英国ロイヤル・オペラ『マクベス』野望の果ての錯乱か、操られた狂気か!?
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KEENLYSIDE AS MACBETH, MONASTYRSKA AS LADY MACBETH (C)ROH/Clive Barda, 2011
野望の果ての錯乱か、操られた狂気か!?
シェイクスピアへのヴェルディの敬愛を担い、ヴェルディ・オペラの真髄を表す“決定版”がやって来る!
イタリアのオペラハウスがヴェルディやロッシーニを、ドイツのオペラハウスがワーグナーやR.シュトラウスを、自国を代表する作曲家として敬愛し、そしてその作品に対して、なによりの誇りをもって挑むというのは当然のことでしょう。これと似た意味で、英国ロイヤル・オペラには、”シェイクスピア作品に基づくオペラ”があります。
シェイクスピアの四大悲劇の一つである『マクベス』は、野心に駆られた夫婦の転落の顛末の物語。勇胆な武将と、彼に劣らぬ気性をもつ妻は国王暗殺という方法でここ一番の人生の勝負に出ますが、女は良心の呵責に耐えきれず、男は悪行の行く末を受け止めて命を落とします。このドラマで重要なカギを握るのは、登場人物の心情表現。「この悲劇は、人間の最も偉大な創造物の一つ」と認めたヴェルディがオペラ《マクベス》に求めたものも、まさにここにあります。
したがって、このオペラの魅力の大半が、マクベス役とマクベス夫人役の歌手にかかっていると言っても過言ではありません。日本公演でこの重責を担うサイモン・キーンリサイドとリュドミラ・モナスティルスカは、2011年にロンドンでの舞台において、絶対的な信頼を獲得した強力キャストです。
イギリスを代表するバリトン、キーンリサイドの世界的活躍と人気は周知のところですが、マクベス役は彼にとっては比較的新しいレパートリーの一つ。2009年にはウィーン国立歌劇場で、ロイヤル・オペラでは2011年が初お披露目でした。「マクベスを演じるために最も時間を割いたのは、役に適した色合いを見つけること」と語っているキーンリサイド演じるマクベスは、歌唱力はもちろん、演技力においても、複雑な心情を見事に表現する、現在最高のマクベスとして認められるものとなっています。
一方、キエフ出身のソプラノ、モナスティルスカは、ロンドンの舞台で”マクベスをくうほどの”と言われる迫力あるマクベス夫人ぶりによって、一躍世界の注目を集めることになりました。芯のある強い声、豊かな声量、そして劇的な表現力の持ち主なのです。ロイヤル・オペラでは、マクベス夫人の後に《ナブッコ》のアビガイッレを演じ、これも大成功をおさめました。メトロポリタン歌劇場、スカラ座、ベルリン・ドイツ・オペラの舞台にも登場し、いまもっとも熱い視線と喝采を浴びている実力派です。
さて、オペラ《マクベス》を牽引するものとして、もう一つ挙げておくべきものがあります。魔女たちの存在です。今回のプロダクションでも、マクベスの運命を翻弄していく魔女たちには赤い帽子と印象的なメイキャップ、独特な動きが与えられるなど、存在感を強めています。極端な読み替えをすることなく、ドラマティックな心情劇の緊迫感高まる場面と、鮮烈な印象を与える動きのある場面とが織り交ぜられたフィリダ・ロイドによる演出は、観る者を常に惹きこんでいきます。また、このプロダクションは、1864年の改訂版によるものですが、通常は演奏されない最終幕の「マクベスの死」のモノローグが挿入されています。キーンリサイドのマクベスの聴かせどころとしても期待がふくらみます。
さらに、この《マクベス》を英国ロイヤル・オペラが誇る上演として仕上げているのは、他でもない、音楽監督アントニオ・パッパーノです。「《マクベス》というオペラを上演するうえで最も重要なのは、他のオペラにはない雰囲気」だというマエストロ。美しいメロディがあるかと思えば、不明瞭なざわめきがあり、そしてつんざくような音が登場する…‥これらのバランスを適切につくっていくことができなければ、《マクベス》の魅力である雰囲気を生み出すことはできないのだそうです。《マクベス》について、オーケストラと歌手との稽古に、納得いくまで多くの時間をかけたマエストロは、自信を湛えた笑顔で、2011年の初日を迎えました。
幸いなことに、日本公演にはこの2011年のキャストのほとんどが顔を揃えます。練り上げられた《マクベス》が、日本の聴衆に迫ります!
《マクベス》
指揮:アントニオ・パッパーノ
演出:フィリダ・ロイド
9月12日(土) 3:00p.m.
9月15日(火) 3:00p.m.
9月18日(金) 6:30p.m.
9月21日(月・祝)1:30p.m.
会場:東京文化会館
■予定される主な配役
マクベス : サイモン・キーンリサイド
マクベス夫人 : リュドミラ・モナスティルスカ
*表記の配役は2015年1月25日現在の予定です。
病気や怪我などのやむを得ない事情により変更となる場合があります。
(C) ROH/Clive Barda, 2011
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