パイプオルガンで映画音楽を弾く(プロジェクション・マッピング有!)~オルガニスト石丸由佳に聞く

インタビュー
クラシック
2016.4.1
石丸由佳

石丸由佳


大阪のザ・シンフォニーホールは、名指揮者・朝比奈隆の思いの詰まった「日本初のクラシック音楽専用ホール」として1982年に開館した。こだわりの「残響2秒」を実現した音響設計はカラヤンをして「世界一の響き」と言わしめ、ステージ奥に設置されたパイプオルガンや、舞台を客席が360度囲むなど、今では他の国内ホールでも見られるようになった様式も、先駆けはすべてザ・シンフォニーホールだった。最近では先端技術を誇る照明に加え、プロジェクション・マッピングを本格的に導入し、今なお新しい試みに挑む積極的姿勢が窺える。
 
そんなザ・シンフォニーホールの魅力を凝縮し、小児から大人まで、また初心者からマニアまで幅広いオーディエンスに堪能してもらおうと、画期的なパイプオルガンのコンサートが7月30日に開催されることとなった。それは、昼に「プロジェクションマッピング×パイプオルガン『超絶のスター・ウォーズ』~この夏、パイプオルガンがスゴ過ぎる!!~」、夜に「オールバッハ名曲選!! 真夏のオルガンコンサート」という欲張りな二本立て興行だ。そのどちらも、日本パイプオルガン界期待の星、石丸由佳が演奏する。
 
石丸は新潟市生まれ、中学の授業でバッハを聴きオルガンに興味を持つ。当時、地元に開館したばかりの「りゅーとぴあ」(新潟市民芸術文化会館)でパイプオルガンを触る機会があり、それをきっかけに本格的な勉強を始め、東京藝術大学オルガン科に進学。その後、デンマークやドイツへの留学を経て、2010年に仏シャルトル国際オルガンコンクールで優勝。翌年よりヨーロッパ10カ国以上の音楽祭に招待され、シャルトル大聖堂やパリのノートルダム大聖堂、マドレーヌ寺院等、各地でリサイタルを行ってきた。また国内外の著名オーケストラと共演するなど、精力的に活動をおこなってきている。そんな彼女から、今回の公演について話を聞いた。

--7月30日(土)の午後2時と午後7時に内容の異なる2つのコンサートを行なうんですね。

石丸: ザ・シンフォニーホールは民間のホールなので、24時間の稼働が可能なんです。その強みを活かして、1日に2つのコンサートができないだろうか、という相談をホールの方からいただきました。あれは昨年の「クリスマス オルガンコンサート」(2015年12月12日、ザ・シンフォニーホール)の後、御飯を食べていた時でしたね。1日に2つ、別のプログラムで演奏を行うのは初めてのことで、私にとっては新たな挑戦になります。

--お昼の公演『超絶のスター・ウォーズ』では、プロジェクション・マッピングをオルガンのパイプ部分に映し出すとのこと。これは石丸さんの発案によるものですか。

石丸: 昨年の春、パリのディズニーランドに行った時、プロジェクション・マッピングがお城(眠れる森の美女の城)に映し出されるのを見て、これをオルガンのパイプに映し出したら絶対にいいだろうなと。以来、その思いをずっと胸に秘めていたんです。そうしたら、ザ・​シンフォニーホールさんが「プロジェクション・マッピングを持っている」とおっしゃるので、「これはもう使うしかないですよね」ということになりました。今度のコンサートは4歳児から入場できるのですが、これがあると子どもたちも飽きずにずっと聴いていられると思うんです。ザ・シンフォニーホールさんだって、せっかく導入したものを活用しない手はないですしね。

--今回「スター・ウォーズ」「E.T.」「ジュラシック・パーク」「ハリー・ポッター」などの映画音楽をオルガンで演奏されるというのも新鮮です。

石丸: そういう音楽が好きなんですよ。皆さんが口づさむことができて、ちょっと聴いただけで映画の場面がパッと浮かんでくるような音楽。「オルガンてこういう音も出せるんだ」という驚きを覚えていただくには、皆さんがよく知ってる曲のほうがいいんじゃないかって思ったんです。この企画を考えていた頃に、ちょうど「スター・ウォーズ」の新作が公開されていて「これをオルガンでやったら面白い」と、私のほうから提案をさせていただきました。楽曲の魅力から楽器の面白さが引き出され、さらにプロジェクション・マッピングの楽しさも加わって、本当に前代未聞な演奏会になると思います。そういう組合せは他所ではやったことないですし、今後やることもないでしょう。これはザ・​シンフォニーホールでしかできない試みだと思ってます。

--一方、夜の「オールバッハ名曲選!! 真夏のオルガンコンサート」は、どんな内容ですか。

石丸: 「オールバッハ名曲選!!」は、たぶん皆さんがどこかで聴いたことのある曲ばかりで、“パイプオルガン入門”のようなプログラムになります。「トッカータとフーガ」のようなオルガン曲の代名詞みたいなものはもちろん、ピアノを弾く人にはおなじみの「平均律クラヴィーア曲集」といった別の楽器のために作られた曲や、あるいは、教会の賛美歌をバッハがオルガン用に編曲したオルガン・コラールなども紹介します。これらの曲は皆さんよくご存じでも、実際に生のパイプオルガンで聴く機会はあまりないと思うんですね。パイプに空気を通して鳴らすオルガンの音は、テレビやCDを通して聴く音とは全然違います。低い音は地響きというか振動みたいですし、高い音になると小指の爪先ほどのパイプで、ステレオでは再生できないような超音波まで出せるんです。だからバッハを本物の響きで味わうには、実際にホールに来ていただくしかないのかなと(笑)。

--そんなバッハは、石丸さんにとってどういう存在ですか。

石丸:​ 私が語るのはまだとても畏れ多いのですが、バッハを弾いていると、過去に幾度も演奏した曲であっても、その都度、新しい発見がありますね。バッハは敬虔なクリスチャンでしたが、「こんなにも真剣に神様のことを思っていたんだ」ということが曲を弾きながら理解できるんです。ある賛美歌の中の「神の端女(はしため)」という歌詞があったところにBACHという自分の名前の音を入れたり、「私はあなたに従います」という歌詞があったところにも、まるで署名のようにBACHという自分の名前の音を書き込むといった洒落たことをやってる。音楽は神様から頂戴したもので、だから神様にそのままお返ししなければいけない、という謙虚で真摯な気持ちが伝わってきますね。でも、それでいて「ここを聴かせたかったんだろうな」と思えるような盛り上がりの箇所が幾つも散りばめられていて、そういうことが弾いてるうちに、まるで対話をしているような感覚で感じられるんです。

--今回のコンサート、昼と夜の演奏時間はそれぞれどのくらいですか。切り替えはうまくできそうですか。

石丸: 昼も夜も、共に60分づつを予定しています。昼のプログラムが楽しすぎてテンションがかなりあがるんじゃないかと思ってて(笑)。だから、そのテンションを持続させたまま夜にバッハを弾くと、新しいバッハが生まれてくるかもしれません(笑)。

--オルガンを弾くには両手両足を別々に動かし、また脳もフル稼働させないといけないわけですから、1日に2つのプログラムをこなすことはけっこう大変ではありませんか。

石丸: 若い頃は平気だったんですが、最近は腰が痛くなってきて(笑)。ペダルを踏まないように足を浮かす姿勢の時間が長かったりすると、どうしても腰に来ますね。演奏台の木製のベンチが固いので、クッションを敷いたほうがいいのかも、なんて色々考え始めているところです(笑)。また、オルガンによって鍵盤の位置も異なり、すごく不自然な体勢で弾き続けなければいけないことも多いですね。楽器に内蔵されたコンピュータにパイプの組合せを予めインプットしておいて、それを演奏中に操作することもあります。しかも、そのボタンが足元にもあって、手が空いてないときは足で操作することもある。頭だってもちろんたくさん使うし、とにかく全身を酷使しますね。

--オルガニストは愛用の楽器を持ち運ぶことができず、行く先々のパイプオルガンに対して自分のほうで合わせなければならない、というのが宿命であり試練ですよね。

石丸: オルガンは会場ごとに異なっていて、同じものは全くないんです。だから苦労は多いですね。でもその反面、飽きっぽい自分にはちょうどいいのかなという気もします。楽器が教えてくれることも、色々あるんですよ。国際オルガンコンクール優勝の副賞として(フランスの)オルレアンの大聖堂で演奏させていただいた時、アレクサンドル・ギルマンという19世紀の作曲家の作品を弾いたんです。そこのオルガンは、ギルマンが生きていた時代にカヴァイエ=コルという有名な製作者によって作られた名器なんですが、それを弾いたら、練習室では感じることのできなかった、「あ、ギルマンはこれがやりたかったのね」っていう音が鳴ったんです。とても強烈な体験でした。その時の音を覚えておいて、日本の楽器ではそれにどう近づけるかっていうのを色々研究するんです。各地の楽器を触らせていただいて、そういう勉強が出来るのは、オルガニストとして冥利に尽きます。

--今回は、普段なかなか触れることのできないパイプオルガンを体験できる、レクチャー&オルガン体験シートのも、同時販売されています。

石丸: レクチャーは、楽器について少し私がお話をさせていただいて、あとは時間いっぱい、とにかく触って弾いていただくというものですね。昨年もやりました。参加者は、パイプオルガンを触ったことのないかたがほとんどでしたね。皆さん曲を準備して来られました。「トッカータとフーガ」の冒頭部分をホールに響かせてみたかったので、それが叶い、まるで夢のようです…といった感想もいただきました。

--石丸さんご自身も、中学生の時に、生まれ故郷である新潟の「りゅーとぴあ」でパイプオルガンに出会ったことで、現在があるわけですよね。

石丸: 中学校では吹奏楽部でフルートやサックスを吹いていたのですが、自分が一つの旋律しか吹けないことが、とてももどかしかったんです。そんな時に、「りゅーとぴあ」で初めてパイプオルガンに触ることができた。かなり低い音も出せるし、それこそフルートというパイプもついていれば、トランペットというパイプもついている。これらを全部自分一人で操れるというのが本当に感動的で、「これはすごくいい!」って思ったのが、オルガンとの最初の出会いでしたね。今回のコンサートを通じて、かつての私みたいな思いを抱いてくれる人がいたらいいなぁ、と思います。

(取材・文・撮影:安藤光夫)

公演情報

プロジェクションマッピング×パイプオルガン 『超絶のスター・ウォーズ』
~この夏、パイプオルガンがスゴ過ぎる!!~

 
■会場:ザ・シンフォニーホール (大阪府)
■日時:7/30(土)14:00
■出演:石丸由佳(オルガン)
■曲目(順不同):(
「インディ・ジョーンズ」より レイダース・マーチ 
「ハリー・ポッター」よりメドレー ★
~ プロローグ - ハリーの不思議な世界 - ヘドウィグのテーマ ~ 
「E.T.」より フライング・テーマ 
「ジョーズ」より メイン・タイトル 
「ジュラシック・パーク」より テーマ ★ 
「スター・ウォーズ」よりメドレー ★  
~ メイン・タイトル - 帝国のマーチ - レイア姫のテーマ - 王座の間とフィナーレ 

(★プロジェクション・マッピングつき)
受付: 4/7(木)18:00まで先着順先行受付、一般 発売4/8(金)10:00~
※レクチャー&オルガン体験シート先行受付4/4(月)23:59まで抽選受付中!

 

オールバッハ名曲選!!真夏のオルガンコンサート
 
■会場:ザ・シンフォニーホール (大阪府)
■日時:7/30(土)19:00
■出演:石丸由佳(オルガン)
■曲目(順不同):
トッカータとフーガ ニ短調 BWV565
コラール “主よ人の望みの喜びよ” BWV147
コラール “目覚めよと呼ぶ声が聞こえ” BWV645
カンタータ “神よ、われら汝に感謝す” BWV29 より シンフォニア
平均律クラヴィーア曲集より 変ロ短調 BWV867
小フーガ ト短調 BWV578
我ら苦難の極みにあるときも BWV641
幻想曲とフーガ ト短調 BWV542

受付: 4/7(木)18:00まで先着順先行受付、一般 発売4/8(金)10:00~
※レクチャー&オルガン体験シート先行受付4/4(月)23:59まで抽選受付中!

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