂々と愛して演奏しないとお客さんに申し訳ないなって。「私の曲すごくプレシャスなものだから聴いてね!」っていうのはすごく恥ずかしいんですけど、でもやっぱりライブってそうしなければいけないんだと思って。「良い曲作ったから!大事に奏でるから!大事な曲だから聴いてくれ!」みたいな、自己愛モードで行こうかなと思いまして。そういった意味も含めて「プレシャス」という言葉をライブタイトルにつけてみました。

――2026年のライブタイトルは様々な反省の冬を越えて生まれたものだったと。

そうです(笑)。2025年のライブは思ったより区切りになったというか、あんまり区切りを作らないでやってきた方なので。

――以前も区切りを作らないでやっている、とおっしゃっていましたよね。

区切りを作らないっていうのも自分の美学だったんです。過去を振り返るより次に作るものが私のベスト!と思ってやってきているんですけど、それは裏を返せばどこか昔のものを軽んじることにも繋がるので。なので少し振り返るように、ちゃんと過去の名曲も(笑)、あえて自分で言う名曲もちゃんと振り返りながら、プレシャスだな!と思いながらやっていかねばという気持ちに、齢60にして至りました(笑)。

――やっぱり節目というものあるんですね。

強引に節目にしたっていうのもあります。すごく節目にしやすいじゃないですか。60歳って“還暦”なんて言葉もついている、12で割り切れる、みんながおめでとうって言ってくれる、ここを節目にしないと、何を節目にするんだというか(笑)。いろいろ考え直すタイミングだったのかなと。

KAORI 『Yuki Kajiura LIVE vol.#21 ~60 Songs~』より

――ということは今回のツアーは選曲も基準が変わってきますね。

今回は久しぶりにYUUKAさんとご一緒することが叶いますからね。そうでなければもう少しサウンドトラック系の曲の方に振ったんじゃないかと思っています。去年のライブも「日本語万歳!」でしたけど、今回はYUUKAさんの日本語の曲をたくさん歌っていただくのがすごく楽しみなので、日本語の曲が多めのライブになるんじゃないかな。

――今お話に出た、YUUKAさんについてもお聞きしたいのですが、約12年ぶりの共演になります。改めて一緒にライブを作るということへの想いもお聞きしたいです。

去年、日本語の曲をいろいろやった時にYUUKAさんの曲のカバーをたくさんやったんです。別に何かを狙ったわけではなく、歌う人が変わると曲の魂が変わると思っているので、カバーって個人的にとても面白いというか、興味深いんですよね。この曲をこの人が歌ったら絶対違う曲になるから歌ってもらおうっていう。それを色々やってみて、逆に今度はオリジナルに立ちかえってもみたいなって。

それはオリジナルの方がいいとか、カバーの方がいいとかいうことではなくて、カバーにはカバーの良さがあって、オリジナルにはオリジナルの良さがあるし、あれだけやったんだからYUUKAさんを呼んで今度はオリジナルやりますって言うのは、ちょっと面白いんじゃない?って。

――確かに面白いですね。

あと去年。初めて『Yuki Kajiura LIVE Special edition ~クリスマスディナーショー2025~』をやらせてもらって。ちょうどクリスマスだったので、これはFictionJunctionの「聖夜」をやるしかないと。そしてYUUKAさんに歌ってもらったら、お客さんたちも喜んでくださるんじゃないか、ということでYUUKAさんに声をかけたら、喜んで出演しますって言っていただけて、じゃあツアーもどうですか?と言ったらお受けいただいて。そんな流れでしたね。

YURIKO KAIDA 『Yuki Kajiura LIVE vol.#21 ~60 Songs~』より

■やっぱり歌が好き

――前回のインタビューの時も思ったのですが、梶浦さんは「この歌手の方の声が好き!この人の歌が好き!」っていう想いがすごく強いですよね。

私は昔から歌が好きで、子供の頃から適当な曲をずっと一日歌っている子だったらしいです。父親はクラシック音楽が好きだったんですけど、そもそもその父親が聴いていた音楽が、オペラとか歌曲とか歌ありきのものばかりだったんですよ。妹は器楽曲(楽器の演奏のみで構成される音楽)の方が好きになって、クラシックバレエなんかも好んで観ていたんですけれど、私をバレエを観に連れていっても「5分で寝るからもう連れていかない!」と母に言われて(笑)。人が歌ってないと寝ちゃう子だったらしいです。幼稚園の時もずっと子供合唱クラブのようなところで歌っていたし、今でも人が歌うっていうことがシンプルにワクワクするんです。

――なるほど。

誰かが歌っていると「この人が歌ったら美しい歌を作りたいなあ」と思うんです。「AフラットからBにいくところの泣きが美しい声だからそこを響かせたいなあ」とか思ってしまう。人って得意分野があるし、音楽にあるのは良し悪しではなく好き嫌いだと思っているんですけれど、私には私なりの偏った好きポイントがたくさんあるので、そこをぐぐっとえぐってくる歌い手さんには本当に弱いですね。

――歌い手にするリスペクトはライブから感じます。

歌は歌ってもらわないと歌にならないですからね。その旋律をピアノで弾いても、それはそれで美しいかもしれないけれど、やっぱり“歌”ではないじゃないですか。歌を歌たらしめるものは人の声でありその歌い手さんの曲に対する演出で、どんな良い曲を書いても、歌い手さんがその歌を能動的に「みんな聴いて!」って歌ってくれないと、絶対良い曲にはならない。

作曲家としては、できれば歌う人が愛してくれる、歌って気持ちいい歌を書きたいなと常に願ってはいます。歌を愛せたら、その歌が人に届くように歌うことはより容易になる。そのためには、こちらも素敵な歌を聴かせてもらえたら、ちゃんと「好きっ!」てできるだけ褒めたり、素直に伝えていきたいなとはいつも思っています。そうじゃないと人間やる気が出なくないですか? どの楽器も大変なんですけど、一番気が抜けないのは歌だと思うので。体も大事にしないといけないし、別に高熱を出してもピアノは弾けますけど、歌は歌えないですからね。

Joelle 『Yuki Kajiura LIVE vol.#21 ~60 Songs~』より

――そうなんですか?

声が出なくても指が動けばピアノは物理的には弾けますから。歌は体を壊すと、楽器ごとやられてしまう。自分の体がちゃんと健康じゃないといい音が出ない、非常にシビアですよね。

――確かに楽器として考えるとそうですよね。

ちょっと油塗ってあげればいい音が出るようになるわけじゃないですからね。

■還暦のお祭りだった『~60 Songs~』

――ちょっと話は戻ってしまうのですが、2025年のライブは「陽」のライブ、お祭りというか、お祝いという感じがありました。それが今回どういう感じになっていくのかも気になります。

そんなに方向性は変わらないはず……でもまだ分からなくて(笑)。去年も曲を並べた時は、あんなお祭り騒ぎになると思ってなかったんですよ。あれはEMIKOさんが一生懸命盛り上げてくれようとしてくれて、みんなで「陽」の方に持っていったからっていうのもあるんじゃないかな。

EMIKO 『Yuki Kajiura LIVE vol.#21 ~60 Songs~』より

――確かにEMIKOさんは着火点という印象がありました。

1曲目をEMIKOさんが盛り上げてくれたので、これで始まっちゃったら次下げられないなみたいな (笑)。

――となると、今回もリハが始まらないとどうなるのか分からない感じでしょうか。

そうですね。ただ去年よりは少しサントラの曲もやる予定ではいるので、少しメリハリがつくようになるんじゃないかなと思っています。

――そんな昨年のライブ『Yuki Kajiura LIVE vol.#21 ~60 Songs~』はBlu-rayになりました。先ほど自分の曲を聴くのがちょっと苦手というお話もありましたが、ご覧にはなられましたか?

ミックスする時に通しで見ました。

――改めて前回のライブについてもお聞きしたいです。

映像になったのは千秋楽だけなので、千秋楽の公演ってよりお祭りというか、ずっとやってきたツアーと全く違うセットリストなので、またちょっと違う感じではあるんですけど、ちょうど還暦のお祭り、お祝いっていう皆さんがおめでとうって言ってくれる場にふさわしいものになったんじゃないかなと思っています。

LINO LEIA 『Yuki Kajiura LIVE vol.#21 ~60 Songs~』より

――まさにお祝い的なライブでしたね。

単純に映像で残せたこともすごく嬉しかったですし、そこに出てくれるみんなと今までやってきたことがキラキラしたライブになって、改めてみんな上手いなって思いました(笑)。バンドメンバーもいい演奏だし、歌も素晴らしかったし、こんなに素晴らしい人たちと音楽できて幸せだなって思いました。

――見ている側も勝手にお祝いのパーティーに参加しているような気分になりました。

去年はスタッフのみんなも、プレーヤーのみんなも、歌い手さんたちも今年はめでたくしてやろうって思ってくれていたと思うんです。そう思ってもらえたことが、ああいうキラキラしたライブにも繋がったんじゃないかと思っています。

――そして今回は還暦を迎えた梶浦由記の新たな第一歩のライブです。

こうしよう、というプランはあるんですよ。でも、やっぱり幕は開いてみないと分からない。「なんでここでこんなに盛り上がるの?」とか、「ここはすごい盛り上がるはずだったのに!(笑)」とか、そういうことが本当に毎年起こるんです。

――やってみないとわからない反応がある。

ええ、ツアーだと2回くらいでこっちもやっと流れを掴むみたいなところがあって、初日はステージ上もやっぱりみんなお行儀がいいんですよ。雑なところがない。丁寧で正直、毎年ライブの出来としてはかなり素晴らしいんです。かっちりと演奏して様子を伺っているところがあるんですけど、なんとなく3回目くらいから「よし、分かったぞ!」ってなるんです。ちょっと調子に乗った感じがあって、色々なことが起きやすかったり(笑)、そんな流れがあるからライブは面白いですね。一日たりとも同じステージにはなりようがないんです。

『Yuki Kajiura LIVE vol.#21 ~60 Songs~』より

■『tiny desk concerts JAPAN』で感じた窮屈な楽しさ

――先日放送された『tiny desk concerts JAPAN』はかなり話題になりました。ご出演されていかがでしたか?

初めにお話をいただいた時は、本当に光栄だなとは思いつつも、なんで私たち?と、お引き受けするか正直悩みました。アニメ音楽は海外でもすごく人気があるというところもあってお声をかけていただいたみたいなんですけど、コンセプトはとても面白いんですが、自分たちが普段やっているライブとあまりに対極で。いつもはどちらかと言えば広めの音像演出を意識して、少しだけ“ここではないどこか”的な世界観のライブをやっているのに、ああいう狭いところにギュウギュウになって、手の届きそうな距離でリアルな生の音を届ける。そこで私たちの良さって伝えられる?そんな心配があったんです。

――その心配は確かにわかりますね。

初めは3人くらい、ピアノ、チェロ、歌ぐらいかなって思ったんですが、やっぱりあの曲をやってほしい、この曲もやってほしいって話していくうちに、いやその曲は3人じゃできないなというのが増えてきて。「蒼穹のファンファーレ」は3人でやるのは無理すぎる!とかそういうね。じゃあちょっと人数を増やそうか、チェロとバイオリンも入れようかと言っていたら、プロデューサーが「全員で行こう」って。それで結局全員で行きました(笑)。

――『tiny desk concerts JAPAN』はいくつか見させていただいているですが、一番人が多くてパンパンだったなと思っていて(笑)。

私もそう思っていたんですけど、NHKの方が「30人合唱を連れてきた人がいるので大丈夫ですよ」って(笑)。うちが一番じゃなかった。

――もっと上がいた(笑)。

本当にあそこに収まるのは大変だったんです。チェロの西方(正輝)さんが、「あと15度傾けたらここに入ります」って(笑)。「でもビオラ乗りません!」とか(笑)。

――すごく興味深かったですし、面白かったです。終演後のインタビューも見させていただいたんですけど「聞こえない音は聞こえない」って梶浦さんがおっしゃっていたのも印象的でした。

もう本当に聞こえなくて。本当に全部生の音だけですから。場所の関係で私一人だけ後ろを向いちゃったので、パーカッションとギターは何も聞こえなかった。ドラムは流石に聞こえたんですけど、歌も半分くらいしか聞こえないし。

――そのインタビューでおっしゃっていた「調整できない不自由な音楽」っていう言葉もすごく印象的でした。先ほどおっしゃっていた通り、梶浦さんのライブで紡がれてきた音楽と対極にあるというか、アンコントロールなのに、ちゃんと梶浦さんの音楽なのが面白かったんですよね。

私は初めて『Yuki Kajiura LIVE』をやった時のことを思い出しました。プロデューサーが『Yuki Kajiura LIVE』をやらないか?って、最初に声をかけてくれた時に、私絶対嫌だって言ったんですよ。

もちろんアマチュアの頃はバンドでやっていたんですけど、サントラを作り始めてからレコーディングをしていると、シンセの音をチクチクやって、ミックスの時に何を上げてこれを下げてって、細かくやっていくじゃないですか。コーラスもバランスがどうのこうのってやっていて、あれはライブって絶対再現できないから、あの細かい感じ、今私が作っている音楽はライブ向けじゃない、ライブであれを再現できないから嫌だって言ったんです。

でもプロデューサーの「ライブは再現する場所じゃない」っていう言葉から始まって、「歌い手さんひとりじゃなくて、4人並べて歌わせるのはどう?」みたいになって、それならやっても面白いかな、と思って始めたんです。なんかその時のことをちょっと思い出しました。

あの時も今やっている音楽が再現できないから嫌だって言ったんですが、やってみたらこういう音楽の楽しみ方があるんだって、目が開いた感じがしたんです。『tiny desk concerts JAPAN』もきっとこれをやってみたら、また全然何か知らないものがあるのだろうなと思って。でも本当に聞こえなかったです(笑)。

――あはははは(笑)

普段の私たちのライブって、耳の中でカチカチと(クリック音が)聞こえているので、曲を始める時はマニピュレーターさんが「(音)出します!」というところから始めるんですけど、でも『tiny desk concerts JAPAN』では、そんなものがないので、リハーサルはなんとなく誰かが弾き始めたらみんながそれに合わせてやっていくみたいな。すごく懐かしかったですね、すごくピュアな感じがしました。

――普段とは全く違う環境でしたけど、根底に流れる音楽はやっぱり変わらないんだなと思いながら拝見しました。

でも相変わらず反省もしていて、こういう形でやるんだったらもうちょっと、ああすればよかった、こうすればよかったなって思いましたけど(笑)。

――また、新しいインスピレーションになりましたか?

やっぱりマイクの置き場所やバランスが取りにくいので、こういう時は全員で歌っちゃった方がいいな、とか。いつものライブではできないけど、これはどうせなら最初から最後まで5人全員で歌って貰えばよかったな、とか。そういうことが考えられたのが面白かったです。

『Yuki Kajiura LIVE vol.#21 ~60 Songs~』より

■今回は終わりに向けた10分の1

――では最後になりますが、前回のインタビューの際に「vol.#●●」をいくつまでいけるかチャレンジしたい、というお言葉をいただいたんですが、2026年の先はどのようになっていくのでしょう。

あと10回、って私も言っているので、ツアーはあと10回なんですよ。今回含めて10回って言っているのかっていうのはありますけど(笑)。

――数が合わない(笑)。

去年、今回含めて10回って言った気がするんですけど……今年がその10回の「1」でいいんじゃないかと思うので、今年からあと10回ですね(笑)。だからそう思うと、我ながら考えてしまって……あの曲もこの曲もやりたいけど、あと10回に入るのかっていう。そこが結構大きな問題で……でも回数決めるのってちょっといいなと思いました。

――終りが見えているというのは寂しさもありますが。

もう漫然とはできないんですよね。あと10回って決めると「ちょっと待って!やりたい曲を100曲あるとしたら、ちゃんと10回に分けて必ずやるようにしなきゃ!」とか、そういう計画を考えられるので、それはそれでいいなって思いました。なので、今年はそんなやりたい曲の10分の1です。

――10回でやりきらないと終わらない。

そうですね。10回目が8時間とかにならないようにちゃんとやっておかないと(笑)。

――では、最後にこのインタビューを読まれている方に一言メッセージをお願いいたします。

本当にライブが自分の中で切実なものになればなるほど、来てくださる方がいないと成り立たないっていう当たり前のことを毎回思い返しています。客席のお客さんの一人一人の解像度が上がっていくというか、一人一人がすごく見えてくる、そういう不思議な感覚が去年からしていて。昔から「みんなじゃなくて、あなたに」と思っていたんですが、それが「この曲はあそこのあの方に向かってやってみようかな」とか、そういうまた方向性の進化した一対一の音楽を意識してライブをするようになっていると思っています。

今年も“あなた”に向けて音楽を奏でますので、“あなた”だけの音楽を受け取りに来ていただけたらなと思います。本音としては、今回は終わりに向けた10分の1なので、どうせならあと10回付き合ってほしいな(笑)。

取材・文:加東岳史 構成:林信行
 

ツアー情報

『Yuki Kajiura LIVE vol.#22 〜precious pieces〜』

2026年
07/04(土)大阪・フェスティバルホール

 
07/19(日)東京・昭和女子大学人見記念講堂
07/20(月・祝)東京・昭和女子大学人見記念講堂

08/08(土)埼玉・大宮ソニックシティ大ホール
08/09(日)埼玉・大宮ソニックシティ大ホール

■出演:
梶浦由記/FictionJunction (Piano/Chorus)
Vocal:KAORI, YURIKO KAIDA, Joelle, LINO LEIA, EMIKO(鈴木瑛美子)
Guest Vocal:YUUKA (南里侑香)
MUSICIAN:FRONT BAND MEMBERS
是永巧一 (Guitar), 佐藤強一 (Drums), 髙橋“Jr.”知治 (Bass), 今野均 (Violin), 
赤木りえ (Flute),中島オバヲ (Percussion),大平佳男 (Manipulator)

【公演に関するお問い合わせ】
大阪公演キョードーインフォメーション
0570-200-888 (平日12:00~17:00/土日祝休業)
東京・埼玉公演キョードー東京
0570-550-799 オペレータ受付時間 (平日11:00〜18:00/土日祝10:00〜18:00)

2025年インタビュー:https://spice.eplus.jp/articles/338331

梶浦由記 Official Website:https://fictionjunction.com/
梶浦由記(Yuki Kajiura) X:https://x.com/Fion0806
梶浦由記(Yuki Kajiura) Staff X:https://x.com/YKajiura_staff

リリース情報

LIVE Blu-ray『Yuki Kajiura LIVE vol.#21~60 Songs~』

発売中
・完全生産限定盤【2BD】 VVXL 276-8:¥22,000 (税込)
・通常盤【1BD】 VVXL-279:¥8,800
※特典映像 (インタビュー&メイキング収録)
【完全生産限定盤特典】
特典ディスク「Yuki Kajiura LIVE vol.#20 ~日本語封印20th Special~」収録
ラミパスレプリカ、 Tシャツ[限定カラー]、48Pライブフォト+インタビューブック同梱
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