一筋の涙が零れるかどうかといった「心の栄養」をモットーにした作品を描く注目の劇団・TOKYOハンバーグへインタビュー
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TOKYOハンバーグ『愛、あるいは哀、それは相。』
血縁・家族関係を主軸に、飲酒店、喫茶店、戸建て住宅などのコミュニティに10人前後の人間たちが交錯する作品を生み出す「TOKYOハンバーグ」。強い普遍性と現代リアルのバランスを保つ劇作・演出スタイルが小劇場界各所で話題となっている。そんな、丁寧な作品づくりを心掛ける「TOKYOハンバーグ」演出家の大西弘記と、主演の西山水木、劇団所属の光藤依里に今回の公演について伺った。
--TOKYOハンバーグの結成までの経緯を教えてください。
大西:僕が伊藤正次演劇研究所というところに20歳の時に入所しまして、5年間そこで演劇の勉強をさせていただきました。25歳の時に先生が他界された後、3年間ほど事務所に所属して、映像のお仕事をさせていただいたり、舞台をやっていたりしました。その中で、自ら舞台をやってみようと思って、28歳の時に本を書いて演出してやってみました。こういう経緯があって結成っていう感じではないです。気づいたら10年経っていました。
--TOKYOハンバーグの作品の作品の特徴や雰囲気、作風を教えてください。
大西:あまり派手ではないですよね(笑) 何個か観ていただいた西山さんから見てどうですかね。自分じゃよくわかっていないんですけれど…。
西山:すごく緻密な感じがします。若手なのにしっかりした本としっかりした演出をしていて、それでいて若手の大胆さとか爽やかさみたいなものもあるなあと。「この劇団ってなにかなるぞ」っていうような、そういう匂いがすごくしました。作風は違いますが、「演劇企画集団THE・ガジラ」の印象一番近いですかね。「こんなこと考える若い人がいたんだ」って思いました。
--次回公演『愛、あるいは哀、それは相。』について、作品のあらすじを教えてください。
大西:再々演の公演になっています。福島県の南相馬という被災地にいるウミサキ家という、お母さんと娘二人の家族が三重県の伊勢市という親戚のいる地へ疎開してきたという話です。震災があった2011年の3月11日から、ちょうど半年後の9月9日に疎開してきた設定です。そこから半年後の2012年の3月11日までの半年間を描いています。その地にいる人間たちの気持ちのすれ違いとか、伊勢の人たちの「なにかしてあげたい、なにをしてあげればいいんだろう」っていう気持ちを表現したいなと思っています。ふるさとがある人とない人のいろんな違いっていうのが、見えてきたりすると面白いのかなと思います。
出演者
--次回公演『愛、あるいは哀、それは相。』の見どころを教えてください。
西山:不器用な伊勢の方々が、福島から来た人々を励ましてあげようと、「オキヒキ」のお祀りの歌を練習して歌ってくれるシーンがあるんですよね。そこには理屈を超えた、得も言われぬ感動を感じます。本当にこういうものが「お祀り」だなって思います。
大西:一種の伝統行事みたいな感じです。
西山:拙いですけれど、一生懸命やっている感じに胸がつまります。
主演:西山水木
--今回の再々演のキャストはみなさん同じなのでしょうか?
大西:いえ、キャストはだいぶ変わっています。うちの光藤だけが初演時、再演時も出ていますね。再々演ということで本もだいぶ書き直していて、人物設定男の子から女の子にしたりだとか、ちょっと歳をあげてみたりだとかいろんな変化は与えています。今回、光藤以外のキャストは一新して挑みます。
光藤依里(TOKYOハンバーグ)
--変更した中でなかでも見てほしい部分はありますか?
大西:ここは絶対見てほしいという部分は、別にないですね。ただ観る側が、初演時は震災のあった1年後に観ていますが、今回観る方々は、震災から5年目に観ることになります。なので、やっぱりタイムリーさとかの感覚は違うと思うんですよ。5年も経っていると忘れるということはないですけれど、違いは観る側にきっとあるのかなと。日本人はあんなすごいことになりましたから、そういうことがあったっていうことは絶対に忘れないんですけれど、だけどやっぱり、現代人って忘れていくんですよ。それは、みんな自分の生活が忙しいから。自分の人生が忙しくて、人の人生までなかなか構っていられないから。時代を再生する力が演劇にはあると思うので、そういうものをちょっとでもふっと思い出してくれればいいなと思います。翌日職場でそういう芝居を観たという話題を出してみたりだとか、セリフを同僚に言ってみるだとか、形はなんでもいいんですが、そういう風に持ち帰ってもらえるようななにかを考えて感じていただけるような風にしていけたらと思います。
--TOKYOハンバーグの今後の展望・野望があれば教えてください。
大西:どこの劇団さんだってきっとあると思うんですよ。どこの劇場でやりたいとか、どれぐらい動員したいとか、テレビに出てっていう力がほしいとか。もちろんそういうことを考える脳みそもあるんですけれど、ずっと自分達が演劇を続けていきたいっていうのが一番強いですね。僕が若いころ演劇を志した時のように、若者たちが「演劇をやりたい、もっと観たい」と思えるような体験を受け継いでいきたいです。そのために僕は演劇を続けたいですし、そうやって演劇人が増えていけば、もっといい劇場でやることもお客さん呼ぶことも可能になっていくと思うんですよね。もちろんどこの劇場でやりたいとかいう"野望"はありますけれども、そこは当たり前として、もっと違うところに"希望"を持っていきたいです。
--TOKYOハンバーグに関心を持たれた方にメッセージをお願いいたします。
光藤:この作品は本当に、人のいろんな感情が詰まった作品で、どこかしらに誰しもが共感を持てたりする作品だと思うので、人物の一員くらいに入っていってもらえたら嬉しいなと思います。そういう風に観ていただけたら嬉しいです。
大西:なにが正しいとかそうじゃないとかは時代によって変わってくると思いますし、生きている人間の価値観によっても変わってくると思うんです。ハンバーグの作品は賛否両論なんですけれども、見た人だけが「それがいい」とか、「それは大西どうなんだ」といえることが重要だと思うんですね。いいとか悪いとかっていうものは、見た人が決めていただければなと思います。でも、どんな風に受け取ってもらったとしても、心の栄養にはなるんじゃないかなと思っています。
西山:演劇を観ていると、パァッと心が開く瞬間ってあると思うんです。それがここには必ずあるので、目撃しに来てほしいなと思います。(大西さんは)これからの演劇のどんどん真ん中に走っていく人なので、そのスタート・節目を、ぜひ目撃しに来てください。
【稽古場レポート】
某日、神奈川県のあるスタジオにて連日行われているTOKYOハンバーグ『愛、あるいは哀、それは相。』の稽古場にお邪魔した。
稽古場には昔懐かしい喫茶店のセット。喫茶店内には、昔懐かしいインベーダーゲームのようなゲーム機に丸テーブルが並ぶ。お邪魔した時は、衣装であるハッピの帯の結び方や、はちまきの種類に関しての確認をしていた。役者たちや、演出家、美術担当が和気藹々と楽しそうに作品のことについて語っていたのが印象的だった。
稽古が始める前、役者たちは各自で声出しや台本の確認をしていた。「稽古をはじめます」と演出家である大西からひと声がかかると、美術担当からセットの説明や小道具の細かい確認があり、それが終わるといよいよ稽古が始まった。稽古が始まると、最初に感じた和気藹々とした雰囲気から一転、スイッチが切り替わったように役者や演出家たちが一層真剣な表情を見せた。この作品をより良いものにしていきたいという気持ちが伝わってくるようだった。作品に登場する人物たちのセリフ回しは標準語ではないため、セリフやイントネーションの確認をしながら稽古が進む。冒頭のシーンの通しが終わると、10分程の休憩がはさまれた。その休憩時間でも、役者のたちはセリフや動きの確認を続けていた。
休憩が終わると、次のシーンの稽古が始まった。大西は演技を細かく止めてはセリフの言い回し(イントネーション)、間合い、その瞬間にその役はどのような感情でいるのかなど、役者の演技に指示を出した。それを受けて役者は、自分の役はこのような気持ちではないかなどと意見を出し合っていた。何度も同じシーンをやり、イントネーションや演技の調整を繰り返す。明らかに、最初に見たシーンよりもより洗練されたシーンになっていることが感じられた。同じ言葉でもイントネーションが違うだけで感情が変わってくる。そのことを、肌で感じることができた。言葉を通じて、その役のバックグランドを観客に感じてもらおうと、役者一人一人が悩みながら稽古をする姿が印象的だった。
見学をして、カンパニー全体がひとつひとつのシーンを大事にしていると感じることができた。これからこの作品がどのように変わっていくのか。3月30日(水)からの本番が楽しみだ。
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日時:2016/03/30(水) ~ 2016/04/10(日)
30日(水)19:00
31日(木)14:00/19:00
1日(金)19:00
2日(土)13:00/18:00
3日(日)13:00/18:00
4日(月)19:00
5日(火)14:00/19:00
6日(水)14:00/19:00
7日(木)14:00/19:00
8日(金)19:00
9日(土)13:00/18:00
10日(日)12:00/16:00
◆前売/4000円 当日/4200円
◆ハンバーグ割引(3月30日19:00、31日14:00/19:00、4月1日19:00の4公演) 前売/3500円・当日/3800円
◆学生割/2500円(高校生以下)※要証明書
会場:下北沢「劇」小劇場(小田急線下北沢駅南口徒歩5分)
出演者:西山水木(プリエール)、光藤依里(TOKYOハンバーグ)、岩田陽葵(ミライプロダクション)、宇鉄菊三(tsumazukinoishi)、内谷正文(FrankAgeCompany)、小林英樹、鷹野梨恵子(無名塾)、石本径代(ECHOES)、大内彩加(officePORT)、大石知恵、青山結実花(ミライ・アクターズ・プロモーション)、永田涼香、脇野祐樹、横山将士、中込俊太郎(ULPS)、高畑加寿子(劇団娯楽天国)、藤原啓児(StudioLife)
脚本・演出:大西弘記