オーケストラでは聴こえない音が、聴こえてくる ――宮谷理香、30年の先に見つめるショパン【インタビュー】
デビュー30周年記念 宮谷理香ピアノリサイタル『美』のプロムナード
本番まで、いよいよあとわずか。
10月11日(日)、TOPPANホールで開催される「デビュー30周年記念 宮谷理香ピアノリサイタル『美』のプロムナード」。その本番を目前に控え、宮谷理香と共演者たちによるリハーサルが行われた。
今回のプログラムの大きな聴きどころは、ショパンのピアノ協奏曲第2番、そして第1番を、弦楽六重奏版で、しかも1回の公演で演奏するという大胆な試みだ。
そして、この演奏を支えるのが、クァルテット・エクセルシオ。1994年の結成以来、30年以上にわたって活動を続けてきた、日本では数少ない常設の弦楽四重奏団。年間60公演以上を重ね、古典から現代作品まで幅広いレパートリーに取り組み、日本人団体として初めてベートーヴェンの弦楽四重奏曲全曲録音を完結させるなど、その活動はまさに日本の室内楽シーンを牽引してきた。海外でも「繊細優美な金銀細工のよう」と評されるなど、高い評価を得ている。そんなエクセルシオに、ヴィオラの石田紗樹(東京都交響楽団ヴィオラ副主席奏者)、コントラバスの岡本潤(NHK交響楽団次席コントラバス奏者)を加えた6人の弦楽器奏者。そして宮谷理香。
宮谷理香 ピアノリサイタル 「美」のプロムナード リハーサル風景
ピアノと弦が呼応し、時には競い合い、時には寄り添う。
単に「腕の立つ7人が集まった」ということではなく、一人ひとりの音を聴き、それぞれの呼吸を感じながら、瞬時に音楽を組み立てていく。その精度と反応の速さに、長年アンサンブルを磨き続けてきた音楽家たちの凄みが感じられる。
オーケストラとの協奏曲では、ピアノと大編成の管弦楽が織りなす壮大な響きが大きな魅力になる。一方、弦楽六重奏という編成では、演奏者同士の距離が驚くほど近い。ピアノが一音を弾く。その音を弦が受け取り、別の誰かが応える。わずかなテンポの揺れや呼吸までを互いに聴きながら、音楽がその場で形を変えていく。誰かの一音が次の音を呼び、その反応がまた別の音楽を生む。完成された大編成の「協奏曲」を聴くというより、7人の音楽家が、その瞬間、その場で音楽を生み出していく過程そのものを目撃するような時間になるのではないだろうか。
そしてそれは、TOPPANホールという、室内楽にとって特別な舞台だからこそ、この濃密な音楽のやり取りを、耳だけでなく身体全体で感じることができるはずだ。
30年の集大成を聴くのではない。
30年を経た宮谷理香の“これから”を聴く。
今回の演奏が特別な意味を持つのは、30周年という時間そのものにもある。1995年、ショパン国際ピアノコンクールで第5位に入賞。コンクール後には11都市に及ぶ凱旋公演を行い、サントリーホールをはじめ国内外の舞台で演奏を重ねてきた宮谷理香にとって、ショパンはまさに30年の歩みを象徴する作曲家だ。
その30年前に出会ったショパンを、30年の経験を経た今、宮谷はあらためて見つめ直す。けれど、この演奏会は過去を振り返るだけの「記念演奏会」ではない。
今回、宮谷がともに音楽を作るのは、長年信頼を寄せるクァルテット・エクセルシオ、そして石田紗樹、岡本潤という、今をともに生きる音楽家たちだ。大編成のオーケストラを背負うのではなく、一人ひとりの音を聴き、一人ひとりと呼吸を合わせながらショパンを奏でる。そこに生まれる濃密な対話は、30年の歩みの「到達点」であると同時に、宮谷理香がこれから描いていきたい音楽の姿を示している。
30年間に培ってきた経験を抱えながら、まだ見たことのない音楽へ向かっていく。今回のショパンは、その二つが交差する場所にある。だからこそ、この演奏会は「30周年記念」という言葉だけでは語りきれない。30年を振り返るための音楽ではなく、30年を経た今だからこそ始められる、次の音楽への一歩が生み出される瞬間を、会場にいる我々も一緒に体験する機会となるだろう。
公演はいよいよ10月11日(日)。30年の歩みの先で、宮谷理香が今、誰と、どんな音楽を奏でようとしているのか。その答えを、ぜひ客席で確かめてほしい。
公演情報
宮谷理香(ピアノ)
〈ゲスト〉
クァルテット・エクセルシオ[西野ゆか(Vn)、栗津惇(Vn)、吉田有紀子(Va)、大友肇(Vc)]
石田紗樹(Va)
岡本潤(Cb)
ショパン:ピアノ協奏曲 第2番 Op.21
ショパン:ピアノ協奏曲 第1番 Op.11
(小林仁編曲、弦楽六重奏版)
一般 7,000円 / プレミアム(限定40枚) 9,000円
DAY-1&DAY-2セット券(ムジカキアラ限定) 10,000円
宮谷理香(ピアノ)
徳山美奈子:序の舞
ラヴェル:水の戯れ
ドビュッシー:水の反映~映像第1集より、喜びの島
シェーンベルク:6つのピアノ小品 Op.19
リスト:波を渡るパオラの聖フランチェスコ
ムソルグスキー:展覧会の絵
一般 5,000円 / プレミアム(限定40枚) 7,000円
DAY-1&DAY-2セット券(ムジカキアラ限定) 10,000円