【速報】新国立劇場「魔笛」開幕レポート
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撮影:寺司 正彦/提供:新国立劇場
パーテルノストロ指揮東響&日本人キャストが示す傑作の真価
新国立劇場オペラの2016年は、1月24日(日)に満員の聴衆を迎えて上演されたモーツァルトの歌劇「魔笛」で開幕した。さっそくそのレポートをお届けしよう。
「魔笛」は言わずと知れたモーツァルト最晩年の、全曲は知らなくとも序曲や数多くの有名なアリアなら誰もが耳にしたことがあるほどの大人気オペラだ。だがそのおとぎ話的な見かけにはよらず、このオペラの筋書きは一癖も二癖もあるものだ。
撮影:寺司 正彦/提供:新国立劇場
「物語の冒頭で主人公に冒険を依頼する女王が途中から倒されるべき敵になり、討伐の対象と名指された”敵”が主人公たちとの出逢いから彼らを導く徳の高い存在になり、最後には敵となった女王を滅ぼしてくれる」という、途中でお話が入れ変わってしまうその展開を、あえてロールプレイングゲームに例えれば「主人公たちを勇者として送り出した王様が、最後の敵だった」ということになるだろうか。
そんなねじれたお話の中で数多くの試練に立ち向かう主人公たちは展開に振り回される(中で成長する)、主人公としてはいささか残念な役どころだが、そんな彼らの危機を救うのが魔法の鈴であり、タイトルともなっている魔法の笛だ。
だがしかし、それらの道具が「敵」から渡されるのは、さてどういうことになるのだろう……などなど、若干ドタバタ気味のお話ではあるけれど、楽器の、音楽の導きによって試練を超えていくそんな物語をモーツァルトは気に入っていたことだろうと思う。静かな響きが印象に残る晩年の作品の中では異例なことに、このオペラには活気に満ちた多彩な音楽が溢れている。ふたつの夜の女王のアリアだけではない、全曲どこをとっても名曲が出てくるこのオペラが作曲者に愛されていない訳がない、それが最後の大成功作であればなおのこと、だろう。
撮影:寺司 正彦/提供:新国立劇場
それでは新国立劇場の「魔笛」はそんなドラマをどう見せるのか。劇場のオープンから間もない1998年から繰り返し上演されてきた人気のプロダクションを創りだした演出のミヒャエル・ハンペの回答はいたってシンプル、「書かれた作品のとおり」に正攻法で演出する、という直球勝負だ。ト書きやセリフの意味をことさらに読み替えたり舞台を置き換えたりせず、「主人公たちの通過儀礼と勧善懲悪の物語」として、シカネーダーの台本、モーツァルトの音楽が描いたものを細部まできっちりと舞台上に描き出すのがこのプロダクションの魅力なのだ。
「でもこの舞台はSF風味の幻想的な衣装・美術で、おとぎ話とは程遠いではないか」と思う方もいらっしゃるだろう。だがそれらは夜の女王の側を示す「月」とザラストロの側を示す「太陽」を象徴的に示したうえで他の登場人物や場面にも展開した、いわば有機的アイディアの視覚的デザイン化だ。加えて登場人物たちの関係性を、上下左右、そして前後に奈落にとオペラパレスの機能を駆使して空間的に示している、よく考えられた舞台なのだ。長く上演されて続けていることには相応の意味が、価値がある、ということだろう。
撮影:寺司 正彦/提供:新国立劇場
さて、上演初日となった24日の演奏は、尻上がりに調子を上げて見事な大団円を迎えた。歌手勢では、力強い声と難易度の高い技巧を両立してみせた夜の女王役の佐藤美枝子、新国立劇場オペラの顔と言ってもいいほどの貫禄が光るザラストロ役の妻屋秀和、さらになんといっても初演でシカネーダーが演じて以来の儲け役であるパパゲーノをコミカルな演技と表情豊かな歌で魅せた萩原潤は特に輝いていた。そうそう、終盤の物語を大団円に導いた三人の童子たち(前川依子、直野容子、松浦麗)が歌に演技に活躍していたこと、そしていつも高水準の演奏なのでつい見逃されがちな新国立劇場合唱団の堂々たる歌唱がザラストロの教団の権威を見事に描き出したことも忘れてはならないだろう。
撮影:寺司 正彦/提供:新国立劇場
新国立劇場に初登場となった指揮のロベルト・パーテルノストロは、第一幕では無難な演奏に思えたが(もっとも、そのヴェテランならではの堅実さ自体は評価できる)、休憩後の二幕から指揮者が「このオペラで特に好きな部分」と語るフィナーレに向けて、歌手とオーケストラを見事に導いた。その指揮に応えた東京交響楽団の緩むことない緻密なアンサンブルは、「魔笛」の真価を示すものであった。演奏の序盤に初日ならではの硬さは見受けられたが、それは次回以降の公演では解消されていくことだろう。良いスタッフを迎えてプレミエから六度目の上演で、このプロダクションの価値はまた高められることだろう。
撮影:寺司 正彦/提供:新国立劇場
また、舞台の話ではないのだが、今回のパンフレットについても紹介したい。作品紹介に岡田暁生、「魔笛」を初演したシカネーダー一座の小史を原研二、20世紀の歴史の中で上演されてきたモーツァルトの位置づけに高橋宣也ほかの充実した執筆陣による多面的な作品論は読み応え十分、対訳以外はこのパンフレットで揃うと言っても過言ではない。ご来場される方にはぜひ、と私から強くお薦めさせていただく。ここでは触れていない「魔笛」のフリーメーソン的含意や日本における上演の歴史など、この上演を楽しまれた方なら興味深くお読みいただけるものと思う。
撮影:寺司 正彦/提供:新国立劇場
さて今回の新国立劇場の「魔笛」だが、残る三公演のうち千秋楽となる30日(土)の
撮影:寺司 正彦/提供:新国立劇場
■日時:2016年1月24日(日)、28日(木)、30日(土) 14:00開演、26日(火) 18:30開演
■会場:新国立劇場 オペラパレス
ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト作曲 歌劇「魔笛」
全二幕 ドイツ語上演/字幕付
■指揮:ロベルト・パーテルノストロ
■演出:ミヒャエル・ハンペ(再演演出 澤田康子)
■美術・衣裳:ヘニング・フォン・ギールケ
■照明:高沢立生
■合唱:新国立劇場合唱団(合唱指揮 三澤洋史)
■管弦楽:東京交響楽団
■キャスト:
ザラストロ:妻屋秀和
タミーノ:鈴木准
弁者:町英和
僧侶:大野光彦
夜の女王:佐藤美枝子
パミーナ:増田のり子
侍女 I:横山恵子
侍女 II:小林由佳
侍女III:小野美咲
童子 I:前川依子
童子 II:直野容子
童子III:松浦麗
パパゲーナ:鷲尾麻衣
パパゲーノ:萩原潤
モノスタトス:晴雅彦
武士 I:秋谷直之
武士II:大塚博章
■公式サイト:http://www.nntt.jac.go.jp/opera/performance/150109_006149.html