「にじクラ」の魅力とオーケストラの醍醐味とは 扇谷泰朋(ヴァイオリン)、安達真理(ヴィオラ)、オッタヴィアーノ・クリストーフォリ(トランペット)にインタビュー
『日本フィル&サントリーホール にじクラ ~トークと笑顔と、音楽と 第12回』
『にじクラ トークと笑顔と、音楽と』は、日本フィルとサントリーホールが贈る平日2時開演のコンサート。トークとともに上質な演奏で名曲を楽しんでもらおうというマチネシリーズだ。俳優の高橋克典によるナビゲートで好評を博している。
「にじクラ」過去の公演より
高橋克典
日本フィルハーモニー交響楽団
11月5日の公演では、広上淳一指揮のもと、ラヴェルの「ボレロ」や、グリンカのオペラ「ルスランとリュドミラ」序曲、ロッシーニのオペラ「ウィリアム・テル」序曲、モーツァルトの「ヴァイオリンとヴィオラのための協奏交響曲」第3楽章など、多彩な名曲が演奏される。日本フィルのソロ・コンサートマスターの扇谷泰朋(ヴァイオリン)とヴィオラ客演首席奏者の安達真理、ソロ・トランペット奏者のオッタヴィアーノ・クリストーフォリの3人に、「にじクラ」の魅力とオーケストラの醍醐味について語ってもらった。
リラックスして名曲とトークを楽しめる「にじクラ」
ーー「にじクラ」は今回でシリーズ12回目を迎えます。すっかり人気企画として定着した感がありますね。
安達:平日の2時からの開演ですが、毎回たくさんのお客さまに来ていただき、すごく楽しみにしてくださっている方がいることを実感します。やっぱりお話付きで音楽を聴けるのが魅力だと思います。
扇谷:有名どころの曲をたくさん演奏するので気軽に楽しめますよね。
安達:かしこまって40分くらいの長い交響曲を聴くのとは違った楽しみ方があると思うんですよね。ソリストや指揮者にインタビューするコーナーがあって、音楽だけではなくトークも楽しんでいただけます。
クリストーフォリ:あまりコンサートに行ったことのない方は、定期演奏会だと難しい曲でわからなかったらどうしようとか、マナーは大丈夫だろうかと心配するかもしれません。でもこのコンサートはリラックスして音楽を聴けますし、ナビゲーターの高橋克典さんの説明も入りますから、安心して過ごしていただけます。
扇谷:高橋克典さんが次の曲の紹介をすると、その曲の雰囲気になるんですよね。曲に合わせた雰囲気でしゃべってくれるので、お客さんも入ってきやすいし、僕らも入りやすい。さすが、役者さんだなと思います。
安達:やはり空気のとらえ方がお上手だなと感じます。トークでもその場の空気を作る意識を持って語られるので、単なるナビゲーターというよりは、音楽家と同じように表現者として舞台に立っているんだなと感じます。
(左から)安達真理(ヴィオラ)、扇谷泰朋(ヴァイオリン)、オッタヴィアーノ・クリストーフォリ(トランペット)
ーー今回の指揮は広上淳一さんです。
扇谷:これまでにもたくさん共演していますから、安心して演奏できます。
安達:楽しそうに指揮されますので、それがお客さまにも伝わっているといつも思います。
クリストーフォリ:明るい雰囲気があります。平日の2時のコンサートで暗い雰囲気だったら嫌ですよね。「にじクラ」に初めていらっしゃる人も、絶対に楽しめると思います。
ーー会場のサントリーホールは、奏者にとってどんなホールでしょうか。
扇谷:ふつうの大きなホールだと、遠くまで聴かせようと思って力んだりするんですよ。でも、サントリーホールではいちばん遠くのお客さんも近く見えるんです。絶対に音が届いているなってわかるので、楽に弾けるんです。物理的な距離は近くないはずなんだけど、とても近くに見える。
安達:近いですよね。ピアニッシモでも、ちゃんと聞こえているなと感じられるんです。たぶん、客席から感じるよりも、ステージ上だともっと近くに感じます。日本フィルはサントリーホールでの公演が多いのですが、ここで演奏できるのは音楽家にとって幸せなことだといつも思って弾いています。すばらしいホールの響きも、ぜひお客さまに楽しんでいただきたいと思います。
安達真理(ヴィオラ)
今回の「にじクラ」の聴きどころはこの曲!
ーー今回の公演でみなさんがとくに聴いてほしい曲を教えてください。
扇谷:もちろん、自分がソロを弾くモーツァルトの「ヴァイオリンとヴィオラのための協奏交響曲」も聴いてほしいのですが、実は楽しみなのが「アルビノーニのアダージョ」です。オルガンと共演する機会はなかなかありませんから、ぜひ聴いてほしいですね。
安達:ソロを弾くモーツァルトの「ヴァイオリンとヴィオラのための協奏交響曲」は、ヴィオラが活躍する曲です。この曲のヴィオラはスコルダトゥーラと呼ばれる変則的な調弦で書かれていて、ヴィオラが目立つようになっています。当時はモーツァルト自身がヴィオラを弾いたそうなので、自分が目立ちたかったんでしょうね。
ーーモーツァルトはヴィオラが好きだったんでしょうか。
安達:好きだったと思います。室内楽でもヴィオラにおいしいメロディをたくさん書いてくれています。
ーー今回、おふたりはソリストとして自分のオーケストラと共演するわけですが、ふだんとは違った気分になるものですか。
安達:いつものオーケストラのメンバーといっしょに協奏曲を弾けるのは、すごく楽しみです。ふだんはこういった機会はなかなかありません。
扇谷:自分の所属しているオーケストラでソリストとして弾くのは、けっこう緊張するんですよ。お客さんにこの程度のコンサートマスターを雇っているのかと思われたくないですから(笑)、頑張らないといけない。
ーートランペットのクリストーフォリさんはいかがですか。
クリストーフォリ:私はデュカスの「ラ・ペリ」の前奏用ファンファーレを聴いてほしいですね。ファンファーレといっても、よくある単純なものではなく、少し複雑なハーモニーが使われているところに魅力があります。とても久しぶりに吹くので楽しみです。あとは、ラヴェルの「ボレロ」。金管楽器のいろいろな音色を聴いてもらいたいです。
オッタヴィアーノ・クリストーフォリ(トランペット)
ーー「ボレロ」は管楽器のソロがたくさんあるので、聴きどころの連続ですね。弦楽器奏者から見ると、どんな曲なのでしょう。
安達:意外とピッツィカート(指で弦をはじく奏法)のハーモニーが凝っていたりするのがラヴェルらしいと思います。どうしてもメロディを追ってしまう曲ですが、全体のハーモニーも聴いていただくと、変化していく様子がおもしろいと思います。
オーケストラは個性を持った音楽家たちの集合体
ーーソロや室内楽にはない、オーケストラならではの楽しみはどんなところにありますか。
扇谷:やはり巨大な音が出るということですよね。ひとりでは絶対に出せない音が出る。色彩も本当に豊か。楽器の数がたくさんあって、曲がとても多彩です。そして、すべてがバシッと合った状態よりも、わずかな「ねじれ」があったほうが音楽に幅が出る。これは狙ってもできないあたりが、またおもしろいところなんです。バシッと合わせるのは狙ったらできるけど、ねじれるのは狙ってもできないんです。同じ楽譜からみんなそれぞれがいろんなことを感じているので、合わせようとしても、やっぱり個性が出てくる。オーケストラは、そういうところがいいんじゃないですか。
(左から)安達真理(ヴィオラ)、扇谷泰朋(ヴァイオリン)
安達:そうなんですよね。人間が80人、100人集まってやることなので、絶対にAIに取って代わられない魅力があります。これだけの人間が集まって弾くと、すごいエネルギーが生まれます。単に音量が大きいだけではありません。大勢の人間がひとつの方向に向かって音楽を作り出すエネルギーの大きさは、お客さまにも感じていただけていると思います。
クリストーフォリ:オーケストラは100パーセント、人間がやるものです。今、そういうものはどんどんなくなっていると思います。テレビや映画もアナログからデジタルになったし、いろいろなものが機械化されている。でも、コンサートは100パーセント、人間がやるもの。だから、毎回が違います。人間がひとり違えば音楽も変わる。毎日演奏しても、毎回が違ったものになるのがコンサートだと思います。
取材・文:飯尾洋一
公演情報
会場 サントリーホール 大ホール
指揮:広上淳一[フレンド・オブ・JPO(芸術顧問)]
ヴァイオリン:扇谷泰朋[ソロ・コンサートマスター]
ヴィオラ:安達真理[客演首席奏者]
ナビゲーター:高橋克典
日本フィルハーモニー交響楽団
デュカス:《ラ・ペリ》前奏用ファンファーレ
グリンカ:歌劇《ルスランとリュドミラ》序曲
ジャゾット:アルビノーニのアダージョ
モーツァルト:ヴァイオリンとヴィオラのための協奏交響曲 変ホ長調 K.364より 第3楽章
ロッシーニ:歌劇《ウィリアム・テル》 序曲
グリーグ:組曲《ホルベアの時代より》op.40 より 第1曲「前奏曲」、第4曲「アリア」、第5曲「リゴードン」
ラヴェル:ボレロ