坂本花織×神はサイコロを振らない【結成10周年対談企画】音楽とスポーツの垣根を越えて共鳴した「10年」の成長とプレッシャー克服法

2026.6.5
インタビュー
音楽

神はサイコロを振らない×坂本花織 撮影=大橋祐希

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2025年、結成10周年を迎えた神はサイコロを振らない。次の10年に向けてのスタートとなる2026年はニューアルバム『EINSTEIN=ROSEN BRIDGE』のリリース、そして6月には初のアリーナ公演も控えている。そこで10周年記念としてバンドが影響を受けた先輩バンドや各界で活躍する人物との対談企画が実現。第1弾は、先日現役を引退しプロフィギュアスケーターそして指導者としての道を歩み始めた坂本花織。実は以前から神サイの大ファンで、ライブにも足を運んでいるという坂本。対談では、お気に入りの楽曲や「ドライブ中にも熱唱する」といった意外な素顔から、わずか16歳で指導者を志した理由、そして人生のターニングポイントまでを赤裸々に告白。彼女の真っ直ぐな人間性が垣間見えるエピソードが次々と飛び出した。異なるジャンルでの10年の変化や成長、それぞれの世界で10年活動することの意味を大いに語り合ってもらった。

●あえて緊張を取り除こうとはせずに緊張している自分を受け入れて、
それを力に変える

坂本花織

――坂本さんは神サイの音楽をどういうキッカケで聴かれるようになったんですか?

坂本:キッカケは忘れたんですが、何かで最初「愛のけだもの」を聴いて、直感で「好きや!」と思って、そこからいろんな曲聴くようになってハマって。あんまりカラオケとか得意じゃないんですけど、神サイの曲はメドレーで歌うぐらい歌い易くて。ドライブの時もめっちゃ聴いてます。

一同:ありがとうございます。

――練習でテンションを上げるときにも聴かれるんですか?

坂本:聴きますね。練習の時はまわりの子もいるのであんまりBGMとか聴けないんですけど、アップのときはよく聴きます。アップテンポな曲をメインに聴くんですけど、でも「スケッチ」とか落ち着いた曲も好きです。

柳田周作:エキシビションの「A Million Dream」がアコギの爪弾く音から始まるのを見て、「木が似合うな」みたいに思った記憶があります。

坂本:(笑)。

神はサイコロを振らない

――神サイの皆さんは坂本さんの演技やアスリートとしての印象は?

柳田:普段は天真爛漫で溌剌とされてるんですけど、演技になるとダイナミックだけどしなやかで、人間ってよりもティンカーベルが氷の上で舞ってるようなイメージというか、ギャップがあるというか。しかも海外の選手ともコミュニケーションをとっていて、言葉とかじゃなく放っているオーラにみんな虜になってるんだろうなという、その二面性が素敵ですよね。

黒川亮介:2022年の世界選手権映像を見た時、演技が始まる前の怖さや緊張を感じて「頑張れ!」と、勝手に感情移入しちゃったというか。でも演技が終わったときの顔は経てきた人というか、人の心を動かす力が演技を通して出てるのがカッコいいなと思いました。

吉田喜一:本番でのプレッシャーとどうやって向き合っているのかは常々演技を見ながら感じていて、そのメンタリティというか、いろんなものを背負った上で演技をするというのはどういう精神状態なのかを知りたくて。

神はサイコロを振らない

坂本:もともと緊張しいなところがあるので、あえて緊張を取り除こうとはせずに緊張している自分を受け入れて、それを力に変えるというか。普段の練習ではなかなか緊張感は出ないんですけど、練習で調子がずっといいわけでもないんです。朝早かったり夜遅かったり、いろんなマイナスな条件が揃うこともあるけど、そこでの練習をノーミスでできたり、自分で「ここまでできる」というのをちゃんと毎日積み重ねて行けば、いざ試合で緊張しても「あれだけやってきたから大丈夫」と思えてできるようになったり、というのを積み重ねていって、それがいい経験に繋がるので、自分は緊張したほうが逆にやる気スイッチが入る感じです。

柳田:結構近いような気がする。緊張もそうだし、例えば「前回のライブ良くなかったな」ってことをギリギリまでメンバーで話し合った日はだいたいいいライブになる。どれだけ次の表現に向き合ってきたかで結果的にその緊張すらも表現の一つになる。そのスタイルはめっちゃいいですね。

桐木岳貢:僕は練習について、結構ミュージシャンよりアスリートの人を参考にしてるんですよ。坂本さんはどういう気持ちで練習するとか何を持ってよしとするとかあったりするんですか?

坂本:目指す試合ごとで変わってくるんですけど、オリンピックの前だとやっぱり今まで頑張ってきたから絶対失敗したくないという気持ちになっちゃうので、調子は良いんですけどそれを維持し続けないといけないというのが結構きつくて。とにかくこの先の自分が後悔しないように、練習で不安要素があればそこを徹底的になくすというやり方なんですけど、今回の世界選手権はその前に10日間ぐらいオフを取って体力も筋力もめちゃくちゃ落ちて……、そこからオリンピックぐらいまでの調子に戻そうと思ったら全然できなくて。だからこそ、「今日これはできるようになった」という過程がめちゃくちゃ楽しくて。オリンピックは「維持し続けよう、後悔しないように」と思ったけど、世界選手権は「今日はこれができた。じゃあ明日はここまでできたらいいな」と、できないことも楽しんでやってたので、目標と現段階によって全然変わってくる、そんな感じですかね。

桐木:そういう過程を楽しむことを忘れてたかもしれないです。

●このフィールドをどうやって守り抜こうか、そういう人間が
もっと育って行って欲しい

神はサイコロを振らない

――神サイは去年結成10周年、坂本さんは現役生活を21年過ごしてこられて、直近の10年は主にシニアの時期になるわけですよね。10年という時間を振り返るとどう捉えていますか?

坂本:直近の10年はオリンピック出られる年齢になって。オリンピックというのは4年に一度なので、自分の考えているベースがずっと4年単位で進んでいるのでオリンピックを2回3回目指すとなったら4年だったり12年だったりっていう数え方になるんですね。そうなるとオリンピックシーズンが終わった次のシーズンは結構自由に自分の苦手分野に挑戦する1年に出来て、2年目も少しそれはできるんですけど、3年目になってくるとオリンピックのプレシーズンが始まって、もう4年目にはオリンピックシーズンなので挑戦し続けるけど、やはり3年目ぐらいになってくるとだんだん自分のあり方を固めていかないといけなくなる。それを2回やったらもう8年進んでいるので、あっという間に10年経ったなっていう感じでした。

柳田:ちなみにどのタイミングで教える側になろうかなって思ったんですか?

坂本:高校生ぐらいのときにはもう「コーチやろう」と思っていたので、10年前ぐらいですね。

柳田:すごいですね。

坂本:今まで教えていただいていたコーチが4歳から習っていた先生方で。めちゃくちゃ厳しいんですけど、競技のことだけじゃなく人間性の部分でも指導されたり、社会に出たときに困らないようにマナーも教えてくださいました。そういう先生ってなかなかいなくて。その先生方が築き上げたクラブチームを継続していけたらなと思ってコーチを目指そうと思いました。

柳田:そっか。普通人間って自分のことが大事で、自分がどうなりたいかを考えていってるけど、このフィールドをどうやって守り抜こうか、そういう人間がもっと育って行って欲しいって16歳で思えるのはすごいな。

神はサイコロを振らない

――バンドの場合、音楽シーンは意識しなくても継続していくでしょうけど、そこに寄与したいという気持ちは持ちにくいですか。

柳田:音楽とかアスリート界って分けて考えてないんですけど、僕は友達など周りにいる人になぜかアスリートの人が多くて。みんな人格が太陽みたいな方ばっかりだし、偉ぶるのってシャバいなと思うんで、それで言うと坂本さんはその代表だなと思います。それこそ国境関係なく、演技や人柄で周りが巻き込まれていく。だから音楽であるとかスポーツであるとか以前に人としてカッコいいことが大事というか。

●「オリンピックには魔物がいる」とよく言われるし、
でもそれをいかに魔物として受け入れないかが重要

坂本花織

――先ほどは10年という時間の捉え方を話していただきましたが、選手人生における大きな転機にはどんなことが?

坂本:ターニングポイントが基本早いんですよ(笑)。それでいうと小6ですね。

一同:へー!

坂本:小学6年生の時に、カテゴリーにノービスというのがあるんですが、全日本ノービスで初めて優勝できて、そこまではあんまり優勝した経験がなくて、自分もそこまでの選手じゃないと思っていたんですけど、ちゃんとやれば勝てるんだと初めて気づいた時で。その優勝をキッカケに海外の試合にも行けるようになって。それまでは勝ちたいとかあまりなくて、ただただ好きだからやっていたんですけど、小6で優勝してからは勝ちたいという気持ちが芽生え始めて、そこからどうやったらその世界の選手とも張り合えるかを考え始めた、それがターニングポイントですね。

黒川:自分という選手をどう見せていくかというところでは、自分は20代後半になっても自分と世界のすごいドラマーを比べて、その違いで勝手に凹む時期が結構あったんですけど、なんかそうじゃないよというのに気づくのが早いですよね。自分はその後に自分のドラムとはなんぞや?というのに気づいて。最初からそれだけでよかったんですけど、坂本さんはそこが大事だと気づくのがすごいし、しかも気づいたのが早いのもすごい。

柳田:一旦てっぺん取ってそれを維持しなければいけないって、プレッシャーで言ったらとてつもないものなんだろうけど、坂本選手の根本にあるのって「フィギュアスケートがまず好き」ということもそうだし、自分がどれだけ疲れてても周りの選手とコミュニケーションとるし士気を上げてるように見えるんですよ。それは素でやってるのか使命感でやってるのかで言うとどうですか?

坂本:素というかみんなにも頑張ってほしいという気持ちがあるから、どうしたらいいかなというのがあって。それこそオリンピックとか世界選手権って尋常じゃないぐらい緊張するんですけど、普通に自分一人だけで過ごしてたらその空気感に飲まれてしまったり実力が出せなかったりっていうのもよくあって。だからこそ「オリンピックには魔物がいる」とよく言われるし、でもそれをいかに魔物として受け入れないかが重要なので。できるだけベストパフォーマンスで、その中で誰が勝てたかという勝負をしたいから、なるべく周りの子たちもいつも通り過ごせるようにいろんな人に喋っちゃうんです。それで自分も気がまぎれてリラックスしていけるので。もちろん黙って集中したい子もいるのでその子はその子のペースで。みんながベストな状態で挑めるといいなと思います。

黒川:リンクの上にたった1人ですごい孤独で逃げ出したくなるなと思ってたんですけど、実はみんなで戦ってる感じに納得したというか、だからこそ一人でも戦えるのかな、というのを感じましたね。

吉田:ちょっと訊きたかったのが、坂本さんにとってご家族の方はどんな存在ですか?

坂本:お母さんが一番近くで支えてくれました。フィギュアスケートの練習時間は朝早かったり夜遅かったりするんです。兵庫県に住んでいるんですけど、小学生ぐらいまでは1年通して滑れるリンクがなくて、冬場だけスケートリンクになって夏になるとプールになっちゃう施設だったので、夏は大阪まで通ったりしていて。それこそ朝6時から大阪で練習して7時半まで滑ったら神戸に帰ってそのまま学校に行ってというのもお母さんがやってくれたし、中学生からお弁当になるから栄養管理も気をつけてお弁当作ってくれたり。それから歳の離れた姉が2人いて、14歳と12歳離れてるんですけど、私が頑張れるような年齢になった頃にはもう二人とも社会人として働いていて。お母さんがずっと自分につきっきりだったので、家のことはお姉ちゃんたちがずっとやってたので本当に家族に支えられていました。

柳田:一生チーム戦してる。

坂本:ハハハ(笑)。

柳田:自分もその愛を受けてきたから次の世代に還元しようということですよね。ほんとなるべくしてなった感がすごい。

●自分のことしか書かない、この半径30cm以内で
起こっていることしか書きたくない

神はサイコロを振らない

――バンドも会場のスケールが大きくなって、より大きな場所を背負う存在になっていく段階だと思いますが、そのあたりの意識の変化はいかがですか? 神サイはアリーナ公演も控えていますが。

柳田:でもぴあアリーナで表現しようとしてるのは一見壮大なテーマではあるんですけど、実はやろうとしてることはすごいミニマムというか。僕が唯一揺るぎなくここだけは曲げたくないっていうのが、例えばタイアップソングでも絶対自分のことしか書かない、この半径30cm以内で起こっていることしか書きたくないっていうのがあって。例えばアニメの登場人物がいたら共通項を一個探し当てて、そこでちゃんとアニメの主題歌になっても成立するような作り方をするようにしているんですよ。僕らは星とか宇宙とかもめっちゃテーマにするんですけど、発端はミニマムというか、七畳一間の僕の部屋で生まれたものがボン!と大きくなる。だからぴあアリーナって広い会場だけど、いつも通りっていうか「このままでいい」というか、自分をデカく見せるのもちょっと疲れたなって感じ?

坂本:でも自然体が一番良さを引き出せると思うし、それはライブを見てめっちゃ伝わって。それこそ会場巻き込んで、お客さん同士近い距離感で、フロアの振動さえももうすごい!と鳥肌立って。

柳田:確かにホールの椅子に座って見るのとライブハウスのフロアで見るのはシンプルに全然違いますよね。

坂本:しかもみんなこう立ってるから前のめり感がすごくて、後ろから押されるみたいな(笑)、すごかったですあれは。より4人を近くで体感したいという人の熱量がすごいなと、「これが一体感か」と思いました。

柳田:嬉しい。ありがとうございます。

桐木:結構音楽ライブは行かれたりするんですか?

坂本:音楽ライブはたまに行きます。帰るとき他のお客さんから聞こえてくる感想が「うん分かる、分かる」「確かに〜」て一人で思いながら帰ってます(笑)。それもまた一つの楽しみとしてありますね。

●今までは自分を追求して行くだけの10年だったんですけど、
これからは人のための10年

神はサイコロを振らない×坂本花織

――では最後にこれから先の10年で挑戦したいことについて教えてください。

坂本:今までは自分を追求して行くだけの10年だったんですけど、これからは人のための10年なのでまた感覚が変わってくるなと思って。どうやったらその試合に対してマイナスのイメージじゃなくてプラスで挑めるかとか、あとはやっぱスケートを好きでずっと続けてほしい気持ちもあるので、自分がやってきた21年よりもっと長い年月かけて選手を育てないといけないんだなって今思っているので、10年だとまだあんまり変わってなさそうだなという感覚ではあるんですけど。でも下積み長く、がんばって一人でも多く世界で活躍する選手が出てきてくれたら嬉しいなと思います。

柳田:ワクワクしますね!

坂本:めっちゃワクワク(笑)。バンドの方の10年はどういった目標設定で進んでいくんですか?

柳田:風に吹かれるまま波に流されるままみたいな。もちろんロックバンド的なストーリーで言ったら「武道館に立ちたい」とかもちろんありましたけど、音楽の難しいところはそれこそ採点がないし得点がないことで。正解がないのはどの業界もそうだと思うんですけど、より白紙だし、しかも時代ごとにあり方が変わるし、ビジネスとして成立させるためには?という音楽のあり方もだんだん変わっていく。昔はCDでしか聴けなかったものが今当然のようにスマホが音楽プレーヤーになっているし、そのうちそれもなくなる時代になるんかなと思うと、やっぱり流動的であるべき。フレキシブルにどう時代に自分たちがマッチしてより多くの人に表現を届けられるか?だと思っています。常に目標が変わるし、だから神サイはジャンルも決めずに曲を書いてきたのはある意味これからの未来の音楽としては選択肢として良かったのかなと思っていますね。最近はロックバンドって言わないようにしているし、神サイというのが一つのあり方であり集合体でいいのかなと。そういう意味ではどんなことが音楽になるか?僕らも未来に対してワクワクしてますね。

神はサイコロを振らない×坂本花織

取材・文=石角友香 撮影=大橋祐希

イベント情報

神はサイコロを振らない
『Special Live for Double Anniversary Year 2026 “T.W. -Traversable Wormhole-" at Pia Arena MM』
日程:2026年6月14日(日)
会場:ぴあアリーナMM
問合:DISK GARAGE https://info.diskgarage.com
に関するお問い合わせ:イープラス
お客様サポート:http://eplus.jp/qa/ 
詳しくはこちら:https://kamisai.jp/information/detail.php?id=661