東京初登場! 家具とダンスするって? 「TROPE 3.0 家具と身体の問答」
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撮影:下村康典
東京初登場! 家具とダンスするって?????
松本には、5月末にクラフトフェア松本という日本で最も歴史を誇る、大規模な工芸のお祭りがある。だから、カトラリーや家具を作る木工作家との出会いも多く、取材して記事を書いたりもする。そんな関係から出会った、暮らしの“かたち”という視点から、現代社会における環境問題の思想的意味を検討している鞍田崇さんの「〈民藝〉のレッスン つたなさの技法」という本を購入した。
少し前、フロアジャグリングの「頭と口」を紹介したけれど、本番で配られたフライヤーの中に、鞍田さんの名前を発見! 「〈民藝〉のレッスン つたなさの技法」の表紙の写真が載ったフライヤーの公演でアフタートークに出演するらしい。よくよく見ると、それは「家具と身体の問答」、家具とダンスする? これは気になると思い使命感に燃えて話をうかがいにいく。そう、これはダンス紹介の記事だ。でも一方で主役は家具だったりもする。
Monochrome Circusとgraf、ダンスと家具のコラボ
Monochrome Circusは、京都を拠点に活動するダンスカンパニー。話を聞いた主宰・坂本公成を中心に「身体をめぐる/との対話」のテーマのもと、コンタクト・インプロビゼーションを基軸とした作品作りを展開。なんとかつては建物ともコンタクトしたりしている。
対する家具はgrafの「TROPE」というブランドのものだ。このgrafというチームもユニーク。ホームページから引用してみる。“建築家、プロダクトデザイナー、大工、家具職人、芸術家、調理師の6人によって生活空間を舞台とする全てに対してのデザイン提案を行うために結成された。発想からデザイン、製作までを共同製作のもとで行っている。専門の違うもの同士の共同作業により「生活」といったものを扱う時に欠く事のできない、身体・時間とそれらが存在する空間に対する関連性といったものをより有機的な視点でながめることが可能となる。「建築」の問題を「芸術」的な発想の元に「デザイン」し、「料理」の為の「家具」のある空間を「大工」が形作るのである”。
なんか、ワクワクするコメントだ。
Monochrome Circusとgrafのコラボは、必然だった。grafが『Cage』で宣伝美術を、『緑のテーブル』で装置を手がけ、瀬戸内国際芸術祭2010での『直島劇場』というプロジェクトを共同で実現させた。『TROPE』というダンスと家具のコラボはこうした作業の延長に、2011年に誕生した。
家具と一緒に作品を作るのは面白いと思ったら……
撮影:下村康典
そもそも、家具とダンスをしようというのはどういうきっかけだったのだろう。
「ある日、grafの棟梁である服部滋樹さんから、新しい家具のプロダクトのラインを作ると連絡があったんです。新しいプロダクトラインを作るときに写真撮影などで協力していたんですけど、発表する場を単に展示会にするよりも公演にするのはどうかという構想を2009、2010年くらいにしていたんです。僕も家具と一緒に作品を作れるのは面白いと思って。ところが僕がイメージしていた家具とは、全く違ったものが現れて、あれ?っと(苦笑)」
第1弾として提示されたのは、梯子のような家具。それからも、大きな板だったり、馬脚だけだったり、もはや“家具”とは思えないオブジェたち。それが、かっこいいのだが。
「grafでは普段から家具に余白を持ち込む、機能性を10パーセント削いでみるというようなことをやってらしたんですね。“TROPE”という名前自体が単音とか、単独とかいう意味で、50~70パーセントも家具のファンクションをなくした状態のラインを作りたかったそうです。そこに身体が介入していくことで、ただの板の機能を変化させていくかという。
僕らのやり口は、テーブルや椅子であることだったりを、体の動きによって違うなにものかに変容させていくとか、物そのものの意味を変えていくこと。梯子である段階ですでに用途が削がれてしまっているわけで、これをどう扱うかアプローチができないまま3日くらい眺めてディスカッションしましたね。試しに服部さんにどう使うのか聞いてみたら、壁に立てかけて本棚にするとか、いくつか組み合わせてワードロープにしたりとか。そう、用途は使い手が工夫して生み出すという提案なんです。使い手にとってもハードルが高い」
稽古に立ち会っていた森裕子も「家具を提案する時に、今の世の中すべてに用途が決まっていて、便利になりすぎているのは人間にとって、どうなんだろうという疑問の投げかけがあって、もっと想像力を使えというメッセージですね」と語る。
Monochrome Circusの作品では、椅子や机はそれなりによく登場するアイテムだった。だからこそ、grafサイドでも、Monochrome Circusからの刺激を取り入れ新たな商品開発に役立てている。
「たぶん、こいつらが絡むといろいろ面白い用途を提案してくれるだろうと期待されているがゆえの挑戦状だと(苦笑)。初演が2013年の1月でしたが、震災が起きて感じたことは、瓦礫に囲まれ、いろんな生活に必要な物資が不足していく中で、板の下に何かを置いて机として使うみたなことが現地で行われていたと思うのです。そういう意味では予言的な作品になったかも。
頭で考えすぎずに、触れる、振り回してみる、潜ってみる、など家具といろいろコンタクトすることで、そのものが持っている特性、可能性を身体を通じて掘り下げていくのが面白いんです。家具の用途を計算ずくで踊るのではなく、こねくり回すところから出発するわけですが、家具がどういうアフォーダンスを持っているのか、ダンサーそれぞれが身体ごと投げ込んでみて、そこから見えてきたものをシーンとして構成していく感じです」
撮影:下村康典
『TROPE』を経て、2013年には『TROPE ~device as a new structure』として再編、そして『TROPE 3.0 家具と身体の問答』で初めて東京に進出する。
「“身体と家具の問答”というテーマはずっと引き継いでいて、新しい家具が入ってきたりしながらシーン構成を変えてバージョンアップしてきた作品。正解を提示するのではなく、ものそのものが可変的に身体と絡んで斬新な風景、機能、ファンクションが見える、その瞬間をお客さんと共有できればと思います。ダンサブルな激しいシーンも、知覚を扱うような物静かなシーンも、きれいに見えなくて足掻いていたりするシーンもあります」
「僕が入った時は『TROPE』という作品はできていて、僕だったらこういうアプローチはしないという動きばっかりなんですよ。ものを使うんだったら、興味のあるジャンルだったので、やってみようと。僕があがくの専門です」というのは、頭と口の取材した縁でわざわざ会いにきてくれた渡邉尚。彼も実はMonochrome Circusのメンバーなのだ。
左から坂本公成、 森裕子、 渡邉尚
「TROPE 3.0 家具と身体の問答」
Monochrome Circus × graf × Toru YAMANAKA