3D×少年の生き様が、心に響く『PREMIUM 3D STAGE 残響のテロル』レポート

悲しく、そして美しい――そんな印象を残す舞台『PREMIUM 3D STAGE 残響のテロル』が、3月6日（日）まで、Zeppブルーシアター六本木にて上演中だ。

原作は、2014年、名作を次々生み出してきたノイタミナの枠で放映され、鮮烈なテーマとラストで衝撃を与えたTVアニメ。その舞台の演出を手掛けるのは、舞台『攻殻機動隊 ARISE ： GHOST is ALIVE』で世界初、3Dメガネを掛けての観劇を成功させた奥秀太郎。今作ではその技術をさらに洗練させ、3D映像と生身の演技、音響と照明を駆使した壮大な舞台を出現させている。舞い散る雪や羽、チェスのバトルシーンなど、目の前まで迫って来る立体感覚は、3Dならでは。世界観と一体化できる体感を、舞台ファンにこそぜひ味わってもらいたいと思う。

技術は最先端である一方で、物語は儚いほど人間的。社会から切り離されて育った少年たちの悲しくも懸命に生きる姿を、繊細に描き出している。アニメ11話の複雑なストーリーを約2時間にまとめつつ、舞台として成り立たせたのは、脚本・熊谷純の手腕。

主人公は、頭脳明晰なナイン（九重新）と、運動神経抜群のツエルブ（久見冬二）。物語は、彼らが高校に転入してくるところから始まる。学校のロッカーで、意味深な視線を交わすふたり。彼らはただの高校生ではなく、ネット動画で「スピンクス」を名乗り、謎が解けなければ爆弾を爆発させると表明する、正真正銘のテロリストだった。さらに密かに、青森の核燃料再処理施設から、小型の原子爆弾まで盗み出していて……？

二人は何故、そんな暴挙に出るのか？ その理由は、生い立ちにあった。施設に閉じ込められ、優秀になるための訓練を受け、特殊な薬を飲ませられる実験体。ある事件をきっかけに、ナインとツエルブだけが、その地獄から逃げ出したのだった。しかもその実験ゆえ、長くは生きられない運命をも背負うことに……。

若くして課せられた、重すぎる業。それを感じさせない明るさを持つツエルブを、石渡真修が演じる。『テニスの王子様』の桃城武役で開花させた天性の輝きや素直さが今作でも活き、ハマり役という印象。三島リサ（桃瀬美咲）との淡い恋模様も、切なく胸を打つ。

そのツエルブと、常に二人で一人、どんな時でも一緒の同志・ナインを演じるのは、松村龍太郎。『戦国BASARA』の真田幸村役の熱血さとは対照的に、クールで影のある少年を見事に演じ切っている。一方で、ツエルブとの掛け合いでは、素をのぞかせる一瞬も。稽古場の柔らかな空気を感じさせ、シリアスなシーンが続くなかでホッと安らぐ一幕に。役者同士の信頼関係を含めた、ナインとツエルブの強い絆、すれ違いながらもお互いを思い続ける姿に、心を揺さぶられる。

そんな二人の間に立つキーパーソンが、ハイヴ。ナインたちと同じ施設に育った冷徹な少女を、TVアニメで声を担当した潘めぐみが、生身でも演じ抜く。ナインへ寄せる狂気にも似た強い執着に、思わずゾクリ。普段の可愛らしい姿からは想像もできない迫力と存在感、セクシーな低音ボイスに、目と耳を奪われる。役者としても、底知れないポテンシャルを感じさせた。

ストーリーは、警察、大物政治家、FBIもが絡み、複雑かつスピーディに展開していく。少年たちと対峙するのは、渋みのある大人陣。刑事の柴崎演じる滝川英治は、スピンクスが出す謎を解き明かす切れ者ながら、猪突猛進の激情型。ボサボサの髪の毛から鋭い眼光をのぞかせ、ワイルドな色気を放つ。その柴崎が激情をぶつける相手が、同僚の倉橋（郷本直也）。役者の滝川と郷本が、舞台『弱虫ペダル』でライバル関係を演じたふたりだと思って観るのも、また一興だ。

ナインとツエルブは、原子爆弾で何をするつもりなのか？ 彼らの願いとは？ メッセージ「VON」の意味とは……。観終えたあなたの心に、何かが響き、何かが残る。“残響”を、感じてほしい。

 

撮影＝原地達浩　文＝荒川陽子