イヴリー・ギトリス(ヴァイオリン) 演奏とは人間性、そして愛のようなものだと思います
イヴリー・ギトリス
1922年イスラエル生まれのヴァイオリニスト、イヴリー・ギトリスが、今年の春にも来日公演を行う。現在なんと93歳。そのバイタリティには驚かされるばかりだが、当人は「なんでこんなに元気なのかは自分でもわからない。神様に聞いてほしい。それと、年齢の話はしないで!」と意に介さず、ますます意気盛ん。来日も楽しみという以上のものを感じているという。
「毎年のように日本に行くたびに感じることと言えば…『家』。いつも『家』に帰ってきたなあと感じるんです」
20世紀の巨匠の時代から活躍を続けてきたギトリスの偉大さはもはや説明不要だろう。今年は東京交響楽団との共演で協奏曲(指揮:ニコライ・ジャジューラ)を、そしてベートーヴェンのスプリング・ソナタや小品集で構成されるリサイタル(ピアノ:ヴァハン・マルディロシアン)を聴かせてくれる。誰も真似のできない唯一無二の“ギトリス節”が堪能できるだろう。その何物にもとらわれず解放された演奏の秘密は何なのか。
「解放されているというより、そのときそこに“私”という個人がいるというか…自分自身の中で“私”となることができるのです。あと、私は技術的なことはもうあまり気にしません。大事なのは、ステージに向かう前に何を考えるかです。ステージでの調和はまた別のもので、瞬間に感じ取るものだからです。音楽とは良いこと、悪いこと、難しいことや簡単なことが共存しています。私達は小さな一部分に過ぎず、新しいフレーズを演奏するときには機械的にならないよう、特別な意識はしていません」
さらに、若い演奏家についてのコメントの中で、ギトリスの考える演奏の本質が伝えられた。
「現在とても才能のある若者がたくさんいます。ただ、かつてと比べて若い奏者に対して求められるものが変質しており、残念ながら、機械のような完璧さを要求されています。私はそれは間違っていると言いたい。演奏とは人間性、それはフィーリングとも言えるし、愛のようなものだと思います。愛は幸せをもたらすだけではないのと同様、音楽は人を幸せにさせるだけではなく、深い気持ちや寂しい気持ちにさせて、時には涙を流させることさえあります。それがいいのです。それに、愛の物語というのは時にはつらかったりするけど、エンディングまで行って振り返ってみれば、笑って終われることもある。要は、演奏の本質とはそういうことなんです」
最後に、日本のファンに向けて、ギトリスらしい茶目っ気と愛情に満ちたメッセージをくれた。
「『(日本語で)こんにちは、日本の皆さん』。全ての日本人のファンと友人たちへ、私は皆さんをとても愛しています。私のことを愛して欲しいとは頼まないけれど(笑)、私は、皆さんと共にいますから」
構成・文:林 昌英 取材協力:テンポプリモ
(ぶらあぼ + Danza inside 2016年4月号から)
問合せ:テンポプリモ03-5810-7772
http://www.tempoprimo.co.jp
【当初の予定プログラム】
チャイコフスキー/バレエ組曲「くるみ割り人形」
ショーソン/詩曲(ソロ:イヴリー・ギトリス)
J.S.バッハ/ヴァイオリン協奏曲第2番(ソロ:イヴリー・ギトリス)
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ベートーヴェン/交響曲第5番「運命」
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【変更後のプログラム】
チャイコフスキー/バレエ組曲「くるみ割り人形」より抜粋
チャイコフスキー/ヴァイオリン協奏曲ニ長調(ソロ:神尾真由子)
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クライスラー/美しきロスマリン(※録音…ソロ:イヴリー・ギトリス、2015年紀尾井ホールにて収録)
ベートーヴェン/交響曲第5番「運命」