東京バレエ団 ブルメイステル版『白鳥の湖』稽古&会見レポ
東京バレエ団 ブルメイステル版『白鳥の湖』 記者懇親会より 撮影=引地信彦
東京バレエ団の『白鳥の湖』が新しく生まれ変わる。長らく定番のレパートリーとして上演が続けられてきたアレクサンドル・ゴールスキーの演出・振付版を、よりドラマティックで演劇的な要素の強い、ウラジーミル・ブルメイステルによる演出・振付版(1953年初演)に変え、斎藤友佳理新芸術監督のもと入念な準備が進められている。「芸術監督のオファーを受けたとき、真っ先に考えたことが『白鳥の湖』をつくりかえることでした」と語る斎藤。招聘指導者たちの丁寧な指導のもと、目黒の東京バレエ団のスタジオでは熱い稽古が進められていた(1月15日)。
稽古風景より 渡辺理恵・秋元康臣 撮影=引地信彦
主演のトリプルキャストはいずれも注目度が高いスターと若手ホープが並ぶ。2幕の情景シーンでは、オデット/渡辺理恵、ジークフリート/秋元康臣のカップルが抒情的でロマンティックな演技を見せた。渡辺のアームスの美しさはまさに「理想の白鳥」で、可憐な表情と真っすぐな足にも正統派の風格があり、彼女だけのパーソナルな個性も感じられる。王子役の秋元は気品と包容力に恵まれ、サポートにも安定感がある。長年ロシアでバレエを学んだ秋元が、指導者たちと流暢なロシア語でコミュニケーションを取っている様子にたのもしさを感じた。
稽古風景より 上野水香・柄本弾 撮影=引地信彦
ブルメイステル版で最もユニークなシークエンスである3幕では、オディール/上野水香、ジークフリート/柄本弾が登場。ロッドバルトの木村和夫が加わると、稽古とはいえまさに東京バレエ団のオールスターという趣になる。上野の無駄のない研ぎ澄まされた動き、夢のようなプロポーション、華麗な表情には見事な求心力があり、花火のような黒鳥オディールの魅力が炸裂した。(定番のグランフェッテも全く違う音楽によって回転する)。柄本も誘惑に溺れる繊細な王子を情熱的な表情で踊った。ブルメイステル版では、悪はオディールとロットバルトだけではなく、キャラクターダンスも、王子を陥れるための誘惑として演じられる。ソリストもコールドも真剣で、高度な振付が次から次へと続いていく。技術的にも体力的にも過酷な幕だが、監督やバレエミストレスから飛んでくる厳しい言葉を受け止めながら、全員が誠実に取り組んでいたのが印象的だった。
稽古風景より 川島麻実子・岸本秀雄 撮影=引地信彦
記者懇親会には、主役3組(上記の2組に加え川島麻実子&岸本秀雄)、斎藤友佳理芸術監督、招聘指導者のニコライ・フョードロフ、マルガリータ・ルアノが登壇。稽古場での熱気さめやらぬ雰囲気の中、新しい「白鳥」への想いが語られた。
「今日皆さんに見ていただいた稽古が今の私たちの全てです。東京バレエ団はシルヴィ・ギエムさんの最後の舞台で共演し、その重大な責任は12/31まで続きました。そのツアーでフォーサイスとキリアンの新しいレパートリーを上演したことは大きな宝になっています。少しずつ作り上げていくべき『白鳥』を限られた時間の中で完成していくのは大変ですが、あと3か月、4か月あったとしても「もうあと半年あれば…」と思うでしょう。(斎藤友佳理監督)
モスクワでブルメイステル版を踊り、今回キャラクター・ダンスの指導者として来日したルアノ氏は、「ブルメイステル版は3幕に最も美しくて難解なシーンがあります。すべての踊りには目的があり、王子の意識を狂わせ、羽根を渡させること(悪魔に忠誠を誓わせること)に向かっているのです。踊りの魂の部分を理解するには、大変難しいバレエですが、熱心に取り組んでいるソリストとコールドの皆さんにはありがとうと伝えたいです」と語る。
プリンシパルの指導に当たるニコライ・フョードロフ氏は、ボリショイのプリンシパルとして活躍した名ダンサー。斎藤監督の夫君でもあり「妻が芸術監督をつとめる作品で、喧嘩して離婚にならなければいいのですが」と場をやわらげたあと「一番難しいのは、踊りの美しさを教え込むことです。この作品の上演の成功は、心の部分と大きな関係があるんです。それぞれの王子が、観客に向かって自分の言葉を語り、それを聞いてもらうことができるように…。そのための助けをしたいんです」と温かく語った。
主役バレリーナたちからは「今までなぜ王子は簡単に白と黒を間違えるんだう…?と毎回疑問でしたが、この版には説得力があります」「オデットへの理解がより深まりました」という言葉も。
東京バレエ団の花形スターとして多くの忘れがたい名作を踊ってきた斎藤監督は、団員たちをつねに母のような目で見つめ、心からの愛情をもって後輩プリマたちに「命」を分け与えていたように見えたのも、胸が熱くなった。装置はブルメイステル版をレパートリーとするミラノ・スカラ座からのレンタルも選択にあったが、斎藤監督みずからがオリジナルの新制作を希望。まったく新しい東京バレエ団だけの美術が準備されている。
大きな情熱と夢が詰まった、東京バレエ団のブルメイステル版『白鳥の湖』。日本のバレエ上演史の中でも、重要なエポックメイキングとなる舞台となるはずだ。
■日時:16/2/5(金)~16/2/7(日)
■会場:東京文化会館大ホール (東京都)
■出演:
2016/2/5(金)6:30PM オデット/オディール:上野水香、ジークフリート王子:柄本弾
2016/2/6(土)2:00PM オデット/オディール:渡辺理恵、ジークフリート王子:秋元康臣
2016/2/7(日)2:00PM オデット/オディール:川島麻実子、ジークフリート王子:岸本秀雄
■公式サイト:http://www.nbs.or.jp/stages/2015/swan/index.html