SFコメディ『聖地X』は「ありえないことなんてこの世にない」と思わせてくれる作品 前川知大×桐谷健太インタビュー
(左から)前川知大、桐谷健太
前川知大の代表作『聖地X』が、2026年11月5日(木)~29日(日)東京・PARCO劇場、その後、大阪、香川にて上演される。
本作は、2015年にシアタートラムで初演、2021年には映画化され大きな話題を呼んだ。裕福な実家で働きもせず、悠々自適に暮らす主人公の山田輝夫には、5年ぶり3回目の舞台出演となる桐谷健太。物語は、輝夫の妹・要が、夫の滋と別居して実家に戻ってきたことで動き出す。ドッペルゲンガーの出現をきっかけに、「存在とは、記憶とはなにか」を問いかける、前川ワールドの真骨頂ともいえるSFコメディについて、作・演出の前川と、輝夫役の桐谷に話を聞いた。
桐谷の輝夫役は「絶対に合う」!
ーーまずは前川さんにうかがいます。本作を書かれた当時の、着想のきっかけを教えてください。
前川:作品の元になっているアイディアは、以前から形を変えて他の作品でも扱っていて、もっと踏み込んだものを書いてみたいと、ずっと思っていました。『惑星ソラリス』のように、思い浮かべたものが実体化するようなことが、もっと身近なところで起きたらどうなるんだろうとか、見間違えのような錯覚が、そのまま存在し続けたらとか、そういう着想だったと思います。
ーー今回の上演にあたって読み返してみて、ご自身的には改めてどんな印象でしたか。
前川:本作は夫と揉めて実家に帰ってきた妹を兄が助けるという、兄妹の話でもあるんですが、この本を書く前に、似たようなことがあったんです。僕の妹に。東京に出ていた妹がいろいろあって新潟の実家に帰ってきていて。結構がっくり来ていたので、逆に芝居にして笑い飛ばしたら面白がってくれるかなと思って書いたようなところがあって、そういうのを思い出しました(笑)。
桐谷:すごくいい話ですね。
前川:いやいや(笑)。思いのほか面白くできたとは思ったんですが、滋の描き方とかひどいし、これ見せていいのかなと思いました。妹に舞台のDVDを送ったら面白がって観てくれてたようでほっとしました。だから、桐谷さんの演じる輝夫という役には僕が入っているんですよね。
桐谷:なるほど!
ーー桐谷さんは5年ぶりの舞台ということで、今の心境をお聞かせください。
桐谷:オファーをいただいた時は本当に感謝という気持ちでしたね。ありがたいな、と思いました。前川さんは独特の世界観を持っていらっしゃる方なので、今回初めてご一緒させていただくことで、自分がどういう感覚になっていくのか、どのような新たな刺激と感覚が自分の中に生まれるのか、すごく楽しみです。
桐谷健太
ーーご自身の役については、どのような印象をお持ちですか。
桐谷:山田輝夫は、自由でマイペースで好奇心も旺盛だし、自分が面白いと思ったことにどんどん首を突っ込んでいく感じだけど、その根っこには妹思いなところがあって、他人に対して冷たい部分と優しい部分のバランスにとても人間味が感じられて、演じるのが楽しみな役だなと思っています。
ーー前川さんは、今回桐谷さんに輝夫を演じていただくにあたって、どういう期待をされていますか。
前川:桐谷さんが出演してくださることになった時に、「絶対に合う」と思いました。
桐谷:ホントですか!
前川:輝夫という役は、初演では安井順平が演じていたのですが、ひねくれていてちょっと世捨て人っぽい感じだったんです。桐谷さんは陽のエネルギーがすごく強いけれども、ゆえにポジティブにどんどん進んでいって、気がついたらドツボにハマっている、みたいな輝夫をイメージしました。そして一番は、この作品の輝夫のセリフにはすごくユーモアがあるので、それを真顔で言って面白い感じになるところが絶対に合うと思ったんです。結構笑える作品だと思いますが、コメディで笑わせようとしているというよりは、自然と笑いが生まれるような展開なので、そういう時に桐谷さんのキャラクターが助けになると思います。
桐谷:なんだか、もう演出が始まっている感じですね(笑)!
前川:(笑)。
桐谷:確かに輝夫自身は別に何もおかしなことは言っていないというか、本人は別に何も笑わそうとしていないですし、思ったことをポンと言っているだけなんだけど、それが面白くおかしく聞こえるんですよね。そこは本当に力が必要な部分だと思うので……(前川に)よろしくお願いします。
(左から)前川知大、桐谷健太
輝夫として生きられたらそれが一番
ーー作品としての魅力はどういうところに感じられましたか。
桐谷:この作品の世界観は、不思議で奇妙でちょっと怖さもありますが、すごく笑えるというか、会話がとても日常的にそばにあるものなのに、それが面白おかしいという、このバランスがすごく魅力として感じています。そのさらに奥には人とのつながりであったり、思い込みであったり、何かを信じる力みたいなことも描かれていて、そのあたりのニュアンスがとても面白いと思っています。
ーーこの作品の初演はシアタートラムで上演され、今回はPARCO劇場ということでサイズ感が変わってくるのかなと思いますが、そのあたりの構想など現時点で何か考えていることはありますか。
前川:この作品は「場所」の話だと思うので、今回の美術は、この場所で起きてるということ、作り自体は物語上室内になるんだけど、その外側の街の部分を感じさせるようなものにしたいな、と思っているので、閉じているんだけど、ちょっと開くような、そういう美術にしようかな、と考えています。この場所だから何かが起きる、という話になっているので、劇場空間で何か街の雰囲気を作るというよりは、例えば劇場の機構や壁が見えたりするような、そういうものが活かせればいいかなと思います。
ーー桐谷さんは、今回が3回目の舞台出演ですが、1回目が赤坂レッドシアターで、2回目は明治座で、3回目となる今回はPARCO劇場と、大きさがそれぞれ異なる劇場です。劇場の大きさによって、心構えだったり、感じ方が変わる部分がもしあれば教えてください。
桐谷:劇場の大きさについて、考えたことないですね。普通は皆さん、考えるんですか? そういう意味で言ったら、舞台経験が少なくて、劇場の大きさとか、キャパがどれくらいとか、正直あんまり考えたことがなかったです。考えるんですか、皆さん、そうですか……そこも含めて芝居にしていくんですかね。僕は、輝夫として生きられたらそれが一番という考えといいますか、そういう思いしかないといいますか。
ーー劇場の広さとか客席の圧みたいなものを感じたことはありましたか。
桐谷:映像とはまた違う生の感じ、レッドシアターだったら客席とすごく近かったですし、明治座はまた距離感が全然違ったし、という感覚でした。でも舞台上でやることは変わらないというか、もしかしたら百戦錬磨の方は「この舞台だとこうだな」「この劇場だとこうだな」というのがあるのかもしれないですけど、僕はまだまだそこまではたどり着けていないです。でも今回、PARCO劇場でやらせていただけるのはすごくありがたいなと思いますし、劇場に合った輝夫になればいいかなと思います。
ーー桐谷さんとしては、劇場の大きさがどうこうじゃなくて、ただ自分の役を全うするだけという。
桐谷:そんなかっこいいことじゃないですけどね(笑)。「大きさなんて関係ないですよ!」とかいう感じじゃないですよ。これは活字になると、そんな感じに取られるかもしれなくて非常に恥ずかしいんですけど(笑)。そこは全然考えてなかったというか。でも「あの時、インタビューで聞いてくださったことって、こういうことだったのか」とわかるかもしれないですよね、いつか。一個たりとも一緒な日なんて絶対にないところが、やっぱり舞台の面白さでもあるし、恐ろしさでもあるし、興味深さでもありますから、思いっきり楽しんでやりたいなと思っています。
結果として同じように見えても、同じものなんて一つもない
ーー桐谷さんは、前川作品の特徴をどのようなところに感じていますか。
桐谷:何気ない日常の中にスッと奇妙さとか不思議さが入り込んでくるところですね。それって現実でも起こる可能性がゼロじゃないというか、自分も生きている中で、「今の何?」みたいなことがあって、それをしっかりストーリーに落とし込んでいるところが魅力的だなと思います。「普通だとありえないよね」みたいなことも、「ありえないことなんてこの世にない」みたいな感覚にしてくれる。それは会話がすごくリアリティあるものだからだと思うんですよね。輝夫のような感じの人物を僕は演じたことがないので、どうなっていくんだろう、とドキドキワクワクしています。
桐谷健太
ーー前川さんの中では、この作品はどういう位置づけになるのでしょうか。
前川:シンプルに、面白い作品、ですね。笑わせようと思って書いている感じはそんなになくて、山田輝夫という魅力的なキャラクターが生まれたな、ということが収穫です。僕の他の作品は、どちらかというとテーマ的なもので語られることが多いのですが、この作品はテーマで語る必要がそんなになくて、桐谷さんがおっしゃったみたいな、「本当にこれあり得るかもな」という、日常と地続きで変なことが起きるという、変な感覚みたいなものが僕らの中にはあると思うんですけど、それをいい感じで面白おかしく表現できたなと思っています。僕の中でも他に似たものがないという作品で気に入っています。
ーー本作はSFコメディということですが、何度も繰り返し稽古をしたり、本番を上演する中で、新鮮さや緊張感を保つために気を付けていることは何かありますか。
前川:どんな舞台でも、いつも通りにやるだけだと思いますね。これは稽古の初めに俳優たちと共有することだと思うんですけど、作ってる側としては、笑える話だとか怖い話だとか、こういう話にしようみたいな決めつけをなるべくしないようにしよう、と思ってスタートするので、それも関係してくるかもしれないですね。
ーー前川さんは演出家として、本番をご覧になった時に「昨日とここが違うな」といったことは細かく感じるものですか。
前川:やっぱり稽古でずっと見ているので、僕はわかりますね。でも見るのが2回目とか3回目の人からしたらほぼ同じ、というクオリティになってないといけないな、と思います。2回見た人が「全然違うな」ってなるのは、それはそれで問題だと思うので(笑)。多分、僕とかスタッフさんとかは「今日はこういう感じか」と思う部分はあると思いますし、舞台はその日の天気から影響してきますから、そういうものだと思います。
ーー桐谷さんは映像のお仕事が多いですが、その中において舞台をやる時に、同じことを毎日のように繰り返しやることについては、どのような思いを抱かれていますか。楽しいと思うのか、それとも大変だと思うのか。
桐谷:それはきっと両方あるのでしょうね。ただ、ひとついえるのは、映像は映像の素晴らしさ、舞台は舞台の素晴らしさがある。舞台のように、同じものを繰り返しやっている中で、稽古でも気づけなかったことが本番で見えてくる瞬間もあるかもしれなくて、そこにすごい宝物が眠っているかもしれない。見た目や色や香りが同じように見えても、同じものなんて一つもないという真実がそこにあって、それをどれだけ味わいながら、感謝しながら楽しめるか、というところだと思います。
ーー今日のお話しを聞いて、桐谷さんの輝夫がさらに楽しみになりました。
桐谷:これは僕の勝手な期待ですけど、この公演が終わる頃に、自分が変わっているんじゃないかな、と思っています。「ああ、最高の気分だ」と思って終われたらいいですね。そこに感覚を向けていって、いいものにします!
(左から)前川知大、桐谷健太
取材・文=久田絢子 撮影=iwa