尾上右近、10年の集大成『研の會』完結へーー10年前の自分に手紙で語った舞台への覚悟
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尾上右近 写真:株式会社エリア51
9月5日(土)・6日(日)に大阪・国立文楽劇場にて、10月2日(金)・3日(土)に東京・明治座にて、歌舞伎俳優・尾上右近による自主公演『研の會 FINAL』が上演される。2015年に始まった同公演は、右近自身が主催・プロデュースを手がけてきたもので、今回で第10回を迎える。「10年続ける」と宣言通り、今公演をもって一区切りとなる。6月6日(土)に都内で開かれた記者発表会で、右近が最後の舞台にかける思いを語った。
手紙から始まった、異例の記者発表
写真:株式会社エリア51
「今日は10年前の自分に手紙を書いてきたので、まずそれを読みます!」
羽織袴姿で現れた右近は、あっけらかんとそう宣言し、用意された椅子に座らず、立ったまま読み始めた。
「10年前の君へ 君は今、不安に押しつぶされていますね」と始まり、自分の燻り、理想と現実のギャップに焦りを思い起こす。自分から行動を起こし、始めなければならないと師匠や先輩に導かれ、第一歩を踏み出したと回顧する。初回の
「10回までやる」とは言っていても、お金や人望がなくなるかもしれない。誰も手伝ってくれなくなるかも、やる気がなくなるかも、お客様が来てくれないかも、という不安と焦りをずっと抱えていたという。今年、有言実行の10年を迎えた。「泣きそう!」と笑いつつ、手伝ってくれた、助けてくれた人々の顔を思い浮かべられるはずだと、丁寧に読み上げていく。
最後に「23歳の君に告ぐ」と、再び語りかけ、「不安も不満も課題も焦りも今もあり、まだまだこれからで、やり遂げたことはかけがえのない自信になったと、胸を張って伝えられることが嬉しい」と締めくくり、「いざ、十年後の君へ」と、次の10年へ思いを馳せていた。集まった取材陣の空気が一気に和んだところで、やっと着席。「藝阿呆(げいあほう)」、「鷺娘(さぎむすめ)」、そして第一回公演でも演じられた「春興鏡獅子(しゅんきょうかがみじし)」の各演目についての解説が始まった。
史上初の生演奏での上演「藝阿呆」
あまり知られていない作品だが、右近自身も「なかなか情報がない作品でしょう」と始める。
三代目竹本大隅太夫と三味線を担っていた相方・二代目豊澤團平を描き、芸の世界の苛烈さを表現した作品。「勘三郎のおじさま(十八世中村勘三郎)が踊りの会で踊っていらしたのを初めて拝見して、強烈な印象が残っている」と演目に選んだそうだ。
過去の数少ない上演では、音源は名人のものを使っていたそうだが、今回は、「生でやりたい」と自身がリクエスト。人形浄瑠璃文楽座太夫の竹本織太夫と、三味線奏者の竹澤團七を迎えて、生演奏での披露となる。振付も、元々二人踊りのものを、ひとり踊りに変え、尾上流家元の尾上菊之丞が、新たに手掛けるものとなる。
「自分が清元の家の出身であり、歌舞伎俳優が舞台で立つなら、生演奏にこだわりたい。音源よりも、生。僕がこだわらないと、自分自身のルーツ、あり方を自己否定することになってしまうかなと。今生きている、古典芸能の先輩方、仲間たちと『藝阿呆』を創り上げていきたいと考えています」
素踊りでの上演になるため、ポスターは着物をまとい、扇子を持つ右近の姿のみ。「情報が全く伝わってこない写真でございますけれど」と笑いを交え、「面白い作品です」と語った。
『国宝』で話題の「鷺娘」を選んだのは「流行に乗ろうと」
女方の大作舞踊「鷺娘」に関しては、映画『国宝』で広く話題になり、印象的なシーンを思い出す人も多いだろう。
「古典の伝統をしっかり守る反面、流行に乗るのも歌舞伎の特徴。だから、流行に乗らせていただきます!」と“国宝ブーム”を意識したと話す。
意外にも、鷺娘の経験はないという。「江戸から続く古典である変化舞踊。長く生き続ける力強い作品であり、江戸芝居のエッセンスに取り組んでいきたい」と意気込んでいる。
演目のラストは、鷺娘は死ぬか、生きるかのどちらか。今回はなんと「どちらでもない」終わりを迎えるそうだ。
「派手に終わりたいなと。今までご縁をいただいた方にご協力を仰ぐつもりで……あ、これはまだ制作さんにもお伝えしていないことでした、すみません」と脇に控える制作さんに頭を下げ、笑いが起こる一幕も。
「春興鏡獅子」で始まって、「春興鏡獅子」で終わる
第一回公演で踊られた「春興鏡獅子」。前半は弥生という可憐な娘が登場し、たおやかに踊る。中盤、彼女に獅子の精が乗り移ってからは、勇壮な獅子の踊りへ変化するという、踊り分けが大きなみどころの作品。
第一回目の演目と同じ演目を選んだのは「ひとつの区切りという意味を込めた」そうだ。2025年の四月大歌舞伎夜の部でも同役を演じている。
「歌舞伎座という、願ってもない舞台でやらせてもらいました。その後にまたすぐやるところが“藝阿呆っぽい”かなと(笑)。まだ演り足りない。一生演じていくと考えると、まだまだ課題はたくさんあって。ポスターも、第一回の構図を意識して作りました」
先月の歌舞伎座では、尾上眞秀と「連獅子」を、親獅子として出演していた。
「今回は、最後の獅子の毛振りを200回くらいやりたい。最後は演奏家さんたちに”いつまでやるんだ”とイヤな顔をされて、こいつ自分のことしか考えてねえな、と思われて終わるのもありかも」といたずらっぽく笑う。今度はどんな「集大成」の毛振りを見せてくれるのか、今から楽しみだ。
舞台から客席と一緒に写真をもう一度撮りたい
写真 株式会社エリア51
第1回の千穐楽で舞台上から客席と記念写真を撮り、「第10回はもっと大きな会場で撮っているはず」と思ったそうだ。590席の国立劇場小劇場で始まった舞台は、1368席の明治座2日間で大楽を迎える。
本人が解説するイヤホンガイドを全公演で導入。また、一部公演では鑑賞サポート席を設け、バリアフリー字幕タブレットと台本の貸出しを予定している。
新たな試みを次々と行い、道を作ってきた。『研の會』は終わっても、自主公演を終わらせるつもりはないそうだ。
「後輩たちが夢を持てるようなファイナルにしたいです。次のステージへのスタートを感じていただく会になれば」と会場の報道陣に語った。
写真 株式会社エリア51
その後、フォトセッションが始まると、会見中、机の上にそっと置いてあったフィギュアを持っての撮影も始まった。なお、これに関する具体的な説明はなかったため、思わず「こちらはグッズですか?」と聞くと、「これ僕です」と報道陣に見せて回ってくれた。
その後「フィギュアを持って決めの感じで」というリクエストが飛び、首を傾げながらもすぐさまポーズを決める(上の写真)。
歌舞伎俳優と報道陣、仕事で写真撮影をしているはずなのに、どこかイベントで親戚を撮るような和やかさに満ちていた。こちらのフィギュアの詳細は後日発表とのことなので、お楽しみに。
我が道を行くことの覚悟と責任を背負い、次の10年へ
写真:株式会社エリア51
10年の月日で変わったこと、変わらないことを聞かれ、変わった部分は「自分に正直になった」と答えていた。10年前は、実績も自信もなく、力が足りないという自己認識で、色々なことに遠慮がちだったそう。一方、変わらない部分は「自分で自分に手紙書いて泣いちゃうあたり、そういう自己愛高めなところ」と朗らかに回答していた。こういう自分を喜んでくれるだろうという、人への期待、人間愛は変わっていないと、まっすぐに語る。
「我がまま」でいること。我が道を歩くこと。
それには責任と覚悟が伴う。尾上右近が貫いた10年の道は、意志と、研鑽とたっぷりの愛情に溢れ、胸を張って堂々と歩く、大きな花道を形作っている。
取材・文=宇野なおみ
公演情報
一、藝阿呆
立方:尾上右近
文楽座特別出演
竹本織太夫
竹澤團七
二、鷺娘
鷺の精:尾上右近
三、春興鏡獅子
小姓弥生/獅子の精:尾上右近
胡蝶の精:尾上琴也
胡蝶の精:丸山紗奈
【大阪公演】
場所:国立文楽劇場
9月5日(土)昼の部11:00開演 夜の部16:30開演
9月6日(日)昼の部11:00開演 夜の部16:30開演
観劇料(税込):特別席 23,000円※特典付き/1等席 13,000円/2等席 9,000円
鑑賞サポート実施日: 9月6日(日)
主催:尾上右近事務所/関西テレビ放送株式会社 協力:松竹株式会社
場所:明治座
10月2日(金)昼の部11:00開演 夜の部16:30開演
10月3日(土)昼の部11:00開演 夜の部16:30開演
観劇料(税込):特別席 25,000円※特典付き/1等席:15,000円/2等席:7,500円/3等A席:5,000円/3等B席:3,000円
鑑賞サポート実施日:東京公演10月3日(土)
主催:尾上右近事務所 協力:松竹株式会社