首藤康之(ダンサー)にインタビュー

インタビュー
2016.3.21


『ゴジラ』の映画音楽などで有名だが、伊福部昭は20世紀の日本を代表する作曲家である。彼の最高傑作ともいわれながら長らく楽譜が消失していた“幻の大作”が、舞踊音楽《プロメテの火》だ。これは日本のモダンダンスの巨匠、江口隆哉・宮操子のダンス作品のためのものだった。1950年に帝国劇場で初演されて以来、なんと川端康成の代表作『舞姫』にもその描写がでてくるほどの成功を収めた。その楽譜が2009年に宮操子の遺品から発見され、66年振りの完全公演の主役を首藤康之が演じる。

 コンテンポラリー作品や演劇など首藤の活動の幅は広い。今回のモダンダンスはどうだったのだろうか。
「僕の基本はバレエで、本格的なモダンダンスのレッスンは今回が初めてですが、身体の使い方が全く違うので驚きました。普通あまり使わない、下腹のもっと下の部分を意識したり、ナンバ(同じ側の手と足が同時に出る)が多いなど、バレエにはない動きがとても面白い。江口先生が歌舞伎から採り入れられたようですが、日本でも江戸時代以降途切れていたような動きがダンスに生きているんです」

 江口隆哉は“日本のモダンダンス”を追求した改革者だった。
「共演者の中村恩恵さんとも話しているんですが、フリーになると自分の身体が楽な方ばかりを向いてしまいがちです。いまこの時期にこの作品に出会えて、当時を知る芸術監督・演出の金井芙三枝先生に厳しく教えていただけるのは、とても幸運なことだと思います」

 さて作品は全体で4部構成となっている。「闇に苦しむ人々」「それを見て神の火を盗むプロメテ」「喜ぶ人々」「そしてその科で岩に縛られて腸を鳥についばまれるプロメテが、神の嫉妬によって牛に変えられてしまったアイオに希望を与える」というのが概略だ。衣裳にちょっとした仕掛けがある迫力の群舞と、ソロが見所である。
「2幕のソロは8分間もあるので、当時を知る先生方に振り付けを教えていただいています。本作は音楽と振付を同時進行で意見交換しながら作るという非常に贅沢な方法だったそうですね。じっさい動きのリズムが音楽の中に存在していて踊りやすいんです。ああここはこういうステップなんだろうな、と身体の動きが自然に導き出されてくるんですよ」

 この作品は江口の弟子だった女優の津島恵子(映画『七人の侍』のヒロイン)が「モダンダンスにも『白鳥の湖』の様な作品があればいいのに」といったことから始まったという。誰もが知るマスターピースということだ。詩人の菊岡久利の原作を江口が舞踊用にまとめ、作曲を伊福部に依頼した。じつは伊福部の妻は江口門下のダンサーだったのである。もちろん伊福部にとっても本格的な舞踊音楽の依頼は、大いに腕を振るうチャンスだった。
「初めて聴いたときには、こんなに壮大な曲だとはしらず、驚きましたね。この作品が作られた1950年は第二次世界大戦が終わって間もない辛い時代。でもあきらめてはいけない、社会を変えてやるんだ、という強い決意が充ち満ちています。ただそれは、いつもどこかで戦争が起こっている今の時代にも通底すると思うんです。この作品では、決して美しいだけではない人間の様々な側面が描かれます。だからこそプロメテは火を与え、人を変えようとしていたのではないか。『火』は、希望、生命の灯火、感情等々、様々な受け止め方ができますね」

 ラストで首藤は岩に縛り付けられながら、牛に変えられてしまった中村恩恵の演じる乙女アイオと、心を通わせる高い表現力が必要とされる。
「プロメテは半神半人ですが、江口先生の解釈では、とても人間的な痛みと苦悩を抱えた存在として描かれていますね。もちろん演じる側の身体性も時代と共に変わっていくものですが、こういうモダンダンスの名作を埋もれさせてはいけない。先達の志を継いで、かつ現代の観客に最も伝わる舞台にすること。そうして大きなダンスの火を伝えていければと思っています」

取材・文:乗越たかお 写真:中村風詩人
(ぶらあぼ + Danza inside 2016年4月号から)


『プロメテの火』
5/28(土)18:00、5/29(日)15:00 新国立劇場(中)
問合せ:現代舞踊協会03-5457-7731 
http://プロメテの火.jp
WEBぶらあぼ
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