アニメという共通言語で語り明かした東京アニメアワードフェスティバル2016

レポート
アニメ/ゲーム
2016.4.9

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厳かな雰囲気の中で3月18日に始まった東京アニメアワードフェスティバル(※以下TAAF)2016は、徐々にヒートアップしていき、新たな文化の兆しを刻みながら何とも言えない余韻を残して3月21日に閉会しました。

特に印象深かったのは、イラストレーターさんの「来年も絶対来たい」という興奮した一言と、「SHIROBAKO」トークショーでの観客の熱狂でした。

主な表彰作品

長編コンペティション部門大賞 「LONG WAY NORTH」

短編コンペティション部門大賞 「Off Belay」

劇場映画部門大賞       「ラブライブ!The School Idol Movie」

テレビ部門大賞        「SHIROBAKO」

この4つの賞は「技術力」「大衆性」「オリジナル性」「先進性」という4つの柱を基準として審査され、上記のように大賞が決定されました。審査員に外国人も含まれていることもあり、4つの柱について議論を重ねた形跡が様々なトークショーで見られました。イラストレーターという少し違う分野の人でも大きな感動を受けたのは、アニメに対する真摯な姿勢があったからなのでしょう。

受賞者の皆さま

 

テーマが似ている大賞作品

奇しくも4つの柱で審査された4つの大賞作品は「困難に立ち向かう姿」を描いています。

長編コンペティション部門大賞作品「LONG WAY NORTH」は北極点に向かい帰って来なかった祖父を探しに行く少女サーシャのストーリーになっています。全財産を失ったり、船が沈没したりという困難にも負けず、健気に進んでいく姿は当然のように心を打ちます。

短編コンペティション部門大賞作品「Off Belay」はフリークライミングという共通の趣味を持つ親友ジェイソンとアランが難易度の高いルートに挑戦するストーリーで、アランが落ちて命綱が切れてしまうという展開は息を飲むものでした。

「ラブライブ!The School Idol Movie」「SHIROBAKO」はともにエンターテイメントを生み出す人たちを描いています。新しいものを生み出すのは自然の脅威に立ち向かうのと同様大変なことです。

世界的な不況が続く中で、困難に打ち勝つストーリーは受け入れやすく、大衆性があると感じますが、あまりに古典的なテーマです。どこに「オリジナル性」や「先進性」があったのでしょうか。

 

大賞作品のテーマは古くて新しいもの

アニメオブザイヤー部門にノミネートされた「心が叫びたがってるんだ。」「四月は君の嘘」も大賞受賞作品と同様困難に立ち向かう姿がテーマになっています。どちらもトラウマを抱えた主人公が、音楽という文化を通じて仲間と一緒に克服していくというストーリーなのですが、アドラー心理学的要素を盛り込んでいるところに新しさを感じます。

1つ疑問になるのが「文化とは何?」ということです。文化を定義するのは難しいのですが、なんらかの困難を克服するための存在を文化と呼ぶなら、困難を克服する方法を習得するのは楽しいことのはずです。困難を克服していく様子を描いたアニメを見るのは楽しいものですが、同じ目的を持つ学校の勉強はどうしてあんなにも大変で辛いものなのでしょうか。

様々な分野で大きな功績をあげたニュートンのように、学問という文化を発展させるのは一部の天才によるところが大きかったという歴史があります。しかし、コンピューターが人間の頭脳を超えていく状況で、個人の限界が見えやすく、勉強そのものが辛いものになってしまっています。そのような中で新しい文化を生み出すには「あきらめずにみんなでつくる」しかありません。

「あきらめずにみんなでつくる」というテーマは古典的なようで新しいテーマです。このテーマはを持つ作品が大賞を取ったのは納得のいく結果です。

 

「良いアニメ」とは~国際交流の中で明らかに

トークショーの模様

TAAFは国際交流の場とうたっている通り、外国人を交えたトークショーがいくつか開催されました。中心的なテーマは「技術」と「独創性」で、良いアニメには技術と独創性が大切だと感じるさせるものでした。

審査の講評で語られた「アニメは幻」という言葉が技術面をうまく表現しています。アニメは動かないものを動かすのだから幻であり、その幻を信じてもらうためには様々な配慮が必要で、その集大成が技術であるということになります。

「GANBA」のトークショーで、キャラが自然に動くようになると制作者が喧嘩しなくなるという話があったように、幻のままなら制作者の間で意見が対立しやすく、リアルになればなるほど制作者の意見は介入しにくくなります。「国際フォーラム」で語られたように、日本のヒット作は編集との対話が多く、幻のままにならない土台があることが、手書きが中心で一見技術力に乏しく見える日本の技術力が高い理由ということになります。

アニメの技術は単なる先進技術ではないというところに深い感銘を受けました。

「Best of GOBELINESー輝く動きー」のトークショーで、フランスではアーティストが多くチームワークに弱点があり、日本は横並びでチームワークに優れてはいるもののアーティストは生まれにくいとの意見がありました。日本では週100本もの商業アニメが放映され、目立つために工夫をしていることがマイナスなのではないかという話が「国際交流フォーラム」で出ていました。

技術と独創性は並び立たず、目先の工夫は独創性にならないのではないかという問いかけです。

 

古典を紐解くと、世阿弥が「風姿花伝」で名将の逸話に風流を結び付けて出来が良ければ面白いものだと述べ、面白く感じるのは新鮮なことだと説明しています。つまり、「技術」と「新鮮」が能楽の柱であり、これはアニメにも通じるはずで、「独創性」と「新鮮」を同じものと考えても良さそうです。

面白ければ大衆性を獲得しやすく、独創性があればオリジナル性と先進性は十分でしょう。4つの柱のうちの3つを兼ね備えるのが「新鮮」になります。

「新鮮」は名将の逸話というすでに確立した文化と、風流という確立した文化を融合して生むものと説明されるように、単なる目新しさではなく、文化として完成したものを融合することで独創性が生まれると言えます。

一人一人が身につけた文化を融合していく試みがデンマークのTAWというアニメーション学校で行われています。TAWで作られた作品がコンペティション部門で大賞を取ったのもその試みが成功していることを物語っています。

フランス作品は動き回るものが多く、画面に詰め込んでいく西洋風の美学を踏襲していますが、大賞作品は無駄な説明や表現を削っており、引き算を美学とする日本文化を組み入れていることになります。

国際的なアニメ文化の交流で独創性を生み出し、技術と独創性を両立させたコンペティション部門大賞作品も納得のいく受賞でした。

 

「SHIROBAKO」ファンの熱狂はいまだ衰えず

「SHIROBAKO」トークショー後の全体写真

トークショーでは良いアニメについて多くの意見が交わされました。その情熱はものづくりに携わっている人なら興奮してしまうのも仕方のないものです。一方ファンの熱狂も印象的でした。

「SHIROBAKO」のトークショーは何度も行われており、放送終了後1年が経過しているにもかかわらず満員になった観客の熱気は気圧されるほどでした。困難を克服する方法を楽しく教えてくれるアニメという文化を生み出す人たちへの敬意は、時とともに簡単に色あせるものではないことを教えてもらいました。

「SHIROBAKO」は今を記録した作品で、経験からくるものだから心に響いて社会人が共感できるという話がありましたが、様々な人がかかわった経験だからこそこの上ない新鮮さを与えてくれるのでしょう。

クリエイターとファンにとっては成功と言えるTAAFですが、「行きたかったのに行けなかった」という声を聞いたことに残念さを感じました。

世阿弥は初心忘るべからずという言葉も残しています。慢心せず、未熟だった時の自分を忘れず努力を怠らないよう戒める言葉です。アニメ文化を世界に発信する試みはまだまだ始まったばかりです。今回の成功を糧にさらなる飛躍を期待しています。

功労賞受賞の皆さま

 
 
イベント情報

東京アニメアワードフェスティバル 2016

 日時:2016年3月18日(金) ~3月21日(月・祝)
 会場:TOHOシネマズ日本橋

 

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