チャットモンチー『徳島こなそんそんフェス2016』レポート・2月27日
チャットモンチー
チャットモンチーの徳島こなそんそんフェス2016 ~みな、おいでなしてよ!~
2016.2.27 アスティとくしま
昨年、メジャーデビュー10周年を迎えたチャットモンチー。そのアニバーサリーイヤーの総仕上げとして彼女たちが主宰する“こなそんフェス”こと“チャットモンチーの徳島こなそんそんフェス2016 〜みな、おいでなしてよ!〜”がふたりの地元、徳島県徳島市にある四国最大級の多目的コンベンション施設・アスティとくしまにて2月27、28日の2日間に渡って開催された。
音楽を軸に据えたイベントではあるが、音楽一辺倒ではない。出演のそうそうたる顔ぶれにはバンド、アーティストのみならず、お笑い芸人も粒揃い。さらには徳島が誇る伝統芸能、阿波おどりの演舞まで披露されるという。そんな“こなそんフェス”の記念すべき開催第1回の初日である2月27日は好天にも恵まれ、屋外に設けられたフード&グッズエリアは午前中から大盛況。ライブエリアとなる建物のエントランス周辺にも開場を待つ人々が大勢詰めかけてこのフェスへの期待度の高さを伺わせた。
白い朝に咲く
オープニングアクトにして、むせ返るような轟音、激しさと繊細さがせめぎ合う緊迫感に満ちた演奏、さらには持ち時間の20分を1曲のみにすべて注ぎ込む潔さで観る者にただならぬポテンシャルを印象づけた徳島発の2ピースバンド、白い朝に咲く。チャットモンチーもイチオシする地元の注目株だ。穏やかな祝祭ムードの場内に俄然、熱狂のスイッチが入る。
♪歌う阿呆に観る阿呆 同じ阿呆なら踊らにゃそんそん!
開演時刻の13時まであと5分と迫ったとき、唐突に阿波おどりのお囃子とチャットのふたりの歌声が響き渡ったかと思うと「スタート!」と開会宣言。直後、お揃いでグッズの法被(ハッピかもし連)を着た橋本絵莉子と福岡晃子が姿を現わした。
「来てくれてありがとう!」
「よう来たね〜。こなそんフェスを企画して1年以上経ちますが、ついに実現するときがきました!」
大歓声を浴びて声を弾ませるふたり。続いてもうひとりの進行役として、彼女たちと親交の深い吉本新喜劇座長、小籔千豊を呼び込むと、公演中の注意事項などを笑いを交えつつ3人でアナウンス。ほっこりとした前説がすっかり場を温めたところでトップバッター、Base Ball Bearの登場だ。
Base Ball Bear
パワフルに鳴るポップネス、甘酸っぱくも無敵な「17才」からスタートしたBase Ball Bear、図抜けて輪郭線の太いアンサンブルがキャパシティ5千人の大会場を揺らす。チャットモンチーと同じ所属事務所でデビューもほぼ同時期と、よき音楽仲間でありライバルでもあり続けている彼ら。「イベントのトップバッターに呼んでいただいてありがとうございます」と口にしつつ、出番直前にステージ袖で待機していた際にふたりと言葉を交わしたエピソードに触れ、「絵莉子に“おめでとう!”って言われたんだけど、何がおめでとうなのか、全然しっくりきてない」とぶっちゃけて場内の笑いを誘った小出祐介(Vo.& G.)のMCにも互いの絶妙に保たれた距離感、その心地よさが伝わってくるようだ。湯浅将平(G.)の体調不良により急遽、the telephonesの石毛輝をサポートギタリストに招いての演奏となったが、「今日はなかなかレアなセットです」との小出の言葉通り、このステージでしか観ることのできないだろう、はっちゃけたBase Ball Bearを存分に堪能できた。
レキシ
その名が綴られた赤、白、黒の幟はためくステージにほら貝の音が響き渡ると、客席いっぱいに稲穂が揺れた。アーティストの数多しといえど、稲穂をグッズにするなんてレキシ以外いないだろう。徳島には初上陸だというレキシ、予想以上の浸透度に感激を隠せないようだ。その稲穂を使う唯一の曲「狩りから稲作へ」では“♪縄文式土器 弥生式土器 徳島! どっちが好き?”と歌の中に地名を混ぜ込んで呼びかけたり“イナホ”でコール&レスポンスを起こすなどあっという間に5千人を独自のワールドに惹き込み、また“阿波の踊り子”ことチャットモンチーのフィーチャリングが話題を呼んだ「SHIKIBU feat. 阿波の踊り子」ではふたりを招いて生コラボを実現、オーディエンスを大いに沸かせた。レキシいわく、この曲の衣装である十二単は実は橋本を想定して作ったそうだ。ふたりのコーラス参加も橋本が平安貴族っぽいという流れからオファーしたという。ソウルフルなレキシの歌声と阿波の踊り子たちのキュートな声の相乗がいつまでも耳の奥をくすぐった。
小籔千豊 池乃めだか チャットモンチー
バンドとバンドの幕間は中山女子短期大学に池乃めだか、ダイアンという小籔のキャスティングによる吉本新喜劇の手練芸人たちが盛り上げる。重鎮、池乃めだかのステージは小籔とチャットモンチーも加わっての寸劇仕立てで爆笑を呼んだ。橋本の果敢なツッコミや得意の足技カニばさみにもがく福岡、ずっこけギャグにベタにひっくり返るふたりの姿というのもそう観られまい。
シアターブルック
佐藤タイジ(Vo.& G.)圧倒的な声量とブルージーな熱き魂、日本人離れしたファンキーなビート感で前半戦を締めくくるはシアターブルック。広がりを持ちながら、まっすぐに聴き手を捉える音像の立体的なスケール感、結成30年の余裕と貫禄が一音一音に宿り、それらが包容力となって会場全体を、あるいはオーディエンスのひとり一人を抱きしめるかのようだ。「ここで徳島のみなさんにお願いがあるんよ。みんなでピースサインをしてるところが見たい」と「ドレッドライダー」の曲中に佐藤がそう呼びかけるのに応えて、オーディエンスのピースサインが一斉に天を突く。「素晴らしいやんか、この徳島でこんな巨大なフェスができるなんて。さすがチャットモンチー、素晴らしい後輩ができました」、同じく徳島県出身の先輩としてふたりを讃える佐藤。「じゃあ、いちばん盛り上がる演奏をしてあげる。音楽に集中しよう」と2曲目「まばたき」へ。聴く者を軽やかに奮い立たせる、ブレイブミュージックとでも名付けたい1曲だ。100%ソーラーエネルギーでレコーディングされた歴史的名曲「もう一度世界を変えるのさ」、踊る阿呆に見る阿呆を徳島の哲学だと語り、5千人を鼓舞した「ありったけの愛」。彼らがステージを去った後には溢れんばかりの愛とメッセージが残った。
吉本新喜劇ィズ
1時間の休憩を挟んで、後半戦の一発目はドラマー小籔が率いる吉本新喜劇ィズだ。名は体を表わすの慣用句を持ち出すまでもなくメンバーは本気でバンドをやりたい新喜劇の精鋭たち。ただしベースには福岡晃子が参加という異色のコピーバンドの登場に場内がざわつく。まだ1曲も演奏していないうちから激しく息切れしてみせ、「吉本新喜劇ィズはRED HOT CHILI PEPPERSみたいな発音、略すときは“よっチリ”と呼んでください」と言い放ち、笑いを取るボーカルの宇都宮まき。カバー曲の歌詞の一部は必ず新喜劇の誰かの名前に差し替えるという強引ワザながら、演奏自体は至極真っ当で、その不思議なバランスに却って興味が引かれた。今後、要注目かもしれない。
ASIAN KUNG-FU GENERATION
初日のライブもいよいよ大詰め、ASIAN KUNG-FU GENERATIONの名がコールされるや、2階席の最後列までオーディエンスは総立ちに。刹那の静寂を突き破り、「Easter」が容赦なく客席へと攻め入る。エモーションの塊から切り出されたばかりのような荒々しい熱がほとばしる。間髪入れずに「リライト」「ソラニン」とキラーチューンを畳み掛け、場内に巨大なシンガロングの渦を巻き起こした。MC
では後藤正文(Vo.& G.)が吉本新喜劇ィズの息切れネタを早速拾っては「1曲目から息切れてるわけないじゃんね」と爆笑を誘っては「なんか緊張してるように見えるよ、徳島の人たち! でも俺もそんなに明るいほうじゃないから、俺らはそういうのも否定しないよ。たぶん心の中ではダイブとモッシュでしょ? それぞれの楽しみ方で最後まで楽しんでくれたらうれしいです」と語りかけて客席をほぐす。そうして叩き付けるアジカンサウンドの最新形、新曲「Right Now」。「All right part 2」では「俺たちのど真ん中を呼び込みたいと思います」と橋本絵莉子をコーラスに迎えて会場にさらなる一体感を生み出した。
チャットモンチー
チャットモンチー
「みなさんこんばんは! チャットモンチーです」
「初日に来てくれてありがとう! すごいよ、徳島にこんなに人が集まるなんてホンマにうれしいです」
橋本、福岡が口々に感謝を伝える。ライヴアクトのトリはもちろんチャットモンチーが務める。前説に、レキシに、池乃めだか師匠に、吉本新喜劇ィズに、アジカンと振り返れば丸1日、ほぼ出突っ張りの橋本と福岡だったが、チャットモンチーとしてはこれが正真正銘の本番だ。恒岡章(Dr.)と下村亮介(Key.& G.)の男性サポートメンバー“男陣”、北野愛子(Dr.)と世武裕子(Piano & Syn.)の女性サポートメンバー“乙女団”と一緒に6人の大所帯で披露する「8cmのピンヒール」に今なお進化をやめないチャットモンチーの、今だからこその等身大を見る思いがした。ツインドラムの分厚いリズムも、下村の弾きむしるギターも、世武のダイナミックな鍵盤プレイも、今のふたりの等身大にぴったりとそぐう。故郷に飾る錦は彼女たちの存在そのものであるような気さえした。男陣との4人で駆け抜けるように演奏した「こころとあたま」、かわいさとやるせなさとしたたかさが三つ巴で溢れ出す乙女団との「ときめき」、それぞれがそれぞれとでなければ生まれなかっただろう両極に位置する2曲を同じライブで聴けてしまう、贅沢な幸福感。「初めての“こなそんフェス”の記念すべき初日でこんなに成功してしまったらこのあとどうなるんやろ? “苦あれば楽あり”が染みついてるから、次は苦が来るんじゃないかって」と少々不安そうな橋本に「あったらあったでしゃあない。今日はみなさんの笑顔が見られてホンマよかった。これだけ成功したら、ちょっとした苦は受け入れましょ」と鷹揚に返す福岡が男前だ。橋本も橋本で「わかった、そうする!」ときっぱり。そうした微笑ましいやり取りの中にもふたりがどれほどこのフェスを念願していたかがわかる。デビュー当時の10年前には描いてすらいなかっただろう夢が、今、たしかにここに実って、大きく鳴り渡っていた。
徳島でも指折りの有名連(連とは一つの踊りのグループのこと)、蜂須賀連による見事な演舞と、さらにはチャットモンチー率いる“かもし連”が客席を踊りながら練り歩き、5千人全員を“踊る阿呆”と化した阿波おどりでクライマックスを迎えた初日。一緒になってお囃子に身を委ねては一心不乱に踊る。そこには音楽に内在するプリミティブな喜びがあった。それはジャンルも何もかも取っ払って残る核だ。“こなそんフェス”は改めてその大切さを教えてくれる無二のフェスとなるかもしれない。2日目はもはや楽しみでしかない。
撮影=古溪一道 文=本間夕子
2016.2.27 アスティとくしま
1. 日々の泡
1. 17才
2. そんなに好きじゃなかった
3. 不思議な夜
4. 曖してる
5. 十字架You and I
6. changes
7. 祭りのあと
1. 狩りから稲作へ
2. 年貢 for you
3. SHIKIBU feat. 阿波の踊り子
4. きらきら武士
1. ドレッドライダー
2. まばたき
3. もう一度世界を変えるのさ
4. ありったけの愛
1. Easter
2. リライト
3. ソラニン
4. Re:Re:
5. Right Now
6. 今を生きて
7. All right part2
8. 君という花
1. 8cmのピンヒール
2. シャングリラ
3. こころとあたま
4. いたちごっこ
5. ときめき
6. Last Love Letter
7. 風吹けば恋
8. きみがその気なら