指揮者・佐渡裕にインタビュー。トーンキュンストラー管弦楽団を率いて日本ツアー開催。
佐渡裕
世界で活躍する人気指揮者・佐渡裕は、2015年秋、108年の伝統を誇るウィーンの名門、トーンキュンストラー管弦楽団の音楽監督に就任。今年3月には、コンビ初のCDとなるR.シュトラウスの「英雄の生涯」をリリース。5月には、日本への凱旋ツアーを行う。そんな佐渡に話を聞いてきた。
佐渡裕
――トーンキュンストラー管からは、何と1度の共演で監督就任を要請されたそうですが。
ウィーンは、1988年にバーンスタインのアシスタントとして最初の海外生活を始めた町です。でも仕事の縁はほとんどなく、それまでウィーン放送響を2回指揮しただけ。2013年のトーンキュンストラー管への客演が3回目の指揮でした。でもそのとき、オーケストラの反応が非常に良く、内容のある練習をスムーズにできましたし、難しいプログラムにも機敏に対応してくれました。すると3回の演奏会の1回目が終わった後、『音楽監督に来てくれないか?』といきなり言われたのです。とはいえ1回しか振っていないし、日本のポストやヨーロッパでの客演との兼ね合いもあります。でも由緒あるムジークフェライン、州都のザンクトペルテン、ときには夏に音楽祭を行うグラフネックで公演があり、しかもウィーンでは日曜の午後という、地元の人たちが音楽を聴く最も大事な時間の公演を任されている。それと公立のオーケストラで、州が力を入れてバックアップしている。これはやるべきだと思って受諾しました。
――音楽監督となれば、シーズン全体のプログラムミングやツアーの計画、楽員のオーディションなどすべてに関与し、演奏会や録音を含めて同楽団での活動は年間5ヶ月程に達すると思うのですが。他の活動との調整は上手くいっているのでしょうか?
柔軟性のあるオーケストラで、いい音作りをしようという前向きの姿勢をみせてくれています。先日のブルックナーの交響曲第4番など、何かに憑かれたように集中度が高く密度の濃い演奏で、このコンビでしか実現しない音を作れた感覚がありました。これはメンバーたちも明らかに感じています。確かに彼らはベルリン・フィルのようなスーパーオーケストラではありません。しかし実力はもっていますし、個人的なレベルも高い。様々な楽器のソロがあるハイドンの交響曲第6~8番(第6番『朝』は日本ツアーでも披露される)をやったとき、名手揃いで見事な音色感をもっているのを実感しました。これからこのコンビならではの魅力を作っていけると思いますし、私にとって間違いなく新しい時代が始まった気がします。
佐渡裕
――『英雄の生涯』のCDは、その最初の成果でもあると。
非常に満足のいく録音でした。求める音を目指して何度も録り直し、美しい光に包まれるような響きが生まれたのは、大きな財産です。またこの曲で活躍するホルンにはとても温かみがあり、女性のコンサートマスターは、『英雄の生涯』のソロはもちろん、ハイドンも抜群に上手い。彼女は人間的にも素晴らしく、もう宝物ですね。
――5月の日本ツアーでは、前記のハイドンとR.シュトラウスの2作のほか、ベートーヴェンの協奏曲やブラームスの交響曲第4番を演奏されるとお伺いしています。いずれもウィーンゆかりの作曲家の作品ですがこれはどのような意図でしょうか。
歴史あるこのオーケストラが日本人の音楽監督を起用したのは、彼らにとって大きなチャレンジだと思うのです。私はそれにきちんと応えたい。日本で育った私が、ヨーロッパで28年間培った経験をその場しのぎで終わらせるのではなく、ハイドンやベートーヴェンから、ブラームスやリヒャルト・シュトラウスに至る“ウィーンライン”を、彼らと共に確実に固めていく。それがチャレンジに対する私の答えだと思っています。
――ブラームスの交響曲第4番は、音楽監督就任演奏会に選んだ曲でもありますよね。
最初のウィーン行きの際にバーンスタインが指揮した記憶が強く残っている作品です。とてもロマンティックで、美しさと情熱が共存し種類の違う4つの料理が1つに完結するが如き構成も見事な、最高の交響曲。第2楽章の宗教性、第3楽章の若さと喜び、第4楽章のパッサカリアの変奏……これらをバーンスタインから学びましたので、同じムジークフェラインの指揮台に(音楽監督として)立つとき最初に選びたいと思いました。
佐渡裕
――ベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲とピアノ協奏曲第1番は、世界で活躍する旬の二人、レイ・チェン(ヴァイオリン)とアリス=紗良・オット(ピアノ)と共演されるそうですが。
レイ・チェンは、以前ベートーヴェンの協奏曲を共演した際にアプローチが見事に一致したので、ソリストを打診されたとき即座に指名しました。若手ながらも本格派で、聴衆が耳を傾けたくなるような美しい演奏をしてくれます。アリスも、このツアーを意識して昨年12月に兵庫の演奏会で弾いてもらいました。美しさと実力を兼ね備えた魅力的な彼女に、今回の目玉として弾いてもらうのは大きな意味があると思っています。
――佐渡さんにとっての今回のツアーの意義とは?
中国系オーストラリア人のレイ・チェン、日本とドイツの血をもつアリスと、日本人の私が、歴史あるウィーンのオーケストラと共に日本でベートーヴェンやブラームスやシュトラウスを演奏し、言葉や宗教を超えて共振し合う。それこそが音楽のもつ大きな力であり、今回のツアーで最も伝えたいことなのです。
佐渡裕
インタビュー・文=柴田克彦 撮影=原地達浩
佐渡が音楽監督に就任したトーンキュンストラー管弦楽団とのコンビによる初めてのCDがナクソスから世界リリース。日本では世界に先駆け3/23に先行発売。メインの収録曲はR.シュトラウス:交響詩「英雄の生涯」、5月に行う日本凱旋ツアーのメインプログラム(Bプロ)。
発売日:2016年3月23日(水)
品番:TON-1001
演奏:佐渡裕(指揮) トーンキュンストラー管弦楽団
曲目:リヒャルト・シュトラウス:交響詩「英雄の生涯」、「ばらの騎士」組曲
録音日時:2015 年 10 月 16 日〜20 日
録音場所:グラーフェネック・オーディトリアム(オーストリア)
エグゼクティヴ・プロデューサー:Frank Druschel
プロデューサー:Florian B. Schmidt
サウンド・エンジニア:Aki Matusch, Florian B. Schmidt
■ナクソス・ジャパンでのCD情報ページ
録音風景等のプロモーションビデオがご覧いただけます。
⇒ http://naxos.jp/news/ton-1001
3/6(日)13:00~ フジテレビ(関東甲信越)
番組URL http://www.ktv.jp/mamma/backnumber.html
※関西テレビ(近畿エリア)は2/20に放送終了しました。
※その他のエリアの放送日時は異なりますのでご注意ください。