オペラ「イェヌーファ」ゲネプロ映像をいち早く特別公開
「イェヌーファ」2016.2.25ゲネプロより (撮影:寺司 正彦/提供:新国立劇場)
新国立劇場2015/2016シーズンの新制作オペラ『イェヌーファ』が、2月28日(日)からの初日に先立ち、25日(木)にマスコミ向けにゲネプロ(最終総稽古)を公開した。SPICE映像取材班はこれを撮影した。その抜粋映像をいちはやくお届けする。
新国立劇場オペラパレス初登場となる『イェヌーファ』は、チェコの大作曲家レオシュ・ヤナーチェクの傑作オペラ。ヤナーチェクといえば、チェコ・モラヴィア地方の民族色豊かな作風で知られる。とりわけ有名なのが「シンフォニエッタ」で、村上春樹『1Q84』の重要な要素として登場したり、EL&Pの「ナイフ・エッジ」に引用されたりと、多くの人に馴染み深い作品だ。
一方、今回の『イェヌーファ』は、ヤナーチェク50歳の時に初演された第3作目のオペラ。チェコの閉鎖的な寒村を舞台に、未婚で身ごもったイェヌーファ、彼女を守ろうとするあまり赤子を殺してしまう継母コステルニチカを巡る悲劇と愛の物語だ。原作戯曲の散文風の会話をそのままオペラに仕立て、モラヴィア方言で書かれていることが特徴。伝統的なオペラの語法と美しい旋律が随所に聴こえるだけでなく、ヤナーチェクが積み重ねてきた民族音楽への造詣を自らの肉として、独自の語法を確立した作品として彼の作品群の中でも重要な位置を占めている。
今回公演は、ベルリン・ドイツ・オペラの協力公演だが、主要キャストはベルリン・ドイツ・オペラ初演に出演したほぼ同じキャスティングでの上演だけあって、ゲネプロにおいても歌唱迫力はハンパなかった。トマーシュ・ハヌスが指揮する東響のオケは、ナイフのように鋭利な響きで聴衆の無意識を抉る。
そして何と言っても、いまや、欧州オペラ界で最人気演出家というべきクリストフ・ロイの、イェヌーファの継母コステルニチカをフィーチャーした演出が冴え渡る。ヴォリューム感あふれる群衆の見せ方は痛快無比。白を基調としたディルク・ベッカーの美術やベルント・プルクラベクの照明も溜息が洩れてしまうほどに美しい。これを映画のスクリーンのように操るロイの空間魔術は鮮やかなことこのうえない。ひとときも目が離せなくなる。これぞ現代ドイツ・オペラ演出の神髄といえるだろう。
オペラファンはもちろんのこと、舞台の魔力に触れたいすべての人に強くオススメしたい公演だ。
「イェヌーファ」2016.2.25ゲネプロより (撮影:寺司 正彦/提供:新国立劇場)
村一番の美人イェヌーファは、連れ子であるために家を継げないラツァの自分に対する愛情を知りながら、美男で跡継ぎのシュテヴァに身を委ね、未婚のままに子を宿す。嫉妬に駆られたラツァに頬を裂かれたイェヌーファを、シュテヴァは呆気なく捨て去ってしまう。イェヌーファの継母であるコステルニチカは、酒飲みの夫が死んだ後に村の教会番となり地位を築いた厳格な人物。イェヌーファを守ろうとするあまり、イェヌーファの赤子を亡き者にするという悲劇を起こしてしまう……。
レオシュ・ヤナーチェク作曲 歌劇「イェヌーファ」
全三幕 チェコ語上演・字幕付き
■日時:
2016年2月28日(日)、3月5日(土)、11日(金) 14:00開演
2016年3月2日(水)、8日(火) 18:30開演
■演出:クリストフ・ロイ
■美術:ディルク・ベッカー
■衣裳:ユディット・ヴァイラオホ
■照明:ベルント・プルクラベク
■振付:トーマス・ヴィルヘルム
■演出補:エヴァ=マリア・アベライン
■管弦楽:東京交響楽団
ラツァ・クレメニュ:ヴィル・ハルトマン
シュテヴァ・ブリヤ:ジャンルカ・ザンピエーリ
コステルニチカ:ジェニファー・ラーモア
イェヌーファ:ミヒャエラ・カウネ
粉屋の親方:萩原潤
村長:志村文彦
村長夫人:与田朝子
カロルカ:針生美智子
羊飼いの女:鵜木絵里
バレナ:小泉詠子
ヤノ:吉原圭子