白波多カミン メジャーデビューを迎えた彼女の表現と音世界はいかにして生まれるのか
白波多カミン Photo by Taiyo Kazama
白波多カミン with Placebo Foxesとして本日・3月23日にリリースするアルバム『空席のサーカス』でメジャーデビューを果たす白波多カミン。柔らかで繊細な歌声とドキッとさせられるような写実的でリアルな歌詞、ダイナミックなロックサウンドといった各要素が合わさったある種のアンバランスさは、彼女の個性、唯一性であると同時に、聴く者の耳に確かな足跡を残していく。SPICEでは彼女の音楽的成り立ちや曲作りへの向き合い方、マインドを通してその音の個性に迫った。
――メジャーデビューが決まるだいぶ前に音源をいただいた時から、すごく気になっていたんですよ。
わぁ! ありがとうございます。
――一度聴いたら耳に残るというか。音も歌詞の内容もそうなんですけど……言い方が正しいか分からないですけど、不思議な違和感を白波多さんの音楽と歌に感じたんですよ。今日はその出処を解き明かしていきたいなと思っていて。それによって初めて聴く方にも、元々聴いていた人にもより深く、白波多さんのことを知ってもらいたいなと。まず、活動の原点ってどこにあるのでしょう。
初めて歌を作ったのは、高校3年生の時で。名簿順に席が並んでいたんですけど、後ろの席の女の子のことがとても好きになってしまって。その子は詩とか文章を書く子だったんですけど、ある日見せてもらった詩を読んだ時にわぁ~っとメロディが浮かんできて。その日そのまま早退して、もらった詩にギターでメロディをつけて、次の日に歌って聴かせたというのが最初ですね。
――その子が好きっていうのは、「LOVE」の方の?
「LOVE」ですね。でも、当時は恋愛すらまだよくわかっていなくて……高校3年生で、わたし遅咲きなんですけど(笑)。でも好きだし、送り迎えもして、その子のことを独占していたいみたいな。才能のある子やったので、尊敬もしていたし、少しでも傍にいたいっていう感じでしたね。
――もともとギターはしてたんですか?
してましたね。一人で家で弾いてました。
――そもそもなぜ楽器をやろうと思ったんですか?
なんでしょうね……ギターかっこいいな!って思ったんでしょうね(笑)。本当はピアノをしたかったんですけど、その時小学校6年生だったので……『バイエル』(初級の教則本)を6年生から始めるのはちょっとしんどいかなと思って(笑)。
――たしかに。低学年や、中には幼稚園の頃からやっている子も多いです。
それで、ギターかっこいいし、楽器もやりたかったので、始めました。
――コツコツと弾いたりしていたものが、その女の子がきっかけで曲を作ろうと……いきなり思い立ってやってみて、出来ちゃうものですか?
そうですね。いきなり降ってきて、これはこのコードなんやって。
――これがこの詩にしっくりくるぞと?
そうですね。頭に浮かんでいるやつが、これなんや~って、そのままコードになっていて。その感覚は不思議でしたね。で、その曲ができて、それはそれでよかったんですけど、その歌詞ってその子が作ったわけなので、その子の想いが入っているわけじゃないですか。私はその子が好きやったので、相手に向けて歌いたくなって。だから自分で言葉も書いて、曲をつけて贈ったのが、「ランドセルカバー」っていう1stアルバムに入っている曲なんです。それが作詞・作曲を初めてした曲ですね。
――すごいなぁ。そこからコンスタントに色々なことを曲にしていこうっていう風に思って?
そうですね。それでコツを覚えたっていうか、快感を知ってしまったというか……どうにもならない気持ちを形にして外に出すっていう行為は、私にとって必要なことなんやなと思って、するようになってきましたね。
――“どうにもならない気持ち”っていうのは、それ以前からずっとあったものなんですか?
小学校の時とかは、わりと天真爛漫に過ごしていたんですけど。中学はバスケ部に入っていて……中学くらいになると急に敬語とかを使わないといけなくなるじゃないですか。
――上下関係が。
上下関係とかで急に社会を知らされて、“難しいな~”“上手くいかないな”って思ってて。私の考えていることはきっとみんなには分からないんだろうなっていう気持ちだとか、思春期独特の感情だと思うんですけど。中学の時は内向的になってしまって、そのまま高校生になってっていう、外の世界と自分が上手く折り合いがつかない状態が続いてしまって、今も上手くいっているとは思わないんですけどね(笑)。どうやったら良い入口が見つかるんだろうって……入口っていうか……トンネル?
――自分と外の世界をつなぐものですかね?
そうです! トンネルほど暗くはないですし(笑)。
――懸け橋のような。
はい! 懸け橋的なものがほしかったんです。
――それが高校3年生で音楽を作ることになって、徐々に音楽という形で自分の中のものを出していけるようになった。
そうですね。
白波多カミン Photo by Taiyo Kazama
――そうやって中から出てきたものが、また色々とすごい形をしてて。歌詞には日常性のある具体的な情景だったり、固有名詞がすごく印象的に散りばめられていますけど、それはご自身で意識してやっていることですか?
日常的な部分は無意識というか、好きなんだと思います。普段から自分が生活している中に面白いものを探している感じなので。一からファンタジーを作るのではなくて、現実で見て過ごしているものを違う見方をしてみると面白かったっていうことが好きなんだと思います。固有名詞は面白いなって思って、好きで入れてます(笑)。
――固有名詞があることによって、その日常のシーンがよりリアルに浮き立つ感じで見えてくるなと思って聴いていたんですよ。
多分引っ掛かりますよね。最初の違和感の話と近いかもしれないです。
――切り取り方もすごく写真的だなと思って。光がこう射してきててとか、ここに何があって、何が置いてあって……っていう絵をすごくリアルに歌われているような感覚がすごくあります。
それは俳句の影響かもしれないです。写真っぽいものを言葉で言うっていう。わたし俳句が好きで。今、写真のお話で思いだしたんですけど(笑)。
――へぇ~! それは小さい頃から?
学校で俳句の句会っていう授業があったんですけど、それですごく好きになりましたね。
――ご出身は京都ですよね?
京都です。
――京都では、句会っていうのがスタンダードにあるものなんですか?
スタンダードではないと思うんですけど(笑)。……言葉で色々な絵を描けると思ってて。想いを伝えることもできるし、風景を見せることもできるし。写真はそのまま見えるけど、言葉やったら人それぞれの風景が浮かぶので。だから自分は写真を撮る方にいくのではなくて、言葉で風景とかを魅せたいというか。それぞれの人が思い描いていたら面白いなって、だから言葉が好きなのかなって思います。
――だから歌詞も詩として成立するような感じですよね。詩集みたいな感じで、これが並んでいてもいいような気がします。
目で見た時にも良い詩をずっと書いていたんですけど、歌詞っていうのは、歌のついていない詩とは別物なんやっていう発見が、最近ありましたね(笑)。この作品を作って。
――字も違いますしね。
そうですね。読んで感じる文章と歌って聴かせる言葉は、出口が紙と口で違うし、歌う場合は、声の出し方とか歌い方とか、いろんな要素がいっしょくたになっているんやなっていうのを再確認しました。今までは、歌詞ができて、曲ができて、私が歌うっていうだけで、わりと完結していたんですけど、今回のアルバムは曲ごとに自分がどんなアプローチができるのかなって思いながら作った作品なので、そこが今までと違って楽しかったし、再発見しましたね。
――楽曲単位の話も伺いたいんですが、一曲目から「姉弟」。以前からあった曲ですけど、作品としてはすごいところからスタートするなと思っていて。詞も具体的でセクシャルな単語も出てくるし、情景としてはショッキングなものが描かれていたり。でも、歌声にしろこうしてお話しさせてもらっている声にしろ、すごくかわいらしくて柔らかい声をされている。で、サウンドはオルタナロック的というアンバランスさ。ご自身的には冒険した感覚はありますか?
冒険というよりは、実験成功っていう感覚でした。作っているときは、これは面白いなって思って書いた印象があります。
――アレンジは 百々和宏さんと取り組まれていますよね。元からある楽曲を再構築というか、もう一度プロデュースしてもらって多少変えているところはありますよね?
そうですね……「姉弟」に関しては、イントロのアイディアはギターの濱野くんが持ってきてくれて、百々さんにプロデュースしてもらう前から同じようなアレンジで演奏をしていて。編曲自体はそんなに変わっていないかもしれないですね。速さ、bpmを速くしたりとか。細かいところをプロデュースしてもらった感じですね。
――リードトラックとしては、4曲目の「バタフライ」。美メロでミディアムテンポな正統派ロックナンバーに。
この時は、上手くいかないなって思ってた時期だったんですけど、でもすごくすんなり出来た曲なんです。時期的には一番新しい曲で、レコーディングのちょっと前にできて。切ない葛藤の曲なんですけど、上手くいかなさと泳ぐ方のバタフライのリズムがすごく頭に浮かんできて。その中で自分がバタフライを泳いでいる感じで、詞がAメロからわぁ~って浮かんできたんです。♪さよなら すきだよ~ってずっと頭の中でバタフライを(笑)。
――バシャン、バシャンって(笑)。
そうです(笑)。(泳いで)行って帰ってきたくらいでできました。水の中でもがいている感じで。上手くいかないけど、頑張りたいなっていう気持ちがパッとあって。
――上手くいかないなっていうのは、音楽を含めてですか?
そうですね。あと、恋とか……などなど。
――白波多さんの中にあるものが外に出てくるときに、言語としても感覚としても、割と独特の変換をされて出てきてるなって思うんですよ。他の、例えばJ-POP、ロックなんかと比べて違いを意識することはありますか?
うん、違うなとは思うかもしれないです。
――でも意図的に、トリッキーなことを書いた方がいいんじゃないか?っていうわけではないですもんね。
面白いものを作りたいという欲望があって。発見していたいというのと、自分にとって新しい感覚でありたい……新しい感覚とか新しい言葉の並びとか発見が常にないと、曲にする意味があまりない気がしてて。いわゆるラヴソングとかは変な感じがするのかもしれないです。……変ではないんですけど(笑)、上手くまとめられなくて。
白波多カミン Photo by Taiyo Kazama
――今作は全10曲入っていて。軸にはオルタナっぽいロックンロールのサウンドがあるのかなと思ったのですが、例えば7曲目の「嫉妬」は、最初にシンセのサウンドが耳に入ってきたり、あとはアコースティックでスローな曲も入っていたりしまうすよね。白波多さん自身は音楽のジャンル、タイプ的にはどんなものが得意だったり好きだったりしますか?
わりとなんでも好きですね。初めは、くるりとかレディオヘッドのようなロックバンドにハマっていて。オルタナだったら、ニルヴァーナとか、もうちょっとポップなものだったらオアシスを聴いたり。シガー・ロスみたいな曲も好きだし。最後の「なくしもの」っていう曲も、外の寒いところの音楽イメージしていますし。フォークの女性アーティストだと、ヴァシュティ・バニヤンとかキャットパワーとか、ニューウェーヴも聴いたり。わりと本当になんでも聴きますね(笑)。ノイズも聴きます。
――そういう好みだとフジロックあたりに行ったら絶対楽しめますよね。
それが、まだ行ったことがないんですよね。今年はシガー・ロスが来るので行きたいとは思ってます。
――好きなものから遡って、どんどんご自身の音に取り入れていってますか? それとも取り入れるというよりは、普通に聴いていたという感じ?
気になったら聴いて、派生してあっちこっちいって。でも、友達にいいよって言われて聴かされることは多かったですね。わりと友達に「オススメはなんだ?」ってよく聞いていました。でもジャンルとかはあんまり分かっていなくて、美しかったらいいと思ってて。なので、(作品には)自分が今まで聴いてきたものが出ているんだと思うんですけど、絶対こういうのがいい!っていうのは全然なくて。「姉弟」だったら、最初弾き語りで作ったけど、ああいうギターのオルタナなアイディアを持ってきてもらった時に、“かっこいいな~”って普通に思って。絶対に弾き語りじゃないとダメっていうのは全然ないですし。かっこよかったらいいって思ってます(笑)。
――そこが柔軟だからこそ、いまバンドという形でやっているのかもしれないですね。
自分だけじゃなく、メンバーの音楽性が大事やなって思ってて。バックバンドじゃなくて、「いっせーのーせ!」って音を出して作ったアルバムなので、その化学反応みたいなものがちゃんと出ているなって思います。
――今回、フルアルバムを一枚作ってみて、大変だったことはありますか?
やっぱり、歌録りですかね。今までみたいに、つるっと歌ってっていう感じじゃなくて、よく「悔しい~!!」ってよく言ってましたね(笑)。曲ごとに、100%のアプローチができないと嫌だって自分の中で決めてやっていたんです。それはそれで楽しかったんですけど。
――その“悔しい”っていうのは、この曲はこう歌いたいっていうイメージに対して、まだダメだ、っていうことを繰り返す中で、悔しくて、でも楽しかったと(笑)。
そうですね(笑)。バンドはみんな上手でかっこいいんで、音を録って「わぁ~いいね!!」って言ってたんですけど。弾き語りと、一発録りの曲以外は先にできていたので。
――そこからストイックなアプローチタイムが始まるわけですね。
それが、悔し気持ちよかったです(笑)。
――ちなみに一番悔しかったのはどの曲でしたか?
「ハロースター」は、「悔しい」ってずっと言ってました(笑)。結局1テイク目を採用したんですけど、この1テイク目に勝てなくて、「くそ~」って(笑)。この曲は歌で持っていく曲やなと思ったので、力入れましたね。
――そうして完成したアルバムがリリースされるわけですが、今後描いている活動の形や作ってみたい作品など、何かビジョンを思い描いていますか?
このままかっこよくなっていくんだろうな、っていうのは分かっているんですけど、「こういう風になる!」っていうのはあまり決めたくなくて。日々感じて、生きて、いい音楽を作って、作品を作ってっていう繰り返しで、それで成長していくんだろうなっていう感じがしています。設計図みたいなものはないですね。
――例えば「○○のステージに立つのが目標です!」っていう人もいるわけじゃないですか。
固定のものはないんですけど、大きいステージって良い音がするんですよ。設備が良いのかなんなのか。メンバーと離れているから音が混ざらないっていう物理的な問題だったりもするんですけど、大きいステージってこんなに気持ち良いんやって、この間NHKホールでやらせてもらった時に感じて。良い音でライヴがしたいっていうのはありますね(笑)。
――NHKホールはクラシックとかもやるようなところですしね。
めちゃめちゃ良いですよね……でかいステージでやりたいです、じゃあ(笑)。
――じゃあ(笑)。ライヴを大きいところでやりたい、たくさんツアーを回りたいとか、“ライヴ”を柱として活動しているアーティストの方と、作品を作り込んで世に出すことにウエイトを置いているタイプの方がいますけど、白波多さんはどちらかというと、後者なんですかね?
どうなんだろうなぁ……。ライヴは後からついてくるものなのかもしれないです。
――曲ができたから、それを披露したいから、ライヴをする。
そうですね。多分、本当は作ることより、ライヴの方が好きなんですけど、順番はまず作ってそれをどう料理して、どんな風に見せるかっていう感じなので、曲を作るために生きている感じはします。何を見て生活をするかっていう部分が、いつも曲を作るためになる人間っていうイメージで生きています。
――やっぱりメジャーデビューしたことで今までとは違った景色を見ることになると思うんです。それがいろんなインプットになって、曲になっていって、また新しい作品が出てきて。そうやって進んでいくんでしょうね。
はい、そう思ってます……ニヤニヤしてます(笑)。楽しみです。
撮影・インタビュー・文=風間大洋
白波多カミン Photo by Taiyo Kazama
白波多カミン with Placebo Foxes 『空席のサーカス』
COCP-39495 / ¥2,500+tax
1.姉弟
2.おかえり。
3.いますぐ消えたい
4.バタフライ
5.サンセットガール
6.生命線
7.嫉妬
8.ハロースター
9.普通の女の子
10.なくしもの
[CD購入者オリジナル特典]
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出演:白波多カミン with Placebo Foxes / and more.
・2016年6月9日(木) 大阪 CONPASS
出演:白波多カミン with Placebo Foxes / and more.
・2016年6月16日(木) 東京 TSUTAYA O-nest
出演:白波多カミン with Placebo Foxes(ワンマン)
メジャーデビューアルバム『空席のサーカス』発売記念イベント
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2016/3/26(土)18:00~
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対象店:タワーレコード渋谷店 / タワーレコード新宿店 / タワーレコード池袋店
2016/4/2(土)14:00~
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ミニライブ&サイン会
対象店:タワーレコード京都店
2016/4/3(日)15:00~
タワーレコード梅田NU茶屋町店 イベントスペース
アコースティックミニライブ&サイン会
対象店:タワーレコード梅田NU茶屋町店 / タワーレコード難波店 / タワーレコード梅田大阪丸ビル店
2016/4/9(土)14:00~
タワーレコード福岡パルコ店 イベントスペース
白波多カミンソロミニライブ&サイン会
対象店:タワーレコード福岡パルコ店
<ヴィレッジヴァンガード>
2016/3/27(日) 14:00~
ヴィレッジヴァンガード高田馬場店 [NEW!!]
白波多カミンソロミニライブ&ポスターサイン会
対象店:後日発表予定
2016/4/2(土)17:00~
ヴィレッジヴァンガード新京極店
白波多カミンソロミニライブ&ポスターサイン会
対象店:ヴィレッジヴァンガード新京極店
2016/4/3(日)18:30~
ヴィレッジヴァンガードアメリカ村店
白波多カミンソロミニライブ&ポスターサイン会
対象店:ヴィレッジヴァンガードアメリカ村店