チャットモンチー『徳島こなそんそんフェス2016』レポート・2月28日
チャットモンチー
愛する地元への恩返しと、さらには愛する音楽を通じて出会った大切な人たちを自慢の故郷へ招待したいというおもてなしの心とが結実した最高のフェスティバル。チャットモンチーがデビュー10周年の節目に主宰する“こなそんフェス”こと“チャットモンチーの徳島こなそんそんフェス2016〜みな、おいでなしてよ!〜”がそれだ。初日を大成功に収め、迎えた2日目は前日にも増して暖かなフェス日和で場内も場外もいっそうの盛り上がりをみせた。
THE NINJA
2日目のオープニングアクトはTHE NINJA。黒子のお忍びトオルが打つ拍子木を合図に忍び装束の頭巾をかぶったメンバーが登場し、場内をざわつかせる。バンド演奏の脇で演目の台紙をめくっては番傘を操る黒子のパフォーマンスもさることながら、徹底して和の世界観を歌詞に織り込んだポップセンス溢れる音楽性で客席を惹きつける。こちらも徳島を中心に活動する、チャットモンチーおすすめのバンドだ。
開演に先立っては初日同様、橋本絵莉子と福岡晃子のふたりに加え、共同で今フェスのプロデュースを務める吉本新喜劇の小籔千豊の3人がステージに現われ、フェスをより楽しむための“こなそんルール”を解説するなど、大いにオーディエンスの期待を煽る。ここで小籔が口にした「“こなそんフェス”はたいやきで言えばケツまであんこが入ってますな」はけだし名言だ。「じゃあ、一組目のアーティストを紹介します」と橋本、福岡が声を揃えてバンド名をコール。そうして2日目の幕が上がった。
四星球
メンバー手製のすだちくん(徳島県のマスコットキャラクター)に乗り、客席を横断するという型破りの登場でのっけから場内を沸きに沸かせる四星球。徳島に拠点を置き、全国各地で年間100本以上のライヴを行なっている、その名に違わぬ地元の星だ。チャットモンチーとは大学時代の軽音部で一緒だったという、いわば同級生バンドであり、おそらくもっとも付き合いの長いバンドでもある。2階の観客に向けて「見えてますか!」とこれまた手製の視力表を広げたり、「全員が振り付けをしてくれたら、あっこちゃんの秘密をひとつバラします!」などと結成15年のキャリアで培った熟練の力技であっという間に5千人を一体に。結成当時からのライブの定番曲「クラーク博士と僕」ではメンバーの身代わりに紙人形をフロアにダイブ、「運動会やりたい」では事前に座席に仕込んでおいた紅白の紙で客席を二組に分け、腿上げなどで対決させるなどやりたい放題。エンタメ精神炸裂の奇天烈なライブが展開される中、「あの子らはステージでメッセージを発する子ではないけど、その活動のスタンスこそがメッセージになっている日本の数少ないバンド。僕たちもそうなりたいし、ジジババになっても長いこと一緒にやっていきたい」と語り、「今度は僕たちがここをいっぱいにしてチャットモンチーを誘います」と宣言した北島康雄(Vo.)のMCがひときわ胸を打つ。
KANA-BOON
KANA-BOONのステージは、シーンの最前線を突っ走る彼ららしい勢いに満ちて、アスティとくしまを興奮の渦に巻き込んだ。昨年の大ヒットチューン「なんでもねだり」からライブに欠かせない鉄板曲「ウォーリーヒーロー」と分厚くソリッドなアンサンブルを響かせる堂々とした佇まいは、これが徳島初上陸とは思えないほどだ。MCでは谷口鮪(Vo.& G.)と飯田祐馬(B.& Cho.)のふたりが「KANA-BOONはチャットモンチー姐さんの所属するレコード会社の後輩で、僕らが小6だとしたら高3ぐらいなんですけど、そういう意味でもチャットモンチー先輩はかわいいですよね」などメロメロトークを繰り広げてオーディエンスの共感を誘う。初めての土地ながらも、リリースされたばかりのアルバムから「anger in the mind」を披露する意気やよし、演奏が進むにつれ、突き上がる拳で埋め尽くされていく光景は痛快の一語。「ないものねだり」では満場のコール&レスポンス、「フルドライブ」では大合唱が起こり、ステージと客席の距離もみるみるうちに近しいものに。「さっきもおいしい徳島ラーメンを食べさせてもらって、もう住みたいくらい。ツアーでもぜひ来たいです」と徳島再訪を誓ったあとは「ランアンドラン」「シルエット」で狂騒に拍車をかけた。
千鳥
熱いのはバンドの演奏だけではない。今日の幕間を盛り上げるのは吉本興業の人気コンビたち。しずる、千鳥、笑い飯と、それぞれのキャラクター全開で届けられる爆笑ネタに喝采が相次ぐ。生で見る漫才、コントの破壊力はまた格別だ。
MONGOL800
THE SPECIALSの名曲に琉球民謡をミックスした自身によるカバー曲「Enjoy Yourself (It's Later Than You Think)」をSEに登場したのはMONGOL800。沖縄と徳島、地元愛の邂逅とも言おうか、阿波おどりのお囃子同様、独自のリズムと音階がオーディエンスを魂の根底から揺さぶる。高里悟(Dr.& Vo.)が徳島市の四国大学卒業という縁から今回の出演をオファーするに相成ったそうだが、こうして地と地の繋がりをリアルに体感できるのも今後、このフェスの魅力となるだろう。「徳島ー! あーそびーましょー!」と上江洌清作(B.& Vo.)の掛け声一発、「DON'T WORRY BE HAPPY」の陽気なビートが会場いっぱいにほとばしった。「もっと遊ばにゃそんそん!」と畳み掛けるは「あなたに」だ。サビの“あなたがいれば どこでもいいよ”が“徳島”に替え歌されると客席も大喜び。5千人の温かなシンガロングが応えて響き渡る。「こっちに来るの、久しぶりだね」と儀間 崇(G.& Vo.)が懐かしそうに声を弾ませれば、上江洌は「完全に吉本の芸人さんのおかげでハードル上がってますね。こんばんは、BEGINです。……これで許してください!」と渾身のギャグを披露と人柄の滲み出たMCもまた温かい。「小さな恋のうた」で再び大きなシンガロングを起こし、「最後まで“こなそん”楽しんでいってね!」と宴にぴったりの「PARTY」でフェス前半戦は大団円。
1時間の休憩タイム中にもステージ両サイドに設けられたスクリーンではチャットモンチー自らのナレーションによる徳島観光VTRや、橋本が踊り手を、福岡が解説をそれぞれに務める阿波おどり講座の映像が上映されるなど隅々まで行き届いたふたりの心遣いが客席を楽しませる。
Perfume
そうして後半戦、緞帳がゆっくりと開くと、ステージには凛とした佇まいでスタンバイするPerfumeの姿があった。大勢のアーティストが登場するフェスという都合上、凝った舞台装置も照明も何もない。まっさらなステージ上で、しかし指先まで神経の行き渡ったしなやかな身のこなし、3人揃っての寸分乱れぬ華麗なパフォーマンスワーク、そして中毒性の高い音楽と歌声、ただそれだけで圧倒的な存在感だ。1曲目「Pick Me Up」の感情を一切排しアンドロイドに徹するかのような完璧なダンスに息を呑みながら、彼女たち自身の放つ光そのものが目をみはるほどに眩しいのだと改めて知らされる。近県である広島出身ながら、これまた徳島には初上陸だというPerfume。実は今年初めてのライブでもあるらしい。チャットモンチーの心づくしのもてなしを大絶賛し、さらに「お客さんもあったかい! こんな空気は初めてよ。おかげで私たちホコホコです」と、あ〜ちゃん。Perfumeライブでは恒例の“「P.T.A.」のコーナー”では、“す”“だ”“ち”のコール&レスポンスで5千人全員がすだちくんポーズを決め、「今日ここだけの名曲を仕上げよう!」と会場全体を巻き込んでチャットモンチーの「長い目で見て」を歌い上げるなどチャットに負けぬサービス精神を発揮。最後は「チョコレイト・ディスコ」で明るく盛り上げ、6月には再びツアーでこの会場に戻ってくることを告げてオーディエンスを喜ばせた。
チャットモンチー
楽しい時間は瞬く間に過ぎる。いよいよライブのラストアクト、チャットモンチーのステージだ。ギターとベースをそれぞれに構えた橋本絵莉子、福岡晃子の背後で高速ビートがはじける。どよめく客席、ドラムを叩いているのはなんと小籔千豊ではないか。“こなそんフェス”ならではのスペシャルな編成で披露されたのは「風吹けば恋」だ。テンポも速く、ドラムの手数も多いだろう曲だが、ふたりが“大阪のチャットモンチーメンバー”と呼ぶ小籔千豊のプレイは驚くほどにパワフル。しかも今日初めて3人でこの曲を合わせたのだというから二度びっくり、もちろんチャットのふたりも大興奮だ。
「2日目、来てくれてありがとう。みんなの笑顔を見ているだけで、もうすでにやってよかったです。見てるだけで満足だけど、一応、主宰だからライブやります!」
小籔を拍手で見送ったあとはサポートメンバーの“男陣”と“乙女団”が揃って登場し、「シャングリラ」で6人一体となった迫力満点のアンサンブルを響かせる。昨年11月にはこの6人で日本武道館のステージを大成功に収め、確実に手応えを得たのだろう。“こなそんフェス”2日間を通して、彼女たちのサウンドにはもはや1ミリの迷いもない。さらには地元の安心感、フェスのいい空気も伸びやかさに作用しているに違いない。いつにも増してリラックスした力強さが音全体に宿っているのを感じる。スタッカートが効いた鍵盤とリズムを伴奏に“♪今日は気持ちがいいな まさにこなそんの2日目”と橋本が歌って客席に太い歓声を起こした男陣との「いたちごっこ」。元気よく腕を振りながら♪デューワ、デューワと声を重ねる、ふたりの牧歌的なコーラスも目に耳に心地よい。一転、乙女団との「Last Love Letter」は切実かつスリリングで、歌詞に描かれた心情がいっそう生々しく胸に迫った。
「今日も裏でいろいろ取材を受けて、いっぱい聞かれたんですよ、“また絶対やりますよね”って。でも、この1年、フェスをやるってホンマに大変なんやなって思ったんですよ。もちろん私たちができないこともいっぱい、いろんな人にやってもらったし。だから“はい”って答えながらも、簡単に“やります”とは言いたくなくて。また、昨日と今日みたいな日がもう一回、作れるならまたやりたいと思ってます。すごく大事にしたいフェスです」
この2日間を振り返りながら、福岡は率直な想いを打ち明けた。その想いにオーディエンスが満場の拍手で応える。「どうでしたか?」と振られた橋本の口からはもはや「最高!」しか出てこなかった。2日間の出演者の名をひと組ずつ挙げながら、感謝を述べるふたり。“こなそんフェス”のラストソングは「きみがその気なら」だ。朗々とした歌声と演奏がステージを晴れやかに締めくくったが、もちろんこれで終わりではない。
チャットモンチー
今日もまた見事な演舞で客席を釘付けにした蜂須賀連、そしてチャットモンチーのふたりが有志による“かもし連”を率い、先陣を切って客席を踊り歩いた阿波おどり。オーディエンスも率先して踊りに没頭、ステージ上でも昨日と同様に出演アーティストたちが法被をまとっては一緒になって手を足をひらひらと動かしている。「やっとさー」、ふたりの掛け声に「やっと、やっと!」と5千人が叫ぶ。最強の一体感、このうえなく美しい光景がそこにはあった。
♪歌う阿呆に見る阿呆 同じ阿呆なら踊らにゃそんそん こなそんそん!
最後は全員でそう声を揃えて迎えたフィナーレ。会場いっぱいに溢れる笑顔がこの2日間の大成功を物語っていた。
撮影=古溪一道 文=本間夕子
2016.2.28 アスティとくしま
1. 切り捨て御免
2. SHU-RI-KEN
3. Oh!myちゃんこブルース
4. 寿司と芸者
5. 別府温泉ぶらり旅
1. 妖怪泣き笑い
2. クラーク博士と僕
3. 運動会やりたい
4. ネタ
5. Mr.Cosmo
6. 豪華客船ドロ船号
1. なんでもねだり
2. ウォーリーヒーロー
3. anger in the mind
4. ないものねだり
5. フルドライブ
6. ランアンドラン
7. シルエット
1. DON'T WORRY BE HAPPY
2. あなたに
3. himeyuri ~ひめゆりの詩~
4. OKINAWA CALLING
5. Rise & Shine
6. Oh Pretty Woman
7. 小さな恋のうた
8. Love song
9. PARTY
1. Pick Me Up
2. エレクトロワールド
3. ナチュラルに恋して
4. STAR TRAIN
5. FAKE IT
6. チョコレイト・ディスコ
1. 風吹けば恋
2. シャングリラ
3. こころとあたま
4. いたちごっこ
5. ときめき
6. Last Love Letter
7. 8cmのピンヒール
8. きみがその気なら