北川大輔・工藤さやが語る、カムヰヤッセンのいまとこれから

2016.2.2
インタビュー
舞台

カムヰヤッセン(左より、北川大輔、小林樹、工藤さや、小島明之、橋本博人、ししどともこ、辻貴大) 提供:カムヰヤッセン

劇団旗揚げ以来、人間の普遍的な営みの有り様、感情の揺れ動きをつぶさに描き出してきた、カムヰヤッセン。脚本・演出を担当する北川大輔と、役者・工藤さやに次回作『レドモン』を語ってもらった。また、昨年の劇団代表交代を経て、生まれ変わりを見せたカムヰヤッセンの今後の野望についても話を聞いた。

―次回の4月公演『レドモン』はどのような公演になりそうですか?

北川:宇宙人が地球に来ていて、その宇宙人を星に追い返そうという動きが高まっている状況を描いたストーリーです。とある3人家族を軸に話は進みます。旦那さんは、地球人で、宇宙人を星に帰そうとする仕事をしています。ですが、お嫁さんは宇宙人2世だったり、っていう複雑な関係性です。その間に生まれた一人息子も登場します。旦那さんの仕事で宇宙人を追い返していく中で、お嫁さんの正体がバレてしまい、どのような選択をしていくかが話の核になっています。差別・区別する気持ちや、仲間に入れたくないと思う気持ちを人間はどのように受け入れていくかがメインテーマになっています。シリア難民問題など、いまの世界情勢とも関連するテーマになっていると思います。

―『レドモン』は再演公演となりますが、この時期・タイミングでの再演を決断した理由はなにかありますでしょうか?

北川:初演をやった年が、約8年前でアメリカのオバマ氏が大統領になった年なんですよね。世界は平和な方向に向かうのかもという空気が感じれる時でした。僕自身は、大学に通いながら劇団を始めたころで、研究室などでは「北川君は演劇をやるんでしょ?」というような言われ方をしていたんです。僕自身の問題も多分にあったとは思うのですが、「仲間に入れる/入れない」というようなテーマを考え出した頃でした。
そして去年今年になって、アメリカではトランプ大統領候補が一定数の支持を集め始めていますよね。なぜ支持を集めるのかというと、アメリカ人のエクスクルーシブな面が影響しているんだと思うんです。そういった面って、ヘイトスピーチなどにもみられるように日本人にもないことはない。こうした時代背景もあいまって、劇団的には「どう共生していけるか」をここ2・3作品テーマにしてきました。前回作品『リボーン・チャンス』は地域の中でどう生きていくのか、前々回『未開の劇場』は外国人労働者との共生を描きました。創作を経て自分の関心事がわかっていった感じでした。そして、その根源となるものは「人はどうやったら自分とは違うものを受け入れていけるのか」を描いた、あの8年前の『レドモン』にあったのではないかと思い至りました。いまこの時代だからこそ、やる意義がある公演なんじゃないかと感じ、再演を決めました。

カムヰヤッセン演出/脚本・北川大輔 提供:カムヰヤッセン


―初演と再演の変更点はありますか?

北川:俳優がほとんど入れ替わっている点が大きな変化です。初演時は、大学を出たばかりの頃でしたので、ほとんど大学の時の同期と一緒に上演しました。初演から変わっていない役者さんは、小島明之さんだけです。僕自身が結構アテ書きをする脚本家でもあるので、初演とは全く違う作品になると思います。全体的に初演時とは年齢もググッと上がったので、より実際の家族に近いものに見えるのではないかと思います。
加えて、初演の時は「宇宙人出てけー、地球人が来たぞー」というようなセリフはファンタジーでしたが、今はシリア難民問題など、現実とストーリーが重なってきているという変化もあります。そういった世の中の情勢が大きく初演のころとは大きく異なりますね。基本的な軸や書きたいことは初演と変わりませんが、時代の変化がどのように作品に影響してくるのか、僕自身でも楽しみです。
再演といえば…カムヰヤッセンってなぜかいつもちょっと時代を先取ってしまうんですよね(笑) 2010年に公演した『やわらかいヒビ』では原発事故をテーマに、人間はテクノロジーを制圧できるのかという作品を書きました。期せずして、翌年に東日本大震災の原発事故が起きてしまったんです。だから、2013年に同作品を再演するときはその辺に一番神経を使いました。ちょっと(テーマを)扱うのが早いんですよね。『時代先取り劇団』とかって名乗ってやろうかくらいの(笑)

 

―カムヰヤッセン様は2015年4月に代表交代がありましたが、何か劇団への変化などありましたでしょうか?

工藤:個人的には大きな変化はないと思っていますが、内部的にはみんながたくさん働くようになりました(笑) 周りのみんなが助けてくれるんです。私としては、公演を打つことと創作は割り切って楽しんでやれています。

北川:工藤さんが代表になってから劇団がもっと明るくなりましたよ。

工藤:「いけるでしょ!」「大体大丈夫!」みたいな雰囲気ですね。自分はA型なので、以前は結構細かいことが気になっていたのですが、どんぶり勘定ができるようになりました。

北川:僕は創作に専念できるようになった、というのはあります。工藤さんは仕事を回すのがうまいんですよ。劇団って、個人商店みたいなものなので一人がヘタると周りも崩れてしまうのですが、いまのカムヰヤッセンは工藤さんのおかげで明るいです。みんなが帰る場所になっています。

工藤:素直に「助けて」が言える間柄です。

北川:素直に「助けて」を言えないと逆に怒られるね(笑)

カムヰヤッセン代表・工藤さや 提供:カムヰヤッセン


―カムヰヤッセン様の今後の展望・野望などあれば教えてください。

工藤:個人的には売れたいです 。たくさんファンが欲しい(笑) あとは、好きな仕事で、劇団の収入だけで暮らせるようになりたいですね。純粋に作品が面白いから値段が上がってもお客様が来るような劇団にしたいです。

北川:いま、前回公演『リボーン・チャンス』を行った会場であるワテラスコモンと、地域に関することでなにかできないかという計画が進んでいます。あとは、前々回公演の『未開の劇場』を北区の区民キャストで上演するという企画もあります。これまでまだ誰も手を付けていない領域で公演を行っていくということにも挑戦していきたいです。 


―最後にカムヰヤッセン様へ関心をもたれた方にメッセージをお願いします。

北川:とにかく、観に来てもらって初めて作品は命が吹き込まれるので、まずは観ていただきたい。自分の隣で起きている問題のことっていうのを見てもらえるような作品にしますので、是非、劇場でお待ちしております。

工藤:カムヰヤッセンは人間らしい人間がたくさん出てくるので、そういう部分を楽しんでほしいです。人間っていいなと思ってもらえたらと思います、宇宙人もふくめて(笑) 劇場に来てください!

 

シリア難民問題やヘイトスピーチにも話が及んだ今回のインタビュー。北川・工藤両氏の語る言葉からは、彼らの『レドモン』にかける使命感にも似た思いを感じることができた。初演時とは、世界情勢も、また劇団も大きく変わった2016年。カムヰヤッセンはどのような「共生」のかたちを描き出してくれるのか。ぜひ劇場へ足を運んで確認していただきたい。

 

公演情報

カムヰヤッセン 第13回公演『レドモン』

■日時:2016年4月6日(水)~10日(日)
会場:吉祥寺シアター
出演:小島明之、辻貴大、工藤さや、小林樹、ししどともこ、橋本博人、ほか
■公式サイト:http://kamuyyassen.daa.jp/​

 

カムヰヤッセン
北川大輔が東京大学の学生劇団を退団後、2008年に旗揚げ。
現代社会の抱える様々な問題を下敷きにし、
徹底した観察に基づいた人間の営みと、そこに生まれる普遍性の高い物語を主軸にした
「現代の古典」を標榜する作品を発表している。
また、複数都市での上演や様々な団体との共作企画への参加など、精力的に活動している。
2015年4月、代表に工藤さやが就任。現在劇団員8名で活動。

カムヰヤッセン公式サイト