Hello Sleepwalkers ジャンルを超えた音の実験室で磨き抜かれたサウンドはいかにして生まれたのか?
Hello Sleepwalkers/撮影=西槇太一
ジャンルを超えた音の実験室で磨き抜かれたサウンドが、ついに世に出る時が来た。Hello Sleepwalkers、2年ぶり2枚目のフルアルバム『Planless Perfection』。共同プロデュースにコリン・ブリテンを迎え、現代的へヴィロックの重厚な質感と、ハロスリならではの変幻自在のトリッキーな曲作りを融合させた、非常にスケールの大きな作品だ。それぞれのメンバーが作詞作曲に大きく関わり、男女ツインボーカルという特長を前面に押し出す、今後のハロスリの基本形になるであろう完成度の高い音は、いかにして生み出されたのか。中心人物・シュンタロウ(Vo&G)に話を訊いた。
まっさらな実験からまっさらなものを作る、5人で今できることは何かを突き詰めた作品。それが“プランレス=設計図がない”というタイトルの意味。
――前作よりも明らかにソリッド、ダイレクト、ハイファイ、音が太い。
それはコリンと一緒にやったということも、たぶんあると思いますね。リチャード・アーチャー(前作のプロデューサー)とは全然違うと思います。3曲目の「EYES TO THE SKIES」という曲を一緒に作って、最初に向こうがイントロの原型を持ってきたんですよ。僕らにはこういう感じが合うだろうと思って作ってくれたらしいんですけど、僕らにも理解しがたいような変拍子で(笑)。僕らがそういうのに惹かれるタイプだということを、わかってくれていた。みんなで“これいいね”と言って、今度は僕らがサビを作って……という、すごく面白い作業でした。
――それ、めっちゃ面白そう。
しかも、良い/悪いをすごくはっきり言うんです。僕らが作ったサビに対して、“こういう要素が足りないから、こういうバンドを参考したらどうか?”とか、ガンガン提案してくれる。共作というものは今までなくて、リチャード・アーチャーとも、曲の制作自体に関わることはそんなになかったので。今回はそれがすごく刺激になりました。
――やりとりはデータで?
そうです、メールで。弾き語りだけの音が向こうから来たり、僕らからも送ったり。
――アルバムのコンセプトの話をすると、去年のワンマンツアー『Quintet Laboratory』がまずあって。そこでいろいろ実験した成果がこのアルバムにつながっている、ということでいいですか。
そうです。前のフルアルバムがあって、ミニアルバムを出して。そのあと『Quintet Laboratory』のツアーは、リリースとは関係ない、まっさらのツアーでした。そのツアーで試してきた曲がいくつもあって、そこからつながってますね。
――あのツアーの時点では、コンセプトとしてはまだ定まっていなかった?
そうですね。曲は数曲あったんですけど、それが次のアルバムに入るかも全然わからない。本当に何もない状態で、体当たりでやったツアーだったので。ザ・実験みたいな。
――コリン・ブリテンをプロデュースに起用したのは、どういう経緯で? レーベルの先輩でもあるONE OK ROCKとも一緒にやってるから、そのつながりかな? とか想像しますが。
仲良くさせてもらっているDJのKSUKEさんという方のアルバムに、ナルミと一緒に歌で参加させてもらったんですけど、そのアルバムにコリンが参加していて、そこで紹介してもらったのがきっかけで、一回日本に来た時にお会いして。やっぱり向こうの方なので、“日本の市場のことはわからない”と言いつつ、“でも俺はかっこいいものを作れるよ”と。僕も音を聴いて納得したし、そう言えるのはすごいなと思って、一緒にやろうと思いました。
――5 Seconds of Summerとか、パンク系のプロデュースもやるし、ダンス系の音も作れる人。
“この曲どう?”って、送られてくる曲がすごく多彩で。カントリーまではいかないけど、ポップな曲が送られてきて、“君らがもっと世界的に知られるようになるには、ビートルズのようなポップな要素が入ってもいいんじゃないか”という提案もしてくれて。それを最初に聴いた時、あまりにも完成度が高いので、誰かの曲だと思ったら、“これは俺が歌ってるデモだよ”って。歌もすごくうまい。全部自分でやっていて、さすがだなーと。
そこまで思ってはいなかったですけど、もともと英語の曲は好きで、英語で作ると洋楽っぽくなるんですね。この曲の最初のパラグラフはコリンが作ったんですけど、“ここの歌詞が書けないからそっちで作って”って、歌を録ってる最中に言われました(笑)。だから一行だけ、“空白で満たした透明”のところが日本語になってるんですけど。おかげですごい尖った感じになって、面白かったです。
――ああ~。そういう理由だったのか。
この曲はタイトルからできていて、曲のイメージ像が出来上がっていたから。音は確かにハードっぽい感じが強いですね。これ、Aメロがけっこう特殊で、僕らはギターが3人いるので、音数を減らしたAメロはほとんどないんですけど、この曲はギター1本、ベース、ドラムに歌が乗ってるシンプルな構造で、より歌が伝わりやすくなる。ブレスの音まで全部聴こえる、生々しい感じ。
Hello Sleepwalkers/撮影=西槇太一
――前のフルアルバムの時に、「ライヴのことを考えて作った」と言っていたでしょう。今回はもう少し、レコーディングの細かいニュアンスにこだわった印象があって。
そうですね。まっさらな実験からまっさらなものを作るというか、5人で今できることは何か? を突き詰めた作品だと思っていて。それが“プランレス=設計図がない”というタイトルの意味かなと僕は思ってます。曲というものは、ちゃんと思い描いて作らなくてもいいと僕は思ってて、偶然に出てきたものに素晴らしいものがあると思うし。不完全なものが完成形なんじゃないか? と、すごく思ってるんですね。
――うーん。それは深い。
でも本当に、僕らのバンドはそれができるだろうと思ってます。そういう意味で、設計図のないところから生まれた完成、という意味のタイトルをつけました。
――具体的にいくつか、気になる曲について訊いていいですか。2曲目「水面」は、アルバムのサウンドを主張するような、乾いた音色、重量感とスピード、ハロスリらしいトリッキーなリフを重ねたスリリングな1曲。これはどういうふうに?
これはワンコーラスだけできていて、アルバムに入れるのか入れないのか、わからないところにいた曲。サビのギターが二人タッピングしているという、かなり攻めている曲だったんですけど、それをちょっと変えて、海底の深いところから燃えるものを出していくみたいな、ふつふつとした感じに変えて、良くなりましたね。
――歌詞が面白い。どこかファンタジーのような設定。
これは歌詞に若干のストーリーがあって、海底にいる人間と、陸にいる人間が、出会えるのかどうかわからないけど、そこに向かって進んで行くという話なんですけど。途中でセクションが削れて、話のつじつまが合わなくなった(笑)。それをもう一回、通じるように書き直す作業があって、つらかったけど面白かったです。
――人間、動物、生命体、あと進化論、宇宙とか、SFとか、そういうモチーフはよく出てきますね。この曲に限らず。
自分でもそう思います。“愛してる”と歌うよりも“生命体”という歌詞のほうが好きです(笑)。
――あはは。わかる。ハロスリで“愛してる”は聴いたことない。
たまにありますよ(笑)。あ、でも今回はないか。“愛しい”とかはあるけど。
Hello Sleepwalkers/撮影=西槇太一
――「神話崩壊」は、従来のハロスリの王道という感じ。トリッキーなリフで、不協和音も入れて、うねりながら疾走していくみたいな。
イントロがまったくキャッチーじゃない(笑)。
――そこがいいんです(笑)。ハロスリらしい。
この曲は『Quintet Laboratory』ツアーでもやっていたんですけど。僕、歌えるギターが好きなんですけど、これができた時に“歌えねぇじゃん”と思った(笑)。でも意外と受け入れられて、ちょっと考え方が変わりました。単純に歌えるギターがいいと思ってたんですけど、最近はそういうところじゃないんだなと思って曲を作ってます。こんな毒々しい曲をリード曲にしていいんだろうか? と。
――歌詞も相当毒々しい、怒りと皮肉をひたすらぶちまける曲。でもそこがかっこいい。
よかったです。
――サビはキャッチーなんですけどね。どの曲も。でもそこに行くまでが一筋縄ではいかない。
根が曲がってるんですね(笑)。だから、根が曲がってる音楽が好きなんです。ここでその音入れる? みたいな細かいところがどうしても入ってきちゃう。
――メンバーそれぞれ、曲がったところがあると思うんだけど(笑)。そこにも個性の違いがあって。たとえばタソコさんの作った「Stand-alone」。アタックの強いハードロックの音に、シンセでエレクトロの要素を加えて、独特の熱気と浮遊感を作り出している。
この曲のイントロは、僕には絶対作れない。そういうのが、やってて面白いところですね。「ハーメルンはどのようにして笛を吹くのか」も、マコトが書いてるんですけど、全然違うんですよね。
――これはベースの太いグルーヴで淡々と進む、クールなダンスロックチューン。
僕以外のメンバーの曲は、すごく面白いです。僕はワンマンバンドにしたいわけではまったくなくて、Hello Sleepwalkersという生命体、それ一つで連動していく生き物みたいな、そういうところを目指しているので。今回のタソコとマコトの曲は、すごく好きですね。
Hello Sleepwalkers/撮影=西槇太一
――タソコさん&マコトさんの共作「jamming」も、シンプルなディスコロックのようなサウンドがかえって斬新。面白い曲が揃ったと思います。
マコトはロマンチックですね、やっぱり。「ハーメルンはどのようにして笛を吹くのか」にも、ファンタジー感というか、ディズニーランドみたいなメロディがある。普段はまったくしゃべらないんですけどね。“暗い人ほど明るい音楽を作る”と言われるのはこういうことか、というのがすごくわかりました(笑)。
――メンバーの個性といえば、ナルミさんのボーカル。前よりも、増えてません?
増えてます。僕だけが歌う曲はほとんどなくて。
――それは意図的に?
意図的です。僕らの武器は何だろう? と、もう一度考え直した時に、ナルミというもう一人のボーカルはすごく大きい存在だから、使わない手はないだろうと。たぶん一人だと出ない魅力が、もう一人が歌うことによって出るというのが、すごくあるなと思っていて、掛け算にしたいなと思ってました。だから今回は、どの曲も歌ってる。この比率はけっこういいなと思っていて、これがたぶん今後の指針になると思います。
――歌詞では、個人的な思いを乗せて言うと、「夜明け」が好きですね。シュンタロウさん、たまにこういう、自分の心の中をさらすようなナイーブな世界を書くじゃないですか。
書きますね。
――素に近い感じがして、すごくいいんです。これを書いた時、どんな感じだったんですか。
アルバムの制作中に、何をやってもダメだと思ってしまった時期があって。その時期はライヴも少なくて、ライヴをしないと体が全然動かなくて、すっきりしないし、誰が待っていて何のために曲を書いてるんだろう? という気持ちになった時があって。夜の2時くらいから3時間かけて、その時の思いをぶつける歌詞を書きました。
――言われてみれば。“理由のない悲しみは、ぶつける場所がない”とか。
そのままですね。
―― 一時の激情のようで、大きな人生観にも通じる曲。そう思います。
まだアルバムをリリースできるかどうかもわからない時で、曲作りが無駄なことなんじゃないか? と思えてくるような時で。でもやっぱり、今回の曲もそうですし、今までの曲もそうですけど、嘆いて終わる曲はそんなになくて、何か最後にあるんじゃないか? と。僕はそういう曲が好きだし、悲しいだけの曲にはしたくないと思ったので。だから“朝が来る”という言葉で終わりたかったんです。アルバムに入るかどうかもわからないけど、そういう歌詞を書いて、メンバーに見せたら、“いいね。入れよう”と言ってくれた。
Hello Sleepwalkers/撮影=西槇太一
――そしてラストを締めくくる、カタルシスいっぱいのスピードチューン「Perfect Planner」は?
これ、仮タイトルは「イカロス」だったんですけど。
――ああ、そういうフレーズが出てきますね。イカロスの翼の物語。
あれは物語のオチが決まっていて、蝋が溶けて墜落してしまう。その話を巻き戻して、エピローグを書き直すというテーマで書きました。
――それで“最終ページは白紙のまま”というフレーズが出てくる。
そうです。で、最後のほうに“埋める空白”という一節があって、空白は自分で埋めるということで、それがタイトルともマッチしたので。パーフェクトと言ってるんですけど、このアルバムが終わりではないと思うし、次に進むための方向性を音にした、そういう1曲になったなとすごく思います。
――ほんと、いいアルバム。これを出したあと、様々なバンドが個性を競う音楽シーンの中で、ハロスリはどこへ向かいますか。
そうですね、音楽シーンとか、僕はあんまり興味がない……というとアレですけど。でも、この作品を待っててくれる人がいるということが、前のツアーでわかったし、今もライヴをしていてわかりますし。一刻も早く“聴いてくれよ”という気持ちだけです。今回はライヴ向けに書いた曲では全然ないので、一緒に歌えるところがそんなにあるわけでもないんですけど。でもやっぱり、僕らからの提示はすごく入っているし、また一緒に音楽を楽しもうよって、あらためて言えるようなアルバムになったと思います。だから、聴いてほしいんですよね、いろんな人に。それだけです。
撮影=西槇太一 インタビュー・文=宮本英夫
品番:AZCS-1055
価格:¥2,600(tax out)
2. 水面
3. EYES TO THE SKIES
4. 神話崩壊
5. LIFE is a GAME??
6. ハーメルンはどのようにして笛を吹くのか
7. 夜明け
8. Stand-alone
9. Jamming
10. 2XXX
11. Perfect Planner
※数量限定
http://tower.jp/item/4196752/Planless-Perfection
5/22(SUN) 福岡 DRUM SON
6/4(SAT) 北海道・札幌 COLONY
6/5(SUN) 宮城・仙台 MA.CA.NA
6/11(SAT) 新潟 CLUB RIVERST
6/18(SAT) 大阪・梅田 CLUB QUATTRO
6/19(SUN) 愛知・名古屋 CLUB QUATTRO
6/25(SAT) 東京・赤坂 BLITZ