松本大(Enfants)からサイトウタクヤ(w.o.d.)へーーバトンとアコギが渡され、佐々木亮介(a flood of circle)、ヤマトパンクス(PK shampoo)と歌い繋いだ『FM802弾き語り部-部長引き継ぎ式-』
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『FM802弾き語り部 -部長引き継ぎ式-』2026.8.19(WED)大阪・心斎橋Music Club JANUS
大阪のラジオ局FM802に『弾き語り部』が発足したのが2017年。部結成の言い出しっぺであり、発足から9年にわたって部長を務めた松本大(Enfants)が、このたび同部を卒業。後継者であるサイトウタクヤ(w.o.d.)へバトンを渡す、『FM802弾き語り部-部長引き継ぎ式-』と題したライブが8月19日(水)大阪・心斎橋JANUSで開催された。
ご存知ない方のために。そもそもこの弾き語り部誕生のキッカケは、「802にゲストで出演させてもらう時に、絶対弾き語りをやらされる(笑)。だったら部活にしたらどうですか?」と松本大自身が提案し、FM802のエライ方にみずから掛け合って発足に至ったという。部が発足した時と現在では、松本自身の志す音楽やバンドが変わってきていることも部長交代の理由なのだという。今回の出演は、松本大の他に、2017年の弾き語り部初回に出演した佐々木亮介(a flood of circle)、二代目部長のサイトウタクヤ(w.o.d.)、そして新入部員のヤマトパンクス(PK shampoo)の計4組。進行は、弾き語り部宣伝係のDJ 飯室大吾。
佐々木亮介
1曲目「Honey Moon Song」の冒頭、ギターをかき鳴らし「暴力反対」、「戦争反対」、他にも2026年8月半ばの今だからこそ吐き出したいことを、マイクがなくてもOKなのではと思わせるよく通る声で叫ぶ。それはa flood of circleファンにはおなじみ。だが、バンドじゃなく弾き語りだからこそ声の生々しさが際立ち、和やかだった会場の空気がわずかに張り詰める。そんなふうにグッと観客を引き込んだまま、「だからまだ音楽がある」と口にし、「Honey Moon Song」が始まった。その流れに、表現者・佐々木亮介の強度を見せつけられる思いがした。友人の結婚式のために作った曲を源とする楽曲で、2017年に発売。弾き語り部発足の年だ。たぶん佐々木本人は意識していないだろうけれど。
続く「理由なき反抗(The Rebel Age)」では佐々木に促され、客席は手拍子とシンガロング。場内の空気はすっかりゆるんで楽しげ。恐るべし佐々木の掌握力。「卒業、入部、素敵な学園生活。そういうものに恨みがあるすべての人に乾杯」と笑いを振る舞い、「くたばれマイダーリン」「ひとさらい」そして「Moon River」のカバーはロマンチックに。最後に「ロックンロール」を一節歌い始めたところでスマホの電源が切れ、「歌詞がわからない」。うろ覚えで歌うかと思いきや、「時間ないわ、また会いましょう!」とアッサリ終わりを告げる。「え?」「え?」と笑いと戸惑いでざわつきまくる客席に向かって、「今やろうとした『ロックンロール』、いい曲なんで!」と颯爽とステージを去っていった。
ヤマトパンクス
ビールを手に登場したヤマトパンクスは、「名前の通り普段はパンクバンドみたいな歌を歌ってて、僕は大阪出身で関西の地名が入った曲がたくさんあるからいくつか歌います」とまずは自己紹介。そして「二条駅」からスタート。初めて彼の歌に触れた人は、さっきまでの喋りのテンションと、美しいファルセットと今にもこぼれ出しそうな情感が炸裂する歌声のギャップに驚いたんじゃないだろうか。
「思いつきなんで歌えるかどうかわかんないんですが」と前置きし、去り行く松本に捧げる尾崎豊の「卒業」を歌詞をしっかり目で追いながら歌う。サビで客席に視線を向け「一緒に!」と呼びかけるも、客席からは”歌えるかい!”とツッコむような笑いが返る。ステージ袖で見ているであろう松本に「おめでとう」と呼びかけ、「2番歌うんかい」と自分でツッコミながら長尺曲を歌い上げた。
二代目部長のサイトウとは同い年で同期。この日もサイトウにもらったブレスレットを身につけ、さらにツアー先では、夜中に酔ったサイトウから何度もビデオ通話がかかってきたというエピソードを披露する。そんなトークで笑わせた後、「もう引っ込みたいんですが」と言いながら「君が望む永遠」「学生街全能幻想」、最後は「神崎川」を聴かせる。彼の歌声が持つ、夜露に濡れたような湿り気と人間くささ。それらが、夕方5時の海まで続く坂道へ、酒と不安と退屈でむせ返りそうな学生街へ、天の川の下の神崎川へ聴き手を一瞬にして連れ去っていく。そんな心地良い時間と、飽きることのないトークが今後も弾き語り部で楽しめることを期待する。
サイトウタクヤ
「やりましょうか」という何気ない一声から一転、始まった「喜劇」は鋭く切り裂くような歌声がたちまちに聴き手をとらえる。その余韻も冷めないうちに、リバーブ深めで缶ビールをプシュッと開ける。PK shampooのライブでヤマトパンクスがいつもやるアレだ。一番手の佐々木亮介のステージにヤマトパンクスがビビり散らかしていた、と舞台裏をバラしながらも、「大笑いとっててさすが、よかったですよね。ありがとう」とストレートに感謝の思いを述べるあたりはすでに部長の佇まいだ。
客席に向かって「w.o.d.の曲知ってる人?」と呼びかけ、たくさんの手が上がったのを見ると「やったぜ」と顔を輝かせ、「恥ずかしいと思うけどよかったら頭のところだけでも歌って」と「オレンジ」へ。オープニングの「喜劇」とは180度印象の違う柔らかくまっすぐな歌声。その歌声に照明が明るく降り注ぐさまは、これから進む道が拓けていくことを示しているように映った。
「こう見えてキャプテンとか部長をちゃんとやってきたタイプ」と言い、「みんなに支えられるタイプの、周りが頑張るタイプの部長ならやります。と言って部長をやることになった」と明かし、なんと本日の全出演者の曲をカバー。PK shampooの「奇跡」、a flood of circleの「虫けらの詩」、そしてEnfantsの「Midnight Yellow」。盛大な拍手と歓声に「これから部長頑張ります!」と最後は「1994」を。鋭い歌声に時折少年のような晴れやかさが覗く「1994」。夏の終わりが近づいたこの時にぴったりのナンバーが豊かに鳴り響いた。
松本大
「部長として最後のステージだと思うと感慨深い」と飯室に促され、「Enfants松本大さん」とサイトウに紹介されたわずか数秒後。「もしも明日世界が終わるとしたら」と、たっぷりと余白をとったギターに乗せ「天国に生まれた僕ら」が聴こえ始める。たとえの話をしているようで、いつのまにか自分の内側を切々と歌声でつづり、そのまま「洗脳」へ途切れることなく曲がつながる。歌声と控えめなギター以外、場内は一切音を失ったかと錯覚するほど。子守唄のようにも感じる柔らかなメロディーに乗った歌は、クライマックスに差し掛かるにつれ切実さを募らせてゆく。
「来てくれてありがとうございます。楽しんでますでしょうか?」と最後まで部長としての心配りも忘れない。「サイトウくんはまっすぐな歌うたいで、彼が部長になってまた質感が変わっていくのが楽しみ」とし、「この先もし弾き語り部に俺が出てくることがあったら裏ボスの顔してなきゃいけない。誰よりも売れなきゃいけないって宿命を背負って弾き語り部を去っていく」と自虐っぽいMCを挟み、「卒業する日に歌う曲ではないような気がするけど、これだけは歌って帰ろうみたいな気持ち」とカバーを2曲披露。
聴かせてくれたのは、荒井由実の「卒業写真」とMr.Childrenの「終わりなき旅」。なんと贅沢な。「卒業写真」では、照れ隠しのように曲中に一言、二言はさんだものの、”青春そのもの”という歌詞のフレーズに、弾き語り部部長だった9年間の日々を重ねているように聴こえた。それは「終わりなき旅」も同様で、慣れた場所を旅立って自分を探し続ける旅はどこまでも続いていく、そんな思いを乗せて歌っているようで、客席も噛み締めるように聴き入っている。
「『弾き語り部』って、自分よりもずっと有名な人が来てくれて、その中で”部長”って肩書きがしんどい時ももちろんあって」と打ち明けながらも、「そういう経験も含め俺はめちゃくちゃ強くなった。弾き語り部は自分を大きくしてくれた場所」と位置付ける。これからの弾き語り部に拍手をと呼びかけ、最後は「Autopilot」。どの曲もEnfantsの演奏で聴く時とはまた違った染み入り方がした。最後にそんなことをしてくるとは。
出番を終えた松本が呼び込む形で、4人全員がステージに登場し、最後は全員で卒業ソング、また合唱曲の定番である「旅立ちの日に」を披露。この曲を提案したのは松本で、この曲を知らない佐々木はギターに徹し、サイトウとヤマトは朗々と歌声を響かせる。さっきまでステージで叫ぶような、切り裂くような歌声を披露していた面々の精一杯の合唱と、マイクを向けられた客席からの歌声が重なり、会場はなんとも幸福な空間に。
続いて松本からサイトウへ、弾き語り部所蔵のアコギの贈呈式が行われた。これは、「802はあまりにも強制的に弾き語りをやらせるから(笑)」(松本)という理由で、松本が昔使っていたギターを802に寄贈したもの。松本自身も弾き語り部の活動(ライブ)の際、手ぶらでやってきてこのギターを使ったことがあるという。
「当初はギターの音が気に入らないからって理由もあって寄贈したんだけど、ほぼ10年経って結構いい音になってきた(笑)」(松本)
「ギターって時間が経つと良い音がしますよね。使わせていただきます。ありがとうございます!」(サイトウ)
そんななんとも微笑ましいシーンで『FM802弾き語り部-部長引き継ぎ式-』は幕を下ろした。新部長のもと、FM802弾き語り部が今後どんな活動を展開してゆくのか、続報を楽しみに待ちたい。
取材・文=梶原有紀子 写真=FM802提供(撮影:渡邉一生)
セットリスト
2026.8.19(WED)大阪・心斎橋Music Club JANUS
佐々木亮介
1.Honey Moon Song
2.理由なき反抗(The Rebel Age)
3.くたばれマイダーリン
4.ひとさらい
5.Moon River
ヤマトパンクス
1.二条駅
2.卒業(尾崎豊)
3.君が望む永遠
4.学生街全能幻想
5.神崎川
サイトウタクヤ
1.喜劇
2.オレンジ
3.奇跡(PK shampoo Cover)
4.虫けらの詩(a flood of circle Cover)
5.Midnight Yellow(Enfants Cover)
6.1994
松本大
1.天国に生まれた僕ら
2.洗脳
3.卒業写真(荒井由実)
4.終わりなき旅(Mr.Children)
5.Autopilot
EN.旅立ちの日に