ユニクロUTなど手掛けるデザイナー・河村康輔、『テート美術館-YBA & BEYOND』と振り返る90s英国カルチャーの衝撃

2026.7.22
インタビュー
アート

コーネリア・パーカー「コールド・ダーク・マター:爆発の分解イメージ」を使用した京都展のキービジュアル(左)と河村康輔

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ユニクロUTのクリエイティブ・ディレクターをつとめ、オアシス30周年の公式ロゴも手がけたグラフィックデザイナー・コラージュアーティストの河村康輔。「15年前から何度も訪れている」と語るのは、英国美術の世界的中心地・テート美術館。その名前を冠した展覧会『テート美術館YBA & BEYOND』が9月6日(日)まで、京都市京セラ美術館 新館 東山キューブにて開催中だ。今回、同展のキービジュアルやグッズデザインを手がけた河村。1990年代、世界中に大きな衝撃を与えた「YBA」をリアルタイムで見つめてきた彼に、自身が手がけたデザインの舞台裏や、展覧会の見どころをカルチャーの視点から語ってもらった。

河村康輔を形づくった英国カルチャー

――河村さんと英国カルチャーとの最初の出会いは何だったのでしょうか。

ちょうど90年代、僕が13歳(中学1年生)の時にUKパンクに出会って、そこからどっぷりイギリスの音楽が好きになったのが始まり​です。CDジャケットがカッコ良いなと思ってビジュアルの方に興味を持ちました。そこからずっとなので、イギリスカルチャーを好きになって長いですね。

――当時のイギリスのカルチャーは、決して過去のムーブメントではなく今につながっていると感じます。昨年オアシスが再結成して、河村さんもオアシス30周年のロゴを手掛けられたり、今年は『トレインスポッティング』(1996年制作のイギリス映画)が30周年記念でリバイバル上映されたりと、再注目されています。

僕自身も昨年あたりから、その流れを強く感じています。ファッションの流れもそうだし、カルチャーの潮流がアメリカからイギリスへ移りつつある感覚があります。

――そうした時代の空気は、作品づくりにも影響していますか?

時代の流れを意識してはいませんが、無意識の中で少なからず影響はあると思います。自分もずっと同じことをするのが得意じゃないので、その都度自分の中で流行っているものを表現の中に入れたりします。今回の展覧会もオアシスのロゴの時も、特別に英国らしさを意識することなくサラッとできたので、そういう流れが自分の中でも来ているんだろうなと感じています。

――そんな90年代の英国で誕生し、世界中に大きな衝撃を与えた「YBA(ヤング・ブリティッシュ・アーティスト)」。彼らの作品は、社会風刺や反骨精神を感じさせる実験的なものが多い印象です。河村さんご自身にも、そうした反骨精神はありますか?

未だにパンクなものが好きなので、ベースには常にその感覚が残っています。だから今もシュレッダー作品を作り続けているのだと思います(笑)。

――8月6日(木)に広島・BLUE LIVE HIROSHIMAで行われる『To future gig & BFS - EXTRA 反戦 -ロックとアート-』に参加されるそうですが、パンク精神と通ずるものを感じました。

出身が広島で、子どもの頃からずっとそれに近いことをやってきたので、自分では特別な活動だとも思っていません。完全にライフワークですね。反戦というより、「戦争嫌だよね、死にたくないよね」ぐらいの、自分にとっては当たり前の話なんです。​戦争は良くないことだし、啓発活動は誰かがやらないといけないですから。昔からやっていますが、特にここ10年は色々な形で取り組んでいます。イベントや展示用に作った作品は、報酬を戴かずに毎回広島に寄付しています。去年は広島県大竹市の下瀬美術館で反戦をテーマにした個展(『被爆80年特別企画 HIROSHIMA2045 過去と現在を未来に繋ぐ』2025年7月〜9月)を開催しました。自分の名前を出すことによって見てくれる人が昔より増えてきたので、少しでも多くの人に届けばと思っています。 

――素晴らしい活動ですね。90年代の英国カルチャーは音楽以外にも、映画、漫画など、リアルタイムで追っていたのでしょうか。

リアルタイムで追っていましたね。音楽で言うとちょうどオアシス、ブラー、雑誌で言うと『i-D magazine』(ロンドンを代表するファッションカルチャー誌)などから無意識のうちに影響を受けていた部分もあります。90年代のカルチャーには、今も強く惹かれます。

東京での『i-D magazine』の展示

――東京展では『i-D magazine』の展示もされていたそうですね。

そうですね。懐かしくもあり、自分でも持っているものがあったので、「これが出るんだ」とも思いました。

ロゴデザインに込めた意味と思い

――同展はYBAを、同時代のアーティストも含めて包括的に紹介しています。テート美術館の所蔵品が多く展示されていますが、河村さんは同館に行かれたことはありますか?

何度も行っています。最初に行ったのは15年ぐらい前ですかね。ロンドンに行くたびに必ず足を運んでいます。テートに収蔵されている作品は元々好きなものが多く、ゲルハルト・リヒターの本物を観れたことは、未だにすごく印象に残ってますね。

――思い入れのある美術館なのですね。同展のキービジュアルとロゴデザインのオファーを受けた際のお気持ちはいかがでしたか?

もともとYBAと呼ばれる作家には好きな作家が多く、こんなに大きな規模でYBAのまとまった展覧会が日本で観られるとは思っていなかったので、お話をいただいた時はすごく嬉しかったですね。自分の活動の中でも、とても光栄な仕事でした。

ジュリアン・オピー「ゲイリー、ポップスター」を使った東京展キービジュアル

――デザインのポイントは?

まず重視したのは視認性です。あとはいろんな作家が関わる展示なので、何かのイメージに振るということをしないようにしました。でもちゃんとデザインされていること、イギリスらしい洗練された雰囲気を出すことは意識しました。フォントも複数の種類を使い分けて作り、かなりの数のデザイン案をご提案しました。その中から選んでいただいたものをブラッシュアップしていきました。

――今回、河村さんの代名詞でもあるシュレッダーをビジュアルに使われなかったのは、作家の作品があるからですか?

もともとはコラージュより先にグラフィックデザインの仕事をしていたので、結構ちゃんと自分の中で住み分けをしているんです。今回はあくまでグラフィックデザインとしてお仕事を受けているので、クライアントの意図をどう伝えるかがメイン。自分の手法を使う必要はないので、そういう表現は今回は入れていません。 

撮影=ハヤシマコ

――グラフィックデザインとして、手応えはありますか?

うまくハマったなと思います。ロゴは他のグッズにも使われるので、そこに作家性が出すぎるとどちらがメインかわからなくなる。でも東京展でグッズを見た時、「他のものを壊さず、ちゃんとYBAがわかるロゴになって良かったな」と思ったので、自分としても納得のいく仕事になりました。

ヴォルフガング・ティルマンス「ザ・コック(キス)」を使用した東京展のキービジュアル

――ロゴは印象的なキービジュアルにも使われています。東京展がヴォルフガング・ティルマンスの「ザ・コック(キス)」(2002年)、京都展がコーネリア・パーカーの「コールド・ダーク・マター:爆発の分解イメージ」(1991年)、そしてジュリアン・オピー「ゲイリー、ポップスター」(1998-99年)の作品と組み合わせて作られています。

どうしてもロゴ以外の文字が多くなってくるので、作品とロゴ、文字のバランスをどう取るかをすごく気を付けて作っていました。

スカーフ

――文字組にもかなりこだわりが感じられます。スカーフなどの円型のデザインには、57組の作家の名前がアルファベット順に並び、さらにアルファベットの頭文字別に異なるフォントが使われています。

全部で50人以上の作家名を入れようとなった時に、文字数が多いのでどうしようと考えました。本当はティルマンスを大きくしたり、有名な作家を目立たせたりもできるのですが、全体的にフラットにやらないといけないので強弱がつけられない。ロゴの下に作家名を並べるだけでも成立しますが、「もう少し何かしたいな」と思って。クレジット表記みたいになってしまうのでブロックは避けたいなと思い、ランダムな配置など、さまざまなパターンを試しましたでもランダムにやりすぎるとアメリカ的なデザインに見えてしまって、イギリスという洗練されたヨーロッパ的なデザインにどう持っていこうかなと試行錯誤しました。本当は螺旋状にしたくて、試しに1回やってみたらまとまりがなく見えたので、最終的には円を重ねる構成に落ち着きました。自分の中ではレコードの盤面みたいなイメージで作りました。フォントを変えないと単調に見えるし、文字が多すぎると、特に英語表記だと日本人は視覚的に入ってこなくなる。それをなくすために、単調にならないように、フォントだけ変える方法で作りました。

――京都展で販売中の「河村康輔 デザイン YBA & BEYOND 収納ケース入りエコバッグ」はケースが丸型ですが、事前に聞いていたのですか?

言われてなかったかな。後から綺麗な丸いケースにハマっていたので、「さすが」と思いました。合うものを探してくれたんですよね。逆に丸にして良かったなと。それこそ丸くおさまってくれた(笑)。自分的にはすごく満足しました。フォントが違うと強弱が付くので、あまり読めていなくても目に入ってくる。そこで「あ、この作家もいるんだ」と、1人でも知ってる作家に目がいくといいなと思って。かなり試行錯誤しました(笑)。

YBAの輪郭が解像度高く実感できた

――ちなみに河村さんが同展で1番好きな作品は?

フランシス・ベーコンの「1944年のトリプティク(三幅対)の第2ヴァージョン​」(1988年)ですね。元々ベーコンが大好きなので、1発目にあのサイズでベーコンを観ることができて、自分的にはあれだけで本当にお腹いっぱいになるぐらい感動しました。今回デザインをする時、出展作品としてフライヤーで使う写真をもらっていたのですが、ちゃんと現物で観るとやっぱりすごいパワーだなと思って。

――冒頭に置かれている構成も印象的でした。

今回の展覧会は、作品同士のつながりがとても丁寧に示されていると感じました。初心者向けすぎない良いバランスというか、うまく組んであるなと思いました。普通、いろんな方面にわかりやすくしすぎると「何年にこの人で始まって、次がこの人でこの人」という感じで説明的になるじゃないですか。この展覧会はそうではなく、でもちゃんとベーコンという1番重要なスタートから始まって、ダミアン・ハーストがきてと、綺麗な流れがうまく動線上に作られていた。東京展ではその次にワンクッションとして、90年代の関わりがあるCDや雑誌も展示されていましたよね。「美術館で開催するアートの展覧会」というと、すごく昔の人のものを観ている感じになると思うのですが、僕はその展示があることで、一気に身近に感じることができました。同時代を生きている感覚がすごくあった。それもすごく良かったです。

――30年前というと、それほど遠い時代ではありませんよね。

そもそも古いものとして認識していなかったので、あそこですごくリアルに「ああそっか。これ同時代なんだよな」という面白い見方ができました。

――今回フランシス・ベーコンは亡くなられていますが、現役のアーティストも多いのが特徴的ですよね。

そうですよね。CDジャケットや雑誌といった商業的なものに使われているけど、美術館でちゃんとした美術品として展示されていつつ、カルチャーとしてもうまいバランスで混ざっていて、言葉だけでは掴みきれなかったYBAの輪郭がわかった感じがしますね。

『テート美術館 ー YBA&BEYOND 世界を変えた90s英国アート』京都市京セラ美術館、2026年、展示風景 撮影=ハヤシマコ

――「美術館は少しハードルが高い」と感じている人には、どんな言葉をかけますか?

「面白いよ」しかないですね(笑)。でもシンプルに「これだけYBAの作品がまとまって観れる機会はないから、今のうちに観といた方がいいよ」と勧めています。正直こんなに大きい規模感でやると思ってなかったですから、現場を観てビックリしましたね。作品数も多く、展示のための契約、保険とかやっていくと相当な費用がかかっているはずです。1人のアーティストでも超大変なはずなのに、いくらテートが間に入っていても結局作家は個人なので、これだけの作家数の作品をよくまとめて持ってこれたなと。 正直それが1番すごいなと思いましたね。

コーネリア・パーカー「コールド・ダーク・マター:爆発の分解イメージ」1991年 テート美術館蔵 撮影=ハヤシマコ

――私もコーネリア・パーカーの「コールド・ダーク・マター:爆発の分解イメージ」(1991年)は、移動はどうしてるんだろうと思いました。

そうそう。「どうやったんだろう」と思う作品が本当に多くて。

【展覧会スタッフ】「コールド・ダーク・マター:爆発の分解イメージ」は、1,000点を超えるパーツを一本一本ワイヤーに取り付け、全体のバランスを見ながら角度や高さを細かく調整して完成させます。 

――となると、本当に貴重な機会ですね。

すごい。観た時は空輸なのかなと思って。にしては家1個運ぶぐらいのサイズだからどうやってるんだろうと思ったけど、めっちゃ大変なんだ。やはり日本で見られる機会は二度とないのではと思います。東京で観れなかった人は、ほんとに京都に行く価値があると思います。見逃して「後で観たい」となった時に、イギリスまで行かなきゃいけなくなるよと。今は航空券もホテルも高いから、テートに行くとなると京都に30回行っといた方が安かったかも、みたいな話になってくる(笑)。だからこそ、今のうちに観てほしい展覧会です。

取材・文=久保田瑛理

イベント情報

『テート美術館 ― YBA & BEYOND 世界を変えた90s英国アート』
会期:2026年6月3日(水)〜9月6日(日)
開場時間:10:00〜18:00(入場は閉場30分前まで)
休館日:月曜日(祝日の場合は開館)
会場:京都市京セラ美術館 新館 東山キューブ
入場料金(税込):一般2,300円、大学生1,500円、高校生900円
※中学生以下入場無料(未就学児は要保護者同伴)
※団体料金は20名以上
※専門学生は大学生料金で入場可能
※学生料金でご入場の方は学生証のご提示をお願いいたします。(小学生を除く)
※障害者手帳等をご提示の方は本人及び介護者1名無料(障害者手帳等確認できるものをご持参ください)
主催:テート美術館、ソニー・ミュージックエンタテインメント、ABCテレビ、キョードーエンタテインメント、京都新聞、FM802/FM COCOLO、京都市
協賛:バーバリー
協力:日本航空、ヤマト運輸
後援:ブリティッシュ・カウンシル
公式ホームページ:https://www.ybabeyond.jp/
お問い合わせ(京都会場のみ):京都市京セラ美術館 075-771-4334
X:@ybabeyond
Instagram:@ybabeyond
Facebook:@ybabeyon
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