ゲシュタルト乙女がアルバム『働くこと、休むこと。』に込めた「誰かに寄り添う思い」――台湾のルーツ、日本語で紡ぐ日常、そして10年の軌跡を語る

インタビュー
音楽
17:00
ゲシュタルト乙女 Mikan Hayashi 撮影=Norico Uemura

ゲシュタルト乙女 Mikan Hayashi 撮影=Norico Uemura

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台湾発の日本語で歌うバンドであるゲシュタルト乙女。台湾と日本を行き来しながら、10周年を迎え、3rdアルバム『働くこと、休むこと。』をリリースした。ギター・ボーカルのMikan Hayashiが敬愛する日本のバンドに携わってきたミュージシャンやエンジニアも制作に参加したアルバム。1st・2ndアルバムとは明らかに異なる色合いを持つ本作が、なぜそのような作品に仕上がったのか。Mikanがゆっくり、じっくりと言葉を選びながら語ってくれた。「台湾発」「日本語で歌う……」といった説明を冒頭でしているが、アルバムを聴くと、そんなことはどうでも良くなる。Mikanがゲシュタルト乙女というバンドを通して、自身の音楽のルーツを、アイデンティティを、ひたすら追い求めて真摯に誠実に作っただけのこと。まずはこのインタビューを読んで、何度でもアルバムを聴いて頂きたい。

「独り言」から「共感」へ。結成10周年で見つけた新たな音楽のかたち

――まずは4年ぶりのアルバム『働くこと、休むこと。』の制作に至った流れから教えて下さい。

2年前に「仕事」というEPを作った時点で、10周年にアルバムを作れたらいいなとは思っていました。仮でタイトルも考えていて、広い世界観で包み込みたいなと。EPの「仕事」とは反対の角度で、違う方面に広げられたらいいなって。それから、ちょうど働くことと休むことが気になる時期でもあって。仕事をしないと生きていけないけど、ネガティブな意味合いで捉えることもないんじゃないかなと考えていたんです。仕事を通じて、自分の個性を知ることもできるから、ポジティブに捉えたかった。もともとは『働き休み』というタイトルを考えましたけど、バランスを考えて、両方の重さを一緒にと考えたら、『働くこと、休むこと。』となりました。

――コンセプトというか物語性をとても感じました。

アルバムタイトルを最初から付けて、そこからアルバム内容を考えていったんですけど、1日の時間、日常の瞬間を大事にしたい1枚にしたくて。序盤から最後まで1日の過ごし方を意識しました。最後の「夏休み」を聴いた後も、また始まる感じを出したくて、その思いを込めて作りました。蝉の声が入っているのも、1日の終わりや命の終わりを意識していて。ゲシュタルト乙女は、人の隣に寄り添った音楽を作りたいので、今回は特に日常生活に寄り添う1枚にしたかったんです。色々な環境音を入れているのも、色々な環境音を入れているのも、より生活感を感じてもらいたいという思いからです。音楽は色々な人に楽しんでもらいたいので、共感してもらえるように作りました。

――以前より「共感」を意識されていますよね。

少数の人に共感してもらえるかというよりは、みんなに共感してもらえる曲を作りたいです。このアルバムからも、好きなジャンルや刺さる曲を見つけてほしいですね。みんなに共感してほしい気持ちは強くなっていますし、人間として昔より、ちょっと丸くなったのかなと。バンドも人が集まった団体なので、変化していくことで、曲の雰囲気も変わりますしね。昔の作品を振り返ると今だと作れないと思いますし、今しか作れない自分たちだなとも感じています。

――アルバムとしては3枚目であり、ホップステップジャンプと、より飛躍した感じがしたんです。そういう成長や進化は感じられていますか?

一番意識しているのは、どんな風に感じてもらいたいのか。今年10周年であり、自分の音楽キャリアの中で、どんな音楽を聴かせたいかを考えました。昔の作品は独り言が多くて、誰に聴いてもらうかを想定せずに作っていたんです。でも、今回は、どんな風に聴いてもらいたいかを意識して作りました。最初からアルバムタイトルを付けて、骨の部分から作ったので、そこは大きいです。概念から作ったので、そこが一番違いますね。

――かなり手応えを感じておられますよね。

やりきったなというのはあります。これを超える1枚を作るには、ここから経験をためていかないといけないとも感じています。「星」をプロデュースして下さった高野勲さんが「もっとわがままに、もっと自分が作りたいものを、誰も気にせずに作ってもいいんじゃないか」と言って下さって。そこは次の課題になると思います。今の時代だとサブスクで聴くことが多いと思いますが、サブスクで聴いても、アルバム全体として最初から最後まで通しで聴いても、違う風味を感じながら楽しめるようには意識しました。

――実際、「副都心」は2年前にリリースされた時と、今回のアルバムの中で聴いた時では、また違ったふうに感じました。

アルバムの順番で聴くと、テンポ感、空気感は変わってくると思うので、そこは大事にしていました。

ゲシュタルト乙女 3rd フルアルバム『働くこと、休むこと。』Album Digest

――マスタリングは、サカナクションやplentyなどを手掛けるエンジニアの浦本雅史さんが手掛けておられますよね。

高野さんがプロデュースして下さった「星」は、柏井日向さんがエンジニアを担当してくださいましたが、その曲以外は浦本さんが担当して下さいました。日本の最先端のサウンドを考えて、一緒に作品を作る感じでしたが、浦本さんには先にリファレンス(参考となる音源や資料)を言わなくて、浦本さんの判断でお願いをしたんです。自分たちでは考えられないアイデアをくれるエンジニアさんで、言葉にせずに音で感じてほしいという方でした。結果、とても良くなったし、作品への熱量を持って下さっていました。もともとサカナクションとplentyが好きでお願いしたので、そこは絶対良い感じに作ってくれるだろうなと信じていましたね。自分たちがこうしたいというのは良い意味で今回は無くって、サウンドは信頼している方々にお任せでした。私は歌詞とメロディーを作ることに専念しましたが、サウンドやアレンジをこの方々にお願いしたいという提案はメンバーにしていましたね。メンバーのアースが、そこをまとめてくれました。フューチャリングを入れる曲も、どちらかの個性になり過ぎないようにしてくれましたし、今回は色々なジャンルの曲があるので、1曲1曲自分たちの色も出るようにしてもらいました。デモ音源は8割まで作って、メンバーと話し合って、関わって下さるみんなの色を融合しながら、みんな自由にどうぞという感じでしたね。みんなの一番良いところが発揮できた1枚です。

――個人的には、特に1曲目「夜 to 日」という語りの入った1分22秒の短い曲から始まるところに最重要となる肝を感じました。

ゲシュタルト乙女の世界に入りやすいように作った曲ですね。メンバーのアースがこういう雰囲気を作るために考えてくれて、本人いわく『攻殻機動隊』みたいな感じで。天気予報のアナウンスという歌詞も1日の始まりを意識しています。でも、どの曲も自由にみんなに作ってもらったので、予想せずに自然と意図せずにではありますね。

――結果、ものすごく強い何かを感じさせてくれる素晴らしい始まりの曲になっているんですよ。

聴いた時に、何かが始まると自分でも思いましたし、わくわくする感じでした。だけど、不気味でもあるんです。心地良い不気味というか……緊張感はありますね。

――まさしくそうですね。素晴らしいダンスナンバーでもありますよ。そして、終盤で同じく最も重要な肝として感じたのは「星」でした。この曲は先程お話にも出た高野さんプロデュースです。

高野さんは昔の曲も聴いてくれた上で、バンドに鍵盤担当のメンバーがいないことも踏まえて、鍵盤の入った曲にしてくれないかと言ってくれました。高野さんが参加されているGRAPEVINEはライブ感が強いので、この曲もライブ感を重視しています。レコーディングも、みんなで集まって「せーの!」で録る、初めての挑戦でした。各パートの立体感を感じながら演奏してみたら、という高野さんの提案でした。経験がなかったので、めちゃくちゃ緊張しましたけど、やっていたら高揚感も出てきましたね。ただ、ブレずに演奏を続けるというのは緊張します。

――ずっと自分が聴いているGRAPEVINEに関わる高野さんと一緒に音を鳴らせたのは大きかったですよね。

夢を叶えられたなと。日々、ルーツを大事にしているので、その方々に愛を伝えるのは大事だなと思いましたね。去年、GRAPEVINEの日比谷野音でのライブでご挨拶ができて、その時に高野さんに「いつかプロデュースをしていただけたら……」とお伝えしたら、「いつでも」と言って下さって。今回、プロデューサーを迎えようという話が出たときに、すぐに高野さんにお願いしたいとなりました。高野さんは全体性を大事にされている方でしたし、今までにないサウンドに達成感がありましたね。

――この「星」があるからこそ、次の曲であり、最後の曲となる「夏休み」への流れが、より映えますよね。

この曲自体は、スピッツの「青い車」を意識して作った曲で、最初は歌詞の意味がわからないから、明るくハッピーな曲だと思っていたんです。でも、日本語を学んでいったら、曲の意味もわかってきて。いつか自分もこういう曲を作りたいなと思っていました。

――メロディーと歌詞のイメージの良い意味での違いを意識されたということですね。

はい。「夏休み」もタイトルだけではわからないけど、飛び降りようとする女の人を描いた曲なんです。隣の人の生活という視点を入れつつ、<丁度良い夏休み>という歌詞で終わりますが、最後に飛び降りたかどうかはご想像にお任せするというか。台湾の朱徳庸という漫画家の『飛び降り』という短編の影響もありますね。さっき言っていた蝉の鳴き声が命の終わりを意識して入れたというのも、ここに繋がりますね。

――タイトルから受ける印象と、歌詞を読み込んだ後の印象が異なるという書き方は、全体的に意識されていますか?

全体的に、そういう描き方ですね。陰があるというか、私はストレートすぎない歌詞が好きなので。みんなに自分の解釈で聴いてほしいのもありますし。自分がわかりやすい言葉で書くことは、どこか手を抜いていると感じてしまうので。

――改めて、台湾出身でありながら、10年間、日本語で歌詞を書き、日本人のミュージシャンやスタッフとも一緒に曲を作ってきた。日本のリスナーにも聴いてほしいと思ってきた気持ちを教えてもらえませんか。

両親が日本に留学したことで、幼少期から日本語には親近感がありました。日本語とギターを頑張ろうと思ったタイミングも一緒だったんです。最初は友達に知られたくなくて、日本語で作っていました。でも、今は大人になって、本当にこの言語が好きですし、いい距離感も持てているなと。日本語だけど日本人の発想じゃないところも感じてもらいたいので、自分特有の物語を作っていきたいです。台湾のルーツを大事ににしたい思いもありますし、でも自分に近すぎて距離の詰め方が上手くいかないとも思いつつ、(アルバム収録の)『灯り雪』を台湾語で歌ったのは新鮮でした。新しい自分に出逢いましたし、自分の土地の言語をこのアルバムを通じて知ってもらえたら嬉しいです。台湾語を1曲でも入れることで、色々なキッカケになればなと思っています。

取材・文=鈴木淳史 撮影=Norico Uemura
取材協力=珈琲艇キャビン

ライブ情報

2026 ゲシュタルト乙女『働くこと、休むこと。』アルバムリリースツアー
11月13日(金)大阪・心斎橋Pangea 開場18:30/開演19:00
11月16日(月)東京:渋谷WWW 開場18:30/開演19:00
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一般スタンディング ¥5,000(税込) 
学割スタンディング ¥3,500(税込) 
 
※別途ドリンク代 整理番号あり
※学割は入場時に身分証の提示必須/忘れた場合差額を支払って入場可
※年齢制限 6歳以上有料/5歳以下入場不可

リリース情報

ゲシュタルト乙女
3rdアルバム『働くこと、休むこと。』

規格品番 GTGL0002/SKU 4988044828919
販売価格:¥3,850(税込)
配信リンク:https://friendship.lnk.to/ThePause_GG

収録曲
01. 夜 to 日
02. 副都心
03. 苗字
04. 恋の新規開発
05. 梅雨 feat. 京英一
06. 灯り雪 feat. 陳以恆
07. 夢中 feat. 張天偉
08. 仕事
09. 夜を運ぶ
10. 星
11. 夏休み
【information】
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