スーパー歌舞伎『もののけ姫』サン役・中村壱太郎の意気込み「人と獣、化身としてのサンを」

2026.6.23
インタビュー
舞台

中村壱太郎

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白いジャケットに映えるファー。よく見ると白地には、白い花が細かく入っている。
どこまでも洗練された所作で、カメラの前に立つ。

歌舞伎俳優・中村 壱太郎は、日本舞踊吾妻流の家元・吾妻徳陽でもある。映画「国宝」の所作指導としてクレジットされている名前、と言えば、ピンと来る方もいるはずだ。
大役を次々勤めながら、自身のクリエイティブな活動を並行して行う壱太郎が次に挑むのは、スーパー歌舞伎の新作『もののけ姫』の山犬に育てられた少女・サンだ。

「国宝」ブームを経て、「もののけ姫」を歌舞伎で演じる

過日行われた製作発表記者会見に伴って、今回のインタビューは行われた。ぎっしりと詰め込まれたスケジュールの中、取材中や移動時間も、常に「一人でも多くのお客様に劇場へ足を運んでいただき、この舞台を見てほしい」という姿勢を見せる。それは歌舞伎への大きな愛ゆえだ。

――スーパー歌舞伎『もののけ姫』への出演が決まったとき、どうお考えでしたか。

映画「国宝」に関わらせていただいて、ちょうど今月、6月6日で公開一年を迎えます。映画のおかげでありがたいことに歌舞伎のブームが来て、たくさんの方に歌舞伎を知っていただきました。興行収入ランキングにもランクインし、歴史に残る作品となって。でも、もののけ姫はそれを超えた興行収入実績です。本当に誰もが知っている、名実ともに、日本の代表的な作品ですよね。

――「国宝」は8位。「もののけ姫」は興行収入を再上映などで伸ばし、7位となりました。当時の歴代興行記録を塗り替えた作品であり、海外でも「Princess Mononoke」として広く知られていますね。

それを歌舞伎舞台化するということへの驚きと、非常に重要な役であるサン役として参戦できることの喜びがありました。プレッシャーともまた違うんです。この壮大なプロジェクトがどうなっていくのかを知りたくて。お話をいただいた時にどんな舞台になるんだろうって、まずはいろいろ想像しました。

――創り上げるワクワク感のほうが先に来られたということでしょうか。映画はご覧になっていましたか?公開当時は小学生のご年齢ですよね。

公開した時に映画館に行った記憶はないので、多分、テレビで見たんだと思います。 今回、改めて作品を見て「楽しいね、面白いね」だけで終わる作品ではないな、と。作品に潜む深いメッセージ性を舞台化することでさらに掘り下げられるのでは、と思いました。

女方として、サンという少女を再度捉え直す

――歌舞伎になると発表されたとき、歌舞伎やアニメファンはじめ、世間が驚いたと思います。この「もののけ姫」という作品と、歌舞伎は、通じるものがあるとお考えですか?

まず、「もののけ姫」というのは、 アニメーションというジャンルでは表せない深さがあると思うんですね。「映画」ととらえるほうが僕はしっくりくるなと。ジブリ作品は全部そうだと思うんですけど。歌舞伎と相性がいいと思う部分は、やはりキャラクターです。 特にサンは「山犬に育てられた」というバックグラウンドを持ち、少女だけれど人間社会に属していない。歌舞伎では、人ならざるもの――「化身」という言葉を使いますが――がたくさんいます。狐が人間に化けているとか、擬人化した鳥がいるとか、鷺娘なんかまさにそういう作品ですね。

――サンは狐忠信(『義経千本桜』)や、胡蝶の精(『春興鏡獅子』)のような存在に近いと感じられた?

サンは、どちらかというと映画の中では本当に少女で、神格化された存在ではないと感じたんです。逆に、「化身」という存在をずっと演じてきた歌舞伎という世界で、サンという存在をより深めることができるのではないでしょうか。女方として、 少女と獣を掛け合わせたサンを創り出したい。

――「もののけ姫」は人と、人ならざるもの、そして自然が、譲れなさ、分かり合えなさを抱えながら、ぶつかり合う物語です。

作品全体に、人と人との争い、自然対人間といった壮大なテーマが潜んでいます。壮大なテーマは歌舞伎でもよく扱いますし、見えないものへの信仰や戦いといった、歌舞伎が演目の中で築いてきた精神や物事の向き合い方が、もののけ姫の世界と非常にマッチすると思います。

何度も組んできた團子と共に作品世界を描き出す

――先日SPICEは團子さんにインタビューし、 壱太郎さんと出会った頃のお話も伺いました。 製作発表記者会見で壱太郎さんは「團子さんは年上の相手役も嫌がらないでくれてありがたい」と笑い混じりにお話されていましたが、小さいころからご存じの方と、相手役として組む機会が増えたことについて、どうお感じですか。

團子くんとはここ2~3年ぐらい、たくさんいろんな作品でご一緒させていただいています。彼はおじいさま(二世市川猿翁)の理想郷を追い求めているなと感じました。これから、家の芸を確立していく立場になっていく。その中でスーパー歌舞伎は、ライフワークになっていくでしょう。そして、團子くんがスーパー歌舞伎を初めてゼロから自分で作り出すのが、この『もののけ姫』。令和に、僕らの世代、時代に合ったスーパー歌舞伎というものを、一緒に生み出していけたらと思います。

―― 壱太郎さんご自身も、上方のお家を背負っていくお立場です。スタジオジブリは三鷹にあるアニメスタジオですし、関東で生まれたスーパー歌舞伎に参加されるというのは、どういうお気持ちですか。

團子くんは澤屋という家がある、私は上方の成駒家という家にいるわけですけれども、俳優・中村壱太郎として、この作品と、サンにどのように向き合えるかが、今回のポイントだと思います。だからバックグラウンドは関係なく、横内さんの演出があり、脚本、音響、照明、すべてが『もののけ姫』という作品のためのチーム。その一員として、しっかりやりたいなと思っています。

新時代の幕開けとなる、「観ないと損」な作品を目指して

人は自然に対して無力である。
自然災害の多発する日本では、我々は常にそう感じ、その中で生き延びてきた。歌舞伎が描いてきたものの根幹には、人々の祈りや願いがある。また、壱太郎が語る通り、異形のものたちへの畏怖や自然との対峙は、歌舞伎が何百年もかけて洗練させてきたお家芸でもある。だからこそ、山根成之氏(松竹取締役副社長)が会見で「久石譲の音楽を含めた世界観を表現するには、スーパー歌舞伎こそがベストではないかと鈴木プロデューサーと相談を重ねてきた」と振り返り、この日を迎えたことに感無量とした言葉には強い説得力があった。
スーパー歌舞伎が40周年を迎える2026年、その魂の機軸を創り上げた二世猿翁の孫である團子がアシタカを勤め、これからの歌舞伎界を背負う若きスターたちが一堂に会する。その事実だけで、胸が熱くなるようなドラマがすでに始まっている。

――製作発表記者会見で、「僕らは今、冒険しているんです。新時代の幕開けとなる作品になるはずなので、観ないと損だと思わせる舞台を創り上げていきます」と語っておられました。イープラスでは貸切公演も予定されています。最後に、SPICE読者に向けて、一言をいただけますでしょうか。

SPICEさんのような媒体を通じて発信することって、歌舞伎界にとっても非常に重要だと思ってるんです。誰に届けるのか、届けた人側の目線って、演じる側にとってもすごく大事だなと僕は普段から感じています。SPICEさんの読者層は、きっと歌舞伎に、興味を持ってくれている方も多いはずですよね。

――記事をきっかけに劇場に行ったという読者もいると思います。

特に今回のスーパー歌舞伎『もののけ姫』は我々にとっても大きな挑戦です。一つの節目となる作品であり、新たなスタートにもなる作品となるはず。僕らは多分、これからずっと、一生歌舞伎をやっていきます。 これを見て、「ぜひ次も観たい」と思ってもらいたい、歌舞伎の新作や古典、僕らの創る歌舞伎を見続けてほしい。座組一同、そう願いながら創り上げ、臨む舞台になると感じています。ぜひ、劇場にお越しください。実は11月にもまた、團子くんと組んで古典を立川でやるんです。その時はぜひまた、SPICEさんで取り上げてくださいね(笑)

イープラスポーズの所作の綺麗さに惚れ惚れとしてしまうスタッフ一同

製作発表記者会見で、集まった報道陣に「こんなに熱のある記者会見は初めてかもしれません。今日初めて来たっていう方ー?」とコール&レスポンスをして、笑いをとっていた。そんな風に気さくで、舞台の、公演のために献身的な壱太郎。

一方、その女方姿は、舞台上では、寒気がするほど美しい。
彼が「女方」として生み出すサンは、舞台でどう輝くのだろうか。

取材・文=宇野なおみ 写真=山崎ユミ

公演情報

スーパー歌舞伎『もののけ姫』

スーパー歌舞伎『もののけ姫』

原作/宮﨑 駿
オリジナル音楽/久石 譲
脚本/丹羽圭子 戸部和久
演出/横内謙介
協力/スタジオジブリ
 
出演:
アシタカ/シシ神:市川團子
サン:中村壱太郎
エボシ御前:中村時蔵
ジコ坊:市川猿弥
モロの君:市川笑三郎
甲六:市川青虎
猩々:市川寿猿
ヒイさま/トキ:市川笑也
ゴンザ:市川門之助
乙事主:市川中車
 
日程:2026年7月3日(金)~8月23日(日)
会場:東京・新橋演舞場
 
料金(税込):
1等席 17,000円 / 2等A席 10,000円 / 2等 B席 6,500円
3階 A席 6,500円 / 3階 B席 3,000円 / 桟敷席 18,000円
※未就学児童は満4歳よりお一人様につき1枚切符が必要です
 
公式HP:https://mononoke-kabuki.jp/
製作:松竹株式会社
 
<イープラス貸切公演>>
7月公演: 2026年7月26日(日)16:00開演 ※予定枚数終了※
8月公演: 2026年8月15日(土)16:00開演
【手数料0円】詳細・お申込みはこちらから
https://eplus.jp/enbujo260708_kk/
 
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