高橋一生が野田秀樹の戦慄の4人芝居『THE BEE』(原作 筒井康隆「毟りあい」)で本多劇場に出演
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高橋一生 写真=池上夢貢
『フェイクスピア』(2021年)、『兎、波を走る』(2023年)で繊細かつ圧倒的な表現力と存在感を発揮した高橋一生が、3年ぶりにNODA・MAP作品に出演する。今回は、少人数&小空間による番外公演。それも、野田秀樹が筒井康隆の小説『毟りあい』を原作に英国人俳優と創作してロンドンで初演し、キャストや演出を変えつつ国内でも4度上演してきた『THE BEE』を、下北沢・本多劇場で上演するのだ。高橋が演じるのは、脱獄囚に妻子を人質にとられたことから暴走していくサラリーマン・井戸。報復の連鎖を描く戦慄の4人芝居に挑む、その心境は?
■野田秀樹との3度目のタッグ——台本を読む前に出演を決めた理由
――まずは出演のいきさつからお伺いします。『THE BEE』への出演オファーがあったのは、いつ頃ですか?
野田さんには『兎、波を走る』をやっている時から「やろうよ」と言われていました。それで僕は「はい」と答えたんですけれど、いつやるのかとか、場所をどうするのかについては、まだ決まっていなかったみたいで、そのままになっていて。結構前のことなので、あまり覚えてはいないんですが、正式にお話をいただいたのは『兎~』の公演が全部終わった後だったと思います。
――台本を読む前に引き受けたのですね。
そうですね。野田さんとだったらタイミングが合いさえすれば、ぜひと。野田さんとは既に2回ご一緒しているわけですし、話の内容については、前に(NODA・MAPの)プロデューサーの方からお聞きしていて大体わかっていたので。
――台本を読んで、どんな印象を持たれましたか?
野田さんがこれを上演し続けていることの面白さのようなものは、なんとなく感じました。僕は、人間って不定形な存在だと思っているんです。場所や(対する)人によって変わる“曖昧さ”とか、そのスイッチが家族とか身近な存在になると、人ってこうなっちゃうんだろうなということが描かれていて、暴力性云々ということよりも「これが人ですよね」と感じました。人が敵とみなすものは何なのか?とか、そういうところも含めて、野田さんがこの作品を書いた当時感じていたことは、ある意味、普遍的なことじゃないかなと思います。
もちろん、自分がやらせていただくんだったら…ということも頭に置いて読んだんですけれども、勝手なもので、そうすると途端に色付き始めるというか、「お、そっか、面白そうだな」と思いました。職業病みたいなところがあって、自分がやらないものには興味がないんですけれど、やるとなると俄然興味が出てくるんです(笑)。
――一生さんの頭の中にどんな映像が浮かんでいるのか、興味津々です。日本版では、これまで野田さんと阿部サダヲさんが井戸を演じていますが、一生さんはどちらも未見だとか?
はい。ただ実は、これまでそういうことをあまりしたことがなかったんですけれど、この間薄目で見たんですよ。野田さんが井戸を演じているほうを映像で。
――薄目で見ていらしたとは(笑)。どうでしたか?
影響を受けると怖いからとこれまで見ないでいた節もあったんですけれど、「これは影響を受けない、人が違うからもう絶対に変わるよな」という感じでした。最初はちょっと離れた位置から、他のことをやったり思ったりしながら、なんとなく薄目で見ていたんですけれど、途中から普通にずっと見てしまいました。
■井戸の暴走と“人間”への圧倒的な共感
――家族を人質に取られているとはいえ、過激に暴走していく井戸はなかなか共感しづらい役ではないですか?
人間、生きていれば井戸のようになりかけることって、実は結構あるんじゃないかと思うんです。やるかやらないかは大きな違いだけれど、それをひょいと飛び越えてしまう瞬間があったら、人はそうなってしまうんじゃないかなと僕は思う。ただ、それは俳優という職業病かもしれないです。共感できない人などいないと思っているので。
――今この作品を上演する意味については、どんなふうに感じていますか?
わからないですね、それは。そもそも僕は、その作品が世の中に及ぼす影響などに期待してないですから。何も変わっていないじゃないですか。むしろ世の中、全世界的に見ると悪くなるばかりで。
――観客一人一人の心の中では、何かしら変わっているかもしれません。
そうは言っても、やっぱり大きなうねりには抗えないというか、人は行くところまで行かないと、気付けないんじゃないですかね。そんな中で、作品が伝えられるものに自分の何かを乗せるなんて、おこがましいですし、そもそも僕は、作品のテーマ性をあまり意識してないんです。まあ、逃げ込みですよね(苦笑)。もちろん、自分の半径5メートル以内ぐらいにいる人の幸せについては考えられるし、何か影響することもあるかもしれませんが。
■「生身でやる演劇」が持つレアな価値と希望
――ただ、演劇は目の前で起こっていることですよね。
はい。結局それが残っていくと思うんです。たとえば、そのうち僕ら俳優の顔は版権になると思うんです。AIでイチから顔を生成すると集客が限られるから、俳優の顔を買い取って「これで作らせてください」なんてことになるだろうなと。そうすると、俳優の価値ってどこにあるか?という話になってくるんですが、それはそれで一つの道としては面白い。でも人間はわがままなので、最先端なものの対極の存在として、肌身を感じて間違いもする超アナログな世界に最終的に戻ってくるような気がしていて。そういう意味では、お芝居の分野において、演劇はとてもレアなものとして残っていくんじゃないでしょうか。そこは唯一希望なのかもしれないです。
――まさに両極の世界ですね。
そういう意味では、僕は年代的には非常にいい時期にいるなと思います。まだ体は動くし、過渡期というか、移り変わりの時期にちょうど生きているので。世の中がいよいよ本格的に変わり始めた起点と終わっていくところを見ていける、僕らの世代っていいよねって、よく友人とも話してます。その時期に舞台をやれるというのは、ありがたいことだし、面白いですよね。しかも本多劇場で4人でやれるわけですから。
――本多劇場に出演されるのは、『漂う電球』(2006年)、『窓』(2010年)、『Like Dorothy ライクドロシー』(2013年)以来でしょうか。
そうですね。いろいろ経験して来て、13年ぶりにやらせていただけるので楽しみです。僕自身は特に何も変わっていなくて、劇場の大きさの違いなども特に意識はしていないんですけれど。というか、僕は客席との距離感とか、あんまりわかってないのかもしれない。どの劇場でやっても、声とか芝居の何かを変えているという感覚がないので。でも、下北沢の街はめちゃくちゃ変わりましたよね。この間ちょっと歩いてみたら、かつてよく行ってた店がほとんどなくて、ちょっと悲しかったです。そんな中、変わらず本多劇場があって、そこで少人数のお芝居を自分がやれるということが、本当にありがたいです。
■手放しで「好き」と言える野田秀樹の現場で挑む、唯一無二の“井戸”
――共演なさるのは、NODA・MAP自体初参加の二階堂ふみさんと、前回の『THE BEE』から続投の河内大河さん、川平慈英さんです。お三方の印象は?
皆さん、ほとんど存じ上げないんですよ。慈英さんは、『フェイクスピア』でご一緒しましたけれど、お芝居での会話が大半でした。でも、明るく陽気で大人な慈英さんがいてくださって、とても安心しています。どうなるのかまだわからないですけれど、野田さんが選んだメンバーなので、楽しいんじゃないかなと思います。
――野田さんは一生さんにとって、どんな存在ですか?
僕は野田さんの全てを知ってるわけではないですし、野田さんの本質的なものに触れられているのかどうかも全くわからないです。ただ、僕は野田さんがすごく好きなんだと思うんですよね。そういう人って、僕には数えるほどしかいないんですけれど、お芝居をつくっていくにあたって日常的に話すことや、その作品に携わっている時間に話すことがすごく楽しい。作品の内容は後付けでしかなくて、もちろん、後から出てくる結果や評価もどうでもいい。純粋に「一緒にやって面白い」ということを体感できる人。そういう人には手放しで、どうされようが別にいいやと思えるんです。
――11月からの公演が、ますます楽しみになりました。野田さんや阿部さんの井戸とは、また全く違う怖さを持った井戸に震撼させられそうです。
どうでしょうね。ただ、最近気が付いたんですけれど、ここ10年くらいの間に出演したほぼ全ての作品に、僕が走る描写があるんですよ。皆さん、僕を走らせたいみたいで(笑)。野田さんにもきっと、「一生にこういうことをやらせたい」というのがあるんだろうなと思います。もちろん、それをどう表現できるかはやってみないとわからないですし、それを見て野田さんがどう思うかもわからない。でも、僕にとっては野田さんの評価が全てなので、野田さんが「やっぱり一生じゃなくてもよかったかな」と言うのは聞きたくないなと思っています。
取材・文=岡崎香 写真=池上夢貢
スタイリスト=Toshio Takeda(MILD)
ヘアメイク =小坂美由紀(MARVEE)
作品について
公演情報
NODA・MAP番外公演
#THEBEE
企画・製作/主催|NODA・MAP
公演に関するお問合せ|NODA・MAP 03-6802-6681(平日11時~19時)